SamSuka
ねむうさぎ
ねむうさぎ

fanbox


『おいでませ花咲町キャンピングサイト』①〜②

Chapter①『まいらく』

「出たぞー」

 秋高──スラリとした長身、20代後半のハスキー獣人種青年は風呂上がり。全身乾燥機でほかほかの身体を寝巻きに包みつつ、リビングに戻ってきたところ。

 休日の夜、同棲相手の悲鳴が出迎えてくれる。


「あーっ!?」

 三春──むっちりとした横幅、20代前半の茶トラ猫獣人種青年はソファに深く腰掛けてゲーム中。ラフ、といえば聞こえのいいくたくたのシャツと下着一枚で遊んでいるところ。


「えーっと三春、何事?」

「ダイヤモンドの鉱脈!あんもう、ダイヤ大好き〜」

 ブロックを積み上げて建築を楽しむ有名ゲームをプレイ中の三春、特に貴重な鉱石であるダイヤモンドを発見したからこその嬉しい悲鳴だったそうだ。

「……。夜だからゲームするなら静かにしなさいね」

「だって聞いてよ秋高さーん」

 聞くにしてもと、秋高は先にキッチンへ向かってから三春の隣に座る。手には小さな果物のアイスバーが2本。

「はい」

「ありがと〜!それでね──」

 嬉しそうに食べながら三春の話。なんでも何処かの何かの企画でゲーム内のスクリーンショットを投稿する『春のフォトコンテスト』というものが開催中らしい。スマホの画面を三春の太い指がつつき、賞品の一つを示す。

