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シニンノカゲ:5章part4(F/F)

4. 用務員室前の攻防 (F/F) ──2022年12月19日月曜日── その小さな部屋で、虎谷羅那は息を殺していた。 鍵は。鍵はどれだ。 小部屋──用務員室には想像を遥かに絶する無数の鍵が存在していた。 この中のどれが、旧校舎の鍵なのか。分からない。 外では乃恵が、何やら揉めている。相手はどうやら警察だ。 叶夢はまだ、用務員を他所へ引きつけてくれているのだろう。 早く。早く鍵を見つけなければ。 こんなことになるなら、じっとしているんだったという気持ちと、行動しないとやはり落ち着かないという気持ちが交錯している。 羅那は部屋の壁や机の上に溢れている鍵についたプレートを一つ一つ確認していく。 ◯ 何故か警察たちが旧校舎から撤退している。 叶夢がそんなことを昼休みに言った。 それはどうやら本当のことのようで、旧校舎に張られていた規制線は無くなっていた。 噂では、失踪事件の真犯人が見つかったという。 でもそれは、本当なのか。 乃恵にはそれが信じられなかった。 もちろん、羅那も叶夢も信じていなかった。 噂では、真犯人は学校周辺に住む何者かであるという。 つまりそれは人間であるということだ。 そんなことがあるはずがない。 いや、普通はあるのだけれど…今回の事件に限っては人間が犯人であるはずがないのだ。 一体、警察に何があったのかは分からない。だけど、警察が旧校舎から手を引いたのならば、愛維たち失踪者が放置されてしまうということになる。 ──警察のことだから、もしかすると何か裏があるかもだけどね。本当は藤島小百合の存在に気づいてるけど…生徒や世間を混乱させないために敢えて変な発表してるのかも。でも規制線も無くしちゃうのは変だよねぇ。 叶夢はそう言っていた。 旧校舎には鍵さえあれば、誰でも入れる状況だ。 警察が出入りしている様子もない。 ならばやはり、愛維たちは放置されているのか。 ──やっぱり、私は何かしないと気が済まないかな。いま、旧校舎に入れるなら…そこで藤島小百合や過去の失踪者のことを調べたい。それが事件の解決に繋がる気がする。 羅那はそう言った。 乃恵も同意だった。 藤島小百合や過去の失踪者のことを調べることが愛維たちの無事に繋がるのかは分からないが、羅那がそう言うと、なんだかそんな気がするのだ。 叶夢の提案で、日中に旧校舎の鍵を盗むことになった。 計画はこうだった。 叶夢がうまく用務員を別の場所に連れ出し、その間に羅那が鍵を盗む。乃恵は見張り。 うまく行くはずだった。 だけど──。 「そこをどいてもらえる?」 長身の乃恵も見上げるほど背の高い女が、威圧的な視線を乃恵に向けている。 前髪をかき上げたカーキグレージュの長い髪。モデルのように長い手脚。その女は、スーツ姿であること以外、およそ乃恵の知る刑事の風貌ではない。 「もう一度言うわよ。そこをどきなさい。鍵が必要なの」 寒川真冬と名乗った女刑事は、よく通る声でそう言った。 「えっと…それは…用務員さんにここにいて誰も入れないように言われたので…」 思いついたばかりのテキトーなことを言う。 まさか、刑事が来るとは思ってもいなかった。 「その用務員さんはどこへ?」 寒川は腕を組んだ。そのへんの体育教師やら生徒指導部やらよりよっぽど威圧感がある。 「わ、分かりません」 「そう」 寒川は目を細める。 「あの…もう捜査は終わったって…」 「それは貴女には関係のない話よ」 寒川はぴしゃりと言って、乃恵の言葉を遮った。 「退かないのなら…手荒な真似をしなくちゃいけなくなる。こっちも時間がないからね…」 寒川はその細長い指にはめた銀色のリングをきゅるきゅると抜き取る。 そう。 羅那の話によると──この刑事は退魔師水羽をこてんぱんにしたらしいのだ。 確か──こちょこちょ地獄で。 乃恵は首筋のあたりに寒気を感じた。 くすぐるのは好きだが、くすぐられるのは嫌いだ。 しかも知らない人間に。 「最後にもう一度聞くわよ。そこを退く気はある?」 寒川は銀色に光る指輪を指でくりくりと弄りながら問いかけた。 乃恵はごくりと息を飲む。 この問いに対する答えが、とても重要であることは分かっていた。 ここに居座れば、寒川は間違いなく自分を襲う。 退魔師水羽をやったのと同じ方法で。 だが、ここを退くわけにはいかない。 この奥には羅那がいる。もし、羅那が鍵を盗もうとしているところを警察に見られたら──それは生徒としてのみでなく、影響力のあるインフルエンサーとしてもかなりの問題になるのは明らかだ。 