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メランコル
メランコル

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ねえお母さん

ねえお母さん、あなたが哀れんだわたしはまた人から褒められたよ。


そんな風にしか産んであげられなくてごめんねとあなたが謝罪を傾けたその不格好な命が申し訳程度の何かを放ってそれが誰かの心に刺さったりしたんだ。


あなたがわたしを生んでくれた事には1度も感謝したことないけど、あなたがわたしを哀れんでくれたことに、慈しんでくれたことに本当に感謝してる。


その涙が本当だったことくらいは馬鹿なわたしでもちゃんと理解るから。


世界は残酷だね。本当に。悲しいことだらけだよ。


慟哭めいた嗚咽を何度も見たし、聞いたし、こらえきれずこぼれた誰かの悲しさはわたしのそれと似ていて、だから勝手に重ねて、報われてほしかったのはわたしの視界の片隅で泣いた誰かのやるせなさで、同時にわたし自身のやるせなさだった。


報われない思いが世の中にはたくさんあって、報われない人達がたくさんいて、どうしてこんなに報われないんだろうって悲しくて泣きたくなるけど、涙が落ちる前にちゃんと気づかなければいけないんだ。


その悲しさを創出する残酷の一端を、自分自身も担ってることの責任に。


差別はどんな国にもあって、


差別はどんな街にもあって、


差別はどの教室の中にもあって、


差別はわたしの心の中にもありました。


迫害した罪を認めます。


わたしは人を不当な理由で傷付けました。蔑み嘲り踏みにじりました。


人を蹂躙した事があります。


とても無自覚に、自然に、そうすることが当たり前であるかのように。


だってそうでしょう?


これだけ散々見下されたんだから、これだけ散々いじめられたんだから、ちょとくらいわたしが迫害する側になったって許してもらえるはずでしょう?


そうして「わたしを傷付けた誰か」とは別の、全く無関係だった、わたしより少し立場の弱い人を傷付けました。そういう事をしたことがあります。


顔が苦手だから、性格が苦手だから、考え方が苦手だから、喋り方が苦手だから、服装が苦手だから、音楽の趣味が合わないから、年が離れすぎてるから、性別が違うから、なぜか無性に怖いから、理由を上げればきりがないです。


わたしが誰かを差別してきた理由たちです。


わたしは、わたしがされたのと同じことを人にしました。


弱い人達が束になって戦っても、偉大な人物が優れた方法で人々を導いても、わたしはこの世界から差別が消える日は永遠に来ないと思います。


わたしがわたし自身の中にある差別の心を克服できた時、私の世界にはじめてほんとうの意味での無差別が生まれるからです。


わたしは結構えげつない人間です。自分の事ばかり考えてます。幸せになりたかったです。今はわりと諦めてます。自業自得だと思ってます。えげつない人間でしたから。自分のしてきたことへの当然の報いです。


誰もが認めざるをえない不遇な境遇を盾にして振りかざして、そうすることで自らの攻撃力を嵩増しして、嵩増しされたそれは多くの人の同情心と言う名の無数の弾薬を得て本当の破壊兵器になりました。


わたしより弱い人を合法的に民主的に制裁できる完全無欠の兵器です。


わたしは累積された怨念の引力に従う形でそれを掲げ、弄ぶように振り回しました。わたしはいともたやすく勝利しました。そしてわたしはその日人生で初めて本当の敗北を知ったのです。


踏みにじられた境遇を理由に人を踏みにじった時、わたしは自らの人生に敗北したのです。


わたしはとても弱い人間です。


わたしは不遜な人間です。


謙虚である事を学ぼうとしませんでした。


謙虚であることを漠然とカルト系新興宗教のように感じていました。


なぜならわたしの知る限り、マーケティングとは概ね謙虚を捏造することだったからです。


わたしの生まれた時代には資本主義が既に成立していて、マーケティングが市場を支配していました。


あらゆる欲望が善意と謙虚の皮をかぶって15秒ずつ交代で放送され続けていました。


そういう時代にわたしは生まれました。


だからわたしは謙虚さそのものを疑ったのです。無知でしたから。


わたしには生まれつきの皮膚の病気があって、子供の頃から沢山いじめられました。


いじめられた数だけきっちり膿みを孕みました。


皮膚に刺さった刃をすべて数えて、その質感を魂に記録して、いつか返すために研ぎ続けました。


そうしてわたしが「哀れな境遇の少女」として完成した時、神の遣いの真似事をしてその刃を縦横無尽に奮ったのです。


敵は倒れました。


多くの人が歓喜しました。


長年虐げられた少女が、弱者を虐げてきた魔物についに勝利したのです。


喝采が湧きました。


その時その場にいた誰一人、その魔物が、その時既に「弱者」であったことを想像しませんでした。


大衆がわたしに感情移入して同情し、わたしに賛同し、わたしの敵を人類の敵と認識した時、わたしが強者で、彼が弱者と確定したのです。


その時点で既に決していたのに、それ以上の蹂躙劇を必要としなかったはずなのに、わたしはその事に半分の意識で気づきながら、残りの半分の茹で上がった愉悦で刃を振り下ろしました。


