春④
Added 2025-07-15 13:51:19 +0000 UTCChapter④『2日目 テント生活』
本当は朝風呂にも入ろうかと話し合っていたが眠気には勝てなかった2人。宿の朝食を済ませ、2人して忘れ物がないか確認してチェックアウト。
「お世話になりました」
「なりました!」
頭を下げて鍵を返却。最初はこの奇妙な造りに翻弄されてはいたが、帰るとなると名残惜しいもの。
「いや〜、最後まで迷っぱなしだったね」
「まったくだ」
「それにあの仲居さん!絶対忍者だったってば」
「またそれか三春」
その後、宿のホームページで鹿お兄さんな仲居さんが双子だったことを知って納得する2人だが、それはまた先のお話。
* * *
レンタカーに乗り込みシートベルト。カチャ、が二つ。
「さて、今日からはお待ちかねのキャンプ場だぞ」
「待ちに待った自給自足生活!」
「いや、そこまでじゃあないだろ……」
「でもスマホの電波も入らないんでしょ!?」
「あー、多分」
「……さよなら僕のログインボーナスちゃん」
目をうるうるさせる三春を放置し、ガイドブック付属の地図を広げる秋高。
「もう一度さて。今日まわるのはこの『茎ノ内』って所がメインだな、ほらおっきい川があるだろ?」
指をさした一帯、ここは地形ごとの様々な自然観光がメインとなった区画。
「おおー、渓流下りはここなんでしょ?」
「そういうこと、もしかしたら向かう途中で橋から見えるかもな」
「そしたら手でも振っちゃう!?」
「恥ずかしいから止めなさい」
* * *
大きな橋で茎ノ川を越えたが、幸いなことに下ってる船はいなかった。
そうして到着するのは『花咲町キャンピングサイト』。
受付で大柄な熊獣人種のおっちゃんから色々と説明を受け、予約してた場所の確認。
「おーう、楽しんで〜」
「はーい!」
「どうもー」
楽しく返事を返し、キャンプ場の中央の方を見る2人。
真ん中には釣りもできる小さな湖があったり、浅い川では子供が遊んでいたり。他にも温泉やレストランなどもある中央エリア、それをぐるっと外周の道路で包んでいるのがこのキャンプ場の造り。
秋高が借りたキャンプ地は特に奥まったところで、より大自然を感じられる森の中といった印象。
「おっ、雰囲気でてきたな」
「僕たちだけの土地〜。木材と石材も多いし、良いとこだね〜」
ややゲーム脳な感想を述べつつ、三春は「ここを本拠地とする!」と腰に手を当てて指を遠くに指して吠えた。
「三春、荷下ろしするぞー?」
「あ、はーいっ」
停めた車からキャンプ用品一式を降ろし、秋高が取扱説明書をじっくり見ながらテント組み立ての開始。借り物なので大事に扱いつつも、固定用のペグ打ちだけは大胆に。あとは中にマットと寝袋を広げ、LEDランタンを吊るせば雰囲気もバッチリ。
「かんせー!」
「うん、これで良し」
せっかくなので寝心地をと、2人して寝転んでみる。鳥の囀り、木々が春風にそよぐ音。静かにすることで少し遠くで流れる小川の音だって聞こえてきた。都会では決して味わえない、のどかな時間。
「テントって思ったより快適だね〜」
「そりゃあこれ、ネットで調べたらかなり高い奴だったからなあ」
「お、漢の趣味ってお金かかるんだねぇ」
会社の猪ノ頭さんに感謝しつつ2人だけの新居で少しだけゴロゴロ。けれど密室となれば三春の甘え癖が出ないはずもない。
「ぎゅ〜」
「こら」
「なんで?」
「あちこち回るんだろ?」
喉をゴロゴロと鳴らし、三春の額が秋高の腕に擦られる。
「あと5分だけ〜」
「そう言った三春が起きた試しがないんだけど?」
「ううー、起こして〜」
仕方ないと起き上がり腕を引っ張る秋高だったが、やはり重いは重く。
「三春にまでペグ打ったっけ……?」
と呟いてしまったとか。
* * *
テントから這い出た三春に秋高からの提案。
「車でも言ってた渓流下りだけど、船の予約まで時間あるから少し歩こうか」
「僕が好きなのはバイキングなのに〜」
「“ハイキング”ってことで、近くの山へ行くぞ」
「ここも山じゃない……?」
最もな三春の呟きと共に、木々をかき分けて山道を進んでいく2人。階段だって簡素な枝を打ち込んだだけ、場合によっては岩を乗り越え山を分けいって。木陰の下を歩けば通り抜けていく風には新緑の芽吹きが混ざっているよう。
「やっぱり空気も美味しい気がするな」
「ね、高い空気清浄機の匂いがする〜」
「それは……どうなんだ…?」
