その時だ。
「うおっ!?」
背中から衝撃を受け、ミミズ怪人は吹き飛んで瓦礫に突っ込んだ。
フレアが、おそらく最後の力を振り絞り攻撃したのだ。
はっとして、ミサキは彼女に駆け寄った。
「大丈夫ですか!」
「うん……あなたこそ、無事……?」
戦いの傷と、凌辱の果てにぼろぼろになったフレア。
それでも、自分を案じる彼女に、ミサキは深い感謝の念と、憧憬を抱いた。
「いってええーなぁ!」
しかし、ミミズ怪人は瓦礫を吹き飛ばして復活した。
口しかない顔からは分かりづらいが、その剣呑な空気から、激怒しているのはわかる。
「ど、どうしよう……」
当然、ミサキには対抗する手段などない。そして、フレアにも。
「私の……あとを、継いで」
「えっ?」
フレアは胸元に光り輝くクリスタルを取り外すと、ミサキに手渡した。
すると――。
「あ、ああっ!」
ミサキの手に触れたクリスタルは、燦然と輝きだしたではないか。
光はミサキを包み込み、彼女にふさわしい戦衣となって装着される。
同時に、ミサキの脳にフレアの記憶が断片的にフィードバックされる。エリミネーターの無法ぶり、逃げ惑う民衆、フレア自身の怒り――。
(エリミネーター……こんなにも人々を苦しめ、辱めて……っ!!)
「な、なんだあ!?」
ミサキの意識が、戦士としてセットアップされ、光が収まったとき――そこには新たなセラフィーヌが誕生していた。
「セラフルージュ!!」
「な、なんだとっ」
「この外道……っ! ぜったいに許さないんだからっ!」
ミサキ……ルージュの中には、怪人共に対する怒りが渦巻いている。
その右腕から、光が伸びて剣と化した。
「馬鹿な、ただの一般人じゃなかったのかよぉっ」
ミミズ怪人は動揺しきっている。美味しい獲物を目の前にして、突然宿敵が表れたのだから無理もない。
この怪人もおそらくは、まともに戦ったらそれなりの強敵ではあったはずだ。
「ルージュっ! セイバぁぁぁあっ!!」
しかし、ルージュ誕生による動揺と、迷いなき彼女の突撃に反応できなかった。
横薙ぎの斬撃。一瞬の後、ミミズ怪人の体は上下に泣き別れていた。
「ぐああっ……ちく、しょおお……」
怪人は上下の肉体同時に爆散した。
戦いが終わり、ルージュはすぐさまフレアだった女性のもとに駆け寄った。
平時なら日焼けした肌が魅力的であったろう彼女だが、今は戦闘と凌辱による傷だらけで痛々しい。
変身しているときは分からなかったが、年の頃はミサキとそう変わりないだろう。
早く病院へ、とミサキが思い当たったとき、上空から声が降ってきた。
「かおりーっ!」
ルージュはまだ知らないが、それはセラフジェイドだった。
「しっかりしろ、かおりっ」
ジェイドは降り立つと、倒れ伏したセラフ――かおりを抱きかかえて呼びかける。
彼女はひどい状態ではあるが、まだ息はある。それを確認して、少しホッとしたようだ。そして、ルージュの方を見やる。
「君は? このあたりでは見ない顔だ」
「ええと、私は……花井ミサキっていいます」
ジェイドは一瞬怪訝な顔をしたが、かおりがクリスタルを所持していないことに気がついたらしい。
「そうか……君が、彼女のクリスタルを継いだのか」
「多分……そういうことだと思います」
ミサキにはよくわからない。
それも無理もないことで、自分たちを守るセラフィーヌがどんな存在かさえ一般人は知らないのだ。
「状況を見ると、仕方のないことだったようだな。とはいえ、行きずりの君に重荷を背負わせることになったか」
「え……?」
不穏な言葉にどきりとする。
「いずれ、わかるよ。さあ、ついてきてくれ」
さっさと歩き出したジェイドを追うのを、ルージュは一瞬ためらった。
踏み出せば、もう戻れない――。そう確信めいた予感を感じたからであった。
続く
小鬼上人
2023-09-19 09:49:07 +0000 UTC