誰もが悪と認める敵を一方的に嬲り屠る事はこの上ない快感でした。


故にわたしは敗北したのです。


わたしは自らを刻んだのです。


わたしが最も憎悪した、人を悪にする原理の傀儡となったのです。


わたしは贖罪を望みませんでした。


神に救いを乞いませんでした。


この罪は容易に許されるべきではない、などという高潔さ故では無いです。


ただ、怖かったのです。


わたしを慕う人々の眼前で自らの罪を暴かれ、わたしを慕った人達の手で裁かれる事が怖かったです。


正しくて哀れな儚い少女でいたかったのです。弱者の群れが奉る英雄でありたかったのです。


そうしてその欲求と執着がわたしを堕ちるところまで堕落させたのです。


お母さんがわたしを哀れんだ本当の理由をようやく知りました。


肌がどうとかじゃない、いじめられてどうのこうのじゃない、純然たるわたしの悪意をこそ母は、母であるがゆえに察し、そして哀れんだのです。


そのようにしてわたしは、この世界から差別をなくすことがどれほど困難なことなのか、他でもない自らの悪意を論拠に、切に思い知ることとなったのです。


わたしは愚かで浅ましい人間です。


人を簡単に侮蔑できてしまう暴力の化身です。


わたしに侮蔑された相手が勇気を持って立ち上がらない限り、わたしは自らの過ちにさえ気づくことが出来ないのです。


そのようにして世界には無自覚な差別が溢れていました。


わたしが今何と戦うべきか、わたしには分かります。


分かっていてなお、決断ができません。


自らを厳しく断罪する覚悟が定まらないのです。


わたしはわたしのメカニズムを憎みました。


頭から爪先までルッキズムに支配された自らの感性を憎みました。


わたしは人を愛せませんでした。


愛さないわたしは愛されませんでした。


愛の逸失を嘆いたわたしは、これ以上嘆くことをやめるために愛を更に強く否定しました。


わたしは孤独になりました。


孤独は人生で最も心地の良い最悪の一つです。


わたしはその虜となりました。


わたしを救い出そうとする手達を拒んで跳ね付け、わたしは孤独に留まり続けました。


母には最初から見えていたのだと思います。


ありふれた陳腐な孤独の底で膿んで腐敗する我が子の堕落を。


人生はどこからでも再起可能だと人は言います。


しかし若い時分にさえ果たせなかったことを、衰え萎え諦め荒んだ人間の申し訳程度に残された意気のみで果たすことがどれほど非現実的であるか、考えるまでもないことです。


わたしはわたしの人生を取り戻したいと強く願いました。


しかし願うことを知る頃には、わたしの手にはそれを取り戻す力が最早残されていませんでした。


そもそも一体何をどうすることが人生を取り戻す事なのか、わたし自身にさえ分からないのです。


このような想念に取り憑かれてゆくと、楽しかったことの喜びが抜け落ちて、美味しかった食事の快楽が抜け落ちて、景色が、匂いが、自分が、色彩を失ってしまうのです。


ねえお母さん。


わたしにはもうわたしのことが分からないんだ。


でもね、こんなわたしを美しいと言ってくれる人がいるよ。


散々同級生たちに気持ち悪いってなじられたゾンビみたいな肌のわたしが美しいんだってさ。


こんなに救いがたいレベルで馬鹿で愚かで傲慢でどうしようもないわたしがなんとなく魅力的なんだってさ。


わたしならきっと何か大きな事を成し遂げられるはずで、わたしならきっと特別な何者かになれるんだってさ。


馬鹿みたいな話だけど、普通に嬉しいって思っちゃったよ。


むしろ馬鹿だからかな。褒められたら簡単に嬉しくなっちゃう。


だからやれるだけやってみるよ。


どこまでいけるかわからないけど、どこに向かえばいいのかも分かんないけど、でもね、まだ終わってないと思うんだ。


もう何も自分の内側に見つけられないし、限界まで絞ってももう何も出てくる気がしないけど、でも今日のところはまだ心臓が動いてて、指も動くし、ほとんど機能してなくても頭がちゃんと胴体にくっついてる。


