SIDE OF UPDATE〜ラストマッチ篇2〜
Added 2022-03-30 13:03:32 +0000 UTC2 204まで 時は遡り… コマンド社による騒動発生から一ヶ月。 シー・ヴァースというコテージが建ち並ぶリゾート施設に複数の男女グループの姿があった。 204と数字が打たれたコテージ。そのウッドデッキのベンチに座るのは、ガス・サンドという短髪で立派な白髭を蓄えた老人。本を読む彼の前にはライフル銃が置かれている。 「サンド。そろそろ日が暮れる。」 そう言ってデッキに上がってきたのは、羽落(ウオチ)ミユ。長身で、美しいブラウンの髪をミディアムショートにし、凛々しさと妖艶さを併せ持つ目をしている。 袖なしヘソだしでおまけにホットパンツという超大胆な格好で、老人とはいえ男であるサンドからすれば少々目のやり場に困る。サンドは本を見たままコクリと頷き、ライフル銃を持って立ち上がった。 ミユ「玲奈。いつまで寝てんの。」 ミユは、ハンモックでぐーぐー眠っている宍戸 玲奈の脇腹をチョンチョンと人差し指でつつく。玲奈はビクッと飛び上がって起き上がり、そのままハンモックから転げ落ちた。 玲奈「いった〜…普通に起こしてよ。」 ミユ「あんたを起こすのは昔からこれ一本ですから。」 ミユは意地悪に笑い、ピンと立てた人差し指を曲げ伸ばしする。 羽落ミユは、騒動が起きる直前までラウンドガールを勤めていた。彼女の格好が露出過多なのはそのためだ。とはいえ、ミユも元は格闘技をかじっている。その前はグラビア。玲奈とは付き合いが長い。 玲奈とミユはコテージに戻る。中は薄暗く、照明はほとんど着けていない。真ん中のテーブルを囲むように、元猟師の老人サンド、玲奈の栄養等を管理するサポートメンバーだったテイル、いかにも金を持ってそうなハンサムな中年男ヘリックス、そして警察官志望だったという青年ブルース、元女優…というかポルノスターだった女性ミカエラがそれぞれの椅子に座っていた。 昼間は物資の調達に出かけ、あたりを見回り、夜はほとんどの灯を消してこうして息を潜める。 ここ以外のコテージはほとんど破壊されており、唯一残されていたのがこの204のコテージだった。 この場所へ皆を案内したのがサンドだった。彼はよく休暇中にここで羽を伸ばしにくるらしく、中でも人気のない204コテージならきっと無事だろうという考えでここへやってきた。 騒動が起きた当時、玲奈は自身のPRイベントのためにサポートメンバーたちと共にとある街を訪れていた。その中にはミユとテイルも当然いた。 まず、イベント会場の窓ガラスが一斉に割れ、外から武装した女たちが複数飛び込むように入ってきたかと思うと、会場にいた人々を次々に制圧し始めたのだ。 テイル「なに!?」 玲奈「テイル!バックへ回ってて!」 ミユ「警察を…!」 ミユがスマートフォンを取り出して操作しようとすると、突如背後から現れた一人の大女にスマートフォンをパシッとはね飛ばされた。 髪も肌も真っ白で、ぷるんとした唇と爪、それから瞳だけが緑色をしたその大女…のちに全人類がアップデーターと呼ぶことになるその大女にミユは手首を掴まれ凄まじい力で引き寄せられて、ぶちゅっと口づけをされる。 「…8。第一段階ギフトβ投与の必要性あり」 大女がそう言って、ミユを押さえ込む。 それを玲奈が取り込むように割って入って、大女の顔に膝蹴りを入れた。 玲奈「何やってんのお前…!!」 この時はまだ、何が何だか本当に分からなかったが、それでも、この大女に力の手加減は必要ないことは直感でわかった。 まもなく会場で大勢の人間たちの拉致、そして殺戮が始まった。玲奈とミユとテイルは命からがら逃げ出し、アップデーターに体を引き裂かれて殺害されたコーチの車に飛び乗り、エンジンをかけ急いで街から脱出した。 あの時見た外の惨劇は今でも覚えている。 クラクションと悲鳴の嵐の中、大勢の人々が方向感覚を失ったかのように逃げ惑っていて、そこに玲奈たちの知る世界はもう既に無かった。 肉や血が舞って、かと思えば、どこからか狂ったような笑い声が響いてきて、そこら中から「アップデートを」という冷たい女の声が聞こえてきていた。 