「半年ぶりくらい、だよね。ただいま、りうちゃん!」
金髪の少女は、りうちゃんにくっついてそう言った。しかし、りうちゃんは困惑を極めている。俺も同じだ。だって、りうちゃんはこの子のことを知らないという。
一体どういうことなのだろう。
「えっと、半年…」
「うん、りうちゃんに看取られてから、半年とちょっとだったかな?」
看取られて…?え?
「ど、どういうことでしょうか?」
思わず俺が質問してしまう。
りうちゃんは誰かの死に立ち会ったのだろうか。半年、というともう俺とりうちゃんは出会っているはずだ。ちょうど出会った頃だった気がする。でも、そんな話はりうちゃんから一言も聞いたことがなかった。
「そうだよね、びっくりさせちゃってごめんね、りうちゃんもお兄さんも」
「あ、いえ…でも…」
言葉を続けられず、たまらずにりうちゃんを見る。彼女も謎、といった表情を浮かべていたが、そのあと、少し目を見開いて、金髪の少女を見た。何かを思い出したのだろうか。
「看取った…私が…」
「うん。りうちゃん、私のことミーちゃん、って呼んで、いつも一緒にいてくれたよね。嬉しかったんだ〜、あの時は私、お友達とかいなかったから」
…え?
ミーちゃんという名前には聞き覚えがあった。
いや、忘れるはずがない。ミーちゃんをきっかけに、俺とりうちゃんは出逢ったのだから。
でも。
「あの、ミーちゃんって…」
「子猫の…ミーちゃん?」
そうだ。ミーちゃんというのは、りうちゃんに懐いていた野良猫だ。りうちゃんも、ミーちゃんのことを飼い猫のように大切にしていた。
「うん!わたしだよ!ミーだよ!」
どう反応して良いか分からないのは、俺だけでは無いようだ。りうちゃんも口を半開きにしたまま固まっている。
そう。子猫のミーちゃんは、傷一つなかったが、りうちゃんの腕の中で息絶えていたのだ。りうちゃんがミーちゃんを発見した時には、もう息をしていなかったという。
りうちゃんはとても悲しみ、たまたまそこへ通りかかった俺も一緒に、簡単な火葬をして、一緒に弔ってあげた。あの頃はまだ薄寒い秋口だったと思う。
でも、「ミーだよ!」と言われても。
目の前にいるのは子猫ではなく、りうちゃんと同い年くらいの少女だ。
子猫のミーちゃんが記憶を保持したまま人間に生まれ変わったとでも言うのだろうか。
ファンタジーにも程がある。
「えっと…本当にあの、子猫のミーちゃんなの?」
「うん。私もびっくりしちゃったよ。だって、気づいたら人間になっていたんだもん」
いやいやいや。ちょっと待て。
「えっと、ミーちゃん?」
「うん?」
「私の本名、分かる?」
「有栖川りうちゃん、でしょ?昔教えてくれたじゃん」
正解だ。
驚いた顔でりうちゃんは質問を続ける。
「じゃ、じゃあ最初にあげたエサは?」
「えーっと…ツナ缶と牛乳、だったかな?りうちゃんの家の下で。あ、雨が降っていた日だったかも」
「…どうなの、りうちゃん?」
「正解…」
えええええ!?
