人気のない道路の隅に設置された側溝。
誰も気に留めることもない側溝の奥で、一人の少女が閉じ込められていた。
無機質な鉄製の蓋の奥から茜色の瞳が覗いていた。
金網を掴みながら、必死に助けを求めていた。
古びた塩ビパイプが少女が閉じ込められている側溝へと伸びていた。
その水道管からは真っ黒なタールが溢れ出していた。
溢れ出したタールは少女が閉じ込められている側溝へと注がれていた。
誰かが側溝の蓋を開けてあげれば、そうでなくてもタールを注ぎ続けるパイプを動かしてあげれば少女は助かるだろう。
しかし、この道路は誰も通りかかることはない。
このあたりの住人は増殖したタールの影響で全員避難していたからだ。
増殖したタールを抑えるため、お掃除魔法少女である彼女が立ち向かったが、強力なタールに返り討ちに合い、逃げ回っているうちに側溝の中に閉じ込められてしまったのだ。
大量のタールが側溝の中へと注がれていた。
真っ黒なタールで側溝の中はいっぱいになっていた。
側溝の中に閉じ込められている少女は肩までタールに浸かってしまった。
「いやああああああああああああああっ!」
少女は蓋をガンガン叩いていた。
しかし無情にも流れ込むタールが止まることはなかった。
「たすけてええええっ!」
金網の奥から絶望に染まった顔で外を見上げていた。
首元までタールに浸かり、胸元のブローチは見えなくなった。
「いやああああああああああああああっ!」
顎の下まで冷たいタールが迫ってきた。
少女は涙をこぼしながら、悲鳴を上げ続けた。
タールは少女の口元まで迫っていた。
「いやあああああっ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、ん゛ッ!」
タールが口の中に入ってきた。
吐き出そうとしたが、口の中でタールが粘り気を帯び始めた。
「おえっ!」
舌や歯に絡みつき、ほどんど吐き出せなかった。
「あ゛あ゛っ、もごっ!」
口の中にタールが流れ込んできた。
タールから顔を出そうとしたが、口が完全に埋まってしまった。
流れ込んだタールを舌で押し出そうとしたが、重く粘性の強いタールは舌を押しのけ、少女の喉の奥へと流れ込んだ。
「んごっ!んぐっ!」
タールを飲まされ、苦し気な呻き声を上げる少女。無情にもタールの奥で響くその呻き声は誰にも届かなかった。
(ふ~っ、ふ~っ)
少女は鼻で必死に呼吸していた。
しかし鼻もタールに埋まってしまった。
息ができなくなり、苦しくなってきた。
「んん~っ!んんっ!んっ!」
少女は金網の奥から苦しみに染まった瞳で外を睨みつけていた。
しかし、その瞳もすぐにタールに埋まってしまった。
少女が閉じ込められていた側溝はタールでいっぱいになり、金網からタールが溢れていた。
金網の奥からピンク色の指が伸びていた。
「~~!」
ピンクのゴム手袋をはめた指が最後のSOSを送っていた。
魔法少女は生命力が強化されており、普通より息が長続きするのだろう。
しかし、息を吸えなければ、いずれ身体は限界を迎えてしまう。
「~~!!」
ピンと伸ばした指先は助けを求めるかのようにピクピクと動いていた。
しかし、その指先の動きもやがて鈍くなっていった。
「・・・」
そしてゆっくりと黒いタールの底へと沈んでしまった。
(ゴボッ)
タールの中から泡が浮かんできた。
少女の肺に残っていたわずかな空気が出てきたのだ。
泡はしばらくタールの上に浮かんでいたが、やがて消えてしまった。