街を出たものの、同じように我先にと街を出ようとする人々の渋滞にはまり、車が立ち往生してしまった。そんな時、ちょうど後ろに車を走らせていたガス・サンドと出会ったのだ。一向に渋滞のままで車が動かず、いつコマンド社に襲われるか分からないという恐怖に包まれ、多くの人々がパニックになっている中、サンド老人は落ち着き払っていた。 葉巻を咥え、視力があるのか怪しい白く濁った左眼でじっと渋滞の前方を見つめていた。 それからすぐ、コマンド社のヘリが数機近づいてきて空から無数のアップデーターが舞い降りてきた。 それにいち早く気づいたサンドはすぐ玲奈とミユとテイルに声をかけ、共に車を捨てて道の外れである森の方へ走った。 しかし、そこにもコマンド社の追手が。幸い、元を含めて格闘家が二人と銃の扱いに慣れた猟師が一人。アップデーターといえど見た目は人間。だから当然、殺すのには抵抗があったが、それでもやるしかなかった。 森のピンチを切り抜けた後、当てもなくしばらくの間彷徨った。何日か経って再び渋滞のあった国道へ出てみれば、そこはすっかり変わり果てていた。やかましくクラクションを鳴らしまくっていた沢山の車はもう全て破壊され、黒焦げになったり、鉄屑にされていたりしており、あたりに焦げ臭さを撒き散らしていた。 それだけでなく、人の死体もあちこちに散らばっており、その異様な光景と臭いに玲奈は思わず吐き気がした。 サンド「ラジオを。」 サンドがかろうじて生きていそうな車のドアを開け、ラジオを触る。だが、ノイズすら流れず、当然ラジオは無反応だ。 サンド「ダメか。何も情報が得られないな。」 それから四人はまた彷徨った。途中、何度も別のグループがコマンド社に捕まったり、殺されるのを見た。ずっと抵抗していた女性が目の前で首を刎ね飛ばされた時、玲奈は目の前でそれを見ていたのにそこまで感情が動かなくなっていた自分が嫌になった。 ブルース・ギャレンと出会ったのはそれからすぐ後。彼は学生だったが、警察官志望ということで銃の腕前は確か。さらに背も高く体格も良くて非常に頼り甲斐のある男だった。一度はコマンド社に捕まったが、命からがら脱出したそうだ。 この男は好青年であるが、時折恐ろしい一面を見せる。それは、アップデーターのみならず、玲奈たちに危害を加えて来る別の生存者に対しても。ブルースは相手を生かしておくべきか、そうでないかをすぐさま判断する男だった。 後者の場合、彼は即座に相手の息の根を止める。銃で、或いは武術で。 その恐ろしいまでの決断の早さは、玲奈たちと合流するまでに彼がこの世界で遭遇した経験のせいなのか、それとも警察を志す最中に得た価値観なのか、はたまた生まれつきなのかはわからないが。 ブルース「努力するよ。」 何らかの形で相手を殺した後、ミユや平和主義者のサンドに咎められた際、決まってブルースはその言葉を口にした。 ブルース「人殺しがよくないのはわかる。」 「だが、その考えはもう甘いと思う。」 夜になれば、ブルースは玲奈にその事をよく愚痴った。 玲奈「あんたの言うこともわかるけどさ…、こんな世界でも冷静にいようよ。」 ブルース「冷静さ。冷静だからあんな事をしてる。」 「みんなわかってないんだろう。この世界の本当の怖さを。」 ブルースの目はいつも泳いでいた。焦点が定まらないというか、どこか落ち着きがなく、玲奈と話す時も、玲奈が目を合わしてもすぐに目が合わなくなってしまう。 コテージへ向かう途中、ヘリックス・ケイジと出会った。紫色の高価そうなスーツに身を包み、金髪オールバックのいかにもお金持ってます風の男。彼は返り血まみれで、おまけに食料もなく力尽きる寸前だった。そんな時に玲奈たちと出会い、彼は命を救われた。 ヘリックスの持っていた車(元々は彼のものではないが)を手に入れ、全員でコテージへ向かう。 そしてこのコテージでポルノスターのミカエラと出会い現在に至る。 現在、玲奈たちは"とある究極の選択"に迫られていた。彼女らのいるコテージ…その物置部屋に一人の女が体を縛られ、目隠しをされて閉じ込められている。その彼女こそが玲奈たちを悩ませているのだ。 ブルース「殺すべきだ。」 ブルースが言った。