「ほら、それ、たまたまこの女の子が通りかかった時に、りうちゃんがそうしていたのを見たんじゃないかな」
「お兄さんー!疑ってるでしょ、私のこと」
ミーちゃんに叱られてしまった。
そりゃ、疑わない方がどうかしてるでしょ。
「あの時は誰も近くにいなかったと思う…」
「ええ…」
その後も、りうちゃんがミーちゃんにいくつかの質問を投げかけ、ミーちゃんはことごとく正解していった。その中には、りうちゃんの家での出来事や、彼女たちだけしか知るはずもない内容も多分に含まれていた。
だからといってにわかに信じられないが。
「本当に…ミーちゃんなの?」
「だーかーらー!本当だって!私だって、なんで人間の姿になったか分からないんだもん。普通に喋れるし、手足も使えるし、それに、りうちゃんだって一目で分かったし」
「ちょ、ちょっと待って」
たまらず俺は口を挟む。
「俺のことはどれくらい知っているの?」
「うーん、ごめんなさい。正直ほとんど知らないの。でも、りうちゃんと一緒に看取ってくれたことはうっすらと記憶にあるよ。あの時、体は死んじゃっていたけど、たましい?はまだ少しだけ意識があって。りうちゃんが泣きながら私を抱いてくれているところに、おにいさん、通りかかったでしょ?」
「う、うん…」
え、いや…まさか本当に?いや、まさか。
「ねえミーちゃん。じゃあ、その…人間の、今の姿になったのはいつ?」
「うーん、多分、今日」
「今日?」
「うん。意識が戻ったらここにいたの。この服を着ていて」
そう言ってミーちゃんは着崩した浴衣をぴらぴらとさせる。
なんということだ。
もしこの少女ーーーミーちゃんが言っていることが本当なら、大変なことだ。
「ま、待って!」
「もういっぱい待ってるよ!」
確かに。
「あのさ、もし仮に、あなたがミーちゃんの生まれ変わり?だったとして、歳はいくつなのかな?」
「女性に年齢を聞かない」
「ちょっとりうちゃん!だって!」
「うーん。今日この姿だったから何歳か分からないんだよね。普通に言葉も喋れるし、人間さんとして生活するには困らないかも?あ、あと私、記憶が自分の分しかないんだよね」
「自分の分?」
「子猫のミーとしての記憶しかないの」
なるほど。そういうことか。
この少女が元々人間の少女として生きていて、今日、ミーちゃんの記憶が混入したのなら、この少女の記憶とミーちゃんの記憶の両方が存在するはずだ。
でも、ミーちゃんの記憶しかないという。どういうことなのだろう。
「キミ、ちょっといい?」
「うん?」
ミーちゃんに聞こえないように、少し離れた場所で、コソコソとりうちゃんが耳打ちしてくる。
「やっぱり私、あの子、ミーちゃんだと思う」
「え、本気で言ってるの?」
「だって、話をしていても食い違っているところはないし、それに、私とミーちゃんしか知らないことを全部知っているんだよ?」
「いや、でも…」
「分かってる。何かの間違いかもしれないし、私たちふたりが揃って幻覚を見ているんじゃないかとか、そういう可能性も」
「うん…」
「でも、ここで、やっぱり関われません。さようなら。なんて、私にはできないよ」
「それは…」
それはそうだろう。あの少女が本当にミーちゃんの生まれ変わりにしろ、ただの幻覚にしろ、りうちゃんにとってミーちゃんはかけがえの無い存在だったのだ。俺と出会うまでは、たった一匹の友達だった。そんなミーちゃんが、今、目の前に人の姿をして現れた。
幻覚かもしれなくたって、なんだって、このまま別れることは、彼女の立場ならできないだろう。
身元不明の少女、ということで警察に届けるのが大人としての一般常識だが。
チラッと、ミーちゃんを名乗る少女を見やる。
少女はつぶらな瞳で、こちらを見ている。何か心配そうに、少し寂しそうに。
「はぁ…」
「ね、お願い」
りうちゃんが上目遣いで俺を見る。
ふたりの視線が俺に向けられる。
(非常識な大人になりますか…)
こうなることは、途中から少し予想していた。だって、こんな瞳でふたりから見られたら、警察に突き出すなんて、できないじゃないか。ただ、無条件に身柄を引き受けることはさすがにできない。
もう一度ミーちゃんのところへ戻る。
「えーっと、とりあえずあなたがミーちゃんの生まれ変わり、というかミーちゃんということを信じることにします。この空き家に放って置くこともできないので、ちょっとどうにかしようと思います」
我ながら何を言っているだと、胸中で嘲笑せざるを得ない。
「本当に!?ありがとうございます!」
「ただし、条件があります」
「条件?」
「今あなたが使っているその少女の体は、本当は持ち主がいるかもしれない。たまたまミーちゃんの記憶が入り込んだことで、元の少女の記憶が抜けてしまっているだけ、という可能性もありますよね?」
