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シカク
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Cosmolapt -2-

翌日、蒼汰はいつも休日で過ごすような私服に着替えて出掛ける。目的はもちろんデストのアジトに行くことだ。地図に記載された場所に到着すると、そこは二階建のシンプルな建物のスポーツジム。蒼汰は正面とは反対に回り、裏口ドアの左側にあるセキュリティロックにデバイスをかざすと、ドアは開かずに、ロック左側にある壁から階段が現れた。階段を降り、現れた鉄の扉をくぐると、その空間は広がっていた。地上から完全に隔絶されたその空間は、立派なアジトだった。目の前には高い天井から黒い床を光照らす長大な廊下。その先に小さくエレベーターが見える。その間には、等間隔で無機質な金属製の扉が並んでいる。扉には番号しか書いてなく、許可なき人間が侵入すれば目的地の場所に辿り着くのは難しく、またドローンも飛び交っているので隠れるのも困難だろう。 規模で言えばメテオ機構には劣るかもしれないが、秘密裏にここまでのアジトを持っている事に蒼汰は感嘆とした。すると扉が開いてそこから1人の男が蒼汰の元へと歩み寄る。 「ようこそ、メテオ機構ヒーローの新田蒼汰くん」 白衣を着たその男は緩く笑いながら蒼汰へと話しかける。蒼汰は男の言葉に戸惑い、顔をしかめる。 「俺はデストのドクター、天城匠。よろしく」 匠は変わらず口角を上げながら手を差し出す。正体が分かり、蒼汰も安心したのか手を差し出して握手を交わした。 「ドクターでしたか、こちらこそよろしくお願いします」 握手を終えると、匠はくるりと体を自分が来た方へと向けて歩き出す。 「じゃあ早速やろうか。こっちに付いてきて」 「は、はい」 蒼汰はその飄々とした態度に困惑しながらも、後に続いた。匠が向かったのは先程出てきた扉の部屋。入るとそこにはアクリル越しに何個も無機質な椅子が並び、体を固定されている男たちの光景が広がっていた。男たちの頭にはヘッドギアが装着されて、気持ちよさそうに組織への忠誠の宣誓している。そう、ここは蒼汰が受けたような洗脳施術を行う部屋だ。組織によって、連れてこられた男たちはここで組織の忠実な構成員へと洗脳されていた。だが、蒼汰はもう施術済みだ。蒼汰はその光景に興奮しながらも、改めて受けるのかと思考する。だが匠は更に先へと歩いていた。 「蒼汰くんはこっち」 そう言って匠は更に奥にある扉を開けた。その部屋はさっきの部屋とは違い、小さく、人一人分が入れるカプセル型ベッドの装置があるだけだった。そのカプセルの中にはリクライニングシートのような寝台があり、身体を自動的に固定する拘束アームと、何本ものコードが繋がれたヘッドギアがあった。それを見るとこの装置が何をする為の物なのかはすぐに分かる。 「これはね、蒼汰くんやさっきの部屋にあったやつより強力な装置。普通の人ならさっきので十分なんだけど、やっぱ君はヒーローだからね。念の為ってやつだよ。何のキッカケで折角の忠誠心が無くなるかもしれない。今はこうやって組織の一員としていれるけど、まだ謎が多いコスモパワーでどうなるか分からないだろ?だからこれで、蒼汰くんの忠誠を永遠のモノにするんだ」 (確かに...。今の俺はデストの構成員だ。それは間違いない。だけどドクターの言う通り、またメテオ機構のヒーローに逆戻りしてしまうかもしれない。それは嫌だ。折角、ルイン様の下僕になれたんだ。でも、あれ、) 「何で、俺は、ヒーローに戻るのが嫌なんだ...?」 匠の説明に納得していた蒼汰だが、その思考に僅かな疑問が生じる。それが言葉として呟かれた瞬間を匠は見逃さなかった。匠は蒼汰の顔を覗き込んで、緩い笑顔のまま語りかける。 「それこそ君がデストの一員である証拠だよ。確かに君はヒーローだった。でも今はルイン様の忠誠心がその体や心に根を張っているだろ?だからヒーローに戻るのが嫌なんだ。ヒーローはルイン様の邪魔をする存在。ヒーローに戻ってしまったらルイン様の敵になってしまう。折角、組織の一員になれたのに。だから、そう、今の君は、もう違うだろ?」 蒼汰と目を合わせ、先程の飄々とした雰囲気とはまた別の不気味なオーラを漂わせながら、匠は蒼汰の僅かな亀裂を修正した。 