SIDE OF UPDATE〜ラストマッチ篇5〜天秤會〜
Added 2022-04-28 15:41:10 +0000 UTC2 天秤會 その船の上はまさに遊郭街そのものだった。 どこを見渡しても妖しい色に染まっており、さっきまで昼間だったはずがこの船の上だけは夜だ。そこら中を和服を着た美女が闊歩しており、それを淫らな顔で見つめる男たちがいる。 茶屋で楽しそうに会話をする人、宿らしき建物から寝ぼけた顔で出てくる人、屋台で食事をとる人…現実離れした光景に玲奈たちは終始面食らっていた。 これは現実か? こんなにも大勢がコマンド社から逃れてまだ生き残っているなんてすぐには信じられなかった。 ここは、"夜の街"という概念をギュッと纏めたようなそんな場所だ。 普通ならお面をつけた妖しい連中に従ってこんな船に乗ったりはしない。だが、生きる目標を失いかけ、さらに「この船こそが楽園である」と言われてしまえば従う他なかった。 ヘリックス「ここが…楽園…か?」 歩きながらヘリックスが尋ねるが、お面の女たちは誰一人として答えてはくれない。やがて、三人は、橋を渡った先の町外れにある薄暗い平家の建物に通された。 「武器を出してもらう。ここでは不要だ。」 狐面が言う。ヘリックスとテイルは大人しくそれに従うが、玲奈は躊躇った。いくら楽園と言えど、まだ相手の素性もわからないのだ。簡単に手放す気にはなれなかった。 「従わないのも結構。だが、船からは降りてもらう。」 ヘリックス「玲奈。とりあえず…だ。とりあえず渡そう。」 ヘリックスに諭され、玲奈は渋々武器をお面の奴らに渡した。いざとなれば自分には鉄の拳がある、そう思い出したのも差し出した理由の一つだ。 ヘリックス「ここは…なんなんだ?」 「ここは伊豆ミヤビの統治する"国"。コマンド社に属さぬ者なら誰でも受け入れる。」 ヘリックス「国?伊豆ミヤビって?」 「コマンド社の"天敵"…愛と力と復讐の権化…それが伊豆ミヤビだ。」 ヘリックス「なんだかよく分からんが…すげぇ奴がこの船を治めてるんだな。」 玲奈「…一つ聞かせてもらえる?」 「?」 玲奈「この船に…、老人を含めた三人の男女が乗ってこなかった?」 玲奈はずっと気になっていたガス・サンド達がここにいないかを女に尋ねたが、女はすぐ首を横に振った。 「分からない。全員を把握はしていない。この船は、国は、動き続けている。留まらない。人も、留まらない。」 玲奈「…?」 狐面女のつかみどころのない発言に短気な玲奈は戸惑いと少しの苛立ちを覚えた。 「たった今より、お前達三人はこの楽園の住人だ。住むからにはルールに従ってもらう。」 「一つ、喧嘩や暴力等の暴動は起こさないこと。」 「二つ、この船に数多ある店の決まりには従うこと。」 「三つ、与えられた役割を果たすこと。」 「四つ、伊豆ミヤビには絶対に従うこと。」 四つめの掟を口にしたときだけ、狐面の女の口調は強かった。それには玲奈だけでなくヘリックスやテイルも気が付いているようだった。 「ルールを破れば船を降ろされるか、罰を与えられる。自分が自分でなくなるほどの、オスがメスになり、メスは非力な糸のように崩れるほどの…罰だ。」 テイル「……う…。」 「…あ、与えられた役割って??」 「罰則」の説明にどことなく暗い影を感じたテイルがやや表情を歪ませながらも、話題を変えようと質問をした。 「それはまた後ほど…それぞれに適した役割を伊豆ミヤビが与える。それがここでの仕事となる。」 玲奈「なんのためにこんな慈善活動みたいなことを?」 「人が増えればリスクも増えるのに。」 「何か目的でもあるの?」 狐面の女は玲奈の問いかけには答えなかった。 三人はひとまず、とある宿の一部屋を与えられた。しばらくはここで共同生活するようだ。 ヘリックス「いやぁ…何だか夢見たいな場所だな?」 窓の外に身を乗り出し、夜の街を眺めるヘリックス。そこは相変わらずボンヤリとした灯に塗れ、大人たちの色気が立ち込めている。 玲奈「なんか怪しいけどね。」 テイル「言いたいことはわかるよ。」 「何か裏があるかも。」 「…もし、ヤバそうだったらすぐ降りよう。」 玲奈「賛成。」 ヘリックス「ま、まぁヤバそうだったら、な。」 玲奈「ちょっと散歩してくる。」 玲奈は立ち上がり、宿を出た。 ここに来てからずっと落ち着かない。常に誰かに見られているかのようで、気分はまるで牢屋だ。 今が朝なのか夜なのかも分からないくらい常に夜の顔を剥き出しているこの街の様相も気持ち悪い。 「ちょっ…!ちょっと待ってよ…!!」 