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シニンノカゲ:7章part5

5. 西原叶夢 予言獣はいた。 予言獣"くだん"は、確かに旧校舎にいた。 私はあの日、くだんからの招待状通りに旧校舎に忍び込んだ。 昇降口へ通じるドアは施錠されているはずだから、もし入れなかったら諦めようと思った。でも、鍵は開いていた。 やっぱりくだんが私を呼んでいるんだ。そう思った。 きっと、最初に旧校舎に入ったときはくだんは私のことを知らないから出て来てくれなかったのだ。 でも、私がくだんを必要としているのがようやく伝わったのだとそう思った。 旧校舎に入ってすぐ、キツい線香のような匂いがした。 匂いはずっと奥に続いていて、私はその匂いを辿った。 そして、辿り着いた教室で見つけた。 悍ましい私の未来の縮図を。 真っ暗な教室をライトで照らすと、正面の黒板に大きくそれは描かれていた。 私の顔。醜く歪んで、泣き崩れた私の顔。 どろどろ溶けていく私の顔。 崩壊しゆく私の未来がそこにははっきりと描かれていたのだ。 全てが明るみに出る。 隠さねばならない私の秘密の全てが。 私の未来が危ない。 私の夢が。私が。 私は無我夢中で黒板に描かれた未来を掻き消した。 手が震えて、何度も黒板消しが手から抜け、飛んでいった。 擦っても擦っても、黒板に描かれた未来は上手く消えない。 私は汗ばんだ手のひらで最悪の未来を擦り潰した。 気づけば両手は真っ白になっていて、ところどころ手の皮も剥けていた。 黒板には、"私の崩れた未来だった"穢れた消し跡が残っている。 よく見れば、それが私の顔であることはかろうじてまだ分かる。 消えない。 まだ完全には、消えない。 「くだん!どうすれば良いの!?ねぇ…」 私の弱々しい声が暗い教室に響く。 返事などない。 私は黒板を殴った。拳が痛んだ。 教室後ろの掲示板に、目が留まる。 ──その道を進め明るい未来のために 黒板には真っ赤な文字でそう描かれていた。 この教室に入って来た時、こんな文字は無かったように──思う。 やはりくだんはいるのだ。 私は笑った。 私は正しかったのだ。 ふと、線香の香りが消えた時、真っ暗闇が私を包み込んで私は──あの女に囚われた。 邪なことを考えたからバチが当たったのかななんて思った。 でも違った。 私は助かった。 何かの間違いであいつが死なないかなとかそんなことも思ったけど、あいつも生き残った。 つまり。 やっぱり。 やっぱり私が。 私が消さなきゃ。 行かなきゃ。 全部。 消さなきゃ。 あいつごと。 今日、あいつがあそこに来るって。 今日ならあいつの死も"あれ"のせいにできる。 今日なら。いや、今日しかあれのせいには出来ない。 やらないと。 いかないと。 ◯ 藤島小百合が消えた時、彼女が一緒に消えなかったことに私は驚いたし、動揺した。 同時に、旧校舎に初めて忍び込んで怒ったあの時のことが全部ぜんぶ夢だったのではないかなんてそんな馬鹿なことも考えた。 それは違う。 あの日から私の元に届いていた"手紙"。 あれが私に怨みを持つ者から送られた脅迫状であることは、死者の文字を読むことのできない私にも分かる。 あの手紙は全て残っている。 今日、全て燃やすつもりだ。 今日、全てを終わらすつもりなのだから。 このままでは私は、彼女に呪い殺されるだろう。 それが筋なのかも知れない。 それでも、私は死んだ者のために命を捨てるつもりはない。 あの人と一生、会えなくなるなんて嫌だから。死ねば、あの声を聞くことも、あの姿を遠くから見ていることも叶わなくなる。 生きている人間が死者に囚われてはならない。そんなことをあの人は言っていた。 ──は、やっぱり死んでるよね。でも、まだ消えてない。決着をつけよう。私が呼び出すから。 "彼女"は言った。 "彼女"は、藤島小百合との戦いの中で、彼女が死者の使いであることに気づいたという。 ──羅那にはさ、黙っておいた方が良いと思うんだ。流石にこれ以上負担はかけたくないし。全部、全部終わったら話そう。一緒に。 "彼女"の提案には賛成だった。 これから私たちは、仮にでも友人を殺すことになるのだ。心優しいあの人には負担をかけたくない。 それにこれは、私の蒔いた種でもある。 「ねぇー。もう一回。もう一回!」 弟の祐司がゲームのコートローラーを放り出して駄々をこねる。 いつもの光景だ。もう小学六年なのに未だに小さい頃と変わらない。 時計を見る。 時刻は16時を過ぎている。 そろそろだ。 そろそろ行かないと。 「続きは帰ったらね」 私はコントローラーを置いて、立ち上がる。祐司がえーっと顔いっぱいに不満の色を浮かべた。 「乃恵。どこいくの?今日、すごい雪降るって…」 台所から母の声がした。夕飯の支度をしてくれている。 「ちょっと外、歩いてくるだけ。すぐ帰るから」 私はリビングを出て、薄暗い廊下を進み、ドアが半開きになっている自室に手だけを突っ込んで壁に掛けてある真っ黒いダウンを引っ張るように取った。 黒いダウンを羽織り、マンションを出て今にも雪の降り出しそうな曇り空の下をゆく。 "彼女"から渡された般若の紋様の刻まれた包丁を忍ばせて。 ◯ ──が、狙われてる。私、知ってしまったんだ。一体なにがあったのか。どうして死んじゃったのか。 "彼女"は私にそう言った。 私も知っていた。 ずっと一緒にいるから、気付かないはずがなかった。 彼女が既に死んでしまっていること。 でも、殺されてしまったということははっきりとは知らなかった。 ──はっちが決着をつけようって話をしてる。でも、一回冷静になった方が良いと思うんだ。だから………を、家かどこか安全なところに避難させておいて。私ははっちを説得するから。 私も行くよ。 そう言った。 誰にも奪わせるものか。 あいつだけは。 せめてあいつだけは報いを受けろ。 ──は、来なくて良いよ。私だけで説得するから。私が乃恵と話をする。 私は"彼女"に言った。 "彼女"は少し切なそうな顔をして頷いた。 ◯ 邪悪というのは存在するのだろう。 藤島小百合という何もかもが異質な存在を相手にし、寒川真冬はそう思った。 どんな罪深い人間にも、何かしらの事情があって罪を犯すような悪人に成るのだと、真冬はずっとそう思っていた。 でもそれは違った。 藤島小百合のように完全なる邪悪というのがいるのだ。 悪人に成る過程というのは様々だ。生まれつきである場合もあるし、途中で悪に染まる場合もある。それでも人にはどこか悪に染まり切れない部分があるものだとそう思っていた。 でも、いたのだ。 藤島小百合という完全なる邪悪が。 自己の欲求のために自分や他者の命を弄ぶ怪物が。 自分の常識は間違っていた。真冬はそう思い知らされた。 殺意などきっと誰でも抱いている。そして殺害に至る動機など、実に単純なものなのだ。 藤島小百合の場合は、贖う者に成るために殺意を抱き、そして自らの異常なマゾヒズムを満たすためというのが動機だ。 たったそれだけで彼女は自らを殺し、それからも死体を積み重ね続けた。 人は思ったよりも簡単に人を殺すのだろう。 邪悪であればあるほどに。 だったら。 金繭小事件の犯人"新城彩華"もまた、そうだったのかも知れない。 彼女が邪悪であったのかは分からない。 それでも、分かったことがある。はっきりとしなかった彼女の殺害動機はきっと、彼女の語った通りだったのだろうと思う。 彼女は最初から真実を話していたのに私が勝手に拒絶していたのだ。 彼女にはどうか、生きていて欲しい。 現実を知った今、もう一度、彼女と向き合いたいと思う。 