などと喋りつつも両足を動かす2人。三春がスマホの現在時刻をチェックしつつ尋ねる。
「でもそんな山登りしてるような時間あるの?」
「あー、いや……」
少し困ったような顔の秋高は足を止め、周りを見渡す。もちろん単なる山の森でしかないけれど。
「なにさ」
「終わった」
「なにが」
「ほら」
秋高の指差す先には小さな看板。
『この国で1番低い山』
という標語と共に細かい字で補足が書いてあったりする。つまりはもう登頂完了。登山はおしまいということ。秋高としてはもう少し景色の変化があるかと思っていたからこその困り顔だった。
だが三春はどこか嬉しそうに叫ぶ。
「……もしかして僕たちって登山家の才能ありまくりってこと!?」
もちろん無いけれど。
* * *
「うわお、揺れてきたぁー!」
「ちょ、三春引っ張るなって」
船の先には長い真竹の棒を持った船頭さん、乗客は2人を含めて20名ほど。揺れと水飛沫にキャッキャと悲鳴を上げながらしがみついてくる三春に、秋高はもう物理的に振り回されっぱなし。
「皆さん落ちないでくださいね〜!ここから急流ポイントが続きますから、是非とも楽しんで!」
もちろん全員、オレンジ色のライフジャケットを装着済み。三春のだけは延長ベルトが必要だったけれど。
船頭さんの言葉通り、川の先には明らかに水飛沫の立っているポイントが見えてくる。これは荒れる予感と、より三春の声には期待感。
「だってさ、秋高さんっ」
「こら、だから引っ張るな──」
船頭さんの巧みなテクニックで難所をスルリと抜けたり、反対に思わぬ所でわざと揺らされたりすれば2人は知ってはいたにしろ濡れネズミ。大声で急流の揺れを楽しむ観光客に混ざり、大いにその非日常感を楽しんだ2人だった。
「あとは穏やかな流れが続きますので、カメラやスマホを取り出しても大丈夫ですよ」
「……こ、こういうのって順番、逆じゃないのか」
「まあまあ」
どちらかといえば三春のテンションの高さに怖い思いをした秋高はようやく胸を撫で下ろしている。元凶となってもまだまだ熱の冷め切らない三春は秋高の腕を絶対に離そうとしないのだった。
打って変わって今度は渓谷の美しい岩肌、滝、緑豊かな風景などを楽しむことができる。船頭さんはカメラのシャッターボタンを連打する観光客には慣れっこのようで、手慣れた仕草でとある方向を示す。
「では、あちらに見えますのが『夫婦岩』です。旅の記念にお写真はいかがですか?」
写真映えするスポットとなれば盛り上がるのも当然。それは寄り添うどこか人型に見えなくもない2本の大岩が寄り添っているもの。
船頭さんは船の速度を落とし、大岩に纏わる昔話を。身分違いの恋が2人を引き裂こうとしたが、離れることを拒んで2人して飛び込んで天に召され、岩に姿を変えたと語ってくれる。
「へ〜、ロマンチック〜」
「……三春が飛び込んだら俺1人で引き上げられるだろうか」
うんうんと頷きつつも、全然違うこと考えてる2人だった。
「さて、お次に見えますあちらの大岩。地元の人が名付けた通称があるのですが、分かる人いますか?」
そうして次に示されたのは同じような人型に見えなくもない大岩が、微妙な距離感で2本立っているもの。クイズ形式のような質問だ。
他の観光客たちは考え込んだ後に「鳥居岩!」や「双子岩!」、「行列岩」だなんて声を張り上げるがどうやら正解ではない様子。
「なんだろう、三春わかるか?」
そんな中、俯いていた三春が珍しく真剣な顔で顔を上げて言う。
「僕、わかっちゃったかも」
「お、本当か」
「ズバリ──夫婦じゃない岩!」
あまりにも自信満々な大声。しかし秋高はぼやく。
「そ、そんな訳ないだろ……」
肩を落とす秋高、笑う観光客たち。しかし──。
「あっははは、大きいお客さん良く分かりましたね!私も船頭やって30年ですが、これ当てられる人なんて滅多にいないですよ」」
「むふふ、やっぱり僕って天才かも〜」
そうして和やかに写真撮影。大岩をバックにポーズを取って撮ったり、二つの間に座っているように撮ったりと思い思い。
だが秋高だけは──。
「な、納得いかない、それじゃあこの世の全ての岩は『夫婦じゃない岩』じゃあないか……」
などして気付けば終点。
「それではご乗船、ありがとうございました〜」
「はーい、楽しかったですー!」
「ありがとうございました」
その頃には最初に濡れた服もおおよそ乾いており、秋高も「なるほど」と頷くのだった。とはいえ三春は1番身を乗り出していたので乾く乾かないの次元ではなかったけれど。帰りもシャトルバスでキャンプ場まで送って貰えるので乗り込んで話す2人。
