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SIDE OF UPDATE〜ラストマッチ篇1〜

1 チャンピオン ゴッ。 ゴッ。 ゴッ。 荒れ果てたスーパーに鳴り響く鈍い音。それに混じる呻き声。 雑貨や、もはや食べることもできない食品が散乱したその店内で、数人の男がのびている。そのうちの一人の男は女に馬乗りになられたままゴツゴツと顔を殴られている。 男の顔が血に染まり、歯が折れて、命乞いさえもしなくなってピクピクと痙攣し始めると、ようやく女は拳を止め、立ち上がった。 「…全く。私を襲ってきておいてこれで済んでラッキーだと思いな。」 前髪を分けて垂らしたポニーテールのその女は、乱暴な口調でそう吐き捨て、拳についた血を拭いた。小麦色の肌に筋肉質でキュッと引き締まった肉体と見事なまでの腹筋を晒したスポブラ姿で、非常に露出の多い格好の彼女は去り際に男を蹴っ飛ばし、スーパーに置いてあった食品をバッグに詰める。 宍戸 玲奈(シシド レナ)。彼女はかつて総合格闘技の無敗の階級チャンピオンであった。 165センチの身長にその長い手足と鍛え込まれた肉体から繰り出される一撃は大勢のファイターを打ちのめしてきた。 玲奈「おーい。もう片付いたからさっさと出てきて荷物詰めてくれる?」 玲奈がそう言うと、物陰に隠れていた色白の青年がひょっこり顔を出した。彼はテイル。玲奈の所属していたチームのサポートメンバーであった。 テイル「も、もう大丈夫?」 玲奈「大丈夫だって。全員半殺しにしといたから。」 テイル「殺してないよね…?」 玲奈「やってない。そんなヘマするわけないでしょ。」 玲奈はそう言って自分の拳を見つめた。 明らかに普通の女の子とは違う鍛え込まれた拳。鋼の拳とか、悪魔の拳とか色々な異名付きのその拳は、あらゆる格闘家の顎を砕き、内臓を痛めつけてきた。そんな拳はこの終末とも言える世界においてもれっきとした武器となっている。 テイル「本当にあるのかな。」 テイルがリュックにエナジーバーを何本も詰め込みながら言った。 玲奈「何が?」 テイル「"生存者たちの楽園"」 玲奈「あるって言ってんだからあるんじゃない?」 テイル「罠かもしれないよ?コマンド社の。」 玲奈「かもね。じゃあ行くのやめる?」 テイル「……いや。そうすると僕らの目的地がなくなっちゃう。」 玲奈「でしょ?罠かもしれないけど、とりあえずはそこへ向かわなきゃ。」 「罠だとしたら…そこにいる連中全員をぶちのめせばいい。」 テイル「玲奈ならできるかもね。」 玲奈「当たり前。もう二度と…」 そう言いかけた玲奈はクラリと目眩がして、ふらついた。 大丈夫?というテイルの声もはっきりと聞こえず、クラクラと揺れる視界の中に、上半身と下半身を引きちぎられるかつての仲間を見た。 血と火薬の臭いが入り混じる異様なあの場所。破壊された建物の瓦礫の山に立つ、アイツの姿。 独立した生き物のようにうねる銀の髪、真っ赤な瞳、そして、腕を模した黒く禍々しいまでの兵器。ソイツは全てを吸い込んだ。玲奈から全てを奪った。 あの絶望と狂気の笑い声の中、玲奈はテイルを連れて命からがら逃げ出し、無事に生き延びることができた。たが、仲間は失った。 ヤツは"タタリ"と呼ばれていた。その名の通り、怨恨のように冷たく、残虐で、人の命を奪うことをまるで作業のように行なっていた。玲奈が殺す気で挑んでも、一切歯が立たなかった。 タタリ…奴のことを思い出すと、目眩がする。 「まずい!!」 テイルの声がして、玲奈が我に帰る。見れば、テイルを二人のアップデーターが挟むようにしてジリジリ迫っていた。 玲奈は拳を握りしめ、背後からアップデーターの後頭部を殴りつけ、さらにフックで肋を殴り、続けざまに膝で腰を砕く。さらには腕で首をロックしてへし折れるくらい締め付け、トドメに顔面に強烈な肘打ちを打ち込んだ。その間わずか5秒足らず。 格闘チャンピオンの玲奈の猛攻によりアップデーターは一切抵抗できないまま地面に倒れた。玲奈がアップデーターの頭を2度踏んづけ、それからもう一体のアップデーターにハイキックを入れた。玲奈の足がコンッとアップデーターの側頭部にヒットすると、アップデーターはぐらりと揺れる。アップデーターの緑色の瞳がノイズが混じったように乱れた。アップデーターが体勢を立て直すよりも早く、顎を砕き、さらに顔を3発殴りつけ、最後は目一杯力を入れて首をへし折った。 玲奈「はぁ…はぁ。舐めんなよ。こっちもとっくに人間辞めてんだから…。」 猛攻を終えた玲奈は肩で息をしながら、死んだアップデーターを見下ろし言った。 「総合格闘技 宍戸 玲奈 禁止薬物使用か」 スポーツ紙の見出しが頭によぎる。 あぁそうだよ。使用か?じゃなくて使ったんだ。それもあんたらの思ってる程度の量じゃない。もっと沢山。山盛り使ったよ。経口剤も注射剤も。健康そっちのけで使えるものは全部使った。 そうさせたのはあんたらだ。 格闘技界が私を退屈させたからだ。 世間があれほどにまで待望してた、総合格闘技チャンピオン宍戸 玲奈とボクシングチャンピオンの小野内 アヤハのマッチ。結局、バカな偉いさんたちの事情でそれさえも実現しなかった。 だから私は地上から消えるために怪物になって、地下に潜った。 こんな世界になって、当然ながらこれまで摂取してきた薬物は手に入らなくなった。ああいういわゆるドーピング用の薬って、同時に肌とか体を整えるケア剤も一緒に摂取するんだけど、それも手に入らない。一度、ドーピングした者はもう二度と普通には戻れない。普通じゃない肉体に、ケア剤もない。だから正直、体にはガタが来てる。 でも、どうだっていい。どんな体になろうが、こんな世界だもん。 この世界に安心なんてない。夢の中でさえも。 夜、ようやく寝床を見つけて眠っても、惨劇が悪夢として蘇る。救えなかった仲間や友人たちの顔が…そう…救えなかった瞬間の顔が蘇る。 どんな困難が降りかかってもなんとかなる。 そう思ってたけど、今回はそうはいかない。 "あの日"から私は、そう思うようになった。

Comments

としさんありがとうございます!!コードレッド編はもう少し後になります💦 が、なるべく急ぎます! その間に褐色系キャラのコチョコチョ作品もどこかで入れますね!

Kara

待ってました!!めちゃくちゃ良かったです!!次はお楽しみの褐色肌の女の子が出てくるコードレッド編ですかね??めちゃくちゃ楽しみにしてます!!

toshi0325monst


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