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シカク
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Cosmolapt -1-

「はい、分かりました。それでは明日、よろしくお願いします」 新田蒼汰は笑顔で職員に挨拶し、用意されたタクシーに乗り込んだ。 30年前、この国に隕石が落下した。落下場所は幸いにも人里離れた山奥で、死亡者はいなかった。だが、周辺の村や町では、落下の衝撃や風圧により多くの負傷者が出た。大きなクレーターと被害を残した隕石落下から数年後。山を中心とした、数十km離れた都市で生まれた子どもに超能力があると報告された。ある子どもは念力を使ったり、またある子どもは炎を出したりと、様々な超能力を使う子ども達が現れた。そして、その能力はいずれも5歳前後から使えるようになることが分かった。政府はすぐに子ども達を保護し、超能力を使う子ども達だけの学校を設立した。子ども達の超能力について研究をしながらも、その能力を悪用しないように、見張りの意味も込めて正しく教育をした。研究や教育が進む中で、子ども達に発現した超能力の源が、どうやら落下した隕石による宇宙の未知の力によるものだと判明する。そして、その力はコスモパワーと名付けられた。 だが、コスモパワーがどのようにして人体に影響を与え、能力をもたらしたのか、そしてどのようにしてその力を持った子どもが生まれてくるのか、そのメカニズムはいまだ解明されていない。しかもコスパワーが発現するのは男性しか現在までに確認されていない。今でも、年に1〜3人のペースでコスモパワーを持つ子どもが発見されている。新たな発見がないまま、彼らは成長し、やがて大人になっていった。 そこで政府は、彼らの為の専門機関を用意した。それがメテオ機構。この機関は彼らの能力を存分に活かす事を目的とした組織だ。彼らは成長すると機関へと入り、犯罪者を取り締まるヒーローとして活躍した。実際に機関が出来てからここ数年の検挙率は上がり、逆に犯罪率は減っている。これによって、当初はコスモパワーを持つ存在に対して懐疑的あった人達にも認められるようになってきた。 一方で、能力の研究が進む中で、ある共通点も浮かび上がってきた。そこで唯一分かったのが、思春期を迎える彼らの性欲が、普通の人より強い事だ。その為、女性を保護する意味でも彼ら同士で処理させるように性指向を男性に向ける教育も秘密裏に行われた。 平和をもたらすヒーローは国民からの支持もあって、メテオ機構の設立は成功と言われた。 そのメテオ機構のヒーローの1人である新田蒼汰は、ヒーローの卵である後輩の研修についての打ち合わせをしていた。蒼汰はヒーローとして3年目。そのぐらいになると後輩の研修を担当するのがここ通年の恒例となっていた。翌日から研修が始まるのもあって、詰め作業の打ち合わせは、時間を押して遅くなってしまった。その為、職員が気を使って迎えのタクシーを呼んでくれた。普段なら専用の送迎車と運転手がいるのだが、時間も遅く、今日はもう退勤をしたと職員から告げられた。蒼汰が後部座席に乗り、タクシーの運転手に行き先を告げて出発すると、それを見送る職員はニヤッと笑みを零すのだった。 蒼汰の自宅までは車で約15分ほどの距離。それまで蒼汰はカリキュラム資料を読み返していた。同じコスモパワーを持つ後輩の新たな門出。その境遇が分かるだけに不安なく導いて上げたいと、シミュレーションをしていた。だが突然、座席から機械音が聞こえる。すると座席からアームが伸び、手足を掴まれて、そのまま首、胸部、胴部、両手、及び両足首が拘束具によって固定される。 「...っ!」 蒼汰は突然の事に驚くが、ヒーローとして現場を経験してきた対応力で拘束具から抜け出そうとコスモパワーを発動させようとする。 「なっ...!?なんでっ...!?」 しかし、そのパワーが発動しない。拘束具にはコスモパワーを封じる鉱石が使われており、それが原因で蒼汰はコスモパワーが出せなかった。一気に焦りが蒼汰を支配する。いくら鍛えていても、コスモパワーが使えなければ、頑丈な拘束具から抜け出す事は不可能だ。運転手はバックミラー越しのその様子に笑みを浮かべて、ハンドルにあるスイッチを押した。 タクシーの運転手、そして蒼汰が打ち合わせをした職員は、近年勢力を伸ばしている悪の組織デストの工作員だった。デストはルインをボスとした世界征服と破滅を企む謎が多い組織だ。アジトや構成員の数も不明で、ボスの名前が判明したのもここ最近のことだ。 そのデストの工作員である運転手がスイッチを押すと、タクシーの後部座席のモニターに幾何学模様が現れる。黒と青のグラデーションで描かれたスパイラルが、じわじわと奥へ奥へと回転していく。そしてスピーカーからは超音波が発せられる。蒼汰は、自分を洗脳しようとしている現状をすぐに把握して、目をつぶり、耐えるよう我を強く保った。