玲奈が茶屋の前を通り過ぎた時、その向かいにある「男々屋」という大人の店から女の喚き声が聞こえて来た。 「ち、違う…!違うのっ!!」 女は店の者らしき和服姿の女達によって髪を掴まれ襟を掴まれ無理やり店から引き摺り出されている様子だ。 「違うんだって!ヒコ君がいいって言ったから…!だから私も…!同意の上なの!」 「ヒコもお前も店のルールに反したのは事実。早くこっちへこい。」 「い、嫌…!!嫌…!!お仕置きは…嫌…!」 「"アマネ"が来ないうちに従っておくのが身のためだぞ?」 「ひぃっ!!?アマネを呼んだの…!?あぁっ…そんなっ!!」 "アマネ"という名前を聞いた途端、女はふにゃりと力が抜けたように崩れ落ち、そのままズルズルと店から引き摺り出された。 大勢の人が行き交う道端に引き摺り出された女はすぐさま複数人で押さえつけられる。 「わかった!!従うから!!大人しく従うから!!アマネは呼ばないで!」 大の字の状態で四人に押さえつけられ泣き喚く女。よっぽどアマネとやらが恐ろしいらしい。 玲奈がその異様な光景にぼーっと目を奪われていると、背後からドンッドンッと大きな足音が聞こえて来た。その足音の主はやがて玲奈を通り過ぎ、真っ直ぐに女達の方へ向かっていく。 それは、白いブーツを履き、ふっくらした胸を強調した派手なスポブラでお腹を魅せ、さらにムッチリした太ももを大胆に露出した短いぴっちりハーフパンツのロングヘアの女だった。 ソイツがゆっくりと女の方に近づいていくに連れ、女はこれまで以上に激しく喚き、暴れ出す。 コイツがアマネだ。 玲奈「…まじ…?」 玲奈は思わず声が出た。アマネと呼ばれるあの女…身長は170センチくらいで筋肉質だがムッチリした、あの細めのプロレスラーのような体型…そして幼さの残る可愛らしい顔つき…玲奈はアマネを知っていた。 玲奈が地下の格闘界に潜ってからアマネを知った。当時はアマネはまだ18歳とかそこらで現役女子高生だった。だが、そうとは思えないくらいに身体は出来上がっており技も豊富、そしてなにより可愛らしい顔つきに見合わずサディスティックなキャラクターでファンも多かった。 だが、玲奈とは相性が悪かった。 アマネの場合…恵まれた体格や運動能力、そして怪力は生まれ持ってのもの。格闘家の天才であり、異様なパワーをも武器にしているアマネを相手にするなら、普通の人間では無理。 それこそ、玲奈のようなモンスターと化した天才くらいにしか。 しかし、玲奈の身長は165センチ。体重だって重い方ではない。アマネとの体格差は明白だ。 これまでに一度だけアマネと玲奈は拳を交えたが、その結果は酷かった。 いくら年齢差や階級差があると言えど、ボロ負けだった。おまけに、プロレスラーのような"魅せる技"をこれでもかというくらい仕掛けられ、最後には屈辱の失神KO。 アマネは、玲奈の無敗の記録に泥を塗った唯一の存在なのだ。それも、薬物を使っていないクリーンな肉体で。 そんなアマネが玲奈の目の前にいる。 その光景はこの街に来た時よりもずっと信じられないものだった。 正直言ってアマネの事なんて忘れていた。なんならどうだって良かった。 今一番生きていて欲しい人たちの安否が分からないのに、どうでも良いヤツに限って目の前に現れるのだから玲奈からすれば妙な気分になる。 アマネ「…さて、と。」 アマネは地面に押さえつけられている女に馬乗りになる。ギュッと太ももで胴体を挟み込み、ガッチリホールド。 ああなるともう逃げられない。玲奈だってあの体勢に持って行かれたことがあるからわかる。 あそこからきっと、あの大っきい手を丸めて拳でどつき回すに違いない。 そう思っていた玲奈だが、その予想は大きく外れた。 なぜなら、アマネは拳ではなく、その幼い顔つきに似合わないがっしりした指で女の体をコチョコチョくすぐり出したのだから。 コチョコチョコチョコチョ。指で嬲るようにくすぐれば、女は馬鹿みたいに笑い出す。 くすぐりで制裁なんて、まるでコマンド社だ。 かなり見慣れた光景ではあるが、やはり目の当たりにするとムシャクシャする。くすぐりで相手を倒そうなんて人を舐めてる。 だが実際アマネのコチョコチョ制裁はとんでもなくくすぐったいようで、女は生命の危機が迫っているかのように(実際そのレベルの刺激なのだろうが)顔を真っ赤にして首をブンブン振り回して狂ったように笑っている。 腹をヒクヒクさせ、「死」から逃れるように、ギャーギャーと喚きながら、笑いながら、苦しめられている。 アマネのくすぐりの特徴…それは"掴む"ようなくすぐりだった。