くすぐりの怖さを知っていますか(2)
Added 2022-05-17 13:48:20 +0000 UTC2 見せてあげる 「フロート」と看板の出ているそのバーに入るなり、ナツはズカズカと奥にいる店員の方へ歩いて行く。 「どうかなさいましたか?」 若い女の店員…いかにもバイトって感じの見た目の女がキョトンとした顔で首を傾げた。 ナツ「ちょっと話があってきました。」 「偉い人、呼べます?」 「店長…でしょうか?それとも…オーナー?」 ナツ「オーナーですかね。たぶん。」 「はぁ…」 バイト店員は、厄介なやつがきたな…とだるそうにため息をつき、店の奥へ消えた。それから、別の女がナツとヒナコの前にやってきた。 ショートヘアでお洒落な黒縁メガネをかけた大学生っぽい女で、そいつは苛立ちを隠せていないナツの様子を見るなり、うんうんと頷いた。 「ここの店長です。お話しを?」 ナツ「…オーナーじゃないんですか…まぁいいや。ここで飲んでたうちの友達が法外な値段を請求されたって言ってたので…ちょっと話し合いがしたくて。」 「はぁ。払いたくないってそういうことですか?」 ナツ「払いたくないっていうか、払えないっていうか。」 「でも、払ってもらうのがルールです。」 ナツ「そうですけど、明らかに法外っていうか、おかしいっていうか。」 「でも、払ってもらうのがルールですから。」 ナツ「いや、そうじゃなくて。」 「お客さま…多分…この店のことよく知らないですよね。今のうちに帰った方がいいですよ。」 ナツ「?」 「いるんですよ。お客さまみたいに…正義振りかざした友達が出てきて文句つけてくる人。」 「今日だけで二人くらい?かな。」 ナツ「それくらい問題だらけって事だよねこの店。」 「大繁盛してるのでその分変な人が沢山来るってだけですよ。」 ナツ「…変なのはどっちかな。」 "変"と一括りにされ、ピキッとナツの不機嫌メーターが上昇する。ここが店じゃなかったらとっくに手が出ているレベルだ。 「奥で話しましょうか。」 ナツ「はい。ぜひ。」 ナツはヒナコを連れ、店の奥へ。スタッフオンリーと書かれたドアを抜け、階段を下ってさらにドアを抜けると、そこにはスタッフルームがあった。スタッフらしき女達がくつろいでいる。中にはさっきのバイト女もいた。 だが何か変だ。テーブルがいくつかあって、そこでスタッフらしき若い女達はトランプしたりスマホいじったりしているが、全員が派手髪でタバコを咥え、ネイルもバチバチにきめていて、さらにはタトゥーがある者までいる。明らかに普通の飲食店の職場ではない。そう思わせた。 ヒナコはそんな様子にビクッと震え、ガクガクと足を震わせる。ナツは態度にこそ出していないものの、もしかするとこの店が自分が思っていたよりまずい場所なのかもしれない…と思っていた。 「オーナー。"お客さま"でーす。」 店長がコンコンッと奥のドアを叩く。それから5秒ほどして、ドアが開いた。 ナツ「!?」 ドアが開いた瞬間、ナツとヒナコは思わず咳き込んだ。ドアの奥からひどい臭いがムアッと溢れ出してきて、鼻を鋭く刺激したのだ。 それは、人の汗や尿…それから何か嗅いだ事のない臭いが混じった最悪の香りで、およそ飲食店で嗅ぐような臭いではない。 そんな激臭と共に現れたのは、一人の女。他のメンバーとは違い黒髪で可愛い目をしていて、なぜかスポブラ姿。ネイビーのネイルをしており、右肩にはメデューサのタトゥーを刻んでいる。 オーナー「なにか?」 オーナーはナツとヒナコを見ても表情を変えない。 ナツ「話が…あってきました。友達が…」 オーナー「あーはいはい。はいはい。はいはい。」 「わかったわかったわかった。」 「ここまで殴り込みにきたことはすごいし評価するよ。だからご褒美に十万円あげるから大人しく帰ってもらえるかな?」 「私まだ仕事あるんだよね。」 オーナーと呼ばれた若い女はまるで友人に話すように奇妙なくらいフレンドリーにナツたちを追い払おうとした。 ナツ「そういう問題じゃないので。」 「私は…」 オーナー「あのさぁ。帰れって言ってんの。今すぐ帰るなら優しく返してあげるから。」 ナツ「おどしてます?」 オーナー「そう聞こえるならさっさと言うこと聞いて。」 ナツ「そう聞こえるから引き下がれないんだって。」 オーナー「ふぅん。あっそ。馬鹿だな。」 オーナーの口調が急に荒っぽくなったかと思うと、オーナーはその大きな手で突如ヒナコの肩を掴み、凄まじい力で奥の部屋…酷い臭いのする部屋に放り投げた。 吸い込まれるようにヒナコが部屋に消えたかと思うと、次の瞬間…ヒナコが悲鳴を上げた。 ナツ「ヒナコ!?」 それからすぐにヒナコがよろよろと部屋から出てくると、彼女はガチガチと体を震わせ首をふるふると横に振っていた。 ヒナコ「だめ…だめだよ…ナツ。」 「ここ…やばい…」 ナツ「はぁ!?」 オーナー「お友達もこー言ってるよ…ナツちゃん。」 ナツ「名前で呼ばないで。」 オーナー「どうする?まだお話し…するかな。」 ナツ「当たり前でしょ…引き下がれるわけない。」 