「キャンプ場に戻ったらシャワー使わせてもらおね〜」
濡れたシャツがむっちりとした肢体に張り付いてしまっている三春、それをじっと見つめて秋高はやけに静か。
「秋高さんどうかした?」
「今夜は抱くから」
顔を寄せての小声ながら、聞き間違いなど絶対にない断定の声。
「え、え?なんで?えぇ?」
ドキッとさせられてしまい、濡れているのに身体が熱くなるのを感じて聞き返してしまう三春。
秋高は答えない、濡れシャツに浮いた三春の色気ずいた乳首に欲情しただなんて、こんなところで口にする訳にはいかなかったから。どちらも頬を赤らめて、バスに揺られゆくのだった。
* * *
お次はキャンプ場の端にある鍾乳洞見学。
ランプ付きのヘルメットを借りて地下へ。金属製の螺旋階段を降りていくごとに、明らかに温度が低下していくのを感じる2人。
「うわ、涼しいね〜」
「いやこれは普通に『寒い』っていうぞ」
僅かに身体の獣毛が生乾きなのは、キャンプ場の簡易シャワーの横の全身乾燥機が古い型だったから。
「まっさか〜!?」
「ほら足元見て歩く。気を付けないと真っ逆さまだからな」
ようやく階段が終われば狭い岩肌の順路が現れる。少し歩いた次の瞬間には、広大な地下空間が2人の目を楽しませてくれること。
「おわ、すっごいね!?」
「ああ……!」
自然形成された鍾乳洞、僅かな水滴によってキラキラと輝くのは圧巻の光景。奥にどこまでも広がっているようだが、順路の小さな灯りではその果てを確認することはできないだろう。
「やっほー!」
「……やめなさい」
山彦ではないのだから声が返ってくることはないにしろ、面白い反響の仕方で耳だって楽しませてくれる。
誤算があったとすれば後から来ていた家族の子供達まで真似をしてしまい、厳かな雰囲気がぶち壊しになったことだろうか。秋高は曖昧な顔で親御さんたちに会釈をし、三春を引き摺りながら先へ進むのだった。
途中途中で解説の書いてあるプレートが設置してあり、何万年前から形成された何とやらと説明をしてくれている。流し読みしながらも秋高は三春から目を離さず進みゆく。
「いや〜、僕たちの足元にこんなすごい景色があるなんて来てよかったね」
「都会じゃあ見れないもんな」
「アァ!?」
ワクワクした顔が一転、驚きの表情になる三春。
「な、なんだ?」
もしかして大きな虫でも見つけたかと眉を顰めた秋高。
「見て秋高さん、あの鍾乳石の形ってちん──あだっ!?」
決してその指をさした方向を向くことなく、小さな拳骨を三春の頭に降らせた秋高だった。
そうして進んでいけばライトアップされた巨大な水晶が迎えてくれる。半分に割った楕円型の岩の中に、びっしりと水晶柱が並んでいるものだ。
「おお、これはなかなか……」
「すっごいね、キラッキラだね」
しかし直ぐ、また間違いなく余計なことを思いついた時の顔をしている三春。
「でもさ、これってあれみたいだね」
「……何?」
秋高が警戒した顔をしているにも関わらず、平然と言うのだ。
「ほら、しばらく掃除しなかった時の冷凍庫みたい!」
じっとりとここより湿った視線を向けられ、三春は謝らずにはいられない。
「ご、ごめんって!?」
そこから先は展示スペースのようになっており、様々な産地から集めた鉱石の原石などが所狭しと飾られている。もちろん三春の目を1番輝かせるのはこれ。
「ほら?」
「あんもう、ダイヤ大好き〜」
他にも複数の鉱物や結晶が結合した宝石──複合石なんてものも目を引く。
「わ、すご!」
「こんなのもあるんだなぁ」
「宝石の宝石箱や〜」
「それは……そうだろう」
他にも巨大水晶などは成人男性の縦横を優に超えている。
「あーっ、こんなの玄関に飾りたいね〜」
「いや、置くとこないだろ!?」
他にも球体に加工されたキャッツアイが台座に嵌め込まれており、三春がそこに頬を寄せて比べてくる。
「ほらほら秋高さーん、僕とどっちがキレイ〜?」
「はいはい、三春くんの方が可愛いよ」
割と手抜きな頭ぽんぽんではあるものの、三春くんの口元を上げるには十分。
「わあぁ……普通に嬉しぃ」
「よしよし」
順路の解説看板の様子から、そろそろ探検の終わりが匂わされてしまい三春のぼやき。
「あぁ〜、涼しいからここに住んじゃいたい」
「電波入らないけど良いのか?」
「……やっぱなしで!」
歩みが遅くなっていた三春だったが、秋高のお陰で復活。
「あはは、ちょうど出口みたいだな」
