ジェイドたちがグラガンを打倒するその少し前――ルージュとベスタはピラーの中枢部にたどり着いていた。
野球のグラウンドほどもありそうな円形の広大な空間があって、見上げれば天井は見えないほど高い。
天気が良ければ都内西部から東京湾に刺さったピラーの上部が見えるのだから、たしかにここはその内部、中心部のようだった。
そしてその真ん中に、赤く輝くエネルギータンクがいくつも設置されていた。その中でひときわ大きなタンクがらんらんと光を放っている。
「ルーっち、本当にここなん?」
そう聞いてきたベスタに、ルージュは頷いた。しまい込んだセラフクリスタルは、”ここがそうだ”と教えてきている。
「じゃあそうなんだろうけど……不用心じゃね?」
ベスタの言う通りだった。ここに至るまで敵の散発的な抵抗はあれど、二人の障害になるようなことはなかった。
ここが敵の中枢で、心臓部だと言うなら、もっと激しい攻撃があっても良さそうなものだ。
それはルージュも気になっていた。首尾よく行くことに問題などないはずなのに、胸騒ぎがする。
(……でも、やらないわけにはいかない)
そのためにここまで来たのだ。
「やりましょう、ベスタさん!」
「あいよっと」
「たぁああああああああっ!」
二人のセラフが光剣を携え、そしてエネルギータンクに突き立てる。
「うっ!」
そして光が広がった。
「あああああああっ!!」
二人は床に倒れ伏していた。突然の光に包まれ、意識を失ってしまったのだ。
「ん……」
どれほどの時間が経ったか、ルージュは目を覚ます。上半身を起こすと、傍らにはベスタも倒れていた。
「ベスタさん! 大丈夫ですか!」
ルージュが呼びかけると、やがてベスタも目を開けた。彼女は自分の体をペタペタと触ってから、
「うん、大丈夫……って言いたいけど」
そう言って彼女は引きつった笑顔をルージュの後ろに向ける。
「……?」
ルージュは振り向いて、そして凍りついた。
「なに、これ……」
彼女は呆然としてそれを見上げることしかできない。
それは不定形な、肉の塊だった。割れたエネルギータンクの中でうじゅうじゅと粘液を滴らせながら、ピンク色の肌を蠕動させている。
あまりに醜悪なその姿に、ルージュは吐き気を催し、思わず口を抑える。
「とりあえず、下がりなっ!」
ベスタが顔を引きつらせたまま、ルージュを引っ張り上げて後ろに飛び退く。こんなやつの近くにいるのは危険だ。
「味方って感じじゃないよねー……こいつ」
「たしかに……すごくヤバい感じがしますっ……!」
肉塊のそこかしこに、倒した怪人のパーツに似た部位がある。
それだけではない、節足動物のような腕が突き出ていたり、魚のエラのような部位も見える。
地球上のあらゆる生物の特徴を混沌的に内包したかのような、そんな怪物だ。
ルージュはなにかに気づいて、近くのコンソールパネルに視線を向ける。
そのモニタには一言、日本語でこう書いてあった。
「完了――?」
なぜ日本語なのか。その言葉の意味するところは何なのか――。
それを解するまもなく、彼女らに、怪物は牙を剥いた。
どずん。重厚な一撃が、二人が一瞬前に立っていた床を砕く。
「わぁああっ!」
「正体はわかんないですけどっ……敵ですよねっ!?」
「それでいいっしょ、別にっ!」
ベスタは巨大なキャノン砲を形成し、肩に担ぐ。
「ぶっ飛ばす!」
「わっ!」
砲口から強烈なエネルギーが迸り、怪物を焼く。
「グキエェェェッ!!」
耳をふさぎたくなるような奇声をあげ、怪物は身悶える。
しかし、それは長くは続かなかった。
バチ、バヂッ!!
「!?」
直撃部からスパーク。と同時にエネルギーは細く収束し、やがて掻き消えた。
「あちゃー……参ったなこりゃ」
ベスタが頭を掻く。掻き消えたエネルギーとは対象的に、怪物は蠕動をいっそう激しくした。
「まさか……エネルギーを吸収してるっていうの……!?」
「んごぉぉぉっ!!」
怪物が咆哮を上げると、その肉体は爆発したかのように四方に弾け飛んだ。
「な、なにっ!?」
周囲に肉片が飛び散る。あまりのことに、二人は動きを止めた。
そしてその肉片は一片一片が意思を持つかのように、二人を包むように集合していく。
「あ、ああっ!?」
「ちっ!」
二人は同時に飛び退ったが、怪物に一歩近かったルージュの足に、一片が取り付いた。
「きゃあああっ!?」
「ルーっち!!」
足首を肉塊に取り込まれ、あっという間に集合した本体の方へと引きずり込まれる。
「やっべ、こなろっ!」
ベスタは肉塊を切り刻むが、全く効いている気配がない。むしろ光剣の先が飲み込まれて吸収されているようだ。
「ちくしょ、ルーっちぃぃっ!!」
そしてルージュの体は、肉塊に完全に埋まってしまう。
「はふっ、あぐっ……あ、あぁ……」
肺を絞られ、酸欠に喘ぎながら、ルージュは怪物の中へと飲み込まれていく……。
(後編へ続く)