「僕この野菜ジュース1ケースでもいいなぁ」

「へえ、いろいろ貰えるんだな」

 何故か三春の指で画面をスクロールして見ていく秋高。恋人に手を握られているには違いないのだが、なんともいえない状況に三春は苦笑い。

「お、新しいサイクロンの掃除機もあるじゃないか。頼んだぞ三春」

「無理だよ〜」


 不思議そうな顔への返答。

「あのねぇ秋高さん、こういうのの上位層は廃人たちが画面に齧り付いてやるものなの!それもお風呂に一週間は入らないようなヒトたちがね!」

 謎の対抗意識だとかが込められた前のめりな発言に、秋高は曖昧に頷くだけ。

「お、おう、そうなのか……」

「そうなの!」

「というか三春も遊び終わったらお風呂は入ろうな?」

 本当は一緒に入りたかった秋高だったが、それを飲み込むのも年上仕様。

「はーい」

 という元気だけは良い返事の後、結局はなんだかんだと三春に丸め込まれて一緒にプレイすることになった秋高だった。


「いやー、俺も昔やったなあこれ」

「んふふ、2人のアイスを作ろうね」

 既に食べ終えたアイスのスティックを口に咥え、ソファーの三春は秋高に寄り掛かりながら言った。

「……ああ!愛の巣!?」

「それ!」

 ふざけた掛け合いをしつつ、仲良し犬猫の共同作業は続く。

「秋高さんは木を切ってきてね〜」

「ああ、任せてくれ」

「道具とかはそこの箱に入ってるから」

「お、準備がいいな」

「でしょ〜」

 恋人同士の和気藹々プレイ。分担しつつ建材の確保やらを進めていくのだ。

「まずはやっぱりカリキョ──えっと、仮拠点から作ってこうね」

「にしては、結構いいんじゃないかこれ」

 三春の作りかけ、既にある程度の外観だけはできているログハウス。森の中の小道、小さな川の隣に建っている。

「えへへ、でしょ!こういう丸太小屋みたいのってテンション上がるよね〜」

「ここもスクリーンショットに写すようにしたらいい」

「だね〜」


 大冒険ということもなく、木を切り、石を砕く音だけ。ブロックを積み上げ、クラフトをする音だけがリビングに響く。隣同士、お互いの体温を感じつつコツコツと進めていく。

 のんびりと口を開いたのは三春。

「もう暖かくなったし、春のお出かけしたいよね〜」

「そうだな、雪ノ町の時もすごく良かったしな」

 冬の季節といえばこの前に行った『雪ノ町』への観光旅行のことが思い出される2人だろう。

「また何泊かまとめて有給とってどっか行こ!」

 秋高の肩にどーんとぶつかりつつ元気な言葉。

「どこか行きたい所とかあるか?」

「ど〜だろ」

「それじゃお互い少し調べてから決めようか」

「だね〜」


 そうやってゆっくりとした2人だけの時間を楽しんでいた三春。

 だが隣の年上犬彼氏の真面目さ故のワーカーホリックな一面を見誤ってはいないだろうか。

「春のお出かけか〜、それにしても2人とも花粉症じゃなくて良かったよね〜」

「そうだな」

「だって──」

 一呼吸置き、三春はドヤッとした顔で隣を向いての決めセリフ。

「マスクじゃキスできないでしょ?」

「そうだな」

「んん?あれっ……?」

 思っていた反応とは違い、冗談を外したかと肩をガクンとさせた三春。静かなコントローラー操作の音が気まずさにその三角耳をぴくぴくとさせるのだった。


 そうしてそうして次第にのめり込んで真剣な眼差しになっていく秋高。

 三春はまだ気付かず、楽しくおしゃべりを続けていくのだが。

「2人だけの共同作業って、なんか良いよね〜」

 1人で語りつつ、肩や脇腹や太ももに秋高を感じながら頷く三春。

「『オレの背中は任せたぜ!』みたいなさあ、イチャラブ?マブ感あるじゃない?」

 すりすりと秋高の肩に頬を押し付けていた、そんな時だった。

「市仁くん、石材が足りなくなってるのは気付いているよね?」

「ほあ……?」

 急に職場モードの雰囲気、苗字と敬語で声をかけられて頭にクエスチョンマークを複数うかべてしまう三春。

「出来たら次は言われる前から建材のストックは3桁代キープを遵守して欲しい。それと羊の管理も任せたはずだけど、スマホのタイマーで時間ごとに回収を忘れないようにすると最高率で毛刈りができるはずだよね。鉄のハサミは第三畜舎前のチェストに入っているから使ったら戻しておいてくれるかな」

「え、あ、はい!」

 頷いて指示通りにせざるを得ない三春だったが、休日の夜のしっぽり2人で隣同士という最高のシチュエーションからどうしてこうなってしまったのか。

「な、なんかおかしくなーい……?」


 割と忙しなく効率プレイに急かされつつも、なんだかんだで2人で建物や景色を組み上げていくのは楽しいもの。

「い、いやー遊んだ遊んだ、今日はもうこんなとこだね。やっぱ時間足りないから応募無理そうかにゃ〜、しゃーないね」

 気付けば11時、三春はシャツが捲れてお腹が丸見えになるのも構わずに大きな伸び。

「秋高さん、そろそろ寝よっか?ね?」

「そうだな」

 コントローラーを操作するカチカチという音だけが無情に響く。

「会社の新しいイチゴのローションさ、すっごい良い匂いなんだけど嗅いでみたくなーい?」

「そうだな」

 カチカチ。聞いている気配は全くない。

 だから三春としては面白くなくって仕方ない。少し悪戯っぽく笑った後、トロリとした上目遣いで秋高の太ももを撫でながら誘ってみる。

「僕ね、秋高さんのが欲しくなっちゃった……かもぉ?」

「そうだな」

 とっておきのエッチ誘惑も完全スルー。三春は「嘘でしょ〜」とまる顔の頬を両手で押さえて小さな悲鳴。カチカチ音だけが聞こえるもの。

 半ばどころか8割はヤケになってマズルを尖らせて言う三春。

「僕、会社辞めて大食いファイターになろうと思うんだけど!?」

「そうだな」

「しかもベジタリアンのっ!」

「そうだな」

 そう、完全に聞いていないということ。


「ふーんだ……!」

 寝る前にシャワーだけは浴びる三春。自分で誘っておきながらゲームに彼氏を奪われ、2割くらいは本気で浴室に嘆きの声を漏らすのだった。

「うっうっ、僕の秋高さんが泥棒猫に取られだぁ……」


 * * *


 朝、ダブルベッドがやけに広いと思いながら起床する三春。

 秋高さんは早起きなんだからと眠たい目を擦りながらリビングへ向かったのだが。

「嘘でしょ!?」

 午前7時、外からは清々しい朝日と春風が入り込んできている。それなのにリビングのどんよりとした空気感は何故なのか。

「まだやってたの!?うわ、何これ……!?」

 リビングテーブルの上は散らかっていた。

 転がるはカフェイン入りのエナジードリンクの缶。プリントアウトされた誰かの作例のスクリーンショットサンプルにはペンで大量に書き込み。昨日2人で作っていたログハウスの奥を表している建築設計図の作り込みは丁寧そのもの。