「なんだか驚いてばっかであっという間だったね」
「ああ、言葉では言い表せないっていうのはこういうことだったな」
上りは緩やかな階段で、きちんとした建物のそれ。名残惜しさはあるが、こういった感動はきっと忘れることなんてないと2人してしんみりと洞窟を抜ける。
その先に待っていたのは──。
「へ?」
「三春、どうし──え、えぇ……?」
階段を上がるとそこは資本主義丸出しのクソデカお土産コーナー。
「これは流石の僕でも……」
「で、でもまあマーケティングとしては正しいんだろうけど……」
「せっかくの感動かえして〜!?」
「あっははは」
一気に現実に引き戻されてしまったたが店内は興味深い石や宝石の売り場となっているようだ。先の鍾乳洞産──ではないがお守りの水晶などなど、お土産としては面白い品々ばかりだろう。
地下とは打って変わり眩しいほどの明るい照明、商品展示は煌びやかでキラキラと。お守りだとかパワーストーン、宝飾品などなど目を引くもの数多。
三春はガラスケースの豪華なブレスレットの値段を、ゼロが何個あるか分からないからと丸っこい指で数えていたり。秋高は秋高で商品の陳列や埃の具合から売れてない商品をチェックして気にしてたりと自由気ままに過ごして。
普段は目にしない物は三春の好奇心を掻き立てる。その手が抱えているのは手のひら大の水晶クラスター。
「よくわからないけど欲しくなるよね〜」
「重っ、どうするんだよこれを」
「だ、大根おろしに使う……とか?」
「戻しておきなさい」
「は、はぁい」
実際には宝石でなんてないくせ、観光客に売れているらしいムードリングなんかも三春の興味をそそる。その『体温の変化で装着した人の気分が分かる』という説明文を読んで秋高に声を。
「ほえー、気分がわかっちゃうんだって」
薬指の途中までしか入らないにしろ、試しにはめて見せる三春。色は緑。
「これだと、リラックス状態か」
秋高も説明文を読んで答えた。
「見てて〜」
「青もリラックスだって」
なので三春はわざとらしく目を閉じ、意識を集中して思考を回転させている──ような顔付き。
「むむふ……むふふ…むふ……」
チラと目を開けるが、怪訝な顔をした秋高が目に入るだけ。
「あれっ、全然変わってない!?」
「何か考えて──三春、こら」
きっとそれが間違いなく馬鹿なことをだと気付き、目付きが鋭くなる秋高。
「だ、だってせっかくだし、ね?」
「何もせっかくじゃあない」
「秋高さんこれお揃いで買ってつけてようよ〜?そしたらほら、ムラっとした時とか分かって便利じゃない!?」
「便利じゃない」
仲の良い掛け合いは止まらない。
「むっつり」
「むっつりじゃない」
「ほんとに〜?」
三春がニマニマとした笑みを崩さないで煽ってくるものだから、秋高はその太ましい腰を抱き寄せて明言する。
「本当に夜は抱くからな」
「ッ!?……も、もぉ〜!」
なんだかんだで売り場を楽しんだ2人。
最終的にはお互いの誕生石というのをその場の解説看板を見ながら購入。
三春は3月生まれのアクアマリン、秋高は9月生まれのサファイア。鮮やかな水色と濃厚な青色、色味の上で似ているもの。
「あら〜、僕たちってお揃いじゃない〜?」
「知ってる」
周りに誰もいないのをチラと確認しつつ、秋高は三春の柔らかなほっぺにキス。
「ス、スパダリ……!」
尻尾を膨らませてビンと真っ直ぐに立たせて喜ぶ三春。痺れるような嬉しさを耐え切ったと思えばもう次の催促。
「ね、もう一回やって!?」
「だめ」
「お願いお願い!」
「だーめ」
* * *
この土地ならではのアクティビティを楽しんだ2人。
「それじゃあ秋高さん、戻ろ──じゃなくて、帰ろっか」
「ああ、と言いたいところだけどアレは良いのか?」
どこを経由するにも中央エリア、管理棟の脇を通るのだが、このキャンプ場を借りているヒトたちが受け取っているもの。それはテント生活には欠かせないBBQセットで、料金のうちに入っているので貰わない手はない。
「そうじゃん!」
「ささ、腹ペコ君どうぞ〜」
芝居がかった態度の秋高は三春にそれを受け取らせつつ、自分はビールなどを買っておく。
もう釣りをしているヒトはいないものの、小さな池は見ているだけで涼しげ。小さな橋をいくつか渡って小川を超えて我が家への帰路。
家族連れやカップルたちも同じようにそれぞれのテントへ向かうのでどうにも賑やか。秋高の気持ちもそれらに釣られ、何となく2人でBBQセットの袋を持つ。