だから──真冬は藤島小百合事件が形式上の終焉を迎えるのを待たずして、藤島事件の処理と並行して新城彩華の行方を追っていた。 真冬が知っているのは、西方学院に送られるまで、である。 そしてその後、西方学院は学院のある古井戸村ごと全焼している。 そこで、新城彩華は生死不明の状態となっていた。 真冬は眠ることもなく、四方八方を駆け回って古井戸村大火災による行方不明者リストを手に入れた。 リストには夥しい数の行方不明者の名が並んでいる。 ずらりと並んだ名の中に、新城彩華の名前と特徴が確かに記されていた。 火災当時の年齢は15歳。身長は160cm。中肉中背。出身地は金繭市。 当然だが、真冬が最後に彼女を見た時よりも背も伸びている。 彩華の名前には赤線が引かれている。情報によると、この赤線は死亡した確率が高いとされているようだ。 どうも彩華の身につけていた遺品らしきものが現場から見つかったのだという。 その旨は既に親族にも伝えられており、捜索願等は出されていないのだとか。 やはり、もう彼女はいないのか。 何か手掛かりはないかと真冬はそのリストを眺めた。 ある名前に目が留まった。 奇妙な胸騒ぎがした。 名: 西原叶夢 当時15歳。身長174cm。細身。肩にタトゥー。 気持ちの悪い動悸が、頭の中をぐらぐらと揺らす。 西方学院在籍時の新城彩華と西原叶夢の顔写真を見た時、真冬の頭を最悪の予感が駆け抜けた。 気づけば真冬は、虎谷羅那に電話を掛けていた。 ◯ ──2022年12月24日土曜日── 羅那はコタツに突き刺さったように仰向けになり、座椅子を枕にぼうっと蛍光灯を見つめていた。 今日は家に母もいない。 つけっぱなしのテレビからはクリスマス特番か何かの楽しげな声が聞こえてくる。 静かなのは落ち着かない気分だったからテレビをつけたものの、結局見ないし聞かない。 消そうにもリモコンまでが遠く感じて、その気にならない。 リモコンはコタツの天板の上にあるのに。起き上がるのがだるい。手を伸ばすのもだるい。 疲れている。 一昨日の藤島小百合との戦いが、いや、あの日からずっと続いていた旧校舎の呪いが羅那に与えたダメージは大きい。 これまでは何となく、踏ん張ってこれていたが、いざ戦いから解放されると疲れが一気に溢れ出した。 今日から冬休みだったのは本当に幸いだった。昨日が終業式でなければ、羅那は人生で初めて授業中に居眠りをしているところだった。 怪異に慣れている自分でもこんなにくたびれているのだから、きっとみんなはもっと疲れているに違いない。 冬休みもあることだし、慰労会も兼ねてみんなで集まろうかとも思ったけれど、声を掛けるタイミングがなかった。 冬休みは短いし、どうせすぐ会える。それに、多分誰かが声を掛けるだろうとそんなふうに思ったから羅那は結局、誰にも声を掛けなかった。 来夢とリクにも事件の収束を報告しておいた。 リクには褒められたが、来夢には怒られた。もっと自分の命を大切にしろと。 それでも二人とも、事件が収束したこととそして羅那が無事に生還したことに安心したようだった。 そう、終わったのだ。事件は。 藤島小百合という異質な怪異によって巻き起こされた事件は。 失踪していた西倉山高校の生徒たちは皆、愛維と同様に健康状態に大した異常がないまま生還した。 藤島小百合を浄化させた後、寒川の手引きによってすぐに旧校舎は封鎖された。 そして。濡れ衣を着せて冤罪を生み出そうとしていた捜査本部長がどういうわけか自身の罪を自白したという。 寒川曰く、藤島小百合の置き土産かも知れない、と。 捜査の主導権は寒川の手に渡り、旧校舎はすぐに捜査されることになった。 あの町の特霊課は真冬くらいなので、捜査には時間は掛かるが確実に事件として処理してみせると真冬は意気込んでいた。 現状、既に旧校舎からは大量の人骨が見つかっている。 これでやっとみんな元の場所に帰れるのだろう。 