「あぁ、その通りだ。何で俺はこんなことを...。ありがとうございます、ドクター。おかげでスッキリしました」 匠の言葉に蒼汰は晴れやかな表情を見せる。その様子を見た匠は、また飄々と緩い笑顔を浮かべた。 「いいよいいよ。蒼汰くんが頭の回転が早い人で良かったよ。そうだ、蒼汰くんは組織でも特別な位置付けになると思うし、タメ口でもいいよ。これから関わることも多いと思うし、改めてよろしくね」 「分かった。それなら遠慮なく。こちらこそ、改めてよろしく頼む」 「じゃあ早速施術に移ろうか」 「そうだな。不安要素は早めに取り除いた方がいい。早く済ませてしまおう」 そのまま蒼汰はドクターから指示されて服を脱ぎ、手渡されたスパッツを着用する。 「やっぱヒーローなだけあって、いい体してるねぇ。今度詳しく調べたいよ」 「ありがとう。こんな体で良ければいくらでも調べてくれ」 「フフッ、それは楽しみだ。あと、このデバイス少し借りるね。君を施術してる間に、色々調べて作らなきゃいけない物があるからさ」 匠が取り出したのは、メテオ機構が開発したヒーロー専用のデバイスだ。それは連絡通信などはもちろん、蒼汰がヒーローとして活動する際、ヒーロースーツへとフォームチェンジするのに必要なものだ。メテオ機構の技術が詰まっており、許可された者しか操作することは許されていない為、迂闊に触れてはいけない代物だ。だが、今の蒼汰はデストの構成員。同じデストのドクターである匠に簡単に触らせることを許してしまう。そして蒼汰自身も再び、自分に対する洗脳処置を嬉々として受け入れてしまう。自らカプセルへと入り、重厚な漆黒のヘッドギアを自らの手で装着する。 「こっちはOKだ」 「じゃあ始めるね。多分10分ぐらいで終わると思うから。それじゃあ、いい夢を...」 カプセルが閉じて、外殻が妖しく赤く光る。そして蒼汰の頭部を覆うヘッドギアが起動音と共に、表面を赤い光が脈打つように走る。バイザー越しにその瞳は外からは見えないが、口元を見るに苦悶の表情を浮かべている様子はなく、寧ろ口角は上がっている。ヘッドギアの中では視覚と聴覚、そして脳に負荷をかけてより強力な洗脳処置を施している。これがただの一般人なら脳に負荷がかかり過ぎ、オーバーヒートして精神に異常をきたすかもしれない。だけども、ヒーローであり、洗脳への耐性を持つ蒼汰はこの処置を気持ち良さそうに受けている。まるでマッサージを受けるように。段々と初期処理が進み、無機質な機械音だけが静かな部屋に響くようになると、零すように蒼汰は呟き始める。 「はい...俺はルイン様の手足...はい...俺はルイン様の忠実な下僕です...はい...はい...その通りです...俺はルイン様の命令に従います...俺は組織の兵士です...はい...はい...俺の力も体も心も全てルイン様のモノです...忠誠を...ルイン様に永遠の忠誠を...はい...嬉しいです...♡ありがとうございます...♡あっ、あっ、んあ"っ...♡ハァハァ...ハァ...♡ありがとうございます...♡ルイン様に支配されて光栄です...忠誠を...♡」 蒼汰は誰かと会話するように呟きながら腰を浮かして、スパッツの股間は屹立して濡れている。それほど、組織、ルインに洗脳され、従う事に快感を覚えているのだろう。ビクビクと悦びに全身を震えさせ機械音が止むと、約10分の洗脳処置は無事に終了した。 ガチャっとカプセルが開いて、ヘッドギアのロックが外れると、蒼汰は自らヘッドギアを外して起き上がり、頭を左右に振る。 「ふぅ……」 「どうだった?」 匠がニタニタと笑みを浮かべて蒼汰を見つめる。 「あぁ、完全にルイン様のモノになることが出来たよ。スッキリとした気分で体の調子も問題無さそうだ」 蒼汰も目を開いて匠を見つめ返した。そして笑いながら語るその表情は僅かながらに怪しく、邪なオーラを感じさせた。 「それならよかった。じゃあ主からお呼びだよ。完成した姿を見せに行って」 「分かった。すぐに行く」 匠の言葉に蒼汰は歓喜し、すぐにルインのいる部屋へと向かった。 エレベーターに乗り込み、滑るように下降を始めると、壁のLED表示が静かに切り替わる。蒼汰は今、匠から受け取った組織の制服である黒のタイトスーツに身を包んでいる。