──プロローグ。
とあるレアメタル採掘場への襲撃予定。
本来は裏から手を回して少量ずつ奪うのが賢いのだが、策略的にも物理的にも抵抗があったための決定。見せしめとして大規模な襲撃、派手にやってやれとの組織の長ビックボスからの指示なのだ。
その作戦会議に集まっているのは、組織の南部軍で『四天王』と呼ばれ恐れられる幹部ヴィランたち。
誰よりも素早く明瞭な声を上げたのは──天才科学者ウィズダム。
「ワタシの『タンクス』共を使えば事足りますよ、ええ」
それはヒーローから奪い取ったパワーを注入された強化戦闘員のこと。とはいえそれさえ彼の発明品の中では単なる玩具。ヒーローのみならず、ヴィランからもパワーを吸収できる装置こそ、彼が生み出した最高傑作とも呼べるもの。
「ビックボス様からのご命令。この天才のワタシ以外、誰に任せられるというのですか」
自慢げにそう話すのは痩身の白猫種青年。手中のタブレットからの反射光でメガネを光らせ、悪辣で狂気じみた視線で他三名を軽んじるように見渡した。
白ワイシャツと黒ネクタイ、染み一つ無い白衣を着込んだ天才ヴィラン。幹部クラスにまで昇り詰めたのは、科学者としての頭脳、目的の為ならば手段を選ばない冷徹さ故。
次にのそりと身を乗り出すように声を上げたのは──百獣将軍アブゾルード。
「お前の雑兵など、俺の百獣軍団に比べれば案山子も同然よ」
本人も強力無比なヴィランとして知られており、かなりの武闘派。それでいて配下を掌握し、軍を形成して指揮する能力にも秀でており、それらをビックボスに買われている。彼が言っているのは自らが鍛え上げた『百獣軍団』のことに他ならない。
「俺こそ、この百獣軍団長アブゾルードこそ、この組織で最も偉大な存在だと知らしめてくれよう!」
威風堂々と言い切った。身長は優に2メートルを越え、白い立髪を持った巨漢、雄々しい獅子種の壮年。40代に差し掛かってなお野心に溢れたギラギラとした瞳、豪快で豪胆な表情がその性格を如実に表しているだろう。分厚い肉体を戦闘用の黒のオーダーコンバットスーツに納めているが、装備ポーチがセットされたベルトで覆ってなお、その筋肉ははち切れんばかりなのだ。
二名が権力闘争じみた声を上げようが気にしない──猛獣操り・ズーロ。
「ボスからは派手にやれって言われてるし、どの子で暴れてやろっかな〜」
生意気そうにイスには浅く腰掛け、噛んでいた風船ガムをパンと弾けさせた。幼い声、悪ガキといった年齢身長の小柄な黒豹男子こそ、まだ10代半ばながら強力な操作系能力でこの地位まで登り詰めたヴィランなのだ。
「アハハハ、喧嘩してなよ!“おじさん達"の手柄、ボクが貰っといてあげるからさあ」
楽しそうにウィズダムとアブゾルードが視線で罵り合うのを尻目に笑う。
上からキャスケット帽、ピアスやチョーカー、くちゃくちゃとガムを噛み、鋲や棘のついたパンクな服装。他人を何とも思わない残虐非道な性格は、安全な所から部下を操って使い潰す戦い方からも窺い知れる。幼稚な残酷さを匂わせた、生まれながらのヴィラン少年なのだ。
傲慢にふんぞり返って吐き捨てるのは──魔月のゾリトゥ。
「はん、どいつもこいつも自分の手を汚さねえ腰抜けどもが」
他三名とは違って部下を持たず、自らの手だけで数多のヒーローを血祭りに上げてきただけに、その言葉には重みがある。唯一彼の下についている部下だって、何かをさせる為ではなくただただサンドバックとして手元に置いているだけとなれば、その性格も窺い知れよう。
プレイボーイ気取りでニヒルに笑い、左右に侍らせたあられもない格好の洗脳男娼をキスで犯す。皆に「ここにセックス相手を連れ込むな」と注意されつつも。
「少しは楽しませてくれんだろうな。じゃねえと」
「あっ……ン………!」
噛み付くようなキス、洗脳男娼の口からは喘ぎと小さな流血。
「──またぶっ壊しちまいそうだ」
獰猛に唸るローズウルフ種の荒々しい顔付きの青年ヴィランだ。20代後半ながらもまだまだ血気盛んな瞳、細身だが鍛え抜かれたスレンダーな肢体。ギャングのようなスーツ姿だが着崩し、羽織っている黒のコートだって戦闘に適した特注品。
個性派揃いの四天王。誰も譲歩などするつもりはなく、どうやってビックボスに良く見られるか、利益を得られるかしか考えていない様子だ。元より仲の悪い四名、会議は躍るされど進まず時間だけが過ぎていく。
