ネコ(ボツ)
Added 2020-08-24 12:19:30 +0000 UTC粟国一茶20歳。現在、人生最大の危機。 大学の友達と4人で飲んでいた時に最近刺激が足りないという話になり、その場の勢いで罰ゲームを決めて勝負をした。内容は誰が先に潰れて介抱されるか。あまりお酒が強くないにも関わらず、酔っていた俺は気が大きくなったせいで受けてしまい、見事に負けた。そして罰ゲームの内容は出会いの場で有名なバーで連絡先を交換する事。それだけ聞けば単純だが、問題は頭に“ゲイ”がつく事だ。 (ゲイの)出会いの場で有名な(ゲイ)バーで(ゲイの人と)連絡先を交換する事。だ。 勿論俺は女が好きだし友人も皆そうだ。でも負けた俺は実況中継しながらその罰をこなさねばならない。もし逃げでもしたら俺が潰れてゲロまみれになった写真をばら撒かれる。そんな事されたら女の子にモテなくなってしまう。 そして今、俺はそのゲイバーの入口の前に立っている。店前で自撮り写真を撮りちゃんと来た証拠をメッセージで送る。送ると早速既読がついて返事が帰ってくる。 “おっ!いよいよか(笑)” “どんな彼氏ゲットするのか期待してるぜ” “明日じっくり聞かせろよ” “分かったよ!とりま今から店入るわ” 俺は一呼吸置いて足を踏み入れた。 中は落ち着いていて、明かりが少なく暗い雰囲気。周りをキョロキョロと見てしまう。落ち着かない。カウンターへとりあえずさっさと座ろうとすると壁際で肩やお尻を触り合っている人達がいた。やっぱりガチなんだと思い知らされる。そしてこの暗い雰囲気も納得出来る。こういう事が許される場なんだと。 カウンターに座り、バーなども行ったことない俺は知ってる名前のお酒をとりあえず頼む。バーテンダーの人は優しそうな人で声が震え、緊張する俺に優しく微笑み返してくれた。思わずドキッとしてしまう。これが暗闇効果か。 カクテルはすぐに出てきた。それひと口飲み、考える。とりあえず話しかけないと始まらない。またひと口飲むと、隣にすっと男性が座ってきた。大人びたスラッとした容姿と綺麗に流れる漆黒の髪。まるでモデル見たいな人だ。見蕩れているとその男の人がニコッと笑いかけてくれる。 「ここ、いい?」 「あ、はい…」 「バカルディちょうだい。君は何を飲んでるの?」 「スクリゥードライバーです」 「君、今1人?」 「はい。」 「今日は何でここに来たの?暇してるなら俺の相手になって欲しいな」 「え、え、あの、その…」 「緊張してるだ。可愛いね。今いくつ?」 「えっと、20歳です」 俺が年齢を答えると男の人はグラスを握る俺の手にそっと手を添える。 「え、あの…手…」 「俺、君のこと気に入っちゃったな。名前教えて?」 「栗国一茶です…」 「一茶くんか、俺は立河毅。よろしくね」 「えっと、よろしくお願いします」 「面白いな。凄い緊張してるけど初めて?」 今俺の中で警笛が鳴っている。このまま行くとお持ち帰りコースだ。優しそうでイケメンな人だけど、やっぱ男。無理だ。質問にどう答えようか。上手いこと持っていけば連絡先は交換出来ると思う。でもそこまで行くと多分ヤる流れにはなる。 それともこの優しそうな人を信用して正直に話すか。 「ん?どうしたの?」 黙るから見られてる。あーもう無理だ。 「すいません…。実は…」 正直に話す事にした。罰ゲームの内容のこと。自分はノーマルでゲイじゃないこと。 「そっかぁ…それは残念だな…やっと可愛い子見つけたと思ったのになぁ。しかもノンケって事はタチだよね?」 「え?のんけ?たち?」 「あぁ、普通に女の人が好きで挿れる方だよね?ってこと」 そう言って立河さんは輪っかを作った指に人差し指を入れるあのジェスチャーをする。