第17話 青く白く佇むもの
グラガンを失った敵軍は統制を失っており、駆けつけた自衛軍やセラフィーヌの活躍によってほとんど打ち負かされていた。
ジェイドもようやく意識を取り戻していた。その傍らではアンバーが抱きつくレベルで介抱し続けている。
しかしジェイドはここに姿のないルージュたちのことが気になっていた。
「かおり……彼女は、ルージュたちはどこに?」
自衛軍を率いて駆けつけていたかおりはジェイドに作戦をかいつまんで説明した。
「そうか、二人はあの中に……」
作戦を聞いて、ジェイドは心配そうに表情を曇らせた。ピラーに無事乗り込めたにしても、それがあるのは東京湾だ。
西の都市部であるこの辺りから様子を窺い知るのは難しい。
と、その時、にわかに周囲がざわつき始めた。
「なんだ?」
「あ、あれを――!」
誰かがその東京湾の方を指し示す。
遥か遠くに、なにか大きなものが霞んでいる。
山のようにも見えるそれは――しかし、動いていた。
「――巨人――?」
誰ともなくそう呟く。そう、それは巨人だった。
その”巨人”の肩部。肉と機械がごちゃまぜになったような表皮にしがみつき、振り落とされないように必死こいているのはセラフベスタだった。
「ひーっ! やばいってこれぇ!」
ルージュが肉塊に取り込まれてすぐ、ピラーが崩壊を始めた。
そしてこの巨人が姿を表し――肉塊はその頭部と融合してしまったのだ。頭部と言ってもほぼのっぺらぼうであり、何でものを認識しているのかもわからない。
ベスタはピラーの崩壊から逃れようと巨人にしがみつき、こうして肩にちょこんと乗っかっているというわけだ。
ずしん、ずしんと、巨人は緩慢ながら東京湾を這い出し、上陸を果たそうとしていた。
「怪獣映画かよ~~こいつ!」
この辺りはピラーから最初の侵略を受けたとき最前線であったこともあり、もはや住むものは誰も居ない。
被害を気にしなくていいのは幸いだが、それもどこまで保つものか。もしかしたら建川市まで進もうとしているのかもしれないし、その場合恐ろしいほどの被害が出るだろう。
そして動きは緩慢であっても、一歩が大きい分進む距離も比例して長い。人間の十倍ほどの歩幅と見積もれば、建川市まで一時間ほどしかかからない。
(何よりさあ――)
巨人が歩くたび、体についたかさぶたが取れるようにボロボロと何かがこぼれ落ちていくのだが、その一つ一つが怪人なのだ。
(どういう理屈かわかんないけど、こっちのもヤバそうなんだよなあ!)
一歩進むごとに、数匹で済まない数の怪人が生産されている。一体でさえセラフィーヌでも手を焼くのに、これでは――。
その時、ボロボロ落ちていくかけらの中に、ベスタは違うものを見つけていた。
(あれは――)
セラフスーツに、青い2つのおさげ――セラフアズールだ。ルージュから聞いていた、彼女の大切なひと。
「おぉっとぉ!」
た、たっ! とベスタは器用に表皮を伝い、きりもみ状態で落ちていくアズールをキャッチして、自分の近くへ引き寄せる。
「ふー、大丈夫?」
「あ、ありが、とう……」
アズールは突然のことに目を丸くしている。
彼女はピラー内部にたどり着いたところで崩壊のタイミングにぶち当たってしまい、通路を逃げるうちに肉体に取り込まれ、気づけばこうして宙を舞う羽目になってしまっていた。
「あたしはセラフベスタ。ルージュはこいつの脳天に取り込まれちまった」
「えっ!? ミサキが……?」
「詳しい説明はあと、あそこまで上がるよっ」
ベスタはアズールの手を取って、軽快に巨人の体を駆け上がっていった。
そして建川市では――
「市民の避難を優先させろっ!! どのみちまともな兵器じゃ通用しないっ!!」
迫りくる巨人の威容を受け、自衛軍が必死に避難誘導を行っている。
そして戦えるセラフたちは一同集合して、顔を突き合わせている。
「さて、私たちも行くしかないな」
「えぇ……」
「お供します!!」
ジェイドの言葉に、ライラックたちが頷く。
「先遣隊からの報告では、あの巨人の足元では怪人たちがウヨウヨいるらしい」
「今度こそやばいかもね」
「あんな雑魚どもに、遅れなんて取りません!」
セラフィーヌたちは激しい戦いですでにボロボロだった。
しかし、たとえ敗色濃厚な戦いだとしても、一分一秒でも誰かが逃げ延びる時間を稼げるのなら――それが彼女らの共通認識だった。
「よし、行くぞっ! 巨人と怪人たちを一瞬でも長く押し留めるッ!」
「おおっ!」
そうしてセラフィーヌたちが飛び立っていく。
そして誰も居なくなり、遠くに自衛軍の喧騒が響く中で――。
「間に合えば、良いのだが……」
壊れかけたモニタで誰かが呟いた声が、わずかにコンクリートの瓦礫に染み入って消えた。
(後編へ続く)