幸いなことに、マズリムが操っていた虫たちは道中でほとんど停止状態に陥っていた。
リーダーが斃れたことで統率を失ったのだろう。通りがかったルージュにバラバラと散漫な攻撃を仕掛けてくるくらいで、対処は容易だった。
「ハァ……ハァッ……」
そしてついに、ルージュの眼前にエリミネーターたちの転移装置と思しきものが姿を現した。
どうやったものか、地下水路を飲み込むようにしてドーム型の施設が地中に埋め込まれている。解き放たれた入口はぼんやりと光っていて、その向こう側は伺いしれない。
周囲の柱の陰に隠れルージュがしばらく様子を伺っていると、そのうち数人の戦闘員が光の中から現れた。
彼らの姿は先程までは見かけなかった。やはり地下水路でマズリムが斃れたことが彼らの注目を集めたのかもしれない。
続けてドヤドヤと十数人の戦闘員が出てきて、ルージュが来た道を逆に辿っていく。
(よし……今しかないっ!)
その波が途絶えた瞬間、ルージュは意を決して光の中に飛び込んだ。
かっと視界が白く染まり、意識が途絶える。
それから、どれくらいの時間が経ったのか。一瞬とも、永遠とも思える光芒の時を、ルージュは越える。
そして――。
ルージュが意識を取り戻すと、彼女は金属とも違う硬質な鈍い光を放つ構造物の中にいた。
(ここが――)
エリミネーターの拠点の中。眼前に広がるのは巨大なホールの壁で、仮にここが奴らの拠点――ピラーの中だとしたら、どれだけ広大なのだろうか。
ここから、中枢まで乗り込んで破壊しなければならない。
(私が……やらないと)
今更ながら、重圧で胸が苦しくなりそうだ。
スーツの中にあるもう一つのセラフクリスタルが、中枢部と思しき位置をこちらに知らせてくる。
それが本当に正しいのか。それはルージュには確かめるすべがない。ただ信じて向かうのみだ。
「よしっ」
ルージュは軽く気合を入れると、転送ホールの入口に向けて走り出した。
「ギッ!?」
通路に出た瞬間、巡回中の戦闘員に発見される。
「ていやっ!」
間髪入れず、ルージュはその横っ面に蹴りを叩き込み、昏倒させる。
「危なかった……他の戦闘員を呼ばれたら面倒だもんね」
ここは敵の拠点なのだ。侵入を検知されたら――
(されたら?)
ぞくりとする。人類より遥かに高い技術力を持つ相手が、こちらの侵入に気づかないということはあるだろうか?
その瞬間――
ブシュウウッ!
「!?」
周囲の壁からガスが吹き出してきた。
「こ、これはっ!?」
同時に、前後の通路が一瞬で閉ざされ、瞬く間にルージュは密閉空間に閉じ込められてしまう。ガスは音もなくあっという間に周囲に充満し、ルージュの全身を覆い始める。
「く、ううぅっ……!」
咄嗟にルージュは口を塞ぎ、呼吸を浅くする。
(これはっ……弛緩ガス……?)
しかしそんな抵抗を嘲笑うかのように、ガスはゆっくりとルージュの身体を蝕んでゆく。
(しま……った……)
ルージュは静かに崩れ落ち、昏倒した。
(後編へ続く)