肉塊に犯され、そのまま取り込まれてしまったルージュ。
「ん……」
彼女が気がついたとき、その四肢は肉塊に埋まるように拘束され、まるで磔のようであった。
「こ、これは……一体……?」
動揺するルージュのこめかみに、ぴと、となにか冷たいものが当たった。
見ると、肉の先になにか金属質な物体が付いたものが、ルージュのこめかみを両側から押さえていた。
「な、なにこれっ!? いやぁっ!!」
(恐れることはない――)
脳内に声が飛び込んでくる。それは肉塊に犯される前に語りかけてきたものと同じだった。
(行き詰まった生命体である君たちが、生存のために肥大化させた悪意――それを具現化したものが、君たちがエリミネーターと呼ぶ存在だ)
(あれが、私たちの――悪意?)
(そうだ。つまり君たちが戦っているのは、己自身ということ――)
(なぜ、そんなことを!)
(均衡が崩れた生命体は、いずれ必ず宇宙に災いをもたらす。だから、その前に試される)
(……あなたは、神――?)
(言ったはずだ。仕組みだと。閾値を超えたものに、審判の楔を撃つ――これが世界の理なのだ)
「ことわ――あ、ぐぁあああっ!!」
声が途切れた瞬間、ルージュの頭に恐ろしいほどの情報が流れ込んできた。
それは数多の怨嗟の声、苦悶の表情……肉体的、精神的問わず、ありとあらゆる類の負のヴィジョンがルージュの脳内で顕現し、思考を支配する。
「いやっ! いやぁぁあっ!!」
ルージュの脳内で、自身を犯した怪人や人間の姿がフラッシュバックする。彼らはもとは人間。その彼らが、自分に何をしたのか――。
「違うっ……そんな、人ばかりじゃ……」
必死に抵抗しようとするが、できない。不信や憎悪がルージュの中に渦巻いて、彼女の精神を侵していく。
「あ、あぁあああああっ!!」
どくんっ、とルージュの体が脈打つ。彼女の中の何かが、変化を始めた。苦痛がすっと引いて、代わりに底冷えする冷淡さがルージュの精神を染め上げた。
「あは……」
口元を歪め、ルージュは笑った。そのセラフスーツは黒く染まり、彼女の純白さ、清純さが裏返ったようだった。
そしてアズールはベスタの助けを受け、後頭部にぽっかり空いた孔から巨人の内部に入り込んでいた。
人一人が通るのに精一杯な通路をゆくと、やがて学校の教室程度の広さの空間に出た。
「巨人の頭部内に、こんな空間があるなんて……」
アズールはそうひとりごちた。
そして視界の先に、一人誰かが立ち尽くしているのが目に入った。
「……? っ!」
それが誰かわかると、思わずアズールは声を張り上げていた。
「み、ミサキぃっ!!」
「キョウちゃん……」
こちらを見つめるルージュの目は、暗く淀んでいた。そしてそのセラフスーツは真っ黒に染まりきっている。何か異常が起きているのは明白だった。
「無事で良かった。でも、その姿は……?」
アズールは慌てて駆け寄る。だが、ルージュはそんなアズールを冷たく見下ろしている。
ルージュの周囲には、黒い霧のようなものが漂っていた。それは渦を巻き、彼女を取り囲んでいる。
「ねぇキョウちゃん、怪人たちってなんで人を殺したり、酷いことしたりするのかな……」
ルージュの冷え切った声に、アズールはぎくりと体を強張らせた。
「ミサキ……?」
「人間だったのなら、自分の大切なものだってあったはずなのに……どうして壊せたりするんだろう」
アズールにも覚えがある。自分の処女を奪ったのは、かつての知人だったのだ。しかし、そういう苦難を乗り越えて自分たちは戦ってきたはずだ。
「ミサキッ!」
不穏な空気を感じ、アズールは慌ててルージュの肩を掴んだ。しかしその手は振り払われる。
そしてルージュの周囲に立ち込めていた黒い霧がぶわっと広がり、アズールを包み込んだ。
「……ッ!」
「私の大切なもの、壊したら……あの人たちの気持ちもわかるのかな? あぁ、そうか……そうだね」
ルージュの淀んだ瞳が、アズールを捉える。
「キョウちゃん……私、あなたが大好きだよ。だからね……」
「ミサキ、何を……っ」
そしてルージュは、その細い腕でアズールの体を抱きしめた。
「……ッ!?」
「だから私、あなたを壊そうと思うの……」
瞬間、アズールは自分の体に異変が起きていることに気づいた。
(これは……っ!?)
体が動かない。まるで金縛りにあったかのように、指先すら動かせない。
だがそれは物理的な拘束によるものではないと、直感的に悟った。
(これは……ミサキの周りの瘴気が……!?)
徐々に視界が黒ずんでいく。同時に、意識が混濁していくのがわかる。まずい、と思ったのが最後。アズールの意識はぷつんと途絶えた。
(後編へ続く)