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真鍋ラスの倉庫
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-月村手毬-白タイツの汚れと涙

照明の当たるスタジオに、小さな椅子とカラフルな積み木、壁には虹色の模様。用意された衣装に袖を通した月村手毬は、どうにも落ち着かない様子で鏡を睨みつけていた。

胸元には大きなハート型の名札、文字は幼児風に「てまり」。袖口がふわりと膨らんだ園児服が、彼女の長い黒髪と鋭い眼差しと、まるで釣り合っていない。

「……ねえ、プロデューサー。これ、どういうつもり?」

手毬は低い声で吐き出した。抑えているつもりでも、不満がにじみ出る。

「私、歌とダンスで勝負するつもりで来てるんだよ。なのに、幼稚園児のコスプレって。変な仕事持ってきたら殺すから、って言ったよね?」

鋭い言葉がスタジオに落ちる。だがその指先は袖の布をぎゅっと握りしめ、わずかに震えている。本人は強がっているつもりでも、その仕草は不安と恥ずかしさの表れだった。

「似合ってるって……? ふざけないで。誰がこんなの似合うのよ。私は“蒼”の系譜、クールでストイックなアイドルになるって決めてるんだから」

唇を尖らせて横を向くが、頬にはうっすらと赤みが差している。撮影スタッフから「可愛い!」と小さな歓声があがると、余計に居心地が悪そうに足をもじもじと動かした。

「……もう、笑わないでよ。絶対に黒歴史になるんだから。あとで覚えてて、プロデューサー」

そう言いながらも、カメラが回ればすぐに表情を切り替えるのが月村手毬だった。プライドの高さと恥ずかしさを同時に抱えたまま、園児服姿でポーズを取る。その姿は、彼女らしい“きれいなバラには棘がある”瞬間そのものだった。

――こうしてまた、手毬の不本意な撮影は幕を開ける。だがその表情は、誰よりもアイドルらしく輝いていた。

スタジオの片隅。撮影の準備でざわめく中、月村手毬は顔を青ざめさせて立ちすくんでいた。

数十分前、差し入れられた豪勢な食事に手を伸ばしたのが間違いだった。ラーメン、唐揚げ、ケーキ。普段から「食べることが一番の楽しみ」と豪語する手毬にとっては、控え室に並んだ料理はまるでご褒美のように見えた。だが、撮影を前にしての暴飲暴食はあまりにも無謀だったのだ。

「……っ、くぅ……!」

突然襲ってきた激しい便意と腹痛に、手毬は思わず腰を折り、両手で下腹を押さえ込む。普段は「素行に問題あり」とまで言われるほど強気で皮肉めいた言葉を放つ彼女も、今は汗に濡れた額を歪め、ただ苦しみに耐えるしかない。

――グルルルルル……ッ!

腸が容赦なく鳴り響く。周囲のスタッフにも聞こえてしまいそうなほどの音に、手毬は必死に唇を噛んだ。

「や、やばい……トイレ……トイレに行かないと……!」

声が裏返る。園児用の撮影衣装を着たまま腹を抱えて歩き出す姿は、いつものクールな彼女とは程遠い。足取りはふらつき、汗が首筋をつたう。

便意の波は容赦なく押し寄せてくる。ひとつ収まったかと思えば、次の瞬間にはさらに強烈な痛みが下腹を締めつける。

――キュルルルッ、ゴロゴロゴロ……!

「っ……ああ……なんで私、あんなに食べちゃったの……!」

悔しげに呻きながら、彼女は必死に廊下を進む。普段なら人を威圧する鋭い眼差しも、今は涙で滲んでいる。

「は、早くしないと……ほんとに、もれちゃう……っ!」

震える声が空気を切り裂く。スタッフに声を掛ける余裕すらなく、ただ必死にトイレを探す。その姿は、「完璧でクールなエリートアイドル」などとは到底思えない。

だが――そんな必死の形相こそ、月村手毬という少女のもう一つの顔を浮き彫りにしていた。プライドに縛られ、虚勢を張りながらも、内心は不安と弱さでいっぱい。それでも「トップアイドルになる」という夢だけは、決して手放さない。