「うん」
「もし、少女の記憶が戻ったら、ちゃんと報告すること。そして、親御さんも心配しているかもしれないから、そうなった時は、ちゃんと親御さんに連絡をして、引き取ってもらう」
「うんそれで大丈夫。ありがとう、お兄さん」
「りうちゃんもそれで良いね?」
「うん、分かった」
ふぅーーーー。
これでよし。…じゃないだろう。
何をしているんだ俺は。
一歩間違えれば少女誘拐の罪で逮捕されかねないんだぞ。
でも、手を取り合って、キャッキャとはしゃぐりうちゃんとミーちゃんを見ていると、自然と笑みが溢れている自分がいた。
ミーちゃんは、間接的ではあるが、俺をりうちゃんに出逢わせてくれた。言ってみれば人生の恩人だ。ありすぎるほどの借りがある。
その借りを返すまでだ。それまでは、難しい“大人の常識”とやらは考えるのをやめてしまおう。
(もう、どうにでもなれって感じだな)
※※※
「で、どうしてこうなる」
俺はリュックを背負って、りうちゃん、そしてミーちゃんと、バスに揺られていた。
「だって、ミーちゃんが暑いから水浴びしたいって言うから」
「だからってそんな急に…」
リュックの中には、水着とゴーグルが入っている。
ミーちゃんのいた空き家を後にし、一旦、りうちゃんが自分の家にミーちゃんを連れ帰った。そして、俺が、腐る前に買ってきた牛乳を冷蔵庫にぶち込んだところで、りうちゃんとミーちゃんが俺の家にやって来た。そして、「プール行くからすぐ準備して」と。
やっと美味しいアイスコーヒーが飲めると思ったのに…。
でも、暑い時にプールに行くのは悪くないかもしれない。その後のアイスコーヒーは更に美味しいことだろう。
ミーちゃんが一緒、というのは不安ではあったが、もう今更どうでもよくなりつつある。
普通に喋れるし、見た目もかわいい少女だ。明るい髪色は目立つが、最近の若い子は、髪をピンクだの緑だのに染め上げている子だって、たくさんいる。金髪くらい普通だろう。
水着なんて高校を卒業してから一度も着ていない。だが、なぜか家のクローゼットの奥底にしまってあった。一応匂いを嗅いで、無臭であることを確認した。穴も開いていないし、カビも生えていなかった。よく見つかったものだ。
「わーい!水浴び!水浴び!」
「今からいくのはね、プールって言って、大きな水槽をイメージしてもらえば分かりやすいかな?たっくさん水浴びできるよー!」
「私、水浴び大好き」
「私もプール好きなんだよ、いっぱい泳ごうね、ミーちゃん」
「うん!」
女子ふたりはノリノリだ。
もはやミーちゃんは猫ではなく少女でという位置付けになっていた。
その方が何かと好都合なので、もうそういうことにした。
「お兄さんはぷーる?好きなの?」
ミーちゃんに尋ねられて、考える。好きも嫌いも、もう十年以上、泳いでいない。
「うーん。もうしばらく泳いでいないから、好きとかいう以前に、泳げるかどうか…」
「それなら私が教えてあげるよ!」
「りうちゃん泳ぐの得意なの?」
「うん?あれ?言ってなかったっけ?私、中学生の頃は水泳部だったんだよ」
「え、そうだったの?」
それは初耳だ。彼女の実家に帰った時もそんな話はしていなかった。
「県大会でそこそこのところまでいったこともあるよ」
ガチじゃないか。
ここは女の子ふたりに、格好良く泳ぐ姿を披露しようかと密かに考えたりもしていたが、どうやら無理そうだ。
停留所でバスが停車すると、俺たち3人は降車し、区民プールへ向かった。
※※※
久々の、本当に久々のプールだ。
いくつものレーンに分かれているプールからは、独特の塩素臭がする。入り口のシャワーで体を慣らし、屋内へ入る。
最近の区民プールはよく出来ている。俺の住んでいた田舎のプールとは大違いだ。屋根付きで、雨でも快適に泳ぐことができる造りだ。りうちゃんの説明によれば、プールの水温は温水管理されていて、年中泳ぐことができるらしい。ジェネレーションギャップを感じてしまう。
「おーい!こっちこっち!」
奥の方でりうちゃんがぶんぶんと手を振っている。その隣に金髪のミーちゃんが水着姿でキョロキョロしていた。
ミーちゃんはもちろん水着なんて持っていないので、りうちゃんのお下がりを借りたとのことだ。高校で使っているものだろうか、スクール水着を着ていた。
(か、かわいい…)
今まではミーちゃんを猫扱いしているところがあったが、一旦少女だと思って、そういう目で見てみると、りうちゃんに負けず劣らず、超美少女だった。
長い髪は結われ、サイドテールになっているのがまた幼なげで可愛い。それもスクール水着ときた。
(ビバ・プール!!)
