司令室のある地下施設から地上に出たケイは、変身ポーズを取って声を張り上げた。
「セッタップ!」
カッと光が走って、ケイはセラフアンバーへと変身している。
「ケイ!」
続いて地上に出てきたエンマをちらりと振り返り、
「ごめん……でも、あたしはっ!」
地面を蹴って、あっという間にビル群の向こうへ消えていった。
「ケイ……」
エンマはきゅっと唇を引き結ぶと、彼女を追うべく自衛軍の車庫へ向かうのだった。
Fエリアの南方3キロ。オペレーターの推測通り、そこにグラガンは仁王立ちして待ち構えていた。
その瞼がピクリと動くと、ふんと小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「……本当にのこのこやってきやがった」
崩壊したビルの残骸の向こうから、黒い影が飛び出した。
ケイ――セラフアンバーだ。
「カイ先輩を……返せえええええええええっ!!」
「おいお前たち。そこの馬鹿をやっちまえっ!」
きぇぇーっ、と奇声をあげて周囲に控えていた戦闘員たちがアンバーに襲いかかる。
「でぃっ……やああっ!」
アンバーは地面を蹴って飛び上がると、先頭の戦闘員に蹴りを食らわせる。その反動でくるりと回転し、次なる敵を蹴り飛ばす。さらに着地と同時に振り上げた腕を地面に叩きつける。
「アースライズ!」
アンバーの周囲の地面から岩塊が突き出して、群がっていた戦闘員たちを天高く打ち上げた。
「ほう……」
グラガンが面白そうに眉を上げる。
どさどさ、と打ち上げられた戦闘員が落下するなか、アンバーは立ち上がってじっとグラガンを見据えた。
「グラガンとか言ったな……カイ先輩を離しやがれっ!」
「カイ……? ああ、こいつか……」
二本のペニスで串刺しになったままのカイ――セラフジェイドは、ほとんど気絶してしまっている。
アンバーの大声にも反応がない。
「そうかそうか、すっかり忘れてたぜ……俺のペニスケースとして馴染みすぎてな♥」
「て、め、えぇ……!」
怒りでアンバーの身体が打ち震える。
「まあ、相手してやるよ。だが、気をつけるこった。大好きな先輩に当たらねえようになあっ!」
グラガンが叫びながら突っ込んでくる。
「ぶっ……殺してやるっ!!」
アンバーは雄叫びを上げると、地面を蹴ってグラガンに向かって突進する。
「おらあ!」
「っ!」
グラガンのパンチがアンバーを襲い、その顔面を打ち抜いた――だが、アンバーはその拳を腕でガードし、弾き返していた。
「やるねえ」
感心したようなグラガンの声がわずかに耳に届く。
(舐めやがって……っ!)
怒気を隠しもせず、アンバーは乱打を繰り出した。
が、その全ては四本の腕によって防がれてしまう。
「くっ!」
「どうした、それで終いか?」
「なわけねえだろっ!」
アンバーの額からビームが撃ち出され、グラガンの獣の頭部を撃ち抜いた。ばちゅんっ、と一瞬で脳が蒸発し、頭部が炸裂する。
「へへ、どうだっ!」
頭が二つあるのだから、これで死ぬわけではあるまい。
ただ、戦闘力が落ちるのは間違いないはずだ。
だが――
「残念♥」
「はっ……」
グラガンが拳を振り上げた。アンバーはガードを固めて備える……が、それはフェイントで、グラガンはもう一方の腕をアンバーの腹に叩き込んだ。
「かはっ……!」
一瞬息が止まり、内臓が破裂したかと錯覚する。続いてハイキックが繰り出され、肩口を蹴り飛ばされた。
「うわああっ!!」
どん、どんっ。
地面を二度バウンドし、倒れ伏したアンバーに、グラガンはゆっくりと近づいてくる。
「あぐ、あ、あ……」
「ほう……まだ意識があるたぁ大したもんだ」
「そん、な……」
信じがたいことに、吹き飛んだ獣の頭部が、しゅうしゅうと煙を上げながら再生していく。
「俺様は不死身でね……これくらいじゃあどうともならんぜ」
「ちくしょう……!」
アンバーは起き上がることも出来ないまま、グラガンを睨みつける。
「へへ、いい目だ。屈服させがいがある」
「ケイ―っ!」
「あん?」
土煙を巻き上げながら、二人に突進してくるものがある。
「エ……ンマ……」
それはエンマだった。装甲二輪車にまたがって、アンバーとグラガンの間に割り込んでくる。
「ウェイクアップ!」
キラリと閃光が走る。そしてエンマは紫光の戦士、セラフライラックに変身した。
「なんでえ、新手か。いいぜえ、何人でもかかってきな!」
「ケイ、立って!」
「くそおっ!」
アンバーもようやく立ち上がり、二人でグラガンに立ち向かう。
ライラックの光剣がグラガンの体を引き裂き、アンバーの拳が顔面を撃ち抜くが、グラガンに効いた様子はない。
ダメージが入ったとしても、ほとんど一瞬で回復してしまうのだ。
しかし――
たまたま、本当に偶然に、獣と竜、両方の頭部に二人の拳がめり込んだ。ごしゃりと内部組織が砕ける音がして、体液が吹き出した。
「ちっ!」
グラガンは鬱陶しそうに二人を弾き飛ばす。その多少慌てたような仕草に、ライラックは違和感を覚えた。
そして、今までは一瞬で再生していたものが、今度は違っている。潰れた肉がゆっくりと戻っていく。
「ケイ!」
呼ばれたアンバーも確信を持って頷いた。頭部を同時に攻撃すれば、グラガンの再生能力は著しく弱まる。
「てぇやあああああああああっ!」
二人は瞬時に飛び上がると、グラガンの両方の頭部に向けて光剣を振りかざした――。