一応洗脳に対する耐性の訓練は受けているので、蒼汰は耐えることだけを考えた。だが、拘束具からはわずかな熱と振動。そして、微弱な電流が流れている。痛みはなく、心地良さ、そして脱力感が身体を内側から支配していく。 「はぁ...あっ...あぁ...」 数分すると蒼汰は強制的に全身リラックス状態にさせられて、体の力は抜けて、思考も空っぽになっていった。もう抵抗する力はなく、あとはされるがままになっていくだけだ。 ギュッとモニターを見ないようにしていた目も開いていく。その瞳は虚ろだが、モニターの情報を甘受していった。中心を見つめるほどに、視界がぼやけて、意識の輪郭が溶けていく。幾何学模様が脳の中に直接入り込むような錯覚に陥っていく。さらに超音波は直接脳へと響いて、語りかけるように脳内に言葉が繰り返し再生され浸透していく。そして浸透した言葉は、自分に改めて定着させるようにブツブツと呟き始める。 「俺は...組織の...デストの一員...」 「俺は...偉大なる指導者...ルイン様の下僕...」 「俺の力は...組織の...ルイン様のモノ...」 「俺は...デストの一員...」 「ヒーローは仮の姿...俺はデストの構成員...」 「俺の所属は...デスト...」 「メテオ機構は...偽り...」 「全てはデスト...ルイン様のため...」 「ヒーローは偽り...デストが本当の俺...」 「ルイン様の命令は絶対...」 「ルイン様の命令は絶対...」 「ルイン様の命令は絶対...」 「俺は...ルイン様の忠実な下僕です...」 そのまま、蒼汰の家に到着するまで蒼汰は自分自身にルインへの忠誠心を染み込ませていった。運転手はその様子を上機嫌に笑みを浮かべながら、バックミラー越しに眺めてドライブを続けた。 そしてタクシーは蒼汰の自宅マンションへと到着した。車が止まると、運転手はスイッチを押す。すると、映像と超音波は止まり、拘束具も収納された。それと同時にスイッチが切れたように蒼汰はガクンと俯いて、体を座席へと預ける。 「到着しましたよ」 運転手が笑みを浮かべながら言うと、反応して蒼汰はガバッと顔を上げる。そしてその表情は運転手と同じくニヤッと笑みを浮かべていた。 「ありがとうございます」 「ではお会計ですね」 「領収書も下さい」 「はい、ではお釣りと、あとコレも」 そう言って蒼汰は運転手から領収書、お釣りと一緒にスマートデバイスが手渡された。 「コレに連絡が来ますので」 「分かりました」 「あと次のお休みはいつですか?」 「明後日ですね」 「分かりました。伝えておきます。必ず空けといて下さいね」 「分かりました。では、ありがとうございました」 「こちらこそ、ご利用ありがとうございました」 お互い何も無かった様に振る舞う。タクシーはそのまま走り去り、蒼汰もマンションへと入って行った。 翌日、蒼汰は何事もなかったかのように新米ヒーロー相原陽斗の研修を始める。 「今日1日は座学と訓練がほとんどで、基地から出ることはないんだ。退屈だと思うけど我慢してくれ。休み明けの明後日からは一緒にパトロールとか回っての現場研修になるから」 「はいっ!」 陽斗は大きく響く声で元気に返事をする。陽斗はいつも笑顔のムードメーカー的な青年だ。エネルギー全開で真っ直ぐな性格は、仲間内でもよく頼りにされている。研修も特に問題なく進み、何事にも真剣に取り組む姿に、蒼汰はまさにヒーローとしてピッタリの性格だなと感じていた。コスモパワーを持つ子たちは、その力から敬遠されたり化け物扱いされたりと、人間不信に陥りがちだ。最近はヒーローたちのお陰で、徐々に理解もされているが、まだまだ改善には程遠い。そんな中でもこうやって元気に振る舞えるのは、後輩でも見習うべき点だなと蒼汰は素直に思った。だが、デストの構成員として洗脳された今、陽斗のコスモパワーの能力や戦闘スタイルなどを分析し、敵としてどのうように攻略するのか、イメージトレーニングを同時に行っていた。 研修が終わり、蒼汰は少し陽斗と話した後、すぐに帰宅した。そしてスマートデバイスを睨み付ける。 研修中にスマートデバイスに一通の指令が届いたのだ。蒼汰はトイレに行く振りをしてすぐに確認した。そこには明日、組織のアジトに来るようにと書かれていて、いっしょに地図のデータも添付されていた。これを機関に報告すれば、組織はすぐに検挙される。だが、蒼汰の頭の中にはその発想は一切思い浮かばなかった。逆に組織にとってお土産になる情報はないかと、頭の中で整理していた。あまり長いも出来ず、さっと目を通して、その時は研修へと戻った。帰宅した今、じっくりと指令に見落としがないかを確認する。そして明日が待ち遠しいのか、蒼汰は嬉しそうに呟く。 「こんなにも早く機会がくるなんて...デストのアジトに行ける...ルイン様に会えるかな...楽しみだ...」


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