わたしにやれることがまだあると思うんだ。


それがどういう種類のことなのかは分からないよ。


できればお父さんの命が終わる前に形にできたら嬉しいけど、でももし間に合わなくてもお父さんは納得してくれてる、わたしのするすべての試みにちゃんと満足してくれるって分かってるからあんまりそこは心配してない。


ただ、まだ、諦めたくないんだ。


だからお母さんがわたしのために泣いてくれた事は本当に嬉しいけど、その涙はまだ受け取れないよ。


手も、指も、心臓も動かなくなる最後の時でもそれは多分間に合うから。


まだ受け取らない。


覚悟なんて何もできてないよ。


だって何をするかすら決まってないんだもん。


だけどちゃんと歩いてくよ。


明日がどっちかなんて分からなくても、昨日どこから来たかはちゃんと踵が覚えてる。


うっかり忘れても、足跡がところどころに残ってる。


だから、そういう諸々をちゃんと受け止めていけば、進むべき道もそのうち見えると思うんだ。


お父さんとお母さんの遺伝子だけじゃなくて、お父さんとお母さんが教えてくれたことでわたしは出来てるんだよ。


だから涙はまだ受け取らない。


それは今のわたしが、今、あなたから教わるべきことじゃないと思うから。


でもちゃんとわかってるから安心して。


愛をみつけにいくよ。

Comments

期待してくれてるモノを提供できなくて本当に申し訳ないです`~` 各種創作の中でも、特殊性癖の絵で初めて「自分の作った作品でお金を稼ぐ」を実現できたし、そこが自分の起源なので、色々な問題が片付いたらまたbinさんをはじめ、皆さんの求めてるものを提供できるように頑張りたいと思います!

メランコル

愛にも色々ですけどめらんこるはジェンダー&肌の病気の都合で特定の一人と結ばれる的な愛を育みづらいので、創作を通じて慕ってくれる人達の幾らかずつの愛情がすごく支えになってたりします`~` めらんこるは「普通の社会人になろうと頑張ったけど無理だったから絵で生きてく事にした・・・」みたいな人間なので逆にちゃんと社会人やれてる人達のほうが全然すごいって思っちゃうんですけど、単純な人間なので尊敬とか言われると素で嬉しいし続けてきてよかったなぁって思います`~` 状況と心境が落ち着くまで絵を通じての交流が出来なさそうなのがしのびないですけど、期待して待っててくれる方がいる限り本当の意味で活動が途絶える事はないと思うし、しばし皆様に背中を預けるつもりで現実と向き合って、受け止めて、乗り越えて、またいずれ応援してくれる方々が望むモノを提供できるよう完全復活出来たらと思います`~` いつもありがとうございます!

メランコル

良いパートナーができたなら何より! 自分はメランコルさんを好きというよりは、一人の人間として尊敬してます。 今はどこの国でもそうですが、良いお勉強をして良い仕事に就いて良いお金を貰う人が社会的評価が高い時代になってます。だからクリエイティブな人が駆逐されつつある... そんな中で一つの分野で確実に人から認められる作品を作ってるメランコルさんは、一人の人間として尊敬してます。殆どの人間は同じ事やれって言ってもできないですよ!自分もクリエイティブな人間でいたかったんですが、会社の中じゃそれできない...

ten-kao

そうなんですか、残念なんですね。またエロを描ける日を待っています。メランコル先生の才能なら、ゲーム原画、ゲーム脚本も行けると思いますので、どうか諦めないでください。まぁ、一番期待しているのはやはり子宮姦エロCGなんですけどね。

bin_222

binさんお久しぶりです! ありがとうございます`~` 外国の方が読んでも刺さるものがある、と言ってもらえるのは本当に、とても嬉しいです。 家庭の事情でしばらくエロは描けそうにないですが、今の自分に出来る事を自分なりに精一杯頑張りたいと思います。ありがとうございます。

メランコル

久々にメランコル先生のファンボックスを見ました。先生が書いた日本語の美しさは外国人の私でもチクチクと心に刺して来ます。美しいなぁ~と嘆くぐらいに。生きることは辛いけど、辛いだから生きている間の時間を無駄にしてはいけない、と私は思っています。命が蠟燭なら、最後まで燃やせるのが一番。ありがとう、先生。

bin_222


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