それは絶対に避けたい。 自分だけの犠牲で済むのなら──。 「退く気は──ない」 乃恵は強くそう言い切った。 「そう。どうやら…少し大人の怖さを思い知らせておいた方が良さそうね…」 寒川から何かが飛んできた。 指輪。 銀色に光るそれはどろりと溶け、飛沫のように広がり、どろどろと膨れ上がり── 乃恵の両腕と両脚を飲み込んだ。 「うっ!?」 両腕はワキを開いたまま、両脚は股を開いたような格好のまま銀色のどろどろに飲まれた。 「貴女…手足を自由にしておくと厄介そうだからしばらくこうさせてもらうわ。幸い…この辺りは人通りが少ないみたいだから誰かに見られることはないでしょう」 寒川は、動きを封じた乃恵の背後のドアに手を伸ばした。 だが。 ドアは開かない。 寒川の細い眉が不愉快そうに吊り上がった。 「鍵が…」 用務員室の鍵は、あらかじめ乃恵がその手の中に握っている。 「なるほどね…」 真冬は乃恵がぎゅうと握っている拳を見た。 「それを渡しなさい」 「出来ないって言ったら…どうするんですか」 乃恵は無意識にフッと笑った。本当は寒川が恐ろしかったのだけれど。 「そうね…お灸を据えることになる。大人として…ね」 寒川は細長い指を曲げ伸ばしする。 乃恵は目を閉じ、鍵を握った拳にさらに力を込めた。 「それが答えね…」 寒川が呆れたようにそう言った直後、脇腹のあたりに違和感が走った。 寒川の手が、ブレザーの下…身動きの取れない乃恵の脇腹に触れている。 制服シャツ越しでも、寒川の手のひらの感触や指のスベスベした質感が伝わってくる。 それが妙に、くすぐったい。 「なるほど…しっかり鍛えてあるわね。でも…こちょこちょになるとこういう体型ほど…」 寒川の指先に僅かに力がこもる。 「…裏目に出る」 こちょこちょっ!! 「いひぃっ!?」 細長い指が一瞬、素早く動いて爪の先が脇腹の表面を掻いた。 ゾクゾクするくすぐったさが走り、乃恵はつい、声を漏らしてしまう。 だらだらと、嫌な汗が吹き出す。 「忠告しておいてあげる。私のくすぐりは本当に辛いわよ…それでも鍵を渡さないの?」 寒川は再度、乃恵にチャンスを与えてきた。 だが、乃恵の決意は変わらない。 乃恵はただ無言で拳を握る。 「…そう。じゃあ…」 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょっ!!! 「うっ!!?ぷっ!?ぷくくっっ!!?くっっ!!?くふふふふふふははははははっ!!?はは!?ははははははははっ!!?」 乃恵の引き締まった脇腹の表面を、艶やかな爪の先がこちょこちょと歩く。 こちょっ!こちょっ!と小刻みに爪で引っ掻くようなくすぐりが滑らかに行われ、乃恵は堪らず吹き出してしまった。 「人の体型の数ほどくすぐり方はあるからね。貴女のような体型なら…まずはこうやって調理していくのがセオリーといったところかしら」 寒川の指は器用にこちょこちょこちょこちょと脇腹や肋骨のあたりを蜘蛛のように這い回っている。 スベスベの指先が、ツルツルの爪の先が、神経をこちょりと引っ掻くたびに乃恵は望んでもいない笑声を上げてしまう。 「くぁっ!!っっははははははははははははははははははは!!?いひひひひっ!!?くっっっ!!?くふふふっ!?くふはははははははははははは!!」 寒川の指先から送り込まれる堪えようとしても堪え切れないくすぐったさに乃恵は悔しげな表情を浮かべながら身を捩る。 寒川の指は、徐々に上がってきている。 このままでは──。 「腋の下…こちょこちょされたくないでしょう?」 寒川は乃恵の開かれたままの腋の下を見た。 されたいわけがない。 こんなふうにガチガチに動きを封じられて、くすぐりのプロみたいな人に腋の下をこちょこちょされたらどうなるか…。 「今、降参するなら…腋の下は見逃してあげるけど?」 寒川は少し、指の動きをねっとりとしたものに変えた。 「くくくくくっ!!?くふふふふふ!!?ふふふふははははははは!!!そんなのっっはっっ!!っっくくくくくっっ!?」 くすぐりのプロによる未知の腋の下くすぐりは正直、恐ろしい。だが、それで羅那が助かるなら──。 乃恵はギッと寒川を睨んだ。 「残念ね」 寒川はぴたりと指を止めた。 「はぁはぁっ!!はっ!?」 突然、寒川の十本の細長い指が乃恵の腋の下にずるりと入り込み、爪を立てた。 「いぎっっ!!?」 腋の下に、爪の硬くてツルツルとした恐怖の感触が突き立てられ、乃恵は反射的に腋を閉じようとする。 だが、それは叶わない。 「降参…しなさいね」 寒川の指がこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょぉっ!!