うん、夏はやっぱりプールだよな。最高だな。
「じー…」
「な、なに?」
「ミーちゃんの水着姿に見惚れてますね、旦那」
「はっ?そ、そんなことないって。初めてのプールだろうから、緊張してないかとか、そういう心配をだな」
「本当かなぁ?」
疑いの眼差しが痛い。
りうちゃんはこういう本能的なところが本当に鋭いので、あまりミーちゃんばかり凝視していてはまずい。あまりの可愛さに見惚れてしまったのは本当だが、かくいうりうちゃんの水着姿も、最高以外のなにものでもない。
りうちゃんは、スクール水着ではなく、もっと本格的な水着を着用していた。
県大会に出場した経験があるというだけあって、競泳用水着がとても様になっている。見るからに早そうである。
そして、
(競泳用水着ってめっちゃセクシーだな…///)
スクール水着の可愛さも捨てがたいが、競泳用水着は、水着の面積が少なく、つまり、肌の露出面積が多い。特に股下はハイレグのように鼠径部が見えている。
りうちゃんに習って、俺とミーちゃんは準備運動を始める。
いち、に、さん、し。
下半身の柔軟運動からスタート。
普段から運動をする習慣のない俺は、準備運動だけで体が悲鳴をあげそうだ。
りうちゃんは慣れた様子で、まるで体操選手のように柔らかい体を曲げて、お手本のような柔軟体操を見せている。
ミーちゃんは…思いの外、柔軟だった。
りうちゃんの見様見真似で体操をしているものの、体の柔らかさは俺より数段上だ。まさに、子猫のように体をくねらせ、今にもみゃぁ〜と鳴きそうな格好をしている。
「ねえりうちゃん」
「うん?」
「ミーちゃんって、泳げるの?」
「どうだろう」
キョトンとしたミーちゃんが、俺たちの会話を聞いてニコッと笑った。
「大丈夫ー!泳ぐの得意だよ」
「さっすがー!じゃああとで3人で競争しよっか」
「賛成ー!」
「えー」
賛成2、反対1。
「なーに、キミ競争嫌なのー?」
「だって、俺、泳げないかも…」
「昔は泳げたんでしょ?」
「いや…スポーツ全般苦手だったから、結構さぼって水泳の授業は見学してた…」
「もー!キミは本当に…。仕方ないなぁ、じゃあさ」
「うん?」
「ミーちゃんもいることだし、3人で特訓しよっか!」
えー…俺はふたりの泳ぐ姿をプールサイドで眺めていたいのに…。
「いいじゃん〜、せっかく来たんだから、ちゃんと運動していこうよ!それに、良い汗かいた後のアイスコーヒーは美味しいよ、きっと」
「それはそうだけど…」
あまり格好悪いところを見せるのは恥ずかしい、という思いが正直なところだ。
美少女ふたりがすいすい泳いでいる中で、自分だけあっぷあっぷだったら立つ瀬がない。
「大丈夫、私が手取り足取り教えてあげるから♪」
「う、うん」
ちょうど、りうちゃんが開脚運動を始めたところで、彼女の股下に視線がいってしまった。
りうちゃんの鼠径部を前にしながら、「手取り足取り」と意味深な言葉を掛けられて、水泳運動とは別の妄想に駆られそうになる。
今はだめだ!
