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人間卒業旅行 〜 花 〜

〜 はじめに 〜

※ ほとんどの作品がそれだけ読んでも楽しめるようにと書いておりますが、この作品に関しては前の話(特に第1話)を読まれることを強くオススメします。

※ また、以下のあらすじには前話までのネタバレが含まれますのでご注意ください。

〜 前回までのあらすじ 〜

 卒業旅行として、格安クルーズ旅行を申し込んだ 冬雪(ふゆき)、秋月(あづき)、春花(はるか)の3人。

 しかし、格安なのには “理由” があった。


 卒業旅行の最中、船内で体調を崩した秋月は “偶然” にも遭遇した添乗員の嵐夏(らんか)によって救護室へと案内される。

 冬雪・春花の2人と別れてから半日も経ってないと言うのに、救護室から帰って来た秋月には、“高いテンション感” や “口調の変化” などの違和感があった。


 それを怪しむ冬雪だったが、その日の夜に行われたダンスパーティーを機に行方不明になってしまう。

 秋月・春花の2人はパーティー終了後も船内を探すも見つからず……。

〜 ⚫︎・⚫︎・“花” 〜

花「……仕方ない、部屋に戻ろう…」


 冬雪を見つけられなかった春花は、秋月との約束通り客室へと戻る。

 しかし『30分ほどしたら部屋で集合ね♪』と言っていたはずの秋月は、時間を過ぎても部屋には戻って来ない。


プルルルルルル♪


 すると突然、客室に備え付けられた電話が鳴った。


花「うわぁびっくりした!? 何? 電話??? でもいったい誰から…」


 相手が冬雪や秋月であるならば、スマホでかかってくるはずである。


ガチャ…


花「……もしもし…」


 春花は少し警戒しながら電話に出る。


?「君が春花ちゃんかい?」

花「だ、誰なんですか。あなたは?」


 まだ名乗ってもいないと言うのに、相手は春花の名前を知っていた。

 つまり偶々や、悪戯に電話を掛けて来たのではないようである


?「落ち着いて、そんなに声を上げなくてもいい……君の、お友達についてのお話がしたいだけで…」

花「冬雪を、冬雪のことを知っているんですか?」

?「ああ、知っているとも彼女なら…いや、これは……」

花「教えてくださいっ! “何でもします” からお願いしますっ!!!」

?「( “何でも” 、か。)その言葉、後悔するなよ?」

花「後悔なんてしませんよ。大切な親友のためですからっ!」

?「まぁ正直なんだっていいや(どうせお前の運命はもう決まっているようなものなんだ。あとは “誰に選ばれるか” 。それだけ…)そしたら、1等船室のエリアにある “VIP専用ルーム” で話そう。そこで待ってるよ、は・る・かちゃん♪」


プツっ、プープープー ……


 そこで一方的に電話が切られた。


花「(ぶるっ)うぅ、最後のあれは何? 気持ち悪い…けど、冬雪のために行かなくちゃ!」


ーーー VIP専用ルーム ーーー


……コンコンコン。


花「…失礼します」

?「ようこそ」

花「あ、あなたは!?」

?「おや、覚えていましたか」 


 春花をVIPルームに呼び出し、待っていた人物。

 それは冬雪をダンスに誘った男だった。


花「あなたが冬雪をっ!」

男「ガキは本当にすぐ激昂するから困るなぁ…私は “話しをするため” に、君を呼んだと記憶しているはずなんだが……」


 冬雪はこの男について行って姿を消した。

 そして冬雪を知っていると言って春花を呼び出した。

 そこから判断するに、全ての黒幕がこの男だと結論付けても頷ける。


花「あなたと話すことなんてないっ! 今すぐに冬雪を出してっ!!!」


 ダンスの流れで仲良くなり、ただ男の元に行っていただけならまだ納得が出来ると言うものだが、この場に居るのは男だけ。

 仕込まれた罠であることを前提にしても、一向に姿を見せない冬雪の身を案じて、春花は冷静さを失っていた。


男「ちっ、己の置かれた状況もよく理解できないのか? もう一から十まで説明くれる先生は居ないんだよ、お嬢ちゃん。全く、そんなんで大学を卒業したとは笑わせてくれるな」