捜査の影響で、校舎は新旧含めて封鎖されている。 この後しばらくは部活動等も校外で行うことを求められていた。 羅那はうんと伸びをした。 ぱきぱきと関節が鳴る。 ずっと座椅子を枕にしているからか、首が痛んできた。 羅那は首を摩りながら、あの"首無しの怪異"を思い出した。 結局、首無しとなんだったのか。 藤島小百合によって殺された羅那たちの中の誰かであるなら、藤島小百合が消える時、同時に浄化されているはずだ。 そもそも、首無しは藤島小百合のしもべなのだから羅那たちが藤島小百合と戦っている中で"首無しだった誰か"が本性を表し、藤島小百合の味方をしていてもおかしくない。 でも、どちらも起こっていない。 羅那が見落としていないなら、藤島小百合との戦いの中では誰にも何も起こっていないはずだ。 やはり首無しは、藤島小百合が見せた幻影だったのか。 首無しに連れて行かれたと言う失踪者たちに対するヒアリングでは、失踪者たちは失踪時のことをよく覚えていないのだと言う。 また、藤島小百合を倒した後、念のため寒川が羅那たちを調べてくれたが羅那たちから怪異の反応はしないとそう言っていた。 首無しが羅那たちを惑わすためのあやかしであったのなら、藤島小百合とは、やはり悪趣味な人物である。 藤島小百合は、やはり異質な存在だった。 彼女が邪悪であることに違いはなかった。 怪異となった彼女は人の苦しみを貪り、自身の苦しみをも餌にする化け物だった。 それでも、彼女が生まれてからずっと邪悪であったとは思いたくなかった。 同情しているのかも知れない。同じ心霊好きとして。 こんな感情を藤島小百合と戦う前に抱いていたら、確実に飲み込まれていただろうと思う。 今だから思える。藤島小百合が例え邪悪だったとしても、自分が彼女と同級生だったならあんな結末にはさせなかっただろうと。 藤島小百合からは怪異を疑うことを学んだ。 悲劇の死があるからこそ怪異となるのだと思っていた。 でも藤島小百合のように自ら望んで命を断ち、欲望のままに暴れる怪異もいるのだと学んだ。 邪悪なる怪異というものは、存在するのだと。 これからは、怪異が生前持っていた邪悪さにフォーカスを当てて怪奇事件を読み解くという手段も必要になってくる。 これは世にもっと知られる必要がある。羅那はそう思った。 そのためにはまず、人の邪悪さについて追求していかないといけない。 生まれ持っての邪悪。何か悲劇を経験して生まれた邪悪。欲望に支配された邪悪。邪悪にも色々あるだろう。 人は何故、邪悪となるのか。 それを読み解くべく、羅那は手始めに、覚悟を決めて五年封印していた"ログ"に目を通していた。 金繭小事件において同級生を殺害した新城彩華──ソラナキと羅那──"える"とのSNS上でのチャットの記録だ。 ソラナキが邪悪であるとは言い切れないが、そうであった可能性もまた否定できない。 まずは邪悪であるかどうかを見極めるべく、ログを見返す必要があった。 チャットのやり取りは事件前日まで続いている。 羅那はゆっくりと上体を起こし、開いたままのノートパソコンに再び目を向けた。 羅那はソラナキとのチャットの内容など印象的なやり取り以外はほとんど覚えていなかった。 見返してみると、意外と怪談に関する話ばかりではないことに気づく。 好きなアイスはなにとか、今日は何食べたとか、意外と雑談も多い。 当時はソラナキのことを歳上に思っていたけれど、いま見てみると小学生同士のやり取りにしか見えない。 彼女が殺人を犯した人間であることを忘れてしまいそうになる。 事件前日のやりとりを見返してみる。 その日も、えるとソラナキは本当に怖いのは幽霊か人間かという議論を交わしていた。 それは議論というより、ソラナキの意見を羅那が聞いているだけだった。 ソラナキ: 死者って哀れだよね。自分の力では浄化さえできないんだから。 