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ねぼしかぼちゃ
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もう一人の苗床

 葵は目を覚ました。

 身体を動かそうとしたが、がっちりと固められているようで指1本すら動かすことができなかった。

 自分の身体を見ると白い糸でがっちりと固められていた。

「んっ!」

 思わず声を上げようとしたが、口元まで白い糸で固められ、声を上げることすらできなかった。

 辺りを見回すと、深い森の中のようだ。

 無数の白い糸が電線のように張り巡らされていた。

(そういえばクモと戦っていて・・・)

 心愛と二人でクモの魔物と戦っていたのだ。

 私と心愛はクモに捕まって・・・そこから覚えていなかった。

 周りに張り巡らされた糸を目で辿っていくと、細長い繭のようなものを見つけた。

(!!)

 繭は人間の形をしており、葵と同じように糸で全身を固められて吊り下げられていた。

 顔は糸で覆われていたが、ピンク色の髪の毛とそこから伸びるピンクのツインテールが揺れていた。

(あの髪・・・)

 心愛に違いない。

 頭の上には心愛が付けていたピンクの帽子も載っていた。

(心愛ッ!)

 葵は叫ぼうとしたが、口元をクモ糸が覆い、叫ぶことができなかった。

「んごごっ!んぐおおっ!」

 口元からくぐもった声は漏れるが、心愛までの距離は遠く、声は届いていなかった。


 すると、心愛の身体を縛っているクモ糸がもぞもぞと動いたのが見えた。

 胸やお腹のあたりのクモ糸が押しのけられ、中から肌色が見えてきた。

(クモ糸が解けている?・・・心愛っ!がんばって!)

 クモ糸が解ければ、ここから抜け出せるかもしれない。

 葵は期待の眼差しで心愛を見ていた。

 ブチッ

 糸が切れる音が聞こえてきた。

 胸やお腹の糸がはち切れ、中から肥大した乳房とお腹が出てきた。

(・・・え?)

 葵は目を疑った。

 不気味なほど肥大した胸、そしてぽっこりとバスケットボールでも入っているのではないかと疑うように膨らんだお腹。

 糸が緩んだのではなく、胸やお腹が異常に大きくなったことでその部分の糸が押しのけられただけだった。

 事実、肝心の顔や手足の糸は全くほぐれていなかった。

(・・・なに・・・あれ・・・)

 心愛の身体に訪れた異常な変化に葵は戸惑った。

 心愛の臍から縦に黒い線が走っていた。

(保健体育の授業で妊娠するとへそから黒い線が出ることがあって、妊娠線っていうみたい・・・)

(あれ、お腹が膨らんでいるのって、妊娠しているからかしら・・・。でも、心愛が妊娠ってどういうこと?・・・それにこんなに短時間で大きくなるわけないよね・・・)


 すると、心愛の身体が揺れ始めた。

 風で揺れているわけではない、心愛が身体を揺らしているのだ。

(心愛っ!)

 心愛が生きているのが分かって少し安心した。

 しかし、安心はすぐさま不安へと変わった。

 ピンクのツインテールが小刻みに震えていたのだ。

 全身を固められ、身を捩ることもできず、クモ糸に覆われた顔の表情を見ることもできなかった。

 しかし、あの髪の震え方には見覚えがあった。

 以前、心愛と二人で魔物と戦った時、心愛が怪我をして、敗走したことがあった。

 物陰に隠れ、脚から出血した心愛の手当てをしていた。

 ピンクのスカートは血で真っ赤に染まり、傷口から血が溢れていた。

 拘束魔法を応用して素早く止血したが、激しい激痛で心愛の身体は激しく震えていた。

 あの時のことは思い出すだけでもぞっとする。

 髪の先までも恐怖に染まった震え。明るい心愛が普段は見せない恐怖心だった。

 目の前でクモ糸に固められている心愛もあの時と同じように震えていた。

 しかし、今の葵には何もできなかった。

 心愛と同じように全身をクモ糸で固められ、指1本も動かなかった。

 葵は苦しむ心愛をただ眺めることしかできなかった。

(心愛ッ・・・ごめんなさいっ・・・)

