今日は予定のない休日ということで、俺はりうちゃんとふたりブックカフェに来ている。
ブックカフェは、本屋と喫茶店が融合したような施設で、好きなドリンクを頂きながら、ゆったりと読書を楽しめる。
俺はコーヒーカップに口をつけながら、漫画の単行本のページを繰る。正面に座るりうちゃんは、持参した本を読んでいる。
「何の本を持ってきたの?」
「え?あ、こ、これは...」
「うん?」
「...何でもいいじゃん」
ええー...。本のタイトルくらい教えてくれたっていいのに。
「嫌なら聞かないけど、気になるし...」
「ご、ごめん。そういうつもりじゃなくて、その...ちょっと、恥ずかしいっていうか」
「恥ずかしい?」
「う、うん。」
恥ずかしい本?なんだろう。りうちゃんがそんな本を読むだろうか。まあ年頃の女の子だし、多少そういうことに興味があるのは当然...はっ!?
思い当たる節がある。
というか、それしかないのではないか。
「その本ってもしかして、俺には絶対バレたくないっていう例の...本?」
「...っ!!」
やはり。
りうちゃんは、時折女子〇生とは思えないような、その、エッチないたずらを仕掛けてくることがある。どこでそんなことを知ったのかと問うた時、彼女は『本に書いてあったから』と言っていた。
いくら懇願してもその本だけは絶対に見せてくれなかった。
彼女の表情を見やる。
沸騰したかのように頬を紅潮させ、俺を睨んでいる。
この表情も可愛いのでこのまま楽しむのも一興なのだが、俺は、俺を翻弄し続けている『例の本』の中身に大変興味がある。またとないこのチャンスを逃すわけにはいかない。
しかし、ここで強引にお願いをしても無駄だということは分かっている。
良いだろう。オトナの頭脳戦というものを見せてあげようじゃないか。
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「ちょっとお手洗いに」
そう言って席を立った。便座に腰を据え、スマホを取り出す。
メッセージアプリを開き、一覧から『有栖川 瑞稀(ありすがわ みずき)』を選んでタップする。
有栖川瑞稀くん。中学3年生で、りうちゃんの弟くんだ。
彼とは以前、ひょんなことから出会い、意気投合して仲良くなったのだ。
有栖川家は竹富島という遠い遠い最果ての島にあるのでなかなか会えないが、こうしてメッセージのやりとりをすることは多い。
『瑞稀くん、ちょっと良いかな?』
『あ、お兄さんこんにちは』
即レス。仕事のできる男は即レスだよな、うん。
『ちょっと瑞稀くんに相談があるんだけどさ』
『どうしたんですか?ボクで良ければなんでも言ってくださいね』
『実は、りうちゃんが、俺にとって重要な何かを知っているらしいんだ。でも、なかなか話してくれなくてさ。もし本当に大事なことならちゃんと話してほしいと思っていて。何か良い方法は無いかな?』
ごめんよ、瑞稀くん。二枚舌はオトナの特権なんだ。
『そうですね...姉さんは結構ガードが硬いので、そういう時に正攻法では難しい気がします』
『だよねぇ...何か良い方法は無いかな?』
『ありますよ。頭脳戦でいきましょう』
『と、言いますと』
『姉さんの弱みにつけ込んで揺さぶってはいかがでしょう?』
なにこの中学生こわい。
『りうちゃんの弱み...何があるかな?』
『凸部、なんていかがでしょうか?』
『凸部?』
『はい。姉さんも成長期後期ですので、体の発育はある程度進んでいると思うんですよ。あちこち敏感になっているのかと。例えば、お兄さんの指で姉さんの乳首をツンツンしてみてはいかがでしょうか?結構な揺さぶりになると思うのですが』
『合法的なやつでお願いします』
え、なにこの中学生ほんとこわい。
『なるほど、わかりました。ちょっとデータベースを漁ってみます』
データベース。なにそれ。りうちゃんのデータベースとか興味しかないんだが。
瑞稀くんは、イケメンだし良い子だし賢いし、完璧男子そのものなんだが、こういうおかしなところがある。まあ、そこも彼の魅力なのだけれど。
『ありました。こちらです』
そう言って、瑞稀くんから一枚の写真が送られてきた。
中学生くらいのりうちゃんと小学生くらいの瑞稀くんが家のドアの前で遊んでいる写真だ。お母さんが撮影したものだろうか。
『これは?』
『この写真を姉に見せてください。それから、「ハロルド・ハラドラッダ」と言ってください』
『えと、これはどういう...』
『大丈夫です。これで姉さんは確実に動揺しますので。あとはそのまま適切に攻めればお兄さんの勝利です』
『お、おう。ありがとう、瑞稀くん』
よく分からないけど...この中学生ほんとやばい。
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「お待たせ」
「あ、お帰り~。キミの分のケーキまで食べちゃおうかと思っていたよ」
「ごめんごめん」
さあて、その強気はいつまで続くかな?