っと暴れ出し、乃恵の腋の下をめちゃくちゃに掻き回した。 「ぶっ!!?ぶひゃっっ!!?ひゃーっっははははははははははははははははははは!!?あははは!?あははははははははは!!?あははははははははははははは!!?」 乃恵は眉を歪め、口を大きく開けて天井に向かって笑い声を吐いた。 ぐねぐねと腰を揺らし、上半身を捻る。 履いていた上履きが飛んでいく。 それでも、寒川のこちょこちょ指からは逃げられない。 「警告はしたはず…私の腋の下こちょこちょは地獄だと…ね」 寒川は顔を赤くして悶える乃恵の顔を睨み、その丸く尖った指先を腋の下のクボミに潜らせる。 「いひぃっ!!?」 腋の下のクボミに密集した敏感な神経たちを、指先がモジョモジョモジョモジョモジョモジョモジョモジョモジョモジョ!!っと貪る。 「うわぁぁぁぁあははははははははははははははははははははは!!?あははは!?あははははははははははははははははははは!?くふふふふふっ!!?こほっ!!?」 さっきよりもより解像度の高い猛烈なくすぐったさが腋の下にモジョモジョと注がれ、乃恵はつい、指を開いて鍵を落としそうになる。 「こうやって二の腕と腋の下をこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ往復させると…緩急がついて刺激に慣れさせないのよ」 寒川は冷たい声色でそう言いながら、細長い指を早送りの映像みたいに素早く動かし、こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょと二の腕をくすぐってから腋の下をこしょばした。 「あはははははははははははははははははははは!!?ううううっ!!?うふふふははははははははははははははははははは!!!や、やめっっ…!?いひははははははははははは!!!」 ビクビクと長い脚を震わせながら、乃恵は、やめて、と叫びそうになる。 叫んだところで意味もないのに。 「それにしても…貴女、悪い子ね。学校に報告することにしましょうか。貴女、名前は?」 乃恵の心臓が嫌に大きな音を立てた。 自分の名前を教えれば、恐らく自分と繋がりのある羅那もいずれ引き摺り出されるだろう。 言えない。自分の名前さえ。 乃恵は悶えながら、ぶんぶんと首を横に振る。 「どこまでも強情ね…」 寒川の手が、するすると乃恵の短いスカートから覗く艶やかな太ももに移動した。 寒川のスベスベの手が、するりと太ももを撫でる。 「いひぃっ!?」 乃恵のむっちりとした引き締まった太ももにスベスベの他人の手が滑り、乃恵は腰をひくつかせる。 「さて…聞かれたことに答えること。いい?でないと私の指が徐々に移動して…最後には…足の裏をくすぐり倒すことになる」 足の裏。 ソックスに覆われた足の裏から、じわりと冷や汗が吹き出した。 足の裏なんて、自分で触ってもくすぐったいところだ。 それを、寒川にくすぐられたらどうなるかは…想像するまでもない。 「といっても…太もものこちょこちょも貴女には効果抜群みたいだけどね」 寒川は指関節をワシッと折り曲げて太ももに爪を立てた。 「んぅっ!!?」 乃恵は厚ぼったい唇を曲げた。 握りしめた鍵はもう、手汗でぐしょぐしょだ。 「何を隠しているのか知らないけど…あまり大人を舐めない方が良いわ」 寒川は爪を立てたまま、スルスルスルスルと太ももを撫でる。 「うううううっっ!!?くくっ!?くくくくくくくくくっっ!!?」 乃恵のスベスベの太ももは滑りが良く、その分、寒川の爪が滑らかに滑ってしまう。 さっきまでのくすぐりとは違い、ねっとりとしたくすぐったさがジワジワと注がれてくる。 大暴れするほどのくすぐったさでもないのだが、それは逆に、暴れることでくすぐったさを誤魔化せないということでもある。 「あまり太ももへのくすぐりをなめない方が良いわ」 寒川は指をサワサワぞわぞわと柔らかくうねらせ、爪の先で太ももの表皮を撫で回す。 「くくくくっ!!?くふふふふふっ!!?ふっ!?んふふふっ!?んひひひひひひひっ!!?」 太ももの鳥肌が止まらない。 乃恵は普段、あまり大声で笑ったりしない。 だから、くすぐられるのも嫌いなのだ。 さっきまでのような激しいくすぐりならば嫌でも大笑いせざるを得ない。ある意味、反射的に笑ってしまう。 でも、この太ももくすぐりのようなねっとりとしたくすぐったさは、まるで大笑いするかどうかを自分自身に委ねられているような気になる。 普段、あまり笑うことをしない乃恵にとっては苦痛だった。 「少しは気が変わった?」 