SIDE OF UPDATE〜ラストマッチ篇4〜西へ〜
Added 2022-04-28 15:40:04 +0000 UTC1 西へ ヘリックス・ケイジの運転する車に揺られながら玲奈は死んだようにじっと虚空を見つめていた。悪路を走り車が大きくガタンと揺れ、頭が窓ガラスにぶつかってもぼーっとしたままだ。 テイル「玲奈…大丈夫…?」 弟分とも言える青年テイルの呼びかけにも応えない玲奈。 ヘリックス「…ミユの事は残念だった。」 ヘリックスが運転しながらミラー越しに玲奈を見て言った。 「死んだみたいに言わないで。」 ようやく玲奈は返事をした。というより、言い返した。でもその目はまだ虚ろで声にも生気が宿っていない。 ヘリックス「悪い。そんなつもりはなかった。」 「…必ず…取り返そう。」 ヘリックスの前向きな発言に、玲奈は静かにゆっくりと首を横に振る。 玲奈「…取り返せるわけない…誰も帰ってこない。」 つい1時間ほど前、コマンド社の精鋭の一人タタリ率いる集団に襲われた玲奈たち。結果、玲奈の友人であった元ラウンドガールの羽落ミユがタタリのくすぐり(正確にはタタリの体に装着されているコチョコチョマシンのくすぐり)によって壊され、その上攫われてしまった。 ミユを破壊した後、タタリは玲奈に狙いを定めた。だがそこへヘリックスが車で駆けつけ、テイルと玲奈を拾って命からがら逃げることができた。 格闘技界最強…鉄の拳を持つ女…宍戸玲奈でさえ、タタリには手も足も出なかった。どれだけ攻撃しても微塵もダメージを与えられなかった。 一緒にいたブルース・ギャレン、ガス・サンド、ミカエラの三人とも逸れてしまった。彼らは無事だろうか。 ヘリックス「いつだったか…仕事の関係でパーティに招かれた時、同席した奴から面白い話を聞いた。」 タタリから逃れて、仲間と逸れて数日が経ち、夜を明かすため車を停めて野宿している時にヘリックスが話し出した。 テイルは興味を示していたが、友人を失った玲奈は笑い話なんか聞く気になれず、俯いて焚き火の炎をじっと見つめていた。 ヘリックス「そいつが言うには、俺たちの国…"ニューアメリカ"を監視してる奴らがいるって言うんだ。」 「それが"監視者たち"とかってそのまんまの名前なんだけどな。」 テイル「へぇ…!それってなんだか映画みたいだね。」 ヘリックス「だろ?」 「その"監視者たち"はニューアメリカを守るために、あらゆるバランスを取る役割を担ってるんだとよ。」 「ついこの間まで続いてた戦争にも"監視者たち"は関与してるって話だ。」 テイル「なんだか面白い話だね。」 ヘリックス「そうだよなぁ…そんな奴らが本当にいるなら、こんな事態が引き起こされる訳がない。」 テイル「だよね。やっぱりデタラメだよ。」 「そんな人たち、いるわけない。」 「結局…軍も警察も止められなかったんだから。」 玲奈「…最期…自分が死ぬ時が来たら…神に祈る代わりにその監視者どもに祈ってみるのもいいかもね…」 話を聞いていた玲奈は焚き火の方からヘリックスの方を見てほんの少しだけ笑ってそう言った。 テイル「ねぇ。」 しばらくの沈黙の後、ふいにテイルが口を開いた。 テイル「もう一つ面白い話があるみたいだよ?」 テイルはそう言って物陰に隠れていた看板を指さした。そこには「西へ。生存者たちの楽園へ。」とスプレーか何かで書かれている。 ヘリックス「へぇ。そんなもんが?」 玲奈「最近書かれたものかもね。」 当初、ただのいたずら書きだと思い気にも留めていなかった三人だったが、そのあとかなり離れた場所にも同じような落書きがされていたためいよいよこの「生存者たちの楽園」とやらが存在する可能性が浮上してきた。 