「こうしてると子供連れみたいだね〜」
のんびりとした三春の言葉だったが、秋高はギョッとした顔で見返す。
「……い、今から食べるんじゃないのか?」
「え、あ!そ、そうだけど、違うでしょ〜!?」
笑い合う2人、足取りだってシンクロ。
「伝わってよ、もぉ〜!」
「あっははは」
帰ればビールなどをクーラボックスへ。
三春もセットの中に入っていた木炭を並べている。既にレンガで簡易的な枠が出来ているのであっという間に支度は済む。
「ゲームで練習しておいてよかった〜」
「そ、そうか?」
あとはそう、アウトドア用品店を練り歩いた成果の出番。
秋高が万能ナイフで枝から木屑を削っていく。
三春が嬉しそうに取り出したのはファイヤーピストン。中に着火用の綿を装着し、秋高から貰った木屑の横で構える。
「見ててよ見ててよ?」
「頼むぞ三春」
「うお〜、ハイッ!」
筒状の鞘に勢い良く押し込まれた金属棒、思っていたよりも地味な音。どことなく缶のプルタブを開けるような、そんなイメージ。そっと筒を引き抜けば、内部では綿がうっすら燃えて火口状態。
「あーっ!ほら見て!赤くなってる!」
1人で大騒ぎの三春。
「あっ、落ちた!」
悪戦苦闘しながらも着火しようと木屑の上に火口を落とす。あとは両手で風を防ぎつつ、屈んでフーフー。
──している三春の大きなお尻に勝手にムラ付く秋高。
「うひゃ……な、なにしてるの?」
一生懸命している最中に急に後から抱きつかれればそんな声も出る。
「お、応援……かな」
「気が散るんだけど?」
「俺は落ち着くよ」
「え、ええ〜」
木屑から煙が出ているので作業を止めるわけにもいかず、何とも言えない少し嬉しい顔で息を吹き続けるしかない年下猫彼氏。
「どうしたの三春、赤くなっているよ?」
「こ、これは夕日のせいです〜」
だなんてはしゃいでいれば着火。新聞紙だとかを丸めた上に移し、木炭の上にそっと着地。あとは三春がうちわでパタパタと扇げば火の支度は完了。
「おっ、良い感じになったな」
「えっへん」
秋高が椅子と机、BBQセットとビールを用意。金網を上に配置。
セットの中身はファミリー向けの簡単な焼肉セットだが、2人で食べるには十分な量。何より、こうして大好きな相手と作るのだから。
秋高がトングで野菜とお肉をキレイに並べ、良い感じに煙が上がってくればいよいよ。
「じゃあ三春」
「もちろん秋高さん」
缶ビールを勢いよく開け、赤くなってきた空に吠えながらぶつける。
「「乾杯〜ッ!!」」
立ち昇る煙、じゅうじゅうという音、炭と肉の脂の匂いも堪らない。
「2人だけの無人島生活も悪くないね〜」
「はいはい。ほらお肉、焼けたぞ」
「ありがとっ」
「野菜も食べなさい」
甲斐甲斐しくも盛り付け。
「もう秋高さんたら、僕をどうしちゃうつもり〜」
「タレはここのキャンプ場の特製のなんだってさ」
話が噛み合っていないままでも箸は踊り、幸せが口いっぱいに広がる。
「まだまだ大きくしたいだなんて〜」
「うーん……これ以上はちょっと困るかな」
「え、嘘〜!?そんなぁ〜」
炭は最後までしっかりと燃え続け、BBQセットの中身を空にするまで2人は笑い合ったのだった。
火の始末に後片付けも協力すればあっという間。
お腹がこなれるまでと、広げた寝袋の上で横になる2人。天井部分の布地を開くと蚊帳状の薄ネットとなっており、見上げるだけで即席のプラネタリウム。
「なんだか街よりも星がよく見えるね〜」
「本当だ」
互いの獣耳がぐんにゃりとするくらい頭を密着させ、夜風のなかに体温を感じ合う。
「このまま寝ちゃいたい〜」
「まだ7時だぞ」
「うぇ?ほんとだ、なんだか時間もゆっくり進んでるみたいだね」
「こうやってのんびりするのも良いよな」
普段だったら逆、今夜は秋高の方から三春を大きなぬいぐるみのようにぎゅうと抱く。
そうなれば三春の満腹な胸はドクンと高鳴っておずおずとした問いかけに。
「で、その〜……秋高さん」
「なんだ?」
「今夜って……やっぱりする、よね?」
「抱くって言ったろ?」
耳元で囁くどころか、三春の猫耳を甘噛みさえ。
「ふぁ……も、もぉー」
そうして三春は近場にある簡易シャワー室で支度。下半身を気にしながら帰ってこれば小さな歓声。
「わお」
さっきまでは雑然としていたテント内部にはおろし立ての真っ白なシーツ。LEDのミニランプが可愛らしく並べられ、入り口の地面には香りの良いお香まで。
「おかえり三春」
「た、ただいま秋高さん」