寒川の手がするりと裏モモに滑り、裏モモの筋肉をこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょと細かく掻き回した。 「あっ!?ちょっ!?ふひひひひひひひひひっ!!?ひひひひひひはははははははははははははははは!!?うはははははははははははははははははは!!?」 想像もしていなかったこそばゆさが裏モモのハムストリングスに走り、乃恵は腰をグンと反らせた。 「太ももくすぐりはなにもねっとりとしたくすぐったさだけじゃない。こうして部位とくすぐり方次第では、大笑いさせることも出来るのよ」 寒川の指がこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ…!!と独特のリズムで蠢き、裏モモを掻く。 「あははははははは!?あははははははははははははははははははは!!!ひははははははははははははは!?あははははははははは!?」 まるで蟲が太ももを這い回っているかのような気持ち悪さと、くすぐったさとが同時に襲い、乃恵は笑い声に時折、呻き声を混ぜて悶える。 黒い髪が乱れ始める。 「さぁ早く…鍵を渡しなさい」 いつの間にか寒川の手が、膝に移動していた。 爪が膝に突き立てられ、指が開いてぞわぁっと膝を掻く。 「うううううっ!!?」 膝に走る奇妙な脱力感が、手からも力を抜いてしまう。 「こうやって繰り返し繰り返し…指を閉じては開いてを繰り返すと…どうなるかしらね」 寒川は細長い指を閉じては開いてを繰り返し、爪の先で膝をジワジワと嬲る。 「うぐぅぅっっ!!ふひひひひひっ!!?ひひひひひひひひっ!!?」 こんな子供の遊びのような手法でさえ、今の乃恵には致命傷だ。 歯を食いしばり過ぎて、顎が痛い。 ジワジワとしたくすぐったさが脳にまで染み込んでくるようだ。 「ほら…油断してると…」 寒川は突然、膝の表面を爪でコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショと素早くくすぐり回した。 「あああああっ!?あはははははははははは!?あははははははははははははははははは!!!ふはははははははははははははは!?」 膝をくすぐられているとは思えないほどの強烈なくすぐったさに乃恵は激しく身を捩った。 叫ばずにはいられない精神を蝕むようなくすぐったさだった。 「膝も太ももと同じよ。くすぐり方によっては…こんなふうに悶絶させられる」 コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ…!! 「うううっ!?うはははははははははははははははははははははは!!?こんなっのでっっ!!っっはははははははははは!!?」 このまま笑い続けていては負ける一方だ。乃恵はせめて、言葉だけでも抵抗を続けようと思った。 だがそれは逆効果だった。 「こんなのとは言ってくれるわね?このままずっと味わい続けたい?」 寒川は激しく指関節を曲げ伸ばしし、ワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャっと爪で膝をこそばし回した。 「ああああああっ!!?あはははははははははははははは!?やめっ!?っっははははははははははははははははは!!?ひははははははははははははーっ!?」 膝を切り離したくなるような神経を蝕むくすぐったさに乃恵は裏返った悲鳴をあげる。 「このままだと…せっかくの美人が台無しになるわよ?」 寒川はまた指の動きを遅くし、爪でじっとりと膝をこしょばす。 この緩急が、きつい。 「いぎぃぃぃっ!!?きひひひひひひっ!!?ひひっ!?ひははははははははははははは!?」 顔の筋肉が弛んで、唾液が垂れる。 「どうもジワジワと弱らせている暇もないわね。そろそろ…シメておこうかしら」 寒川の手がどろりと銀色の液体に包まれた。 銀色は寒川の手の形にピッタリとフィットし、寒川の手は銀の手へと変貌を遂げた。 銀にコーティングされた手…その爪は長く、いかにもくすぐったそうだった。 「ここからは…貴女の答えはもう聞かないわ。鍵は無理やり…貰うから」 寒川は、銀色の爪でこちょりぃっと土踏まずをなぞりあげた。 「んぅぅっ!!?」 たったひと引っ掻きされただけで、飛び上がるほどくすぐったくて、乃恵は寒川の銀の指に恐怖を感じた。 「悪く思わないでね。これは貴女の選択だから…」 寒川は銀色の手で、乃恵の両足のソックスを引っ張り脱がす。 そして──足裏を覆うように手のひらを押し付け、指関節を曲げ、銀色の爪を立てた。 「あああああああ"っ!!?」 