腋を指先でコチョコチョくすぐるのも上手いが、なんと言っても肋やら脇腹、お腹なんかをあのデッカい手と器用な指で掴むようにしてコチョコチョするのがとても効きそうだ。 どういう原理でくすぐったさを与えているのか分からないが、されている女の悶えっぷりを見れば十分理解できる。 やがて制裁が終わり、生きているのか死んでいるのかビクビクと痙攣している女は店の女達とは別のお面をつけた女たちに抱えられてどこかへ連れて行かれた。 アマネ「じゃあ…ヒコの方行くから案内して。」 「大丈夫。どこに隠れてても引き摺り出してやるから。」 「アイツはこれで問題2回目?じゃあ、ミヤビの所に連れて行かなきゃだね。」 物騒なことを言いながらアマネがズカズカと店の中に入っていく。それからすぐ、ヒコとかいう男のものと思われる悲鳴が聞こえて来た。 バタバタと暴れる音がして、アマネがヒコらしき青年を肩に担ぎながら出てきた。ヒコらしき青年は非常にぐったりしており、なぜかパンツには大きなシミがあった。 アマネ「ヒコ。あんたの処分はミヤビが決める。」 「せいぜい…船を降ろされるだけで済むことを祈っててね。」 「たぶん無理だろうけど。」 玲奈(……やっぱりここは…いるべきじゃないかも…) ルールとやらを破ったとは言え、あれほどにまで制裁を加えられるなんて異常だ。 最初、狐面の女がこの船を"国"とかって呼んでいたが、"独裁国家"なら納得だ。 逸れた仲間もいないし、もはやここに留まる理由はない。一刻も早くこの船から降りないと。 だが、ヘリックスとテイルはこの街で落ち着きたいようなそんな感じだ。だったら、二人を納得させるような証拠がいる。 玲奈は街の異常性を示すような証拠品を求めて、街を歩き出した。 一方、ヘリックスは街に出ておりすっかり酒に酔っていた。ヘリックスにとってこの街は天国だった。茶屋も屋台も宿も…そして"夜のお店"も…全てが「男に優しい」のだ。 遊ぶのに金品だって必要ない。まさに天国。 ずっとここにいたっていい。そう思っていた。 ヘリックス「ここがこの…街一番の"お店屋さん"かな?」 酔いどれヘリックスは街の一角にある立派な遊郭にやってきていた。 金の太い文字で「恋極」と看板に記されたその遊郭の奥からは甘い匂いが漂っており、その匂いはヘリックスの欲求をビンビンに刺激する。 「えぇ、お兄さん。遊んで行きますか?」 ヘリックス「もちろんだ!」 「ありがとうございます!ところでお兄さん。"バンク"にはもう行かれましたか?」 ヘリックス「ばんく?」 「はい。男性専用の施設でございます。本来は、バンクで通貨となる"液"を手に入れてから遊んでもらうのがルールです。」 「お兄さんは新入りだから、何軒かはサービスがあったみたいですが。」 ヘリックス「ほぅ……。ではそのバンクとやらにいけばいいんだな?」 「お安い御用だ。」 「いえ。その必要はございません。うちの店の 遊女…特に花魁になればその場で"液"をお客様にお渡しすることができます。」 ヘリックス「なぁんだ!それを早く言ってくれよお姉さん!」 「申し訳ございません!一度ご説明を、と。」 「では…どの子でお遊びなさいますか?」 ヘリックス「う〜ん悩むな…一番人気の子を!!」 「かしこまりました。それでは…三階にある紅王の間へどうぞ。」 ヘリックス「はぁいはぁい。」 ヘリックスは言われるがまま、階段を上がり、三階へ。そして「紅王の間」と記された襖を開けた。 ヘリックス「うぉっ!?」 部屋の中の異様さにヘリックスは思わず声を漏らす。 妖艶さで満ちたその部屋は、一瞬、空気ごと妖しいぴんく色に染まっているように見えた。 甘い甘い部屋の中央にいたのは、一人の女。 立派な和服を着て、長くてサラサラの茶色い髪を綺麗にまとめ、髪飾りやカンザシを着けている。 ヘリックス「ぉぉぉ…お…」 いつぶりかの感情に言葉を失うヘリックス。 それに対し、花魁は妖しい笑みを浮かべゆっくりと手招きする。ヘリックスは操られたかのようにそれに従う。 「お兄さんは…何分私と遊べる?」 ヘリックス「…へ…?」 ヘリックスには花魁の挨拶がわりの問いかけなんて聞こえていなくて、へたっと畳に膝をつき花魁によりかかった。 「新しく入って来たんですって?」 ヘリックス「そうなんだ…そう…」 「私と遊んでみて…楽しかったら…"この街のこと"…教えてあげる。」 ヘリックス「ほんとか…!それにしても…君はすごく美しいね…名を教えてくれ。」 「私?私は佳奈。お兄さんは?」 花魁 佳奈は美しい切長の目でヘリックスを見て言った。