それで理解出来たは俺は焦って何回も頷く。 「俺もタチなんだぁ。どっちにしろ出来なかったね。でも冷やかしかぁ、それで俺騙されたのかぁ」 「す、すいません…」 その言葉に俺は罪悪感を流したくてお酒を飲む。 「許すのに条件がある。しかも君の罰ゲーム付き合ってあげるよ」 俯いてた俺の顔が上がり出会って初めて立河さんの顔をちゃんと見る。見れば見るほど女性に騒がれるような顔をしている。 「俺、実は歯科医なんだ。クリニック経営してて、そこにお客さんとして来てくれないかな?」 「へっ?」 その条件に思わず変な声が出てしまう。 立河さんは微笑みながら言葉を続ける。 「来てくれるって約束するなら一緒に写真撮ってあげるし、連絡先も交換していいよ。顔は隠させてもらうけどね」 「い、いいんですかっ!?」 「いいよいいよ。じゃあ来てくれるってことで」 「はい!行きます!いえ、行かせてください!ありがとうございます!」 俺はその好条件に快諾して、立河さんとカウンターでツーショットを撮り、連絡先も交換した。その後は歯科医の事だったりとか、最近ペットを飼いたいとか、俺の大学の話など世間話をして楽しくお酒を飲んだ。クリニックには来週行くと約束をして今日はお開きとなった。無事、何も無く罰ゲームが済んで家に着くと立河さんからメッセージが届く。 “今日は楽しかったよ。来週来てくれるの楽しみにしてるよ” “こちらこそ楽しかったです!奢ってもらってありがとうございます!俺も来週楽しみです!よろしくお願いします!” そのやり取りにホッコリしてると友達からメッセージが届く。 “おい!結局どうなったんだよ!?” “まさかバックれたとか?” うっかり立河さんと話すのが楽しく、実況中継をするのを忘れてしまった。 “悪い悪い(笑)でもちゃんとやる事はやったからよ!明日詳しく話してやるよ!楽しみにしとけよ!” “おっ!マジか!” “明日楽しみにしてるよ!” “ちゃんと証拠見せろよー” “分かってるって!今日は疲れたから寝るわ。おやすみー” “おやすみー” 翌日、大学に行くと早速友達からあれこれと聞かれる。俺はツーショット写真に連絡先、名刺までもらった事を話すと、逆に尊敬された。褒められた後は、“お前もゲイの仲間入り”“男とエッチしたのか?”など冗談混じりの会話をして授業へと向かった。 そして今日は立河さんのクリニックへと行く日。家から電車で10分ほど乗車して、駅からスマホのマップを見ながら5分程。マップの到着位置には、恐らく家とクリニックが一緒になった医院併用住宅があった。確か立河さん27歳だったはず。それなのに医院長でこんなでっかい家持ってるなんて何者何だろう。 ------------------- 「じゃあ、麻酔するね」 (何だろ。すごい、フワフワする。麻酔のせい?でも歯だよな?体もなんかポカポカする。気持ちいい。歯医者ってこんな気持ちよくなれたっけ?あ、キュイーンって音が聞こえる。普段あんなに耳障りなのに、何だかすごい聞き心地がいいなぁ。ずっと聞いてられる。脳の奥に突き刺さるような高音なのに、何でこんなに安心するんだろう。毅さんの声が聞こえる。とても良い声だなぁ。何て言ってんだろ…でも聞いてるだけで幸せだ。幸福に包まれるってこんな感じなんだろうな…気持ちいいなぁ…あ、なんか、お尻になんか…違和感…?でも段々と…それも気持ち、よく、ん…なってきた…あ、んぁ…、あはっ、なんかこれ、クセになりそう…中から弄られるの、気持ちイイ…幸せだァ…) 「…くん、…っさくん、一茶くん」 「あ、は、い…、俺…寝てました…?」 「うん。疲れてたのかな?虫歯治療で寝る人は俺も初めてだよ」