穏やかなムード、リラックスした秋高が隣をぽんぽんと叩く。テントに入り、そっと戸締りする三春。
互いに座り込み、真正面からキス。抱き合う腕、コツンとぶつかり合う膝。
「ぁ…ふあ……ンッ…ぁ………」
「ふふ、珍しく大人しいじゃないか」
「だ、だってぇ……昼間から秋高さんが意識させるようなことゆーから」
秋高は少し黙り、言うか言うまいか迷っていたことを。
「渓流下りの時、シャツ透けて乳首見えててさ……ムラっとさせたのは三春だぞ?」
「ッ……い、言ってよぉ〜?!」
「今言った」
撫で付ける秋高の指がそっと三春の胸の膨らみを捉える。こんな可愛いところを見せるのは自分だけにしておいてくれよ、とでも言いたげな動き。
「ん…ぁ……もぉ〜……あ…ッ………」
柔らかなランプのひかりの中、互いに衣服を剥ぎ取っていく。
「こ、こんな……テントの中だけど、脱いじゃうのは…すごい興奮するかも」
「……俺も」
普段だったら脱がし合いの最中だってふざけ合う2人だが、今日はやけに緊張気味。直ぐに互いがとっくに勃っているのが分かり、2人して「あはは」と。
足元から照らすミニランプの光源のせいか、いつもより裸体の陰影が味わい深い。三春のもっちりと豊かな横に大きい丸い身体、秋高のスラリとした縦に長い大人らしい身体。
大自然の中、テント生地一枚を隔てて全裸。近くに誰もいないのが分かってはいても大興奮の2人なのだ。
「……キャンプ好きなヒトの理由がわかっちゃったね」
「ほーらふざけない」
もう一度、生まれたままの姿で口付け。
「あ…んぁ………」
「三春、可愛いよ……」
互いの獣毛を、その下の火照り始めた肌を感じ合う。
いつの間にか押し倒したのは秋高の方から。しかもその体勢は恥ずかしそうにするのも仕方のないシックスナインの形。
「わ……秋高さん大胆……」
「い、いいか?」
三春の返事は行動で。上から突きつけられる秋高の雄を一口にパクリ。
「ンッ……あ、こら…」
お返しにと秋高も顔を目の前の太々しい若竿に埋める。
「ンアッ…も、もぉ〜……」
そこからはしばし無言。自分の持てる力を使い、ただ相手を気持ち良くさせたいと頑張っていくばかり。ぴちゃぴちゃと水音、唾液と先走りに喉を鳴らす生々しい嚥下音。
気持ちが良いのと気持ち良くさせたいの想いが駆け巡り、2人はテント内部をあっという間に情欲の匂いで満たしてしまう。
「三春、気持ちいい……?」
「……き、決まってるでしょ」
「先走り、しっかり出てるもんな」
「秋高さんもでしょ……」
お互いに恥ずかしいのを堪えつつ舐め合い、その潮味に余計に頬を赤らめる。自分がその味に照れているように、相手にだってゴクリと飲まれているのだから。テント内部は2人の喘ぎでいっぱい、口の中は艶かしい味でいっぱい。
「…これ…やっぱり気恥ずかしいけど…興奮するな……」
「あ、はは……ンッ………秋高さんのビクビクしてるっ…」
場所も行為も余計に快楽をスパークさせ、腰がガクガクと揺れてしまうのを抑えられないのは2人とも。
「三春のだって、俺の口の中いっぱいだ」
「っ…あ……それ、気持ちぃ……」
「うあっ…さ、三春、こら……ッ…」
「……だって…2人で…もっとぉ……ンチュ…」
どちらかの足がテント生地を押し、大きく揺れてしまうのだって気にする余裕はない。ガサガサ、ゴソゴソ。どちらともなく腰を押し付けたり逃げたり、どちらともなく口と喉と舌で雄部分を丹念以上に刺激して、ついには。
「「〜〜ッ!!」」
弾ける腰下の感覚が走ったのは2人ほぼ同時。上下の違いはありつつも、嬉しくなってその白濁を喉へと導いていく。ごっくんと最後に喉を鳴らすまで、口を離すことだってしない2人なのだった。
「いっぱい出たね」
「ん」
秋高は三春の太ももを枕にするように倒れ込み、短い返事だけ。
「……の、飲まなくても良かったんだぞ」
「秋高さんのだから欲しくなっちゃって」
角度的に見えなくとも、三春が小悪魔しく舌をペロリとしたのが分かったのか、秋高の雄がまた角度を作り出す。明確に雄気を出し、起き上がる秋高。
「それなら──」
横向きに寝転ばせた三春の太ももを片方抱きつくように持ち上げ、松葉崩しの体位を取る。まだ挿入はしないにせよ、雄彼氏としての低い声で告げて。
「こっちでも味わってくれるよな?」
三春が小さくコクンと頷いたのを見て、秋高は荷物の中からローションのボトルを取り出す。片手にたっぷりと落としていけば、その独特の匂いが三春の目をまん丸にする。
「こ、これって……?」
「会社の試作品、持ってきたんだ」