ただ爪を立てられただけで、乃恵の口角は勝手に吊り上がり、びくんっと全身が跳ねる。 やばい。 このままでは、肉体が先に限界を迎える。 その前に何か手を打たないと。 「はぁはぁっ!!待って…!!」 「もう遅いわ」 寒川は冷たく吐き捨て、突き立てた銀色の爪で、乃恵の蒸れた足の裏の表面をゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショ!!っと掻きむしった。 電撃の如きくすぐったさが炸裂した。 「うわぁぁぁぁぁあああああああああああっ!!?あっ!!?あっ!!!あははははははは!!!あははははははははははははははははは!!?それはっっ!!!それはぁぁぁぁぁあああっ!!?」 これまでの決意とか、羅那を守るんだという気持ちとかそういったものが全て──掻きむしられた。 乃恵は動くことが許されている胴体が千切れんばかりに暴れた。 「言ったでしょう?チャンスは与えた。全て貴女の選択よ…」 寒川は憐れむように乃恵を見つめた、土踏まずに銀色の爪を食い込ませるようにしてゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリゾリ!! ゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショゴショ!!っとくすぐり処した。 「んにゃあっっ!!?んぁぁぁあああああああああああああああああ!!?あはははは!!?あははははははははははははははははははははは!!?けほっ!?かはっ!!?」 あまりのくすぐったさに、呼吸が追いつかない。 足裏に走る銀の爪の感触と、くすぐったさが精神を破壊していく。狂わないように、ぶんっぶんっと激しく頭を振る。黒い髪がぐちゃぐちゃに乱れる。 「もうおしまいよ」 寒川は突然、足裏から両手を離した。 次の瞬間、寒川の恐ろしい手は腰骨を捕まえ、そのクボミに親指を捩じ込んでいた。 「あっっ!!?」 乃恵の目がぎょろりと大きくひん剥かれる。 寒川の親指が、腰骨のツボをコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリッ!!っと指圧した。 「ひゃっっ!!?あひゃぁぁぁぁあああああああああああああああっ!!?あひゃひゃっ!!?ひゃぁぁぁぁあははははははははははははっ!!?」 腰骨のツボに猛烈なくすぐったさが注入され、腰が砕けるような脱力感が全身に広がった。 乃恵の長い手脚が電流を流されたかの如くびくびくと暴れる。 コリコリぐちゅぐちゅぐりぐり。 親指が肉を掘るようにツボをえぐる。 「あああああああああああああああっ!!?あっっ!!?あはは!?あはははははははははははは!!?あははははははははははははははっっ!!?」 腰骨に注入されるくすぐったさが、乃恵の脳にまで達した。 かしゃんっと何かが落ちる音がした。 ずっと熱のこもっていた手のひらに冷たい空気が触れるのを感じた。 駄目っ──!! 朦朧としていた意識が一気に覚醒する。 その頃にはもう、寒川はドアを開けていた。 ◯ 「うわっ!」 羅那はその女の登場に、声を上げてひっくり返ってしまった。 羅那のスマートフォンが床に落ちた。 「ごめん…羅那…」 ドアの向こうで、髪も制服もくちゃくちゃになった乃恵が床に這っていた。 「貴女はっ…」 寒川は羅那を見て目を丸くしていた。 「あ、えーっと…」 言い訳など出来ない。 どうすれば良い? こんな時、愛維なら上手く切り抜けるのだろうか。 そんなことを思う。 「貴女がどうして…」 寒川が羅那に一歩、近づいた時、床に落ちていたスマートフォンが鳴った。 着信だ。 「これ…」 羅那は、番号に見覚えがあった。 これは。 "あの時"の。 風も吹いていないのに、強い冷気を感じた。 「出て」 寒川がじっとスマートフォンを見つめたまま言った。 「えっ」 「出なさい。いいから」 羅那は言われるがままに応答ボタンをタップした。 ぶつぶつと切れるようなノイズが聞こえる。 おーい。 おーい。 おーい。 声が聞こえる。 はっきりとした女の声。 瞬間、羅那の視界に知らない光景が飛び込んで来た。 「おーい」 ぼんやりとした視界が徐々にくっきりと広がっていく。 アブラゼミや、ヒグラシの声が聞こえる。 夕焼け色に染まった空の下、目の前に一人の少女がいる。 半袖のセーラー服を着たその少女は訝しむようにこちらを見つめている。 「ねぇ。聞いてんの?珍しいなうとうとしちゃってさ。みんな集まったから作戦会議するよ。どうやってこの…"失踪事件"を解決するか」 いかにも活発そうなセーラー服の少女は顎を撫でた。