りうちゃんだけじゃなくて、ミーちゃんまでいるのだ。
ぴっちりした水着を着ている分、下半身の男子たらしめる部分を膨張させてしまえば一発でバレてしまう。
りうちゃんには白い目を向けられるか、からかわれるかで済むかもしれないが、ミーちゃんはどう反応するか分からない。もし、ミーちゃんが普通の少女だったらドン引きして口を聞いてくれなくなるかもしれない。というか、そうなるだろう。
だから今は封印しなければいけない、俺氏の煩悩を。
だが、しかし。
(目の前に水着姿の美少女ふたりって、天国だけど地獄だな…)
早くプールの中に入ってしまおう。
残りの準備体操を適当に済まし、人の少ないコースを選んで入水する。
冷た…くはなかった。
確かに、温度はしっかり管理されているようだ。心地よい。
「どう?久々のプール」
りうちゃんが帽子とゴーグルをかけながら、隣のレーンに入水した。
「うん、なんか悪く無いかも」
「でしょー!せっかくだから、3人で楽しく泳ごうね」
「うん、ミーちゃん、大丈夫?」
ザブッ!
りうちゃんと同じレーンに、勢いよく入水したのはミーちゃん。
「きゃー!気持ちいい」
「あはは!ミーちゃんも楽しもうね」
「にゃぁ〜!」
猫の本性が出たのか、にゃぁ〜!という返事が妙に可愛い。
「さて、じゃあまず慣らしで一往復してみよっか」
「おー!」
りうちゃんを先頭に、ミーちゃんもあとに続いた。りうちゃんはもちろん、ミーちゃんも、スイスイと進んでいく。自称していただけあって、結構泳ぐのは得意なようだ。
あまり遅れると「おそーい!」と、りう先輩に怒られそうなので、俺もゴーグルを着用して、壁を蹴ってスタートする。
本当に久々の感覚。
水を掻き分けて体を前進させる。潜水していると、周囲の音が遠く離れていき、孤立したように感じる。それは寂しさではなく、妙に落ち着く感覚をもたらしてくれる。
コースの床面のマークを見ながら、大体10mくらい進んだところで浮き上がり、息継ぎをする。泳ぎは本当によく分からないので、適当にクロールもどきで前に進む。息継ぎをしながら水を掻いていると、すぐに息が切れてくる。
そろそろ25mの折り返し地点かな、と思ったところで一旦前を見ーーー
え?
「ちょっ!?」
思わず声が出てしまった。
スタート地点と反対側の壁は、はるか前方に見えた。隣のレーンでは、華麗にクイックターンを決めたりうちゃんが折り返している。
(このプール、片道50mだ…)
俺の泳いだことがあるプールは片道25mのプールだけだ。それに、
(う…ここ深くて足つかない!)
どうやら本格的なプールに連れてこられてしまったようだ。
こんな競技用のプールでミーちゃんが溺れたりしたらどうするんだ、全く。
しかし、ミーちゃんも、りうちゃんとあまり変わらぬペースで壁にタッチし、折り返してこちらへ向かって来ていた。
(ええ…)
仕方なくもう一度潜り、水を掻きわけ前進する。しかし、俺のペースでは進めど進めど、向こう岸に辿り着かない。
あっぷあっぷになりながら、ようやく壁に到達した。
へばりつくように、壁に捕まり、肩で荒れた呼吸をする。
「慣らしで100mとか、鬼なのか、りうちゃんは…」
泳げないと言ったじゃないか!
またこれを戻るのか…
50m先のスタート地点では、もう泳ぎ終わったりうちゃんが、両手を広げてミーちゃんを迎えているところが見えた。
(やれやれ…)
ミーちゃんのこと。これからのこと。
本当に、色々と考えなければならないことが山積みなのだが、まず、俺が今考えなければならないのは。
「あと…50m…」
りう先輩の“慣らし”を無事に終え、生還することだ。
山積みの”問題”は、50m先で両手を振っている。
To be continued…