 それらの努力が並大抵ではないのは、秋高の充血した目を見れば誰にだって分かるだろう。

「いやいやいや!こうはならないでしょ!?」

 朝から叫ばずにはいられなかった。

「おー……おはよう三春」

「おはよ秋高さん──って、どうなってるの!?」

「まあ俺も元は開発部だったし」

 2人の仕事、アダルトグッズ会社。秋高は今は営業部だが、少し前までは三春と同じ開発部だったからと説明。──したつもり。

「それとこれとは関係なくない!?なくなくなくない!?」


 そして机の図面や一晩のお陰で明らかな賑わいを見せるゲーム画面を確認、そのやり込み具合に恐怖する三春。

「うわ、怖っ……!」

 よく見ればスクリーンショット映え──つまりはフォトコンテストだけを重視しているようで、建物や景色の背面はスカスカ。徹底して一晩で仕上げるように綿密な計画の元に作られたのだと理解させられた。

「ああ、フォトコンには間に合ったから大丈夫だ」

「いやぜんぜん大丈夫に見えないけど!?」

 親指を立ててグッドポーズを取った秋高だったが、目の下のクマなど徹夜明けの疲労感がひしひしと三春に伝わってくるからだ。

「っていうか時間時間!今日の朝ご飯は秋高さんの担当だったじゃん!?」

「そうだな──あ!会社!仕事!」

 ようやく本当に目が覚めてバタバタと支度をし始めた秋高。三春だって大慌てで支度を手伝い、なんとか遅刻せずに済んだ2人なのだった。


 * * *


 それから2人がフォトコンテストなんて忘れかけた頃──もちろん騒がしい2人のことなのでたかだか一週間とかそのくらいの時。

「あ〜、なんかメール来てる」

「何の?」

「ほら〜、あのブロック積むゲームの春のフォトコン!」

「あ!あれか……次に挑戦するときはもっと戦略を立てて──」

 片手を口元に当て、完全仕事モードに入りかけた秋高。

「ダメダメやめて怖いって秋高さん」

 三春は慌てて制止しつつもメールを開く。文字を追い、理解し、口がポカンと開けられたままに。

「あ」

「あ?……三春?」


 端的に言えばほぼ秋高作のスクリーンショットが特賞を取ったと言うこと。中身はとある町のコテージ宿泊券。

 それこそ手放しで褒め、ぶつかるように抱きつく三春。

「いやんもう!あの朝は下手なホラー映画よりも怖かったけど、これならもう許しちゃう!」

「あ、あはは」

 少し照れくさいような顔で愛想笑いをする秋高。だが密かに心の中ではガッツポーズ。三春には聞こえない小声で「前回の名誉挽回したぞ、俺!」と呟くのだった。

 何せ、前回の観光旅行の宿泊券を商店街のガラポンで引き当てたのは三春だったから、意外と気にしていた秋高なのだった。


 * * *


Chapter②『買い物日和』

 次の週末、2人がやってきたのはアウトドア用品店。

 店自体は知っていたが特に入ったことのない2人は大きな店舗を見上げながら入り口へと歩いていく。

「いや〜、猪之頭さんにあれこれ借りれてラッキーだったね!」

 開発部の気の良いおっちゃん社員からキャンプに必要な品物をあらかた借りることが出来たのだ。三春はのんびりと言うが、秋高の反応は芳しくない。

「ま、まあ……」

「どうしたのさ秋高さん?」

「か、借りれたというか押し付けられたというか……こ、このところずっとキャンプの醍醐味を聞かされてたんだぞ!?」

 同じ部署である以上、借りた手前、秋高にはその話を遮ることなんてできるはずもなく……ということだ。

「あはは、趣味のことになるとうるさそうだもんね〜」

「はぁ……とにかく、今日は他に必要なのを買い揃えていくぞ」

「はーい!」


 店に入ればアウトドア用品の展示がズラリと並び、一気に客の少年心を掻き立ててくるディスプレイとなっている。

「わー広いね〜、今まで来たことなかったけどワクワクするね!」

「確かに……凝り始めたら沼だな、これは」

 テントなどの大物を始めとし、キャンプ場を模した展示の数々。もちろん各コーナーでは拘りの小物から、何に使うのかも分からないような器具までが満載。隅々まで見れば丸一日は必要なのではないかと思うほどの充実っぷり。