* * *
遅れてやってくる獰猛な笑み──尋問官バルバリ。
「オレ様ぁ忙しいんだ。そろそろ新顔で遊びてえから協力してやってもいいが、チンタラ喋ってんじゃねーぞ」
捕えたヒーローなどから情報を引き出すエキスパート。この地下基地でもより警備の厳重な下層に勤めており、こんな会議に出てくるのだって稀。尋問官という仕事柄、常に恫喝するような表情でサディストだと呼ばれようが気にもしない。
「別にヒーローじゃなくたって構わねんだ、裏切り者“かも知れない"ならオレ様んとこに送れよなあ」
獰猛なロットワイナー犬種の青年。牙を剥き出しにした顔付き、それをより強調するようなスパイク付きの首輪。タンクトップの上からレザーベルトハーネスを装備し、艶のあるタイトなブラックレザーのパンツを履いている。タイトな生地が太股をパンパンに締め付けているが、それよりも股間の膨らみを見せつけているのが誰の目をも印象的だろう。
さらに柱の影に潜んでいた人物が呟く──キリサキ・ネィゲル。
「小せえヤマだったら承知しねェぞ……」
四天王たちも「いつから居たんだ?」と驚きを隠せない。彼はその強力な能力と戦果から『キリサキ』の二つ名で呼ばれており、ヴィランでありながら雇われダークヒーローでもある。年齢不詳の凄腕傭兵であり、金とスリルの為にこんな組織に身をやつしているのだ。
「あんま退屈させられたら、お前ェらのボスを仕留めに行っちまうかもなァ」
この場の全員と敵対しかねない発言だろうと堂々と。ドブネズミ種の少年の外見ではあるが、何十年と死線を潜り抜けてきたような貫禄を持っている。偽装か何かなのかそこらの子供のようなパーカーとシャツ姿だが、その瞳だけは真紅に爛々と輝いており只者でないことを示しているのだ。
* * *
そんな作戦会議の様子を別室から隠しカメラで見つめている人物が2人。
ため息を付きながらもどこか楽しそうに──副司令ワイズマン。
「やれやれ、うちの幹部たちは血の気が多くて困りますねえ」
この曲者揃いの南部軍の幹部ヴィランの手綱を握っているのはこの人物。策略や知能戦に長けており、高飛車な性格ではあるが頭脳派ヴィランの中では頭一つ飛び抜けた才を持っているのは立場が証明しているだろう。ある意味ではヒーローよりも規律に厳しく、ルールに厳格なまとめ役なのだ。
「自分が何度注意をしたことか……まったく」
こんな愚かな荒くれ者どもをどう采配して動かしてやろうかと、意地悪そうな笑みを浮かべているのは細身のカラス種の青年だ。将校のような漆黒の軍服にはその功績を称えた幾つもの勲章。だがそれらよりも影に溶け込むような濃黒の艶羽は些細な光さえ反射して輝いている。
最後にして最強の男──魔竜総司令官ドラルグ。
「ふはは、必勝あるのみ。その力を存分に振うさせてやれい」
常に力にて勝利をもぎ取ってきた南部軍。組織の中でも過激派と呼ばれるその実力を今回も振るうだけと、豪快に笑ってみせるのだ。その自信過剰さや傲慢さへの注意など黙らせるだけの、数々の偉業と伝説を持っている。伊達に身一つでこの南部軍の総司令官にまで登り詰めた訳ではないのだ。
「そう我の目的の為にも、な……!」
意味深な笑みは反逆の兆しか、巨躯を誇る壮年赤竜の瞳がギラリと光る。力強い雄角を2対生やし、強靭な翼をたたえ、歴戦の肉体には数多の傷。素肌に羽織った絢爛な上着、腰に差した見事な軍刀などなど、全身から力と権力とを滲ませてやまないのだ。今はまだこの立場で我慢してやるがこれから先は分からない、という不遜な態度でどっかりと椅子に腰掛けている雄赤竜なのだ。
作戦会議という名の牽制合戦は平行線。なまじ実力があるだけに常勝してしまっている南部軍、上層部には明らかな傲慢と油断が蔓延しているのだった。
* * *
こうしてなるべくしてなった。
非協力的なヴィランたちは自分たちの力を過信し、レアメタル採掘場の襲撃計画は稀に見る大敗北という形で幕を閉じた。
ビックボスの静かな怒りが溶岩のように沸々と噴き出すまで、あとほんの少し。彼ら上層部は1人残らず降格させられ、“反省"を促されることになるのだった。
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