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天空戦姫セラフィーヌ 第18話 二人の想い 前編

 肉塊に犯され、そのまま取り込まれてしまったルージュ。

「ん……」

 彼女が気がついたとき、その四肢は肉塊に埋まるように拘束され、まるで磔のようであった。

「こ、これは……一体……?」

 動揺するルージュのこめかみに、ぴと、となにか冷たいものが当たった。

 見ると、肉の先になにか金属質な物体が付いたものが、ルージュのこめかみを両側から押さえていた。

「な、なにこれっ!? いやぁっ!!」

(恐れることはない――)

 脳内に声が飛び込んでくる。それは肉塊に犯される前に語りかけてきたものと同じだった。

(行き詰まった生命体である君たちが、生存のために肥大化させた悪意――それを具現化したものが、君たちがエリミネーターと呼ぶ存在だ)

(あれが、私たちの――悪意?)

(そうだ。つまり君たちが戦っているのは、己自身ということ――)

(なぜ、そんなことを!)

(均衡が崩れた生命体は、いずれ必ず宇宙に災いをもたらす。だから、その前に試される)

(……あなたは、神――?)

(言ったはずだ。仕組みだと。閾値を超えたものに、審判の楔を撃つ――これが世界の理なのだ)

「ことわ――あ、ぐぁあああっ!!」

 声が途切れた瞬間、ルージュの頭に恐ろしいほどの情報が流れ込んできた。

 それは数多の怨嗟の声、苦悶の表情……肉体的、精神的問わず、ありとあらゆる類の負のヴィジョンがルージュの脳内で顕現し、思考を支配する。

「いやっ! いやぁぁあっ!!」

 ルージュの脳内で、自身を犯した怪人や人間の姿がフラッシュバックする。彼らはもとは人間。その彼らが、自分に何をしたのか――。

「違うっ……そんな、人ばかりじゃ……」

 必死に抵抗しようとするが、できない。不信や憎悪がルージュの中に渦巻いて、彼女の精神を侵していく。

「あ、あぁあああああっ!!」

 どくんっ、とルージュの体が脈打つ。彼女の中の何かが、変化を始めた。苦痛がすっと引いて、代わりに底冷えする冷淡さがルージュの精神を染め上げた。

「あは……」

 口元を歪め、ルージュは笑った。そのセラフスーツは黒く染まり、彼女の純白さ、清純さが裏返ったようだった。


 そしてアズールはベスタの助けを受け、後頭部にぽっかり空いた孔から巨人の内部に入り込んでいた。

 人一人が通るのに精一杯な通路をゆくと、やがて学校の教室程度の広さの空間に出た。

「巨人の頭部内に、こんな空間があるなんて……」

 アズールはそうひとりごちた。

 そして視界の先に、一人誰かが立ち尽くしているのが目に入った。

「……? っ!」

 それが誰かわかると、思わずアズールは声を張り上げていた。

「み、ミサキぃっ!!」

「キョウちゃん……」

 こちらを見つめるルージュの目は、暗く淀んでいた。そしてそのセラフスーツは真っ黒に染まりきっている。何か異常が起きているのは明白だった。

「無事で良かった。でも、その姿は……?」

 アズールは慌てて駆け寄る。だが、ルージュはそんなアズールを冷たく見下ろしている。

 ルージュの周囲には、黒い霧のようなものが漂っていた。それは渦を巻き、彼女を取り囲んでいる。

「ねぇキョウちゃん、怪人たちってなんで人を殺したり、酷いことしたりするのかな……」

 ルージュの冷え切った声に、アズールはぎくりと体を強張らせた。

「ミサキ……?」

「人間だったのなら、自分の大切なものだってあったはずなのに……どうして壊せたりするんだろう」

 アズールにも覚えがある。自分の処女を奪ったのは、かつての知人だったのだ。しかし、そういう苦難を乗り越えて自分たちは戦ってきたはずだ。

「ミサキッ!」

 不穏な空気を感じ、アズールは慌ててルージュの肩を掴んだ。しかしその手は振り払われる。

 そしてルージュの周囲に立ち込めていた黒い霧がぶわっと広がり、アズールを包み込んだ。

「……ッ!」

「私の大切なもの、壊したら……あの人たちの気持ちもわかるのかな? あぁ、そうか……そうだね」

 ルージュの淀んだ瞳が、アズールを捉える。

「キョウちゃん……私、あなたが大好きだよ。だからね……」

「ミサキ、何を……っ」

 そしてルージュは、その細い腕でアズールの体を抱きしめた。

「……ッ!?」

「だから私、あなたを壊そうと思うの……」

 瞬間、アズールは自分の体に異変が起きていることに気づいた。

(これは……っ!?)

 体が動かない。まるで金縛りにあったかのように、指先すら動かせない。

 だがそれは物理的な拘束によるものではないと、直感的に悟った。

(これは……ミサキの周りの瘴気が……!?)

 徐々に視界が黒ずんでいく。同時に、意識が混濁していくのがわかる。まずい、と思ったのが最後。アズールの意識はぷつんと途絶えた。


(後編へ続く)

天空戦姫セラフィーヌ 第18話 二人の想い 前編

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