Comments

たった1話に3つ目の感想…!ありがとうございます! そうですね…羅那みたいなくすぐりを強力に引き寄せる力を持つ者と一緒にいるとどうしても乃恵みたいな犠牲者が出てしまうのかもしれません! その羅那自体がまだ一度しかくすぐられていないので…そろそろ危うしな感じですね! クールで、姉御肌というか…そういった部分は確かに乃恵は塔子と通じるものがあるかも知れませんね。 もし、乃恵だけならとっくにポスト塔子的なポジションにいてもおかしくないような…気もしますね。 このまま平和にいけば…羅那、塔子、氷恵みたいに羅那、乃恵、叶夢でオバケ調査に乗り出す日も…?? 澪と歌巴も…正直、非協力的?ではありますが悪人ではないと…思います。 皆、根っからの悪ではない。 でも、各々が各々の世界を強く持ち過ぎているからなかなか本当の意味で混じり合うことはできていないようなそんな印象は受けますね! 少なくとも文化祭の時点ではまだ今のような関係ではなかったように見えますね。 あのまま行けばよかったのでしょうけど…あの後に今のような大きな亀裂の元となるヒビが入ったようです。 それはきっとあのグループの女王と関連する何かだったのかもしれません。女王から亀裂が入り…それはやがてグループ全体に広がった…とか。 しかしヒビも短期間で随分と勝手に大きくなったものですね。一体、何があったのか… 羅那が既に誰かに睨まれている可能性……あるかも…です。 全てはあの時から始まっていた…ようですから。 仰る通り…愛維がいない方が平和な気もしますが、愛維なくしては集まらなかったグループでもあります。 愛維がいることでの緊張が、羅那や乃恵たちを結びつけている可能性もあります。 愛維がいなくなったらそのバランスはどうなるのか…。 毎度、怪異と人間の描写にひいひい言っていますがそれもあともう少し!頑張ります!