兵は拙速を尊ぶ。ここはスピード勝負だ。
「ところでりうちゃん、この写真なんだけど」
「うん?」
彼女は俺のスマホを手に取ると、画面を覗く。そこには先ほど瑞稀くんから送られてきた写真が映っている。ここで例の呪文?を口にすれば...
「ハロルド・ハラドラッダ」
「貴様それをどこで!」
「え?」
「はっ!?」
しまった!という表情のりうちゃん。みるみるうちに顔が赤らんでいく。
確実な動揺。
瑞稀くんの言ったとおり、分かりやすいまでに動揺している。完全な形勢有利。
りうちゃんも案外チョロいもんだ。「秘奥義・乳首ツンツン」を使うまでも無かったな、ハッ!
「その写真消して」
「うん」
「あ、あと、その...変な呪文みたいなの、誰にも言わないで」
「うん」
「わ、分かった!?」
「良いよ。じゃあさ」
「何?」
「その本、見せて」
「うっ…こ、これはダメ!絶対ダメ!!」
「ハロルドーーー」
「わああああああああああああああっ!!」
紅い顔がさらに紅潮していく。
「どうする?」
「わ、分かったよぉ。じゃ、じゃあ同時に...」
そう言ってりうちゃんは本を閉じ、こちらへ差し出してきた。
俺もスマホを差し出す。
両者、奪い合うように同時に手に取った。
りうちゃんは写真の削除ボタンへ指を伸ばし、俺はカバーの掛かった表紙を繰る。
そこには信じられないほど卑猥なタイトルが…
「...坊ちゃん?」
「ふぅ。う、うん」
「夏目漱石?」
「課題図書、提出するのずっと忘れていて。先生に呼び出されて、ちゃんと出すようにって言われて...私そういうの忘れたことなかったから、すごく恥ずかしくて...」
「えっと、あの...」
俺の坊ちゃんがいつもお世話になっているエッチな本はどこですか。
「も、もう良いでしょ。返してよ」
「...」
くそっ!!完全に見誤ったぁぁあああ!!
************
『お兄さん、うまくいきましたか?』
『あー、ごめん。せっかく良いアドバイスをもらったのに、俺の方で失敗しちゃって』
『そうでしたか...残念です』
『いや、でも効果てきめんだったよ!ところで、あの写真、それにあの呪文はなんだったの?』
『ああ、あれはですね』
『まだ姉さんが実家にいた頃、ドアを通せんぼして遊んでいたんですよ。ボクが通せんぼして。「開け、ごま!」くらい言ってくれるのかなーなんて軽い気持ちでいたら、姉さん、大袈裟な決めポーズをして「深淵なる精霊の民よ。かの封扉を開かんとするのであれば、その身に刻めーーー『邪龍天華 ハロルド・ハラドラッダ!!』」って。中二感やばwwwって。これぞ黒歴史って思いません?www』
Fin.
れぶん
2023-02-24 11:07:08 +0000 UTCれぶん
2023-02-24 11:06:18 +0000 UTCフェル
2023-02-19 14:59:11 +0000 UTCyoshinomura
2023-02-19 10:55:55 +0000 UTC