「またマタタビの奴じゃん……!」
「良い匂いじゃないか」
「僕ら猫科には効いちゃうんだって──ンニャァ」
三春の鳴き声は秋高のローションまみれの指が後孔に押し込まれたから。
「ほら、可愛い声」
クスと小さく笑いつつ、三春に無理をさせない程度に慣らし始め。
「ンッ、秋高さ、んんっ」
縦に開脚された足、恥ずかしい部分が丸見えなのが余計に三春の羞恥心を高めてしまう。
「あぁあッ……待っ、あ……」
恥じらうほどに後ろの穴は秋高の濡れ指を締め付けてしまう。
「声、出ちゃ…からぁ……ッ…」
今になって口元を両手で押さえ、喘ぎをどうにかしようと顔をくしゃくしゃにしてしまう三春なのだ。
横向きに寝転んで縦に開脚の三春。その片足を抱き抱えて座り、股間同士を挟むように密着させる体位の松葉崩し。秋高のこれ以上ないくらいに固い雄の部分、そっと三春の柔らかな肉穴にキス。
「大丈夫、もっと気持ちよくするから……!」
「ンニャゥウゥウ〜ッ!」
淫らな仔猫のような声と共に、秋高の熱い雄肉が三春の蕩けた内部に入り込んでいく。ゆっくりと、だが着実に進み、奥へ奥へ。
「あ…く……三春の中、気持ちぃ……!」
「んぁ、秋高さんっ、秋高さんん〜ッ」
もう我慢なんて出来ないと腰を振るう秋高。ある意味では露出のような変態的なシチュエーションでの交わりは、それはそれとして男心を刺激するものだから。何より同じく興奮、そして羞恥に濡れた三春の裸体が秋高を燃え上がらせるもの。片手でその柔らかなお腹をたぷたぷと愛撫しながらも、腰を推し進める、跳ねさせる。
「三春の身体の中も外も、俺を駄目にするんだ……!」
「ん……にゃ…も、もぉ、触りすぎ、だってぇぇ……」
「フーッ、あ……柔らかくって可愛い三春……」
「あっ…あ……あっ、秋高さんっ……あ……」
未だに口元を押さえている三春へと、秋高は宥めるように声掛け。
「声、抑えなくて良いんだぞ?」
それでも恥ずかしがるのは三春自身にはどうしようもないネコ心。秋高の腰をトンと押し込む動き一つで甲高い声を上げてしまうのだ。マタタビローションの香りのせいだと認めてしまいたいけれど、やはり自分ばかり声を上げるのは、と。
「う、あぁ……や、やだってばぁ……」
「ほら…もっと可愛く鳴いて?」
「…ッ……ンニャ、あッ……」
「いつもより三春のお尻も、ギュッってなってるぞ?」
「い、言わなくって、いいからぁ……あッ…ンッ……」
どうしても両手で口元を押さえ、途切れがちな鳴き声をあげる三春。
「ほんと、こんな…アッ……テントじゃ……恥ずかし、んだってば」
「三春のココだって、しっかり固くなってるのにな」
そうっと伸ばされた秋高の片手、大きく勃ち上がりつつもカウパーに濡れた男子部分を握られてしまう。
「う、にゃ……い、今さわった、らぁ……」
「ほらまた中が俺のを欲しがった」
そんなことを言われてしまえば口元どころか顔まで隠して震えてしまうほど。猫耳の先端まで赤く染まり、後孔のナカの反応だけがより際立ってしまうのだ。
「……うぅ…ぅ〜………」
そんな三春の様子は秋高の雄っ気をかき立てるだけ。荷物置きからロープを取り出したかと思えば、優しく三春の手首を軽く縛ることでよりテント内の妖しさを増す。
「や、やっぱり秋高さんの変態ッ」
「俺は三春がして欲しいことをしてるだけ」
ふふんと笑ってはみるものの、ドSになり切れないで尋ねる秋高。
「キツくないか?」
「……う、ぅうあ……こ、こんなのってよくないってぇ……」
声やへたった耳が震えてはいるものの、股の間の男の子は固いままでむしろ嬉しそうにヒクヒクと。
「なら、動くからな」
また雄同士の交わりが始まれば、声を隠せない三春の喉からは止めどない悦びの悲鳴。
「あぁあ!あっ…にゃ!あぁあっ!」
「……さっきよりも、中…すごいな三春……ッ…!」
「秋高さんのばかあぁ…!」
「本当に俺をドキドキさせるのが上手なんだ……!」
2人してお互いに欲情し、興奮し、本能のまま勝手に動く下半身に従うだけ。
「ン〜ッ!あっ、待っ、あぁあ!」
「待たない」
「ンアァ、ぁあ…流石に、恥ずかし、ってぇ……!」
両手を簡単に縛られただけでこんなにも違うのかと、秋高の方が高揚感で参ってしまいそうだ。それでも大人の余裕を見せなければど努めてすけべな煽り声。
「興奮するだろ?」
「ん、んん!あ、にゃ!ニャァ!い、いっぱい興奮するから、やなんだってぇ……!」
「可愛いぞ、三春っ……!」
