細く開いたカーテンの隙間から秋の柔らかい陽が差し込む。 その光が顔をかすめて、鉛が乗ったような瞼を押し上げると ぬいぐるみでも抱いているのかという風に背後から回された腕が、その重みで俺に朝を告げる。 まだ力の入らない体をもそもそとねじり、腕の伸びてくるほうに視線をやると、 その人はいまだすう、すう、と整った寝息をたてていた。 額の上を流れる金糸が朝日を受けて一層煌めくその様に、自然とため息が出る。 ああ、なんて、贅沢。 世界で一番きれいな顔の、世界で一番美しい髪をした ──世界で一番愛おしい人。 それをこんなに間近で見ているのは 今この世界でたった一人、俺だけなのだから。 そんな感慨にひたっていると、時計は三分、五分、十分と針を進めていた。 そうしてるうちに、昔から贅沢というものが苦手な俺は段々と居たたまれなくなってしまって、変に起こしてしまわないようにゆっくりと腕から抜け出した。 一瞬その人の寝息が詰まり、しまった、と思ったが、乱れた布団をそっと掛けなおしてやれば 何事もなかったかのように穏やかな呼吸を取り戻した。 ふう、と息を吐き、部屋の肌寒さに一つ身震いをし、ベッドの近くの椅子に掛けてあった 上着に腕を通して、俺は静かに寝室を出た。 ーーーーーーーーーー やかんに火をかけ、フライパンでベーコンを焼いてその上に卵を二つ落とす。 その間に小ぶりなボウルに彩りのいい野菜を盛り、真っ白な皿に焼きたてのトーストを一枚。もう一つの皿には二枚乗せた。バターをひとかけ落とせば、それはトーストの熱でふわりと溶けだした。 ガラスの器にヨーグルトを流しこみ、輪切りにしたバナナを浮かべる頃には、フライパンの上のそれも良いころだ。 我ながら手慣れたものだ、と思う。 もともと自炊はしていたから、一人分増えたくらい大したことはなかった。 しゅうしゅうと音をあげて呼ぶやかんの火を止めて、大きめのマグにコーヒーを淹れる。 立ち上がる湯気に乗って、部屋中にコーヒーの香りが漂う。 この瞬間が、好きだ。 いつもの通りに食卓に皿を並べ、フォークやらスプーンやらを出してきた。…さて。お気に入りのエプロンの裾で軽く手を拭いて、俺は寝室へと向かった。 ーーーーーーーーーー 日も昇り、薄暗かった部屋もすっかり明るくなっていた。 しかし布団はいまだその人がそこにいるのを示すかのように大きな山を形作ってる。 「蘇芳さん、」 起きましょう。と、ベッドのふちに浅く腰かけて大きな山を軽く揺する。 するといつの間にかうつ伏せになって、さっきまで俺が寝ていた場所に埋もれていたかたまりが もそり、と動く。 「……何時だ」 朝は一層低くなる耳触りのいい声の主は まだ眠いとでかでかと顔に書きながら、片目を開けてこちらを見た。 「もう七時ですよ」 「…休みなんだが」 そんなことはもちろん分かっている。 「休みの日も、なるべく同じ時間に起きましょう。コーヒー淹れましたよ。」 朝ごはんもできてますよ、冷めちゃいますよ。と、繰り返しながらしつこく体を揺すってやると、 観念したのか、うう、とか、ぬう、とか獣のように呻きながらその大きな体をゆっくりと起こした。 ぼさぼさになった髪を軽く掻きあげ、ふわ、と一つあくびをしてから、彼は俺の顔を見た。 「和馬、」 「はい?」 「…おはよう」 なんて、あまりにも幸せそうな顔をするから。 こっちまで幸せな気持ちになってきて、明日も明後日も、ずっとこんな朝がくればいいなって。 そんな事を考えてから一つも二つも遅れて挨拶を返したものだから 蘇芳さんには少し不思議そうな顔をされてしまった。 終 2018/11/22 どこかの世界の現パロすおかず。 いい夫婦の日だったのでなんだかそれっぽいのが書きたかったんです。