 “己の置かれた状況” 。

 その言葉でふと我に返った春花。

 文字通り “春花の置かれた状況” もそうだが、それよりも問題なのは “冬雪の置かれた状況” が分からないことである 。


花「……(そうだ、これは私だけのことじゃない。冬雪の状況が分からない以上、下手に刺激したりするのは得策じゃない……)くっ…」

男「その様子だと少しは頭を使ったみたいだな。ようやく “話し合い” が出来そうだ」


 しかし続くやりとりは、話し合いとは程遠い一方的なものだった。


男「これが何か分かるかな?」

花「いいえ、分からないわ」

男「1000万円の借用書だよ」

花「それが私と冬雪に何の関係が?」

男「関係もなにも、この借用書は冬雪ちゃんのだよ。ここにサインがあるだろう?」


 借用書には “相澤 冬雪(あいざわ ふゆき)” とフルネームで記載されており、ご丁寧に拇印も押されていた。


花「………(嘘? どうして???)」


 見知った筆跡に、それが偽物でないと理解するも、なぜ1000万ものお金を借りたのかは理解出来ずにいる春花。


男「どうしてって感じだね? 簡単な話さ。冬雪ちゃんは借りたドレスを破いてしまってね。その弁償として提示された金額が1000万。そしてそれを私が肩代わりしたんだよ(まぁ嘘だけどね。ドレスを破くのは筋書き通りだし、そもそもあのドレスは1000万もしない。せいぜい数万もいけばいい程度の安物だ。この借用書だって、冬雪ちゃんが “スタッフになった” 後で作らせた物だしな)」


 男の話には嘘と誠が入り混じっており、やけに現実味を帯びた内容であるが故、春花はそれを嘘だとは見抜けない。


花「………(男の言っていることが真実なら悪いのは冬雪で、むしろこの男は冬雪の借金を肩代わりして助けてくれたと言うことになる)」


 黙り込む春花の様子を見て、男は思考する暇を与えないように話を続ける。


男「先ほど、冬雪ちゃんのためなら “何でもする” と言ったよね?」

花「…はい」

男「…ほう、二言はないと……何て友達思いなんだっ! 感動したよっ!! そこで私からの提案だ」

花「…提案?」

男「私がものすごい大富豪だとしても、“はい、1000万ね” とはいかない。むしろお金持ちは、お金にガメツイからこそお金持ちになったんだ。ま、それも過去の話。今は好きなことに好きなだけ使えるが、それでもだ。もう一度言うが、別に1000万が惜しいわけじゃない。その “代わりになる価値あるものが得られれば” 問題ない……春花ちゃんに、総額1000万円を賭けたの “余興” をお願いしたい」

花「…余興?」

男「なに、簡単なゲームだよ。それに貰えるだけで、お金を失うことはない」

花「本当ですか!?」

男「ああ、そんなことをする意味がないからね。どうだい? やるかい?」

花「やります。いえ、やらせてくださいっ!」


 このとき私は、“なぜ冬雪ではなく、私が余興をするのか” とは少しも疑問に思わなかった。

 お金を借りたのは冬雪であり、ドレスを破いただけならばわざわざ私でなくとも冬雪本人が余興をして男を楽しませることも出来たであろう。

 結局この段階まできて冬雪の姿を一度も見ていないことも、冬雪が無事であることの確認も、その全てを忘れ・怠ったことが、私の人生を終わりに導いたのだ。

 これは私の所為であり、冬雪の所為ではない。

 それだけは忘れてはいけない。


ーーーーー


男「ではさっそく始めようと思うのだが、こうなることを予想してあらかじめ用意はしてある。それと折角の催し物だし、私一人で楽しむのも勿体ないと思って、私の友人たちを呼んでおいたのだが…よろしいかな?」