「あぁ…!あっ……秋高さ、あぁあっ!」
秋高が腰を動かす度、三春の濡れ穴からはマタタビローションが漏れ、もちろん淫らなグチャグチャと言う音も。
「もっと気持ちよくなろう、三春ほら」
「ウ、ニャ……あ!あーっ!もぉ、秋高さんんんっ!」
「そう、可愛い声をたくさん聞かせて?」
仕事や日常とは全く違う、三春にだけ口にする雄声。それが年下猫彼氏の下半身をゾクゾクとさせてしまう。独占欲とか満足感とかが混ざった嬉し心で三春は半泣きになりながら答えずにはいられない。
「あ、もうそういうのズルだってぇ〜!」
「三春大好きだ」
「う、ひゃ…あ!…は、恥ずかし…からぁ……!」
「もっと恥ずかしく、もっと気持ちよくするから」
むっちりとした三春の太ももをしっかりと抱え、テント全体を揺らしても構わないと雄っ気溢れる腰遣いを披露していく秋高。
「ニャ、アッ!もおぉお……秋高さん、秋高さんっ!」
「三春可愛い……!真っ赤になってそんなに気持ちいいか……?」
「あ、もぉ…だからぁ……き、気持ちいいに決まってる、でしょ……!」
「俺もだよ……!」
身体以上に気持ちが通じ合うのが心地良くて、下半身なんて蕩けてしまいそう。どちらが上でも下でも、やはり満たされたセックスが向かう先には甘くてフワフワのホットケーキのような満腹感が待っている。解放が待ち切れないと盛り合うのが恥ずかしいと分かっていつつも、どちらからだって淫らな接合部をぬちゃぐちゃと鳴らし合う。
そうして2人して達してしまいそう、今にも今にも。
「俺……そろそろ…!」
「秋高さん、僕もぉ……!」
むちりとした身体、そして縛られた両手を握りしめて2人は切羽詰まった声。もう、何を我慢することなんてなくただ気持ちいい動物の本能に従うだけ。
「悪いっ…俺もう、加減できそうにない、中に……出すからなッ!!」
「あ、あぁあ!秋高さんっ、僕も……あ、やばいってぇえ……僕も出ちゃうぅぅ〜!」
何度も出入りを繰り返していた秋高の雄がどんと最奥まで挿入され、思い切り弾けるように吐精。三春はそれに押し出されるように、鈴口からじわりと白濁をぶちまけてしまう。どちらも頭の中まで真っ白、ただ相手の裸体に溺れるように下半身の猛りを吐き出していくのだった。
本気の愛し合いの後となれば息を整えるのに精一杯。ピロートークもどこかぎこちない。
ロープを解いた秋高だったが、それでも三春の腕を丹念に確認せずにはいられない様子。
「もー、心配しすぎだってば」
「跡になったら困るだろ」
自分で縛っておきながら今になって焦る秋高ではあったが、当の三春は少し悪戯っ気な顔で言う。
「……………か、かなりドキドキしたぁ」
「そ、そうか」
だがやはり2人の関係ならでは、ふざけた会話にルート。
「あーあ、これから変態年上彼氏に緊縛されるようになっちゃうのかな僕ぅ」
「お中元のハムみたいに……?」
「だ、誰がボンレスハムなのさーっ!?」
* * *
またしても近場の簡易シャワー室に駆け込む2人。三春は「あー、ゴム使えば良かったのにー」と騒いでいたので、秋高は先に退散。
しかし戻ってきた三春を出迎えてくれたのは第二のサプライズ。
「わ!わああ!?」
「どう?格好いいだろ?」
そこには木々に張られたロープに白いスクリーン、持ち運べるレンタルプロジェクターの光が。三春は「あれ、それうちのシーツじゃん」と呟きながらも、秋高に勧められて並んだ椅子に腰掛ける。
「あ!これに使うロープだったのね〜」
2人だけの野外映画場。椅子の片割れに秋高が座りつつも、抱えた小さなバケツアイスを三春に手渡す。スプーンは2本。
「ほら、食べながら見ようか」
「もう秋高さんたら僕のこと攻略しすぎだってば〜」
ビールと一緒に買ってクーラーボックスにしまっておいた甲斐があると、秋高まで笑顔になってしまう。もちろん飲み物の緑茶は、互いに選んだマグカップに。
そうしてタイトルが映る。
『13曜日のキャンプ場殺人鬼』
「げ」
あまり上品ではない声を出しつつ、椅子を限界まで秋高に寄せる三春だった。
翌日、朝食を買いに中央エリアの売店に行った2人は妙な噂を耳にする。なんでも真夜中、森の奥の方からこの世のものとは思えない悲鳴が何度も聞こえたとかなんとか。
「え、怖いね〜。秋高さんは気付いたあ?」
「…………。」
全てを理解してしまった秋高は「それ三春のことだぞ」とは言い出せず、曖昧に頷くしかない。昨晩のホラー映画、三春の悲鳴のせいで片耳がまだキーンとしている秋高なのだったから。
* * *