ピンクのゴム手袋に包まれた指先が金網をぎゅっと掴んだ。
「いやあああああっ!たすけてええええっ!」
少女は金網を押したが、金網はびくともしなかった。
冷たく黒いタールは少女の腰のあたりまで迫ってきた。
下半身はセメントで固められたかのように動かなくなった。
冷たいタールが太ももを包み、身体が冷えるのを感じた。
白いエプロンと赤いスカートが徐々に真っ黒なタールに呑まれてゆく。
少女は身を捩って抜け出そうとするがタールは強力な粘着力で少女の下半身に纏わりついており、びくともしなかった。
白いリボンの裾にタールが纏わりついた。リボンは軽やかさを失ったかのようにタールの上に落ちると、徐々にタールに塗れて沈んでいった。
白いウエストリボンまで吞まれ、タールは少女の胸元に迫ってきた。
女の子の細いくびれが隠れ、胸にタールが纏わりつき始めた。
いくらもがいても抜け出せず、タールに引きずり込まれていく状態の中、少女の心は恐怖で押しつぶされそうになっていた。
「ううっ・・・いやっ・・・いやああああっ・・・・」
茜色の瞳は涙を浮かべた。
口元はわなわなと震え、額に冷や汗を浮かべていた。
白い三角巾にもタールが纏わりつき、柔らかいレースの髪飾りがくしゃくしゃになってしまった。
ピンクのゴム手袋をはめた指先が金網を引っ掻くが、重い金網はびくともしなかった。
タールは少女の首元まで迫ってきた。
魔法少女の証である胸元のブローチの周りにはタールが纏わりつき、ピンクの光を塗りつぶそうとしていた。
パフスリーブや二の腕にもタールが纏わりつき、腕が重くなってきた。
タールに腕を引っ張られ、金網を掴むのも難しくなってきた。
「ああっ・・・いやっ、いやああああっ!」
恐怖に支配され始めた少女は泣き叫んだ。
しかし、誰も助けに来る気配はなかった。
おさげ髪にもタールが纏わりつき、身を捩るたびにタールの底に髪が引っ張られた。
タールは少女の顔まで迫ってきた。
柔らかい頬に真っ黒なタールが纏わりついた。
赤い髪はタールでぐしゃぐしゃになってしまった。
白く清潔な三角巾は真っ黒なタールに呑まれ、髪を汚れから守るという役割を失っていた。
頬に纏わりついたタールは冷たく無機質な感触を少女の心に刻み込んだ。
少女の頬は青ざめ、額から溢れた脂汗がタールに滴っていた。
ピンクのゴム手袋にタールが纏わりつき、金網を引っ掻くのが精いっぱいになった。
「いやあああああっ!だれかっ!たすけてえええええっ!」
口元にタールの感触が迫るのを感じながら悲鳴を上げ続けた。
「おねがいっ!だれかっ!いやああああああああっ!」
魔法少女として町を守っていた少女の姿はそこにはなく、来るはずのない誰かに向かって必死に助けを求め続ける哀れな少女の姿しかなかった。
「たすけてえええええっ!いやあああああ、んぐっ!んぐんんっ!」
悲鳴が途絶え、代わりにくぐもった声が漏れ始めた。
必死に助けを求めて叫んでいた口は真っ黒なタールに覆われてしまった。
「んぐっ!んぐ!んぐぐっ・・・」
「んぐぐぐっ!んもごっ、んぐぐっ・・・、んぐっ!」
必死に悲鳴を上げようとするが、くぐもった声しか出せなくなってしまった。
「んぐっ!もごもごっ!、んごごっ、んぐぐぐッ!」
「んぐっ!もごごッ!んぐごッ!」
くぐもった声に苦痛が混ざり始めた。
ピンクのゴム手袋をはめた指先はタールに塗れ、必死に金網を掴もうとするが、触れることすらできなかった。
少女は瞳をぎゅっと閉じたかと思うと目尻から涙をこぼした。
「んぐっ・・・」
濁った呻き声がかすかに聞こえたかと思うと、少女の身体から力が抜けたのが分かった。