 随分と用意周到ではあるが、1000万の件を話に出せれたら “春花が断ることはできない” と踏んでいたのだろう。

 そしていくら条件があとから追加されようとも、その状況はそう変わらない。

 それに最終的にはなるが、“自ら” やらせてくださいとお願いをしてしまった手前、やっぱりやめますとは言えないのだった。


花「(……他の人がいるなんて聞いてないよ…)…はい」

男「うん、いい返事だ。それじゃあ、一つ目の…」

花「えっ!? 一つ目???」


 さらに言えば、春花は余興の内容も聞く前に承諾をしていた。


男「そうだよ? 言っていなかったかな???(当然、言ってないけどね)」

花「…はい……何個あるんですか?」

男「う〜ん、そうだなぁ」


 男が少し悩むような素振りを見せ、それから。


男「内容を言ってしまうと盛り上がりに欠けるから “全部で2つ” とだけ……で、その一つ目が “箱の中身はなんじゃろな” だ」

花「……へ?」


 正直、拍子抜けと言うか、予想外と言うか。

 大の大人が大学を卒業したばかりの女性を囲んでする余興が、単なるバラエティ番組の企画のようなものであるとは思いもしなかった。


男「どうかしかのか?」

花「…いえ……(最悪、ストリップショーでもさせられるんじゃないかと思ってたけど…こんなことでいいのなら……)」

男「それなら良いのだが。やり方は分かるな?」

花「箱に手を入れて、中の物を当てればいいんですよね?」

男「その通り。ではこちらからの説明は省かせて貰おうか。箱はそこにあるからいつでも始めてくれて構わない」


 男の指した先には、布の被せられた大きなテーブルと、その上面に各辺30cmほどの四角い箱があった。


花「(…こ、これね……なんてことないと思っていたけど、いざやるとなるとドキドキすると言うか、中に何が入っているか分からないところに手を入れるのがこんなに怖いなんて……)え、えいっ!」


 事態が悪化することもないが、いくら待ったからといって好転することもない。

 春花は意を決して箱の中に手を入れた。


男「ほう、意外と思い切りがいいな」

花「……ん?(なんだろう?)」

友人A「どうだ? もう触ったか? これは我々を楽しませるための余興なんだ。声に出して状況を教えてくれないか?」

花「あ、はい。ごめんなさい……なんだか柔らかい?です…」

友人B「他には?」


 箱を、この余興を男が用意したのであれば、中身が何であるかを知っているはずである。

 だと言うのに、執拗までに春花へ状況を聞くのは、“春花が無知の状態で箱の中身を探っている様子を楽しんでいる” のに他ならない。


花「…そうですね……少し熱を帯びていて、生温かいです」

友人B「ふむふむ。続けて…」

花「(…続けてと言われても……全然わからないなぁ……生ものっぽいからあまりガシッと触るのも怖いし……)サイズは小さくて……」

友人A「サイズが小さいかっww」

花「???」

男「ならもっと触ってやるといい。変化するかも知れんぞ? なに、大丈夫だよ。牙を向くような危険な生き物なんかは入ってないさ。ほらっ1000万がかかっているんだ。もっと積極的に頼むよ?」

花「は、はい…」


……ぷにぷに、さわさわ…むくむくっ!


花「!? 大きくなった!?」

友人A「www」

男「笑うんじゃない」

友人A「そんなこと言ったってw」


 男が友人と談笑をしている。


花「(よく分からないけど喜んで貰えてる? だったらこの調子で…)」


 余興であるからには相手を楽しませることが大切であり、笑っているのなら上手くいっていると春花は考えていた。

 そして春花は、“まだ変化するかも” と箱の中身をより強く扱う。


……にぎにぎ…むくむくむくっ!!!


花「(お、やっぱり)」


 変化する箱の中の何かに、いつの間にか春花自身が楽しくなってしまっていた。


花「…すごく、大きいです……それにさっきより熱く…」

男「(…そろそろか?)あまり時間をかけても仕方ない。あと5分だ、その間に答えを用意して貰おうか…」

花「えっ!? 5分だけ???(全然見当もついてないのに…)」

男「まだ何も掴めていないのなら、もっと良く触り、しっかりと確かめるといい」


 制限時間を設けられ、春花は男の言う通りに一層激しく箱の中身を弄る。


……むちむち、どくどく…


花「最初より弾力があって、なんだか脈を打ってるみたい…」


……どくどく、どくどく…ぶりゅっ!!!!!