 葵は固く目を閉じた。

 その瞳からは涙がこぼれていた。


 くちゅっ

 不気味な粘着音が耳に入り、葵は我に返った。

 そして心愛の方を見ると、おぞましい光景が広がっていた。

 心愛の股の割れ目から何かが出てきていたのだ。

 白い糸に包まれた謎の物体。

 心愛の割れ目を押し広げながらそれは出てきた。




 白い糸が解けると、カサカサと動き始めた。

 クモだ。

 私たちが戦っていた巨大グモと同じ色をした小さなクモ。

 すると、心愛の割れ目から数珠繋ぎのように次々とクモが出てきた。

 クモが割れ目を押し広げながら出てくるたび、心愛の身体はビクッと跳ねていた。

 葵は凍ったような瞳で目の前で起きている不気味な光景を見ていた。

 昔、映画で人間のお腹からクリーチャーが出てきたシーンがあって、怖くてその夜は寝れなかった。

 あの時のおぞましい光景が目の前で、そして一番の友達が恐ろしい目に遭っていた。

 生まれたばかりの子グモは心愛の柔らかい身体の上を這い回っていた。


 すると、1匹が胸のあたりで止まった。

 そのクモはピンク色の乳首の先端に噛みついた。

 ピュッ!

 白い液体が噴出した。

 乳首から溢れ出た白い液体は乳房を伝い、お腹へと滴った。

 子グモたちは一斉に白い液体に群がった。

 白い液体を舐め終わった子グモは再び乳首に噛みついて、白い液体を絞り出した。

 心愛の胸からこぼれた甘い匂いが離れたところにいる葵の鼻にも届いた。

 練乳のような甘い匂い。

(ああ、あれは心愛の母乳なのね。)

(女性は妊娠しないと母乳が出ない。妊娠することで乳房が大きくなり、母乳が出せるようになるって保健体育で聞いたわね・・・)

(ああ・・・心愛が・・・自分で産んだクモを・・・育ててる・・・)

 朦朧とした意識の中、葵は心愛の様子を眺めていた。


 すると、心愛の顔を覆っている糸の隙間から一筋の液体が流れた。

 糸は液体を吸い、変色した。

 液体は心愛の目の位置から流れていた。

 そして口元も湿って変色しているのが見えた。

 糸の割れ目から液体が溢れた。

 心愛のよだれが溢れてきたのだ。

 分厚く、固い、糸で作られた仮面。

 光も声も通さない分厚い仮面の奥から溢れ出した涙。

 いったい仮面の奥でどれほどの涙を流したのだろう。

 声を上げようとどれだけもがいたのだろう。

 どれだけ苦しみで歯を食いしばっていたのだろう。

 あの仮面の奥には苦しみで激しく歪んだ心愛の顔があるのだろう。

 心愛が見せていた優しい笑顔が二度と見られないぐらい激しい苦しみに歪められているのだろう。

(私、目の前の心愛すらも守れなかったんだ・・・唯一の友達・・・ずっと一緒に戦ってきた心愛・・・目の前のただ一人も守れなかった・・・)

 葵は乾いた瞳で心愛を眺めていた。


 すると、葵の頭上に巨大グモが現れた。

 私と心愛を襲ったあのクモだ。

 葵はクモを睨みつけた。

 手足を縛られ、何もできない葵にはクモを睨みつけることしかできなかった。


 巨大グモは葵にお尻を向けると糸を吐き出した。

「んぐっ!」

 葵の視界は奪われ、真っ暗で何も見えなくなった。


 睨みつけることすらできなくなった葵。

 その顔は心愛と同じように糸で覆われ、分厚い仮面をつけているようであった。

 

 視界を奪われた分、思考に意識が集中した。

 先ほどまで目の前で見せつけられていた心愛の姿が脳裏によぎった。

 そして、これから自分も心愛のようにクモを妊娠し、不気味に膨らんだお腹の中でクモを育て、股からクモを生んだ後は、不気味に膨らんだ胸から母乳を出して子グモを育てるのだと悟った。

 心愛を守れなかった不甲斐なさ。その不甲斐なさを心愛と同じ目に遭うことでいくらか償うことができるのであれば、仕方がない。

 暗闇の中、これから自身に降り注ぐ苦しみを覚悟した。

 後ろから、先ほどの巨大グモが産卵管を伸ばしていた。

 赤黒く脈打つソレはまるで男性器のようだ。

 人間のものより遥かに大きい男性器を模した産卵管が葵の割れ目にねじ込まれた瞬間、葵の中から先ほどまでの覚悟は吹き飛び、苦しみから逃れようと身体を震わせ、涙をこぼしてしまうのだった。


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