腹を押さえ、必死に耐えながら駆けていく姿には、彼女の二面性がそのまま表れていた。クールでストイックな仮面の下に潜む、甘えん坊で怠け者で、そして繊細すぎる少女の本当の姿が。

そして今、彼女はそれを隠す余裕すらなく、苦悶に顔を歪めながら、トイレへの道を急ぐのだった。

――スタジオの喧騒の中、手毬の心臓の鼓動と腸鳴だけが、やけに大きく響いていた。

「……っ、くぅ……」

 腹部を抑え、顔を歪める。波のように押し寄せる腹痛と便意。腸がきしむ音が自分の身体の奥から響いてくる。

 ――グルルルルッ……!

 スタジオの音響機材のせいで幸い周囲にはまだ気づかれていない。だがこのままでは確実に危うい。手毬は小さな声でプロデューサーを呼んだ。

 「……ぷ、プロデューサー……っ」

 「どうした、手毬?」

 「……トイレ……連れてって……!」

 その必死な表情に、普段は強気な皮肉ばかりの彼女を知るプロデューサーも一瞬固まった。

 「わ、分かった、すぐに――」

 しかし立ち上がった瞬間、次の波が容赦なく押し寄せてくる。

 ――ゴロゴロゴロッ! キュルルルル……ッ!

 「ひぅ……っ、ま、間に合わな……ッ!」

 腹部を抱え込み、手毬の足がもつれる。プロデューサーが手を伸ばすが、その瞬間――。

 ――ブチュチュチュッ! ビチャァァァッ……!

 温かく粘度を帯びた液体が下着と白いタイツを一気に染め上げる。

 「や……やだ……! いやぁぁ……っ!」

 手毬の声がスタジオに響く。股間から太ももへ、タイツの内側を茶色の液体が勢いよく伝い、やがてシューズに溜まって床に滴り落ちる。

 ――ビリュリュリュリュッ……! ドロロロロ……!

 床に広がる汚水の音が、沈黙していたスタジオにいやに大きく響いた。

 「……っ、うそ、こんなの……アイドルが……!」

 必死にスカートの裾を掴み上げ、背を丸めて隠そうとする。しかし隠せるはずもなく、白タイツは腰から太ももにかけて茶色に染まり、滴る液体が靴下の中でぬるぬると広がっていく。

 「手毬……」

 「見ないでぇっ!! やだ……やだぁ……っ!」

 涙が頬を伝う。普段は「足を引っ張ったら殺すから」と平然と言い放つ彼女が、今はただ羞恥と絶望に震える少女に戻っていた。

 ――グジュグジュッ……ビチャビチャッ……!

 便意はまだ収まらない。第二波が力なく押し出され、下着の布地をさらに膨らませていく。耐えるどころか、もはや身体が勝手に吐き出していた。

 「……っ、あぁ……ごめんなさい……こんなの……」

 プロデューサーは言葉を失い、ただハンカチを握りしめたまま立ち尽くす。

 「私……クールで、完璧で……そういうアイドルでいたいのに……っ。なのに、なんで……こんな……」

 声は嗚咽に変わり、足元の水溜まりはどんどん広がっていく。タイツを伝って滴り落ちる音が、静まり返った空間でやけに鮮明に響いた。

 ――ビチャッ……ポタポタ……。

 恥辱に震える彼女を前に、プロデューサーはようやく歩み寄る。

 「手毬、大丈夫だ。ここで終わりじゃない」

 「……っ、でも……私、もう……アイドルとして……」

 「こんなことで終わるお前じゃない。……大丈夫、俺が全部フォローする」

 その声に、手毬の視線がわずかに揺れた。涙に濡れた目が、ほんの少しだけ安堵を滲ませる。

 「……ばか。……見たくなかった……こんな姿」

 「でも、見ちまった。でもな、これで嫌いになるわけがない」

 その言葉に、彼女は俯いたまま小さく頷いた。羞恥と絶望に沈んだ心に、かすかな救いが灯る。

 ――スタジオの床に残った汚れと、涙で濡れた頬。そのどちらも、彼女が抱える「強さ」と「脆さ」の証だった。

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