テーブルに置いた蝋燭の火を眺め、忙しく目を泳がせながら。 サンド「落ち着けブルース。よく考えよう。」 ブルース「考えてるさ。」 ヘリックス「整理しようか。」 「あの彼女は…コマンド社の職員…そうだな?」 ミユ「そうだよ。ボロボロになってたのを私と玲奈で見つけた。」 ヘリックス「どうして連れ帰ってきた?」 玲奈「ほっとけなかった。」 「…ってのもあるし、放ってたら居場所がコマンド社にバレてたかもだし。」 「何とかしようと思って…連れてきた。」 ブルース「奴を始末するべきだ。」 「奴を生かせば、確実に俺たちの居場所はバレる。」 サンド「我々は彼女に直接何もされていない。」 ブルース「楽観的な事を言ってる場合か?」 ミカエラ「あの…さ。生かすとしてもどうやって生かすの…?ずっと見張っておくの?」 玲奈「…仲間になってもらう…とか。」 ブルース「冗談だろ?」 「絶対に消すべきだ。いますぐに。」 ミユ「ちょっと。簡単に人を殺すかどうかを決めないでよ。」 ミユが立ち上がり、ブルースに抗議する。 ブルース「簡単じゃない。だが、既に明確に答えは出てる。どっちを選ぶべきか。」 ミユ「…答え…?それは答えじゃない。」 「解決策だよ。解決策っていうのは、物事を解決できるけど、正しくはないこともある。」 ブルース「屁理屈だ。」 ブルースが立ち上がり、ズカズカと物置の方へ歩いていく。それをヘリックスが止めた。 ヘリックス「おいおいおい落ち着けって。」 「お前の言い分もわかるけど。」 ブルース「だったらそこをどいてくれヘリックス。」 「俺がやる。」 ミユ「もう一晩考えようよ。」 ブルースは大きなため息をつき、それからコテージの扉にもたれかかって腕組みをし、またため息をついた。 だが翌朝、悪夢が玲奈たちを襲った。 翌朝。青空に、黒くて光沢のある禍々しい塊が浮かんでいた。 一見した時、それが何なのか分からなかった。少なくとも人だとは思わなかった。黒い鎧のようなモノがソイツの周りにくっついている。天使のような翼─しかしそれは漆黒─が背から生えており、先端にデッカい手がついたデッカくて太い腕が2本、背中の禍々しい鎧から生えている。その黒く禍々しくデカイ腕の前腕部はガラス張りの筒状のカプセルのようになっていて、片方のカプセルにはどういうわけか裸体の若い女が閉じ込められている。 その女の肌はヌメヌメと妖しく光っており、ビクビクと痙攣しているようにも見える。 カプセルつきで黒く太くデカイ腕、そして黒い翼、黒いマスク、鎧を身につけているソイツはシューシューとマスクから音を立てて相変わらず宙に浮かんでいる。 禍々しい物体に身を包んでいる本体はモデルのように細くて長身で、手足が長くてオマケに雪のように色白で、髪も真っ白。瞳は真っ赤に光っており、口元は刺々しい黒のマスクで覆われている。 黒い鎧とその一部であるデカイ腕に挟まれるようにしている本体らしき女ほぼ裸体に近いほど露出が多く、見事なまでの乳も乳首以外ほとんど晒されている。 そいつは、タタリと呼ばれた。コマンド社のロゴマークを背中に刻み、シューシューと不気味な音を立てながらゆっくりと玲奈たちの方へ近づいて来る。 早く。早く車に乗って逃げなきゃいけないのに。コテージから離れないといけないのに。誰一人として体が動かなかった。 「来たぞ!!!」 叫んだのはブルースだった。彼は猟銃を構え、森からわらわらと湧いて出てきたアップデーターたちをぶち抜く。それに合わせるように、サンドもライフルで加勢した。 そこでようやく、体が動いた。逃げなきゃ。 車へ走る玲奈。だが、頼みの綱であった車は複数のアップデーターにより破壊された。 玲奈「くそ!」 ミユ「玲奈…!!!」 玲奈が車に群がっているアップデーターを引き剥がし、ぶん殴っている時、背後から消え入りそうなミユの声がした。 玲奈が振り返った時、そこにはゾッとしたような顔を浮かべ、タタリの巨大な手に掴まれているミユの姿があった。 玲奈「ミユ…!!!」 ミユの体は巨大な黒い手の平の穴にズボッと吸い上げるように吸い込まれた。そして、その長身のミユの体はタタリの人工腕のガラス製カプセルに吸い上げられる。 そこから、惨劇が始まった。