オーナー「そっか。残念。」 「じゃあちょっと…"奥"で話そうか。」 ナツ「!?」 奥…あの異様な臭いのする部屋で? たった今、ヒナコが無理やりに部屋に放り投げられ"何か恐ろしいもの"を見たあの部屋で話し合い? そんなのおかしいに決まってる。危機感を感じたナツが咄嗟に振り向いた時にはもう遅い。さっきまでスマホ触ったりタバコ吸ったりしてたスタッフの女達が二人を取り囲み、腕や頭を掴んで無理やりに奥の部屋に押し込んだ。 「えっ。」 なぜだかムアッとする熱気に包まれてる部屋に詰め込まれるなり、そう声を上げたのはナツだった。 異臭漂う部屋の中央にある分娩台のような台…その上にあったのは女体だ。イカついタトゥーが右の肩や右前腕部に入れられ、巻き付けられた分厚いダクトテープで雑に目を隠されているその裸体からはボタボタボタボタと大量の水らしき液体が滴っており、濡れて妖しく光る皮膚には幾つものぴんく色の引っ掻き痕が刻まれている。特に酷いのが前方向に突き出すように晒されている足の裏で、表面が真っ赤に染まっており、見ているだけでなぜかムズムズしてしまいそうなくらいに腫れていた。 異常なのはそれだけではない。その女体からはモウモウと湯気が上がっていて、その熱気がこの部屋全体を蒸すように熱くしていた。 この女の人は何をされた? この分娩台風の拘束台に縛り付けられている裸体の女性…彼女の身に何があったのか…ナツとヒナコは同時にそんなことを考えていたが答えには辿り着かない。 オーナー「体中を指と爪でコチョコチョくすぐった。」 「嫌だと言ってもくすぐった。泣いても叫んでもくすぐった。謝ってもくすぐった。壊れてもくすぐった。」 呆然としている二人の疑問に答えるようにオーナーがそう言った。だが、オーナーのその謎めいた言葉がより一層、ナツとヒナコを混乱させる。 くすぐった? くすぐったって?くすぐり?あの、コチョコチョ? コチョコチョをした? コチョコチョで人がこんな風になる? ナツとヒナコは何度か目を合わせた。抱いている同じ疑問を共有するかのように。 オーナー「体にオイルを塗り込んで、それから自分たちの手にも塗り込んで、コチョコチョくすぐった。」 「極限までくすぐった。」 またオーナーが言う。 ついさっきまで何を言ってるのか、ナツとヒナコには理解不能だったが、徐々に飲み込めてきた。 半殺しにされているこの女の皮膚に刻まれている引っ掻き痕…そしてなにより不自然に吊り上がっている口角…ひょっとしてこの女の人は本当にコチョコチョされ続けてこうなったのだろう…と、理解できてきた。 そしてもう一つ。 体から滴ってるこれ、水じゃない。 よく見れば、水ほどサラサラしていない。 この臭いからしてこれは彼女の体に塗られまくったオイルや、噴き出した汗、恐らくは濁流の如く溢れ出した唾液、鼻水、涙、ミルク、そして尿…その全てが混じった液体だ。人体が生命の危機を感じて出し切った…"地獄の体液"だ。 それが分かった時、ナツは小さく「ヒッ」と声をあげてしまった。ヒナコの方はガクガクと膝を震わせ、早くも立っていられなくなりそうになっている。 もし… もし、裸にされて縛られて、オイルとか、油とかを体に塗られて何人もに寄ってたかってコチョコチョされたら…され続けたら人はきっと…こうなっても不思議じゃない…。 オーナーたちがコレを自分たちに見せた意味は? おそらく、話し合いのためではない。 これは…自分達…ナツとヒナコにとっての"宣告"なのだ。 まず最初に逃げ出そうとしたのは意外にもナツの方だった。だが、体を鍛えているのかムッチリセクシーな体格のオーナーが大きな手でナツの顔を掴み、力づくで床にねじ伏せた。 オーナー「お嬢さん達…学生だよね。」 「まぁでも…関係なくさ…子供が"大人の世界"に首突っ込んだらどうなるか教えてあげるよ。」 ナツは持てる力を振り絞って大暴れするが、オーナーの力は凄まじく、全く歯が立たない。 そんなことをしているうちにワラワラと周りにいたタトゥー女達に取り囲まれ、体を押さえつけられてしまう。 腕、手首、腹、首、下半身に触れる生暖かい手達の感触にぞくっとする。この手達が、指達があの女性を破壊したのか…そう考えると恐ろしくて仕方がなかった。 オーナー「まずは一名様……特別コースへご案内…」 「うぁぁぁぁあああああああっっっ!!!!」 女性のものとな思えないほどの絶叫が響き渡った。苦しみとそして何かに無理やり力を吸い取られたような声だった。その声が無数の女達に埋め尽くされているナツのものであることに気づくのに、ヒナコは少し時間を要した。 ヒナコ「ナツ…!?」 ヒナコがナツの方に目を向けたその時、背後から手が伸びてきてヒナコの口を封じ、さらにビュンビュンと幾つもの手が伸びてきてヒナコの体を押さえつけた。気づかないうちに他の女達がヒナコを取り囲んでいたのだ。 ヒナコは既に目から涙を流していた。 分かっていたのだ。 もう、もう…ナツにもヒナコにもあの分娩台風拘束台の女性のような末路が約束されているということを。