「なんだっけ、猪之頭さんから必要な物のメモを貰ったって言ってたよね〜?」

「…………。」

「な、なに?」

 渋い顔をした秋高、そっと無言でソレを取り出して三春へと手渡した。

「うえ!?なにこれ、レシートみたいになってるけど!?」

 独身貴族の拘り中年キャンパーの書いたメモはそれはもう縦に長く長く、三春の目が滑ってしまうほどの量。

「な?……大変だったんだよ」

 秋高が遠い目をしているのも、少しは分かってしまう三春だった。


 そんな騒動もあったが気を取り直し、2人は見知らぬ店内をまずは思うがままに散策。

 まず目についたのはテントにタープ、折り畳みのテーブルから椅子などの大物。

「ここら辺は借りられたから大丈夫だな」

「うわ、けっこうするんだねぇ……」

「俺たちは毎週キャンプする訳じゃあないからなあ」

 思い思いに見ていると三春が声を上げる。

「あ!でもこれは欲しくない!?」

 蛍光カラーから迷彩柄、他にも民族模様風などのハンモックの陳列を指さしたのだ。

 だが秋高は無言で商品タグのある仕様を見せつける。

「ん」

 そこには体重制限。

「な、軟弱者ぉ……!」

「まあハンモックじゃ一緒に寝れないだろ?」

「あん、もぉ!もぉ〜!」

「こーら三春」

 一応はフォローしてくれている秋高に何度も抱きつき、三春は夢のハンモック生活を諦めるのだった。


 道なりに歩いていけば発電機やクーラーボックス、それに。

「見て!バーベキューコンロがある!これで毎週でもお肉焼いたりできるじゃない!?」

「駄目。うちの狭いベランダでやったら多分通報されるぞ」

「う、確かに」

「いつだったか、秋刀魚を焼こうとしたおっさんが居たろ」

「あの時は消防車まで来てすごい騒ぎになったもんね……」

 思い出してにが笑いせざるを得ない2人なのだった。



 食器コーナーを見れば、やはり普段目にするものとは違った品々が2人の目を楽しませてくれる。

「せっかくだから持っていくマグカップくらいは買おうか」

「お揃いのやつぅ〜?」

 カップル感を意識させる悪戯っぽい三春の問い掛け。

「……お揃いのやつ」

 少しだけ気恥ずかしいけれど、それはそれで嫌ではない秋高の小さな返事なのだった。

 そうして見て回ることになったはいいのだが。

「じゃーん!こういうのは!?」

 三春がまず掲げたのはまるで冒険者が使うような、金属補強された木製のクソデカジョッキ。まるで中世映画の小道具。

「却下、バイキングじゃないんだぞ」


 次、三春のむっちりした手が二つのマグを抱えて。

「ねね!これはこれは!?」

 それは目が覚めるような真っ赤なマグカップで、今しているように二つ並べるとハートの形になる品。どちらにも書かれた文字を繋げて『LoveLove』となるのがなんとも小っ恥ずかしい。

「却下!外でこれ使えるか!?いや、家でも無理だろ!?」


 さらに次、少し変わった形状。

「それならほら、飲み過ぎ防止機能付きのこれなんてどう!」

「マジックでもするのか?」

 それはピタゴラスのカップと呼ばれる仕込みが内蔵されており、一定以上を注ぐと自動で溢れてしまうという。サイフォン効果がどうとか書いてあるが、ともあれ三春には向かないだろうという結論に落ち着く2人。

「三春くんには少し早かったかな」

「うう……悪魔の発明!」


 などと紆余曲折ありつつも、最終的に選んだのは無難などこにでもある普通の見た目のマグカップ。お互いに相手のを選び、三春には柔らかな色合いのピンク、秋高には落ち着いた紅葉色。

 手で大事そうに抱えつつも、三春は安っぽい恋愛ドラマを想起させるような芝居がかったセリフを言い出す。

「あん……これが割れたりして2人の破局が始まってしまうのね……」

「いや、割れない素材の奴を選んだからそれはない」

 持ち運ぶのを想定している物だしと、バッサリと言い切る秋高。

「秋高たらシゴデキ〜」

「こーら、くっ付かない歩きにくいだろう」



 更に店を進めばガラスケースが並べられたコーナーへ。

 ライターひとつとっても、最新型の多機能なものからアンティーク調なものなど様々。使い捨てのマッチや火打石なども並んでいることから、ここは火おこし用の道具売り場のようだ。

