やっとこさ、休日。
布団に横たえた体は鉛玉のように重い。
鈍い動きで布団から這い出て、洗面所で顔を洗う。冴えないおっさん顔が鏡に映され、いつもの休日を感じて安堵する。
午前10時。
せっかくの休日はもっと早くから活動的に過ごしたいものだと思わなくもないが、ゆっくり布団の中でぬくぬくと過ごすのは、休みの日ならではの醍醐味でもある。
もっと寝ていたい衝動に駆られるが、今日はそろそろ、
「おはよ!お寝坊さん」
りうちゃんが家にやって来た。
りうちゃんはいつだって早起きだ。自分が学生だった頃、休日はこんなに早起きではなかったなあと思い、りうちゃんは偉いな、などと感心してしまう。
「今、うちで色々試着してもらってるよ」
「あー、サイズ合うといいね」
今日は、りうちゃんの家でミーちゃんの服のサイズ合わせを行っているそうだ。
何しろ、ミーちゃんは出会った時にはなぜか浴衣一枚しか持っていなかった。さすがにそれだけで生活していくことは難しいので、りうちゃんの服のお下がりを、ミーちゃんに貸そうという訳だ。
幸いにも、りうちゃんとミーちゃんは体型が似ているため、多分、服のサイズも同じくらいだろうということで、りうちゃんが提案したのだった。
「多分大丈夫だと思うんだけど、とりあえず一週間分揃えてあげようと思って」
「洗濯も毎日はできないからね」
「うんうん。今日は私、バイトにいかないといけないから、お昼になったらミーちゃんの様子を見に行ってあげてね」
ミーちゃんは、もちろんスマホを持っていないので、連絡が取れない。俺の家とりうちゃんの家はすぐ近くなので、試着が終わるであろう正午くらいに、様子を伺いに行くことにした。
当面、ミーちゃんは俺の家で暮らすことになるので、その後、一週間分の服やらなにやらを俺の部屋に運び込むことになる。
「分かった。お昼に迎えに行くよ。ところで、ミーちゃんのバイト先は決まったの?」
「まだ確定ではないけど、今交渉していて、前向きに検討してくれるって」
先日、ミーちゃんがアルバイトをしたいと申し出て、心当たりがあるというりうちゃんがバイト先を工面してくれているところだ。
身分を証明できない謎の少女を雇ってくれる、健全なアルバイト先など思いつかないが、りうちゃんは自信満々だった。
「ちなみに、どこに相談したの?」
「それは決まってからのお楽しみ〜」
「ちぇ〜」
とても気になる。
「じゃ、遅刻しちゃうからバイトに行ってくるね。夕飯時にはキミの家にまた来るから」
「うん、頑張ってね」
そう言ってりうちゃんはアルバイトに向かった。
俺もそろそろちゃんと起きないと。
目を擦りながら、スマホで変わり映えのしないネットニュースを流し見る。特に興味はない。無意味な習慣だ。
適当に選曲をしてアニソンをかけ、少しずつテンションが上がって来たところで、家事に取り掛かり始めた。
掃除…洗濯…。
風呂や水回りの汚れも丁寧に落としていく。
元々家事なんてめんどくさくて、気になるまで放置しがちだったが、最近では入念に家事をするようになっていた。
いつからだっただろう、と記憶を巡らせてみると、やっぱりそれはりうちゃんと出逢ってからだった。
りうちゃんが遊びに来るようになってから、人生で初めて家事を積極的にこなすようになったのだ。そりゃ、好きな女の子が家に遊びにくるのに、汚い部屋に通す訳にはいかない。
それに、今度はミーちゃんという新たな女の子も、俺の家で過ごすことになるので、尚更だ。
ちなみに、男の一人遊び、つまりその、エロ同人誌の類は、処分するには惜しい代物なので、女子ふたりに見つからないよう、入念に入念を重ねて検討し、秘蔵の隠し場所に仕舞い込んだ。今のところ、バレている様子はない。
システム・オールグリーン。
そうこうしているうちに、時刻は正午を指していた。
一旦、ミーちゃんを迎えに行って、りうちゃんのお下がりの服を、家に運び込まなければ。
季節はもう本格的に夏を迎え、冷たい食べ物が恋しい。
今日の昼食は、ミーちゃんと一緒に冷やし中華でも食べようか。タレはごまだれにしよう。
※※※
合鍵を使って、りうちゃんの家に入る。
侵入ではない。あくまで合法的に、だ。いや、これは得てして合法的なのだろうか。
本来、合鍵は家族にしか渡してはいけない規則になっているらしい。しかし、りうちゃんのご両親は、それはそれは遠い南の島で暮らしている。
ご両親にももちろん一つ渡してあるが、もう一つの合鍵は、もしもの時のために俺が預かることになった。
今、この時は全くもって、“もしもの時”ではないが。
でも、りうちゃんのご両親や、なにより、りうちゃん本人からの信頼の証だと思うと、胸が弾んだ。この合鍵が、俺をどれだけ高揚させることか。
カチャリ…。
錠のロックが外れる音がして、ドアが開く。中に入る。
何度か部屋に入ったことはあったので、間取りは把握している。
システムキッチンがあり、周りのスペースも広い。高級感が漂っているという訳ではないが、とても綺麗に整頓された部屋だ。
一応、間取りは1Kということになっているらしいが、1DKかあるいは狭めの1LDKに見えなくもない程だ。ちょっと羨ましい。良い部屋だ。
さて、
「ミーちゃん、入るよ」
「あ、はーい!どうぞー!」
扉の向こう、りうちゃんの部屋から、ミーちゃんの元気な声が聞こえてくる。
ドアノブを下げてりうちゃんの部屋に入る。初めてこの部屋を訪れた時は、緊張で心臓が破裂しそうになったのを覚えている。
つい数ヶ月前だというのになんだか懐かしい思い出のように感じた。
「みーちゃん、服のサイズはど…」
「うん、どれもピッタリだよ!」
バタン。
扉を閉じたのは、俺の中に微かに残る良心が仕事をしたからだ。
しかし、その程よく肉づいた白い肌、純白のパンツ、脱ぎかけのセーラー服姿が、網膜に焼き付いてしまった。
ぷりっとしたお尻が、発育の質の良さを物語る。
その体はもちろん仔猫のそれではなく、ただの小さい女の子のそれでもなく。
少女から大人の女性へと成育していく過程にあった。
間違いなく、俺好みの…
(バカ!!りうちゃんの家で俺は何を考えて…!)
