悶絶の空間〜次はお前の番だ〜
Added 2022-04-18 14:30:56 +0000 UTC雲に隠れた月から放たれる僅かな月明かりと、道に並ぶ街灯だけが薄らと街を照らす真夜中。 その日も夜遅くまで友人達と酒を飲んでいた酔いどれ男子学生がふらふらとふらつきながら帰路についていた。 あぁ、飲みすぎた。飲むのは楽しいけど、やっぱり飲み過ぎはいけないな…これは明日に響くぞ。 そんな事を考えながらフラフラ〜と角を曲がり、自宅への近道であるひと気のない道へと入った時だ。学生の顔に何かがぶつかった。周りをよく見ないで曲がったものだから人とぶつかったのだと勘違いし、咄嗟に「すみません」と謝ったが返事がない。よく見てみればそれは人ではなく、"モノ"だった。電柱に吊るされていたモノだ。 ビニール製の袋か何かに包まれて縄で何重にも縛り付けられている状態で、ソレは吊るされていた。 「なんだ…これ?」 酔っているからこんなものを見るのか?学生は目を擦ったり頭を軽く叩いたりして正気を取り戻そうと試みる…が、結局目の前にあるその謎の物体は消えない。 しばらくそれを見ていると、ちょうど酔いも覚めてきたのか暗闇に浮かぶソレの形がよく見えてきて、ソレがなんなのかわかった。そしてその途端、学生は女性みたいに高い声で「ひぃっ!」と声をあげて尻餅をついた。 ガクガクと体を震わせ、思わず失禁。しばらく放心状態に陥った後、彼はスマホを取り出してソレを何枚も写真に収めた。 学生が見たもの。それは、人間。男の体だった。頭部をラップか何かで何重にもぐるぐる巻きにされ、胴体は白い大きなビニール袋を被せられ、その上からさらに縄でぐるぐる巻き。そしてなぜか足は靴や靴下を履いておらず、裸足にされている。 そんな人間がビクビクと痙攣しながら電柱に吊るされていたのだ。 学生はこの異様な光景をネットにアップしたのちにすぐに警察に通報した。 その事件はすぐに大ニュースとなった。幸いにも吊るされていた男はギリギリ生きており、病院へ搬送された。警察によると、男の体中に引っ掻かれたり指圧されたような痕が残っており、これがなんなのかを男に尋ねても男は気が狂ったように何も話せないという。 この異様な事件は何も今回が初めてではなかった。1週間前には、埠頭に停まっていた無人の車のトランクから通気性の良い袋に詰め込まれた瀕死の男が発見され、そのさらに2週間前にはドラム缶にオイル漬けされた状態の瀕死の男が、その前には公衆トイレにて瀕死の全裸男が発見されていたのだ。いずれも犯人は不明。 だが、共通点がいくつかあった。それは、ターゲットが全員若い男である事、そして全員が瀕死である事、全員の体に引っ掻き痕と指圧痕があること、また、オイルか何かを塗られたような痕があること…、そして…体に"ドクロの落書き"があること。 ある男は腋に、ある男は足裏に、ある男は脇腹に…その奇妙な落書きが残されていた。 それから、警察は発表していないが、ネット上ではもう一つ共通点が話題となっていた。被害者となった男達は皆、何かしらの"スキャンダル"を抱えていたという事だ。 ある男はイジメの主犯、ある男は酷い女垂らし、ある男はDV男、ある男は詐欺師…。 以上の共通点から、ネットではこの一連の事件が警察以外の何者かによる"私刑"である可能性が高いと噂されていた。 被害者が全員、廃人と化しており事情聴取もできないため犯人は野放しのまま。 そんな中、ある一本の動画がネット上にアップされ、世間を震撼させた。 タイトルは「No.11。罪状: 浮気、レイプ、DV、いじめ」 再生時間は30分。 この動画により、これまでの被害者がどのようにして廃人にまで追い込まれてしまったのかが明らかになったのだが、その内容があまりに過激すぎたため動画は即削除。だが、既に動画はあらゆるサイトに転載され、拡散されており大勢がそれを目にした。 その結果、SNSでとあるワードがトレンド一位となった。 それは、「くすぐり」「コチョコチョ」「くすぐり刑」というワードだ。 なぜそんなワードがトレンドワードとなったのか…それは、例の動画内で被害者である男が何者かの「くすぐり」によって精神と肉体を破壊されていたからだ。くすぐりなんて子供の遊び、友人とのじゃれあいで使われるスキンシップのようなもの…それまでそう思っていた人々には、くすぐりが残忍なものであるという事実はとてつもない衝撃であり、大きな話題を呼んだのだ。 動画が公開されたわずか一日後に、男がゴミ捨て場で発見された。動画に映っていた男だ。 例の如く瀕死で、ピクピクと痙攣するだけの廃人となっていた。 この残忍な私刑を行う何者かによる事件解決のため、警察や国の某特殊組織が動き出し、動画に映っていた男を最新の技術でなんとか治療。そして、脳を徹底的に検査し、情報を抜き取り、例の動画と照らし合わせてより鮮明に"あの惨劇"を映像と文章に起こすことに成功した。 彼が見たもの、感じたもの、全てを一つの資料にすることができたのだ。 これらは全て秘密裏に行われた。 捜査官ツバサは若手であるが、凄腕であり、既にいくつもの事件を解決に導いてきた。精悍かつ甘いマスクにいざ犯罪者と接近戦になっても容易に対応できる身体能力と鍛えられた肉体を持っており、まさに捜査官として完璧の一言。 そんなツバサが今回、例の奇怪な事件を担当することになった。解析班や他のチームの尽力により一つの資料と化したゴミ捨て場で見つかった男の身に怒った惨劇…。 それをツバサはこれから事件解決のために目を通さねばならない。動画とテキストが合わさった一つのファイルをツバサはpc上でクリックして再生した。