春の日差しがやわらかく差し込む初星学園の中庭。昼下がりの休憩時間、ベンチに腰掛けようとした姫崎莉波は、ふと立ち止まって動けなくなった。
「……っ、はぁ、はぁ……お腹……っ、な、なんで……こんな急に……」
整えられたブレザーのボタンを片手で押さえ込み、もう片方の手でお腹を必死に抱える。普段なら後輩の襟を直し、優しい微笑みで「これでよし」と声をかける彼女が、今は顔を真っ赤にし、冷や汗を滴らせていた。
腹の奥から突き上げてくる鋭い痛みが波のように押し寄せる。
「グゥゥ……ッ」「キリキリ……ッ」
鈍い音と刺すような痛みが交互に襲い、莉波の身体を小刻みに震わせた。
「……だめ、これ……っ、落ち着け、私……お姉さんなのに……こんな……」
声は途切れ途切れで、普段の落ち着きはもう保てない。
中庭には数人の生徒たちが行き交っていた。視線を感じるだけで羞恥が込み上げる。面倒見のいい“寮のお姉さん”として慕われている自分が、今こうしてお腹を押さえてうずくまっているなんて――。
「っ……、はぁ……プロデューサーくん……もし今ここにいたら、どう思うかな……」
歯を食いしばりながらも、頼りたい気持ちが心の奥に滲む。
汗で額に張りついた前髪を払い、必死に一歩を踏み出そうとする。けれど足はすぐに止まり、膝が震えた。
「ギュルゴロロロロロロロロロッ!!」

便意が強烈に身体を突き上げ、立ち続けることさえ困難になる。
「……ト、トイレ……っ、早く行かないと……」
声は弱々しく、中庭に響くことはなかった。
莉波は、震える脚に力を込め、制服の裾を握りしめながら歩き出す。普段なら整った姿で誰かを支える彼女が、今は自分を支えるのに精一杯だ。
「……お願い……間に合って……っ」
その祈りは切実で、どこまでも情けなく、けれど確かに“人間らしい”彼女の姿だった。
「……っ、はぁ、はぁ……お腹……もう……だめ……っ」
姫崎莉波は制服のブレザーを片手で掴み、もう片方の手で下腹部を押さえ込むようにして震えていた。いつもなら後輩たちをやさしく気遣い、「ほら、ネクタイが曲がってるよ」と微笑む余裕ある“寮のお姉さん”の彼女が、今はその面影を失っていた。
急激な便意と腹痛。波のように押し寄せる痙攣は、容赦なく彼女の腹を締めつける。
「グゥゥゥ……ッ!」「キリキリ……ッ」
内臓から漏れ出す不穏な音に、莉波は脚を震わせた。
「……ト、トイレ……行かなきゃ……でも……間に合わない……っ」
視界の端には校舎。トイレまで走れば数分とかからない距離。しかし、今の自分にはその数分が永遠にも思える。汗が首筋を伝い、タイツの中までじっとりと濡らしていく。
「……っ、はぁ……ごめんなさい……私……もう、耐えられない……っ」
羞恥と恐怖に頬を赤く染め、莉波は小道の脇でしゃがみ込んだ。周囲に誰もいないことを確認し、震える手でスカートの裾をつかみ上げる。
「……ここで……するしか……ない……っ」
普段なら絶対に口にもしない言葉。けれど理性よりも、腹をえぐる痛みと噴き出しそうな便意が勝った。タイツと下着を慌ただしくずり下ろし、太腿を震わせながらその場に腰を落とす。
次の瞬間――。
「ビチチチチッ……! ブシュゥゥゥ……ッ!」
粥のように柔らかく、水分を多く含んだ下痢便が一気に解き放たれた。勢いよく地面に叩きつけられ、茶色の泥濁が飛沫を上げる。
「……っ、ああ……やだ……音……聞こえちゃう……」
莉波は歯を食いしばり、肩を震わせながら吐息を漏らす。普段なら人を安心させるために整えられた声が、今はかすれ、途切れ途切れになっていた。
「ジュルルルゥゥ……ビシャァァァ……ッ!」
「ドロロロロロ……ッ!」

止まらない。便意の波は次から次へと彼女を襲い、そのたびに粘り気を帯びた液体が地面に広がっていく。芝生に吸われきらずに茶色い水溜まりを作り、蒸気が微かに立ちのぼった。
「うぅ……やだ……やだぁ……こんなの……お姉さん失格……っ」
涙が目尻に滲み、頬を伝う。いつもは後輩の手をとり、優しく導く自分が、今は惨めにしゃがみ込み、制御できない身体に振り回されている。
「プロデューサーくん……見ないで……お願いだから……っ……」
その名を口にした瞬間、羞恥はさらに胸を締めつけた。彼がここにいたならば、きっと優しい言葉をかけてくれるだろう。けれど同時に、このどうしようもない姿を見られる恐怖が全身を焼いた。
「ビチャッ、ビチャッ……!」「ボトボト……ッ!」
泥水のような便が最後の力を振り絞るように滴り落ちる。莉波の呼吸は荒く、喉が焼けるほどに乾いているのに、汗だけが絶え間なく流れ続ける。
「……はぁ……はぁ……もう……出し切った、の……かな……」
膝の力が抜け、草地に崩れ落ちそうになる。必死にスカートを押さえながら、彼女は項垂れた。羞恥と虚脱、そしてまだお腹に残る鈍い痛み。すべてが入り混じり、頭の中は真っ白だった。
周囲は静かだ。小鳥のさえずりすら遠くに感じる。自分が立てた効果音だけが、この空間にこだましているようだった。
「……ごめんなさい……みんなには、絶対言えない……っ」
普段は人の乱れを直す側の彼女が、自分の惨状を直すことすらできない。震える手で下着を整えながら、必死に息を整える。
それでも、どこかで安堵している自分がいた。もしこのまま廊下や教室で限界を迎えていたら……その惨めさは比べ物にならなかっただろう、と。
「……っ、でも……誰かに見られたら……終わり、だよね……」
莉波は顔を覆い、嗚咽をこらえた。
校舎に戻る道のりはまだ長い。羞恥と恐怖を抱えたまま、彼女は一歩ずつ歩き出すしかなかった。