軽量かつ伸縮性に優れた特殊繊維で作られたスーツは、あらゆる動きにぴたりと追従し、足元のコンバットブーツもしっかりとその機動力をサポートする設計だ。まるで第二の皮膚のように身体に密着するそのスーツは、筋肉のラインも強調させ、胸元には組織のエンブレムが輝いている。蒼汰は、制服を身に纏うことで、改めてデストの一員になったのだと誇らしく思い、帰属意識が芽生えていた。 エレベーターが到着し、扉が開くと、そこには壁一面に組み込まれたホログラムモニターが点在する空間があった。中央の円形ホールの椅子に座るのは、このアジトの支配者。その背後には組織のエンブレムが禍々しく浮かび上がっている。蒼汰は緊張した面持ちで、そこに座る男に近付いて左手を地面に伸ばし、拳を胸に平行に当てる、デストの敬礼をした。 「新田蒼汰、ルイン様のお呼びに応じ、参上いたしました!」 声に反応して椅子は回転し、ルインは蒼汰と向かい合う。デストの主、ルインは意外と若く、蒼汰より少し年上だろう青年だった。だが、年相応には見えない威圧とすべてを見透かすかのような瞳が冷酷に輝き、そのカリスマ性は悪の組織の支配者として相応しく兼ね備えていた。そのオーラに蒼汰も思わずゴクッと唾を飲み込む。 「待っていた。メテオ機構のヒーローがこうやって我が組織の一員に下ってくれた事、嬉しく思う」 「はっ!光栄であります」 「これからだが、引き続きメテオ機構のヒーローとしては活動してもらう。だが、そこ得た情報などは全てこちらに流してもらう。出来るか?」 「もちろんです!」 「機構の仲間、そして国民たちを裏切ることになるが、いいのか?」 「俺の体も心も全てルイン様のものです!俺はルイン様の命令に忠実に従います!それに、メテオ機構は組織にとっての敵。それは俺の敵でもあります!」 「ちゃんと、組織の一員として教育出来ているようだな」 「はっ!矯正して頂きありがとうございます!」 蒼汰がメテオ機構の工作員として命令を受けていた時、部屋の扉が開き匠が入室する。 「ルイン様、出来たよ」 「いいタイミングだ」 「蒼汰くん、コレを」 「これは…?」 「これは組織の構成員が全員付けている首輪デバイス。俺も付けてるコレね。それには今君が着てる制服や戦闘スーツなんかが収納されてる。便利だろ?」 「だがこれにはGPS機能も搭載されていて、組織に24時間管理される事になる。そして1度装着すれば自分で外すことは不可能だ。それでも付けるか?」 ルインは分かっていながらも、悪戯な笑みを浮かべながら蒼汰へと問う。それに蒼汰も笑みを浮かべて返す。 「もちろんです。俺は組織の人間ですから」 「それは付けていてもバレないように光学迷彩とセンサーや赤外線を遮断する機能もあるから人にとやかく言われる事もないよ」 「これはお前用に作らした特別製だ。戦闘部隊には量産型スーツを支給しているが、これには特別な戦闘スーツを搭載してある。これからお前はRノイドとして組織では位置付ける」 「Rノイド…?」 「あぁ、俺直属の部隊。コスモパワーを持った者たちで編成し、ヒーローに対抗する部隊だ。まあ部隊と言ってもまだお前しかいないが」 「直属部隊っ…ありがとうございます…!」 蒼汰はルインの直属と聞いて、身を震わせながら敬礼をする。 「ではまずは部隊と言えるようにコスモパワーを使える人材を増やさないとな」 ルインのその言葉の意味に察して、蒼汰はニヤリと口角を上げる。 「そうですね。1人、新人ですがすぐにこちら側に引き込めるヤツならいます」 「新人でも協力者として使えるなら問題は無い。潜ましている工作員たちもお前の自由に動かせるようにはしといてやる。あとドクターも協力してやれ」 「もちろん」 「ありがとうございます」 「なら、早速作戦に移れ」 「はっ!失礼致します」 蒼汰は精悍な表情で敬礼すると、そのままその場を後にした。 その場には部屋の主であるルインと匠が残っていた。そして匠は緩い笑みを浮かべながらルインへと語りかける。 「いよいよ、本格的に動いてきたね」 「そうだな、ここまで長かった。だが、まだまだ準備段階だ」 「蒼汰くんの事、色々調べていいんだよね?」 「あぁ、本人に害がなければ。それはそうと、お前もRノイド部隊に加わるか?」 「命令ならば。俺もルイン様への忠誠は、ちゃんとココに植え付けられてるからね」 そう言って匠は頭と胸を指す。 