「ほえー、色々あるんだね〜」

「ライターあれば良くないか?」

「えー、あの木の棒をグリグリして火を起こしてみたくない?」

「あれ案外大変だってテレビで見たぞ」

 空中で錐揉みの動きを再現する三春を、秋高は冷静に捌く。

「そ、れ、と、も!秋高さんはコッチのが好き〜?」

 かと思えば三春、棒を握るような手の形で縦に動かし始めてしまう。男ならば見覚えのあるシコシコという動きは、そう──。

「やめなさい」

「あだッ」

 などとふざけ合ってはいたものの、結局2人が選んだ火おこし用の道具はこれに。

 筒状の本体に棒状の装置を押し込み、空気圧で火種を得るファイヤーピストン。無骨な金属製で男心をくすぐらずにはいられない。

「これ!やばいって秋高さん、カッコ良すぎる……!」

「う……確かに」


 隣に数歩いけばガラスケースの中には数々のナイフ。

「あー、こういうのこないだの映画で見たよね!?」

「犯人の地下倉庫にナイフがずらっと並んでたとこだろ?」

「それそれ」

 物騒なようなそうでもないような話をしつつ、お手頃価格の鹿角の万能ナイフを一本お買い上げ。


 他にもテント補強や物干しにも使えるからとロープを1束とカナビラを一纏めカゴに放り込んでいく秋高。

「洗ったのを干すのにも使えるから1セット買っておくか」

 ふと振り向くと視線、それは三春のなんとも嬉しそうなニマニマ顔。

「三春どうかしたか?」

「あ、もう……もぉ〜………あ、秋高さんたら過激なんだからぁ」

「こら」

 SMチックな用途を想像しているだろう三春に、秋高は呆れつつも買い物を続けるのだ。


 特に三春は寝袋コーナーが気に入ったよう。

「こういうのに2人で入って密着したらドキドキしちゃうよね!?」

「物理的に不可能じゃないか?」

「あ、秋高さんの……ばかーっ!」

 流石に成人男性が2人で入れはしないと真顔で返した秋高に、三春は叫んでしまうのだった。しかし案外、体格の大きな獣人向けの特大寝袋も揃えているようで足の止まる2人。

「こんな大きいのもあるんだな」

「世の中は多様性なんですぅ〜」

 そうして購入の検討。春の季節、防寒の意味ではいるかと言われたら微妙なところ。

「でもほら!また次から使えるでしょ?」

「それもそうか」

 やや丈の長い物、かなり横幅が拾い物との2つを買うことに。ショッピングカートを探しに行く三春が両脇に嬉しそうに丸めた寝袋を抱えている様は、まるで。

「……米俵みたいだな」


 どこまで行ってもこの店には冒険心をくすぐる品々ばかりが出迎えてくれる。あのコーナー、そのコーナーと2人の足が止まるごとに目を輝かせられるのだ。

「見てるだけでも楽しいね〜」

「少し猪之頭さんの気持ちが分かったかもなあ」

 秋高は書いてもらったメモを頼りに商品を品定め。例えばコンパスやら地図、ヘッドランプだとか折り畳みシャベルだとか。

「って、いやいや!?ここまでは要らなくない!?ゴールドラッシュじゃないんだから!?」

「あ、危なかった。雰囲気に呑まれていたな俺」

 店内の開拓者魂に乗せられかけていた秋高、頭を振って理性を取り戻す。既にカゴとカートの中はあれこれが満載。レシートのような長大なメモをチェックしつつ、秋高はとりあえずお会計に進むことを決定。

「あとはもう細かいのは100均で買うかな」

「主婦〜」


 一旦、家に帰って荷物を置き、近所の100円均一ショップへ。

 普段から日用品はここで買っているので、秋高の足取りはスムーズ。

 何よりキャンプ用品のコーナーがあったので、そこをぐるりと回るだけで一通り必要なものは揃ってしまった。ダクトテープだとか各種ゴミ袋、虫除けスプレーや予備の電池、折り畳みのバケツなどなど。

 三春はどこからか見つけてきたホイッスルをカゴに投げ入れて自信満々。

「これで豪華客船が沈没しても大丈夫だね!?」

「行くのは山だぞ」

 などして、またしてもカゴの中はあっという間に一杯だ。

「こんなところかな」

「おやつも買っていーい?」

「300円までな」

「遠足!?」


 帰ってダンボールに荷造り。主要なキャンプ用品は借りられたので、2人分とはいえ大した量ではない。それでも自分たちで支度をするということにこそ意味があるもの。

「なんだか実感湧いてきた!楽しみだね!?」

「ああ」

 静かに頷いたあと秋高、自分と三春にエールを送るように言う。

「だからあと一週間、頑張るぞ」

「はーい!」


 * * *


More Creators