玲奈「もし、他の場所にも書いてあるなら…逸れたみんなはこの楽園に向かってるかも。」 ヘリックス「そうかもしれないな。」 「…試してみるか。他にアテもないしな。」 こうして玲奈たちはあるかどうかも分からない「生存者たちの楽園」へ向かった。道中、何度もアップデーターに襲われたり、空腹に苦しんだりした。疲れ果てて眠れば、楽園とやらに着いてまた仲間と再会する夢を何度も見た。 玲奈たちが楽園を目指して一ヶ月。一向にそれらしきモノに辿り着かない。 本当にあるのか?嘘だったんじゃないか?そんな当たり前のことすら口に出すことは躊躇われた。玲奈もテイルもヘリックスも本気で信じていたわけじゃない。だが、今この状況で生きる目標を失えばすぐにでも死んでしまいそうになる。だから、嘘でも何でも目標として楽園があると信じていたかった。 それからまた数週間歩いて、三人は海の見える場所へたどり着いた。その日は霧がかかっていて海がキレイかどうかはわからなかった。 海が見える。つまり、行き止まりというわけだ。これまで、妙な落書きに踊らされてずっと歩いてきた。だが、それもここまでだ。 ヘリックス「…どうする?」 「なんと選択肢は三つだ。このまま海を突き進むか、引き返して歩くか、ここで野垂れ死ぬか。」 玲奈「…どうせ死ぬなら…突き進んだ方が良いかもね…」 さすがの玲奈もこの時ばかりはもう疲弊しきっており、目は虚ろ、歩いてもいないのに肩で息をしていた。 彼女の頭によぎるのは、「死」だった。 もう死んでもいい。死んだ方が楽になれる。あぁ、眠たい。 テイル「ねぇ!あれ!」 玲奈が深い深い眠りに落ちかけたその時、テイルが霧の中を指さした。見てみれば、霧の中に何かボーっとした灯がいくつか浮いている。 いよいよ幻覚が見え始めたか…玲奈とヘリックスはそう思って特に返事もせず、ニタニタ笑っていた…自分たちにも終わる時が来たのだな、と。 だが、霧の奥にうっすらと大きな影が見えた時、ほんの少しだけ目が覚めた。巨大な海獣とかそういうのにも見えるその巨影は"船"で、先ほどから霧に浮いていたボーッとした灯をいくつも灯している。 ヘリックス「でっっけぇ…」 ようやくヘリックスが口を開いた。開いたのはいいがポカンと開けたまま塞がらない。それほどに船はデカい。 玲奈も同様にすっかり目を覚ましてギョッとして巨船を見つめる。 橙色や紅を灯す無数の提灯に照らされるその船は異様だった。遊郭建築を彷彿とさせる建物が並ぶ町々が船に乗っかっているのだから。 船の上からはかすかに笛の音、そしてザワザワとざわつくような笑い声、硬いモノ同士がぶつかり合う音が聞こえてくる。 玲奈たちがすっかりその巨船に目を奪われていると、ふいに背後から足音がして気付けば狐、狗のお面を被った和服の女達にぐるっと取り囲まれていた。最も早く反応したのは玲奈だったが、お面を被った女達は似合わない銃を構えており、抵抗は無駄だとすぐにわかった。 テイル「うわぁぁぁ!ちょっと待って…!」 ヘリックス「おいマジかよ…」 玲奈「……」 両手をあげて降参の意思を示す三人。だが、玲奈は手を挙げながらもじっとお面の連中を睨むように見つめて反撃の隙がないかを伺っていた。 「楽園を求めて来たのだな?」 狐面の女が口を開いた。その問いかけに対し、テイルがすごい速さで頷いた。 「良いだろう。ならば乗るが良い。"生存者たちの楽園"に。"伊豆ミヤビ"の統治する"天秤會"の船に。」 玲奈たちが返事をするよりも早く、お面の女達は三人を無理やり捕まえるように手脚を抑え、船の方へ連れて行った。