と、いうか。
「ミーちゃん、き、着替え中ならそう言ってくれなきゃダメだって」
ドア越しにミーちゃんへ訴える。
りうちゃんのアレコレだけでも十分に、俺のパトスを鎮めることに苦慮しているというのに、似たような体型の、しかもこれまた美少女の姿をしたミーちゃんがこれでは、俺の身が持たない。色々と。
「え?そうなの?」
「そ、そうだよ!ほら、男の人にそういう格好とか、見せちゃダメからね。りうちゃんから教わらなかったの?」
「りうちゃんからは、お兄さんにこういう格好を見せたら面白い反応が見られるからやってごらんって」
あやつめ…!
完全にハメられた。
くそっ!いつも俺はりうちゃんには惨敗しっぱなしだ。
「と、とにかく、着替え終わったから声かけて」
「はーい」
ほどなくして、ドアが開き、セーラー服姿のミーちゃんが出てきた。
「おおー!」
「どうかにゃ?」
「サイズ、ピッタリなんじゃない?」
「うん、着心地いいよー!」
「ミーちゃんがセーラー服かあ…可愛いなあ」
このまま頭を撫で回したい衝動に駆られるが、グッと抑える。この衝動は、男の性的な云々ではなく、親心のような感じだ。
飼い猫をもふもふとこねくり回したい、そんな感じ。
だが、あんな姿を見せつけられた後なので、今はそういった接触は控えよう。何がトリガーとなって俺の親心が男心に姿を変えるか、分かったものではない。
それに、ミーちゃんだって、年頃の女の子なのだ。三十路のおっさんに頭を撫で回されるのは嫌かもしれない。
「ねえ、お兄さん?」
「ん?」
「私、セーラー服、似合う?」
「とても似合っているよ」
「ほんと!やったあ!…学校かあ、行ってみたいなあ」
それもそうだろう。
この年頃の女の子なら、高校に通い、授業が退屈だー、なんて言いながら友達と放課後に部活動に勤しんだり、遊びに行ったり。この時期なら、夏休みの計画を立ててワクワクしているかもしれない。そういう普通の日常があるはずだ。
でも。
それが叶わない、セーラー服を着たミーちゃんを見て、少し、寂しい気持ちになった。
「ねえ、ミーちゃん」
「うん?」
「学校は…通わせてあげるのが難しいかもしれない。けど、その分、俺やりうちゃんが一緒に過ごしたり…そうだ!たまに3人で旅行に出掛けたりしてさ、楽しい思い出をいっぱい作っていこうね」
「お兄さん…」
「大丈夫。それにほら、そのうちアルバイトも始まるかもしれないし、きっとミーちゃんの毎日は充実するよ」
我ながら、慰めだなあと思う。それでも、ミーちゃんの心には響いたようだった。
「お兄さんって、優しいんだね」
「え?」
「やっぱり、りうちゃんの言うことに間違いはないんだね、うん」
「りうちゃん、何か言っていたの?」
「うん。お兄さんのこと。すごく優しいから安心していいよって」
そんなことを言ってくれていたのか。
「そ、そうかな…///」
「うん。あと、すごくエッチだよって」
あやつめ…!
一言余計なんだよ、一言!
「そ、それは否定しておきたいかな」
「お兄さんは、エッチじゃないの?」
「じゃない。…っていうか、直接そういうこと聞いちゃだめだから!」
「にゃあ」
ぐ…都合の良い時だけ猫に戻りおって…。
まったく、りうちゃんには後ほどお灸を据えるとして、ミーちゃんもしっかり教育しないといけない。
まだ結婚もしていないのに、既に一児の父になった気分だ。
「じゃあ、あまりここに長居するのもよろしくないから、俺の家に戻ろうか」
「うん!あ、お兄さん、これ持っていくの手伝って」
「ああ、当面の服だね。これだけあれば一週間は着まわせると思う」
「じゃあ、これお願い」
「…ダメ」
「え?」
「俺はこっち。そっちはミーちゃんが運びなさい」
左右のカゴのうち、洋服が入っている左のカゴを掴むと、俺はそそくさと自宅へ戻る。
不思議そうに、ミーちゃんは右のカゴを手に持って、俺の後を追いかけてくる。
ブラジャーとパンティがたくさん入った、カゴを揺らしながら。
Fin.
メイ
2021-07-08 09:06:17 +0000 UTCれぶん
2021-07-08 08:39:52 +0000 UTCれぶん
2021-07-08 08:39:21 +0000 UTCyoshinomura
2021-07-08 00:46:35 +0000 UTCメイ
2021-07-07 07:54:09 +0000 UTC