花「えっ!? なんか爆けた???」

男「(……我慢できずに果てたか…)あと1分だ。答えは出たか?」

花「…えーっと……(あれ? 中の物が消えた???)」

男「…30秒」

花「(やばい、何だろう???)」

男「…10秒」

花「(分からないっ!?!?!?)」

男「時間だ。答えを…」

花「………。そ、ソーセージ……」

友人A「ぷっwww」

友人B「ぶっwww」

男「…くっw……」


 男が笑いを堪えながら言う。


男「…残念w……だが、楽しませてはもらったからお金は払おう。次の余興に行こうかww……」

花「(……変な臭い…でも聞いて気分を害してもいけないし、お金をもらえるなら聞かぬが花だよね…)……ありがとうございます…はい、お願いします…」


 箱から出した手は “白濁した液” で濡れていたが、結果を譲歩してもらった春香は、“正解は?” とは聞けなかった。


友人C「いや〜 いい気分だわ〜」


 次の余興の準備にと、テーブルと箱が片付けられた後で、一人の人物がVIPルームに入って来た。


友人B「清々しくてスッキリとしたいい笑顔じゃないか」

男「…約束を忘れたわけじゃないだろうな?」

友人C「覚えてるって、でも賭けに負けても価値のある物だった」


 男は友人Cと、“果てるか・果てないか” で賭けをしていたようだった。

 つまり友人Cは、春花に弄ってもらえる代わりに、果てれば500万を男に渡すと約束をしていたのである。

 男が春花に、箱の中身を外してもお金を払うと言った理由がここにあったのだ。


 男たちがそんな会話をしているうちに、次の準備が終わったようで…。


男「……整ったか。二つ目の余興は目隠しをしてもらう」

花「…目隠し?」

男「内容としては、“どちらが高級か” を当てるというものだ」

花「(これまた昔のバラエティ番組のような……)」


 男が提示して余興は、いわゆる “格付け” と呼ばれるようなものであった。


男「何か質問はあるか?」


 質問は許されても、拒否はできない。


花「ありません」


 そう言って花は、手渡された目隠しをつけた。


花「(…本当に真っ暗……うっすらとも見えない……)」

男「まずはこれを……そうだ、いいと言うまで飲み込まないように…」

花「はい…ああ……」


 男に声を掛けられ、口を開けると一気に流し込まれる。


花「おげぇっ!?(こう言うのって少量なんじゃ!?)」

友人A「おい儂の…じゃなくて……食べ物を粗末にするなっ! 勿体無いだろっ!!!」

花「ごへんなはひ(ごめんなさい)」


 口に含んだものをこれ以上こぼさないように注意しながら喋る春花。


男「……いいぞ。口の中でしっかりと味わってから飲み込め」


……ぐちゅぐちゅ、ごくっごくっ…ごくんっ!


