放課後の図書館。
五つ子は大きな机を囲み、風太郎の授業を受けていた。静まり返った空気のなか、鉛筆の走る音と、風太郎の低い声だけが響く。
二乃は椅子に背を預け、ノートに視線を落としていたが――その瞬間、腹の奥を鋭い痛みが走り抜けた。
「っ……!?」
無意識に体を前に折り、白いブラウスの上から下腹部を押さえる。顔には冷や汗が滲み、紫の瞳は驚愕に揺れた。
「ギュルルルル……ッ!」
小さく、しかしはっきりとした音が腹の底から響く。二乃の背筋が跳ね、隣に座っていた三玖が不安そうに振り向いた。
「に、二乃……大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃないわよ……! ちょっとトイレ行ってくるっ!」
強気なはずの声が裏返り、慌てて立ち上がる。椅子がガタリと音を立て、周囲の視線が集まった。顔が熱を帯び、羞恥と痛みで息が浅くなる。
図書館の静けさを破り、二乃はドアを押し開けて廊下へ駆け出した。
「グゥゥゥ……キュルキュルキュルッ!」

腹の奥からせり上がる便意が波のように押し寄せ、足を速めざるを得ない。
「ちょっと……っ、待って……! このタイミングでなんて……!」
額から滴る汗を拭う余裕もなく、スカートの裾を押さえながら必死にトイレを目指す。
姉妹や風太郎に見られるわけにはいかない。
“あたしがこんな情けない姿……絶対に見せられない!”
そう心で叫びながらも、腹の痛みは容赦なく襲い続ける。
「間に合って……お願いだから……っ!」
その声は誰に届くこともなく、廊下に響く足音と、断続的な腹鳴りだけが二乃の切迫を物語っていた。
図書館を飛び出し、二乃は必死に腹を押さえて走った。
「お願い……間に合って……っ!」
喉の奥から漏れる声は、普段の勝ち気な響きとは違い、切羽詰まった悲鳴のようだった。
廊下に響く足音。腹の奥では容赦ない便意が荒れ狂い、鋭い痛みが波のように押し寄せる。
「グゥゥゥ……キュルルルルッ!」
「はぁ、はぁ……っ、もうダメ、もう……!」
やっと辿り着いたトイレの扉を乱暴に押し開けると、そこにあったのは――和式便器。
「な、なんで今さら和式なのよっ!? サイアク……っ!」
嫌悪を滲ませつつも、背に腹は代えられない。スカートをたくし上げ、下着を半ば乱暴にずり下げてしゃがみ込んだ瞬間――
「ブビビビビビィィィッ!!!」
「ビチャアァァァァッ……ドロロロロロッ!」

凄まじい音を立てて、泥のような下痢便が噴き出した。勢いは強く、便器の縁を超えて床にまで飛び散る。
「やっ……いやぁぁっ! 床に……っ、こぼれてるじゃない……っ!!」
羞恥と絶望に顔を歪める。
普段なら絶対に見せない、取り繕う余裕もない惨めな表情。
「ブシュルルルルルッ!!」
「バシャッ、ビチャビチャッ……ポチャンッ!」
床に茶色い飛沫が散り、独特の酸っぱい臭気が個室に立ち込める。
二乃は必死に声を押し殺しながら、涙目で壁に手をついて体を支えた。
「どうして……あたしが……こんな目に……っ!」
「誰かに聞かれたら……死ぬしかないじゃない……!」
断続的に襲う便意に、何度も噴き出す音が重なる。
「グジュルルルルッ……ブシャァァァァッ!」
「ビチビチッ……ドロドロドロッ!」
足元では床にまで広がった液体が冷たく広がり、二乃の羞恥をさらにえぐる。
普段は強気で華やかな次女――中野二乃。
その姿は今、誰にも見せられない惨状と、どうしようもない無力感に沈んでいた。
「……お願いだから……誰にも気づかないで……っ」
その小さな祈りだけが、静まり返った個室に響いていた。