「でも、分かってるだろ?俺のコスモパワーは戦闘向きじゃないって。ルイン様も。科学班のヤツらも」 「そうだな。聞いてみただけだ」 そう、実はこの2人も、そして科学班の数人も、コスモパワーを秘めた人間がデストには所属していた。だが彼らの能力は、活躍するヒーローたちのように、目に見えて分かるものではなかった。ルインは超人的な並列思考や思考加速。匠は瞬間記憶能力や自分の記憶を他人に見せたり、逆に他人の記憶を覗いたりと記憶に関する能力が。他の部下たちも、解析や透視、千里眼など、フィジカル以外の一面を持った能力だ。2人も最初はこれがコスモパワーによるものだとは気付かなかった。 幼少期、特別頭が良かったり、記憶力が良かったりはしたが、それがコスモパワーによるものだとは誰も思わなかった。だがその秀逸さに周りは気味悪がりだした。両親も、もっと普通に遊んで欲しいと。そうして疎外されていった。だが、本人たちにとっては能力を使っている自覚など、もちろんない。それが普通で生きていただけなのに。やがて、彼らはひとりぼっちなった。天才過ぎる才能に期待はされるが、頭の回転が早すぎるあまり、違う意味で化け物扱いされた。これが火を出せたり、雷が出せたりとすれば、すぐに周りから報告がいき、国に保護され、彼らもヒーローとして、国から守られ教育を受けることが出来たのかもしれない。 そんな中、ルインと匠は大学の理工学部の研究室で出会った。頭の回転が早く優秀な2人はすぐに打ち解け、2人にとって初めて対等に話せる相手だった。お互いの苦悩や能力を話し合う中でひとつの仮説に辿り着いた。それは、自分たちのこの異常な思考能力と記憶力はコスモパワーによるものではないのか?今まで2人はこの才能を、さらに広げようとはしなかったが、超能力的なものなら色んな事が出来るんじゃないかと、試してみた。そしてルインは当たり前のように行っていた並列思考に際限がないこと、そして思考加速が出来ることが分かった。そして匠も記憶を読み取ったり、記憶を移したりすることが出来た。それを使い、匠が論文を読み、その記憶をルインに移してコスモパワーの研究や情報を素早く解析していった。そして2人はコスモパワーが原因と言われる隕石が落ちた場所へも訪れた。もちろん立ち入り禁止に警備も厳重だったが、その時既に、光学迷彩の開発には成功していて、それを使い、隕石の破片を回収した。調査を進める中、ルインはある野望を持つようになる。それはコスモパワーを持つ、進化した人間が世界を導くべきだと。人は自分と違うものや、能力が高い人や人種が違う存在を差別する。実際にルインもそれを体験してきた。だけど、その思いにみんなが賛同するはずも無いと、もちろん理解していた。そしてメテオ機構というコスモパワーを持つ者たちが活躍出来る場もあることも。だけど、それでいいのか?力を持つ者が先頭に立って動かすべきではないのか?そしてルインはデストを立ち上げた。設立と同時に、ルインへの忠誠を植え付けるヘッドギアは完成していた。 このヘッドギアには忠誠心を抱かせる以外にも性指向を男性に、いわゆるゲイへと歪める機能もついている。仲間との行為に関しては嫌悪感を抱かず、快感を得られるように調整されている。これはコスパワーを持ち、精力の強い人間が、構成員になった後も、相手に困らぬようにこの機能が搭載された。結果的に構成員同士の結束感も強まり、さらに洗脳を強める一因にもなっている。 そしてそのヘッドギアの第一号の被検体として、匠自らが名乗り出た。楽観的で自由な印象を持たれる匠だが、意外にもルインの考えには同意していて、組織へも参加する意向は示していた。そして、ヘッドギアは組織の構成員には必ず着用させて、洗脳するというのも匠の発案だった。 「人の思いなんていつ何のキッカケで変わるか分からない。だから、それを永遠にするために。誰も決してキミを裏切らないように、ね」 そして自らもヘッドギアによって、永遠の忠誠をルインへと誓った。 それから2人は徐々に構成員として役に立ちそうな人材を、ヘッドギアによって従順な下僕へと変えていった。その過程で、2人のようなコスモパワー持つ人材も得ることができ、組織は大きくなっていった。


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