える: でも、怪異って色んな力持ってるし怖いよね。 ソラナキ: それはそうだけど、生きてる人間が力合わせたらやっつけられるよ。だから多分、生きてる方が強いんだろうね。 える: 珍しく人間寄り!? ソラナキ: ヒトコワは認めないけどw 強い弱いで言えば、人間かなって感じ!怖いのはやっぱり怪異!でも、力を合わせたら怖くもない! 事件前日のソラナキとのやり取りに羅那は違和感を覚えた。 これまでは特に変わった点などなかったとそう思っていたが──。 ヒトコワを否定し、人間よりも怪異の方が恐ろしいのだと一貫して主張していたソラナキが、この時は人間の方が強いのだと主張しているのだ。 最後のソラナキからのメッセージも、なんだかどっちつかずといった印象だ。 ホラー通としては怪異の恐ろしさが一番であって欲しいと思っている反面、実際は力さえ合わせれば生きている人間こそが強いのだとそう思っているのか。 それは別におかしな話ではない。 でも、記憶が正しければソラナキはこれまで力を合わせたら人間が強いとかそもそも生者が強いとかそんな話はしていなかったように思う。 ログを見返していくと、事件が近づいていくに連れ、ソラナキはしきりに生者の強さを主張していた。別に、羅那は聞いてもいないのに。 まるで、言い聞かせるように何度も何度も同じようなことを主張している。 もしかして──ソラナキは殺人を犯すからこそ、生きている自分の方が強いのだとそう言い聞かせていたのか。 自分は生者のままで、被害女児は死者となるから。 例え恨まれて怪異になっても、生者である自分ならやっつけられるとそう思いたくて。 だからこんなにこれまでの意見とはぶれた主張を繰り返していたのか。 彼女は邪悪だったのか。 羅那は、ソラナキの実際の様子を知らない。インターネットでの姿しか知らないのだ。 だから邪悪だったのかどうかを判断することは出来ない。 ログを見返しても、それは分からなかった。 邪悪でなかったとしたら、彼女は何故、殺人に至ったのか。 何が彼女を突き動かしたのか。 分からなくなってくる。 羅那とのやり取りは全て、ソラナキのほんの一面だったのだろうと思う。 彼女としての大部分を占める大きな面はもしかしたら邪悪だったのかも知れない。 それは、実際に彼女に…新城彩華に会って話して見なければ分からないことだ。 羅那はため息をついて、ミックスジュースのペットボトルに手を伸ばす。 空っぽだった。 手を伸ばしたついでにテレビを消した。 静かになった和室に、バイブ音が響いた。 天板に置いてあるスマートフォンが震えている。 着信は、寒川からだった。 事件の進捗だろうか。わざわざ電話で? 羅那は応答した。 「はい──」 「虎谷さん。よく聞いて──」 寒川の声は震えていた。呼吸は荒く、落ち着きがなかった。 電話を切り終えるより早く、羅那は慌ててコタツから抜け出そうとしたので、膝を天板にぶつけた。 どくどくと鼓動が早まる。 コタツの電源を抜き、和室の照明を落とし、廊下へ飛び出し二階へ駆け上がる。 自室で素早く着替え、上着を羽織り、リュックから通学定期を引っ張り出し、転がるように外に出た。 ──西原叶夢と連絡をとって。とれないなら、すぐに贖う者の祭壇に向かって。私も行くから。 寒川は最後にそう言った。 羅那は自転車を引っ張り出し、駅に向かって走らせた。 空からはちらちらと雪が降り始めていた。 今日は大雪の警報だったか。 確か、電車も早めに終電を迎えるとかそんなことをニュースで見た気がする。 関係ない。 帰りのことなど、どうでも良い。 もし、寒川の言っていることが事実ならば── ──羅那たちの中に、贖う者に成ろうとする者がいるのだから。


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