Kara

『シニンノカゲ:5章』感想その3 また一人、羅那と関わらなければ無縁だったはずの非日常的なくすぐりの世界に引きずり込まれてしまいましたね笑 乃恵は、雰囲気が厳島塔子に近く感じるので、羅那が少し馴染めるのもよく分かります。 乃恵一人だけならそんなに羅那と世界の距離も遠くないのかも? 叶夢も冷静で物分かりが良いし、澪と歌巴は…思ったよりもキラキラ世界の住人ではありましたがいい子たちです。多分…。 なんか…女王がいなければ、いい雰囲気で、信頼されている羅那を中心に回り始めていますね。 でも文化祭の日を見るに、多分言うほど今みたいに「腹の底で睨み合う関係」じゃなかった時期はあったのでしょうね。意外に。 今はもう睨み合いが多いですが、 もしかして羅那も誰かに睨まれているのかな。なんて…。 愛維がいないと絶対に集まらなかった六人なのも事実。 愛維がいた方が良かったのか、いない方が良かったのか。 結末には「みんなに会えて良かった」と、全員が生きて思えていれば素敵だなーと思います…。 怪異関係も人間関係もどちらも『シニンノカゲ』の行き先が見逃せません!

(´・ω・`)

潤は既に故人となり、物語としても過去の人でありますが…その影響は現在の羅那やその物語にも及んでいるようですね! 『死擽』開始時点での羅那の同い年の友人は潤しかいなかったので、そういった意味でも勿論特別だったのでしょうね。 また、羅那の知らない世界を教えてくれる貴重な存在でもあったようです。 思い返せば、潤は羅那以上に心の広い人物だったのかも知れません。 行方不明の彩華は生きているのか死んでいるのか。 生きていても死んでいても…今回の失踪事件に関与しているのか…。 なんとなーく…彩華の影がちらほら見え隠れしているのでどこかで姿を表してもおかしくないですね…! その時は真冬の前に現れるのか…それとも…。 そうですねー… 神衣の感知能力が確かなら…首無しは歌巴か澪のどちらかの可能性が高いですね。 勿論、本当に首無しがいるならばの話ですが! さくっと首無しがいるのかいないのか、いるなら誰なのかを見抜けば…この事件は確かにもう少しゆるっと解決できた可能性はありますね! ラストに映ったセーラー服の少女は次回はっきりしますのでご期待くださいー! 実は既に登場している人だったりします! 最新話は明日、更新予定です!

Kara

久しぶりに潤の名前が聞けて嬉しかったです。 潤にとって羅那はぬるいサイダーだったというのはなんか笑えました。羅那が愛維たちと付き合えてるのは潤のおかげというのは確かにと思いました。 羅那にとって、潤は塔子とは違う意味で特別な存在だったようですね。 彩華は真冬とも関わりがあったんですね。自分は彼女はまだ生きてると予想してます。 彼女が失踪事件とどんな関わりがあるのか分かりませんが、今回の話にも登場するんじゃないかって思ってます。 神衣が乃恵と叶夢に反応を示さなかったという事は、首無しの怪異は歌巴と澪のどちらかなんでしょうか。何となく澪が怪しいなぁとは思いますが、首無しの正体が誰なのかはまだ分かりません。正体が分かったら、失踪事件は一気に解決に近づきそうな気がします。 ラストに登場したセーラー服の少女が、藤島小百合が言っていたあの女なんでしょうか。 何者かは分かりませんが、悪い人では無さそうですし、羅那と協力して失踪事件を解決して欲しいです。

reo

ありがとうございます! 澪がくすぐられるシーンは…あると…思います!

Kara

澪がくすぐられるシーンは来るんですかね?あと2回ということで楽しみにしてます!!

toshi0325monst


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