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ねぼしかぼちゃ
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【毒ガスに巻かれた魔法少女】表情差分・小説続き

「ここだね、葵ちゃん」 「ええ」 「じゃあ、始めよっか」  二人は首元のブローチに手を触れると、まばゆい光を放ち始めた。  胸元の黄色いリボンとセーラーカラーが特徴の制服は形を変え、二人それぞれの衣装に変化していった。  心愛はピンクと白を基調としたキュートな衣装を纏っていた。柔らかいピンクの髪はツインテールに纏められ、サイドにはハート型の帽子を載せていた。  腰と首元にはピンクのリボンが現れ、その真ん中にはピンクの光を放つブローチが埋め込まれていた。  フリルをふんだんにあしらったスカートからは白いタイツに包まれた脚が覗き、白い手袋に包まれた右手にはハート型のステッキが握られていた。  普段の快活なイメージを受け継ぐ愛らしい印象を与えた。  葵は心愛とは対照的に水色をベースとした衣装を身に着けていた。さらさらとしていた黒髪は水色に変わり、ポニーテールに纏められ、すっきりと首元が開いた。  白いロンググローブに包まれた指先はピンと伸び、もう片方の手には鎌のような長い杖が握られていた。  短いスカートから黒タイツに包まれた長い美脚が伸びていた。  普段はひざ丈より長いスカートで重たい印象を与えていた彼女であったが、打って変わり、凛とした大人の印象を抱かせた。   「えいっ!」  ステッキの先からまばゆい光が放たれ、目の前の壁を崩した。  壁のあったところには赤黒い不気味なオーラを放つ裂け目が現れた。  この奥が魔物の住処である。 「葵ちゃん、行くよっ!」  二人は裂け目に向かって飛び込んでいった。  二時間ぐらいたっただろうか、二人は永遠と続く通路を歩き続けていた。  魔物の反応はあるのに、一度も姿を現さない。  しかし、いつ現れるか分からない魔物に警戒を緩めるわけにはいかなかった。  疲れの色が見え始めた二人、そろそろ引き返そうかと口にしようとしたとき、 「あれっ、行き止まりだ」  心愛が目の前の壁を指しながらつぶやいた。 「こっちの道は駄目みたいね、元の道に戻りましょう」  葵が踵を返そうとすると、 (ズドン!)  後ろで何かが崩れるような激しい音が聞こえた。 「きゃっ!」  思わず心愛が悲鳴を上げた。  葵は後ろを振り向くと、さっきまではなかった壁が現れていた。  壁は通路を塞ぎ、指一本入るような隙間すらなかった。  まるで、はじめから壁があったかのように自然な佇まいに戸惑いすら覚えた。  しかし、反対側は行き止まりになっている。さっき来た道が突然塞がれた以外に考える余地などなかった。  すると、どこからか甘い香りが漂ってきた。  その香りは疲れの滲む二人に一時の安らぎを与えた。  ピンと張っていた緊張の糸が緩み、二人は甘い香りを嗅ぎながら、魔物退治が終わった後の喫茶店でどのスイーツを頼もうか考えていた。 「けほっ、けほっ」  心愛のむせる声で我に返った。 「葵ちゃん・・・、なんか、苦しい・・・」  心愛は胸を押さえながら葵に訴えた。 「この匂い、悪い臭いかも・・・」  言い終わる前に心愛は口元を押さえた。  すると、葵も喉がイガイガしていることに気づいた。 「んんっ・・・、確かに、ちょっと空気が悪いかも」  葵は辺りを見回し、悪い空気のもとを探そうとした。  しかし、四方が壁に囲われているだけで、周りには何も見当たらなかった。  すると、葵にも異変が起き始めた。 「あがっ!」  葵は息が止まるような感じがした。 「ん゛っ!ん゛ん゛っ・・・」  葵は胸を叩いてなんとか呼吸を取り戻した。  空気に飢えた肺は新たな空気を求めて息を吸い込もうとした。 「あ゛あ゛っ・・・あ゛あ゛あ゛っ・・・」  葵の口から不気味な呻き声が漏れた。  胸いっぱいに息を吸い込んだはずなのに、かえって息苦しくなったのだ。  葵は口を開いたまま、ピクピクと震えていた。 「う゛っ」  葵は膝をついた。 「葵ちゃん!」  心愛のくぐもった声が聞こえた。  心愛の方を見ると、青ざめた顔で苦しそうにうずくまっていた。  震える瞳からは涙が浮かび、今にも倒れてしまいそうだった。  葵は手を伸ばそうとしたが、視界が一気にざらつき、心愛の姿を捉えられなくなった。 「あ゛あ゛っ・・・う゛っ・・・」  葵は必死に息を吸い込むが、吸い込んだ空気には毒が混ざり、葵の肺を冒してゆく。  それでも必死に息を吸おうともがく姿はいじらしく、クールで凛とした姿はそこにはなかった。  壁の隙間から二人が閉じ込められた部屋に流れ込んだ毒ガスは甘い香りが付けてあり、思わず吸い込んでしまうようにできている。  しかし、肺に入り込むと粘膜を溶かし、酸素を取り入れられなくなってしまうのだ。  ここで苦しくなって息を吸い込んでしまうと、肺の粘膜はどんどん溶かされてしまう。  結果として呼吸困難に陥り、窒息してしまう。  しかし、息を吸わないように我慢していても、呼吸をしないわけにはいかない。 少しずつ毒ガスが肺に入っていき、徐々に肺の粘膜を溶かしていくのだ。  息苦しさから逃れようと無理やり息を吸い込んだ葵であっても、息を吸い込まないように口元を塞いでいた心愛であっても辿る運命は同じなのだ。 「う゛っ、あ゛っ・・・」  葵がうつ伏せに倒れた。  うずくまっていた心愛が葵に駆け寄り、手を握った。  しかし、葵に握り返す力は残っていなかった。  やがて、葵の鼓動が止まったのを感じた。  そして、だらしなく開いた脚の間には黄色い液体が広がっていた。  心愛は固く目を閉じながらまだ温かみの残る手を強く握っていた。  しかし、その瞳からは涙がこぼれていた。  親友を失った悲しみと同時に自分がたどる運命を目の前に見たからだろうか。  心愛は毒ガスの中で自分の命の灯が弱まるのを待つしかないのだ。

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