花「…ぷはぁ……」

男「まだ片方だが、現時点での感想を聞こうじゃないか?」

花「…何か生臭いような……げぷっ。それになんだか胃の名から込み上げてくるような…」


 それはおそらく、体が拒否をしているのだろう。

 異物の侵入に反応し、外に出そうをしているのだ。


花「…ところでこれは何なのですか?」


 この質問自体は至極真っ当なものに思える。

 なぜなら “どちらが高級か” を当てるのであって、先ほどの箱の中身を当てる余興のように、“何であるか” を当てるものではないからだ。

 であれば、口に含んだ物が何であるかを知る権利は、春花に与えられて当然である。


男「(…そこを突いてくるとは、考えていなかった……)」


 男にとってのこの余興は、友人Aと友人Bの “どちらの” を春花が好むかでしかない。

 そして選ばれなかった方は参加費として、男に500万渡すというものだった。

 だから春花に対して、何を食べているかを明かすつもりも、段取りも決めていなかったのである。

 とは言え、おいそれと明かすことも出来ない状況の男は……。


男「…追加のお金は欲しくないか? 食べたものまで当てられたらプラスして500万あげようじゃないか……」

花「(ご、500万!? 冬雪を助けるだけじゃなく、大金が手に入るなんて……やるしかないじゃないっ!!!)…わかりました。それでお願いします」

男「(……ふぅ、危なかった。それに当たるはずもないからどうせ払うこともないし、何とかなったか…)」


 どうにか切り抜けた男は、もう一つの液体を春花に食べさせる。


花「あ"あ"っ"(……うわっ、こっちの方が酷い臭い…発酵が進んでる?)」


 食べれる物だと信じている春花は “発酵” と言葉を使ったが、“腐っている” と言ってしまってもいいほどに、“友人Bの出したそれ” は酷い臭いを放っていた。


男「(……飲み込まずに口を開けているからこっちまで臭ってくる…)」


 春花は最初の指示通り、男の許可があるまで飲み込まずに我慢していた。


花「(…口が塞がれて、鼻呼吸しか出来ないから臭いが……すんっ!?)」


 けれどもその直後、吸い込んだ臭いに耐え切れず、むせた春花は口の中の物を全て吐き出してしまった。


花「げほっ! げほげほっ!!! おえ、おえぇぇぇええ……」

友人B「おいおい、何てことしてくれるんだっ!」

男「落ち着いてください。こちらで何とかしますから」


 声を荒げる友人Bと、それを宥める男。


花「ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ」

男「残念ながら、これは謝って済む話じゃないんだよ。大きな金が動いているんだ」

花「1000万は? 冬雪は???」

男「そんなの私の知るところじゃない。それに失敗したのは君だよ? 春花ちゃん。君の所為で冬雪ちゃんはお金を返せず、“君も身を売ることになった” んだ」

花「えっ???(私が身を売る? どうして???)」


 冬雪のことは、納得のいかない事実であっても受け入れないことではない。

 しかし 、“私のことについて” は理解すらできない。

男「春花ちゃんが吐き出したことによって余興は台無しに終わった。この余興の結果次第で私に500万を払う者が存在したわけだが、君のおかげでその取引も不成立。つまり私は500万を失ったのと同じ。それを原因でもある “春花ちゃんが補填する” のは当たり前だろう? しかし君には、冬雪ちゃんを救うための1000万を払う能力もない。であれば、500万も無理だろうからその身を売って払って貰おうという話さ」


 さも当然で、まるで決定事項のように話す男。


花「そんなの納得できませんっ! あなたが500万失ったのと私は関係ないですっ!!!」

男「(…さっきのは予定外だったが、こっちはそう言うと思っていたとも)…友達思いの春花ちゃんなら、こうは考えられないかな? 現状だと冬雪ちゃんは1000万の借金で、春花ちゃんも500万…」

花「だからそれは違っ」

男「まだ話は終わってないが、仕方ない。春花ちゃんも500万を追いそうな状況で…」


 男が少し言い換えたことで黒からグレーになり、話を進めるためにも春花は一度静かに聞くことにした。


男「突然だがトロッコ問題を知ってるか?」

花「ええ」

男「どちらも救われない状況と、どちらか片方が救われる状況なら。君はどちらを選択する?」

花「そんなの救われる人が多いに越したことはないでしょ? もちろん後者よ」

男「じゃあそれを、冬雪ちゃんと春花ちゃんに置き換えたら?」

花「それでも同じよ」

男「その救われる片方が、冬雪ちゃんであっても?」

花「……それはもちろん…」

男「意地悪な言い方をしたね。聞き方を変えよう。春花ちゃんが犠牲になることで冬雪ちゃんを救えるなら?」

花「………」

男「君が身を売ることで、冬雪ちゃんが助かる “かも” 知れないと言っているのだよ? このクルーズ船には私たち以外にも多くの富豪が乗っている。こんな機会ほかにないだろうね」

花「(私が身を売り1000万になれば、冬雪を救える……私がこの男に500万を払う義理はないけど、逃げられそうもない。私の人生、ここで終わりか…どうせダメならトロッコ問題じゃないけど、あの男の言う通り冬雪だけでも自由にしてあげたい)……わかりました。で、どうすればいいんですか?」

男「それならここに…」


 男は紙を取り出し、春花はそれにサインをした。

 その紙は『オークションへの出品届け』である。



 物品名:松井 春花(まつい はるか)


 以上の物を出品することに同意する


『 20xx年 3月 “吉日” 松井 春花 印 』



ーーーーー


???「10」

???「50」

???「100」

???「500」

???「1000」


………。


 春花は、1000円で落札された。



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