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闇くすぐりビデオ 2: インフルエンサー

2 インフルエンサー 某年。世界中でとあるジャンルのアダルトビデオが大流行した。それは、人体をコチョコチョと指先でくすぐって強制的に笑わせる"くすぐりモノ"だった。 本来ならば、くすぐりなんてせいぜいが本番前の前戯程度の扱いで、くすぐりメインの作品はマニア層にしかウケて来ないシロモノだった。 それがどう言うわけか、今や殆どの人間が"くすぐりモノ"のアダルトビデオで性処理を行うほどにまでブームとなり、くすぐりモノは瞬く間にアダルトビデオ界のメジャーなジャンルへと躍り出た。 そうなれば自ずと、数々のAVメーカーが"くすぐりモノ"の商品を出していく。だがその分、くすぐりモノビデオは増えに増えて、競争率がとてつもなく高くなってしまった。 人気AV女優を出演させる。その女優にたっぷり悶えてもらう。それが売れるくすぐりモノの鉄則。だがその条件を満たせる作品なんてそうそうない。 一つ目の条件はともかく、たっぷり悶えてもらう…という二つ目の条件は意外と厳しい。 というのも、ただくすぐられて「うふふ」「あはは」「きゃはは」と可愛く美しく笑うだけではダメなのだ。売れるくすぐりモノを作り上げるには心の底から苦しみ、もがき、悶える必要があった。前戯で"感じている"ような反応ではダメなのだ。 一人の女優を拘束して複数でくすぐったり、これまでにくすぐりモノに出演してきたと言うくすぐり役の女優にプロの技で女優を本気でくすぐってもらったりしてようやっと世に出せるレベルのくすぐりモノが完成する。だが、そうるすると今度は他のAVメーカーもこぞって同じように激しいビデオを出してくる。 そうしてるうちにくすぐりモノは段々と激し"すぎる"ものが当たり前になってきてしまい、メーカーたちも頭を悩ませていた。 「あ〜…くすぐりモノは私無理なんですよ。」 大勢のセクシー女優、AV女優が在籍するとある事務所のオフィスにて、一人の女がサッパリした口調で、テーブルを挟んだ向かいにいる歳は30手前くらいの大人の女にそう言った。 「え?そうなの?」 30手前くらいの女はキョトンとしたように返事した。 そうすると、その向かいにいる女…くすぐりモノを断った女…が言いにくそうに話し始める。 「前の事務所にいた時も依頼受けたんですけど、私…くすぐりほんとに効かなくて。くすぐりのプロって人とかにもわざわざ来てもらってコチョコチョされたんですけど…結局、くすりともできなかったので企画ごとお蔵入りにしちゃったんでスよねー。」 三浪 理多(サンナミ リタ)はそう答えた。三白眼の似合う切長の眼に、美しく伸ばされた長い黒髪、そしてジャジャラと施されたシルバーのアクセサリーが似合う長身のリタは気だるそうにタバコを取り出し口に咥える。 リタは元はSNSで活躍していたいわゆる大物インフルエンサーだった。タバコ、酒、そしてギャンブルなど汚れ切った生活を送ることを愉しむタイプのアングラな性格をしたリタにとって華々しいインフルエンサーは肌に合わず、不動の地位を確立していたにも関わらず、リタはAV業界という新たな世界に自ら飛び込んできたのだった。 リタはこの世界が好きだった。AV業界はクリーンであるが、やはりそこは大人の世界…一方でも道を逸れればリタの大好きなアングラな世界…踏み込んではいけない闇の世界が広がっているのだ。中には裏社会と通じる闇もあるため、そことだけは関わらないよう、事務所からも口すっぱく忠告を受けていた。 "リタはくすぐりモノに出られない" だが、事務所としては元トップインフルエンサーにしてAV女優としてもすぐに爆売れしているリタになんとしてでも金になる"くすぐりモノ"に出演をしてもらいたかった。 そこで、事務所は誰にくすぐられても無駄だと言い張るリタを半ば強引にくすぐりモノの撮影に引っ張り出した。 リタ「お金の無駄だって…」 いつもの通りに下着姿に着替えたリタはそう言って撮影前の最後の一服を終える。それから撮影に挑んだのだがやはり…その結果はリタの予想通りに終わった。 今回、くすぐり役に回ったのはこれまで10本以上のくすぐりモノビデオでくすぐり役をこなしてきた女だった。だが、いざ本番が始まってくすぐりをしてみても、リタは笑えなかった。ムズムズとしたこそばゆさすら感じず、できるのは不気味な引き攣った笑いだけ。そのリアクションはむしろ、くすぐられることによって笑えなくなっているようにさえ感じさせた。 極め付けには、女スタッフも総動員して20名程度で寄ってたかって動けないリタをくすぐり回したのだがそれでもリタはくすぐったがらなかった。 こうなればもう…お手上げだ。 当然、企画はお蔵入り。しばらくリタにくすぐりモノのオファーは来なかった。 「ねぇ…もう一回だけさ…くすぐりモノに出てみない?」 ある日、事務所の女マネージャーが酒の席でリタにそう言った。リタは口に含んでいたビールをモムッと咀嚼するようにしてから飲み込み、それからププッと笑った。 リタ「いや、もういいって。」 「前ので分かったでしょ?私そう言うの…ほんと向いてないんです。」 「わかってる。でもね、今回のはちょっと違うの。」 リタ「違うって何が?」 「今回の相手先はさ…確実にリタちゃんもくすぐったくて堪らなくなる確率が高いんだよね。」 リタ「はぁ…なんで?」 「魔響videos…って知ってる?」 リタ「まきょう…?なんですかそれ。」 リタは聞き流すようにしながらテキトーに返事して、また酒を飲む。 「最近出来たAVメーカーでさ、フェチものを多く扱ってる会社なの。」 「当然、くすぐりモノも扱ってるんだけど…なんとそのジャンルでは売上トップ作品をいくつも抱えてる。」 リタ「へぇ。」 「私も見てみたけど、どの女優も可哀想なくらいコチョコチョで笑っててさ…中にはポーカーフェイスで有名な某女優も混じってて私びっくりして!」 リタ「ポーカーフェイスとくすぐりに強いのは話が違うでしょ。」 「まぁそうだけど…なんていうのかな…そのビデオはね…他のと圧倒的に違う。」 リタ「なにが。」 「くすぐり方…?雰囲気?なんていうのかな…私にはわかる。リタちゃんもあそこに放り込まれたらタダじゃ済まないって。」 リタ「?」 リタはこの時、少しカチンときていた。だがリタも24歳。十分な大人であり声を荒らげるわけにもいかず、怒りを込めて僅かに強くグラスをテーブルに置くにとどめた。 リタ「タダじゃすまない…ねぇ。」 マネージャーが何を見たのか知らないが、憶測だけで自分がコテンパンにやられてしまう事を確信している事にリタは引っ掛かっていた。 リタ「いいよ。じゃあその仕事受ける。」 「え!ほんと??」 リタ「うん。でも約束して?」 「これでくすぐりモノの撮影は最後にするって。」 「う、うん…!」 マネージャーは嬉しそうに笑った。 リタは家に帰って眠りにつく前に、あの「魔響videos」について調べてみた。くすぐりモノのサンプル映像を試しに再生してみれば、確かにマネージャーの言った通り…数多の女優たちがコチョコチョによって泣き喚いている。 大袈裟だが演技には見えない。皆、まるで生死がかかっているかの如く…苦しんでいるのだ。多分、元からくすぐりに弱かったんだろうね…可哀想に。 リタは他人事のように心の中でそう思った。 そしていよいよ、リタが「魔響videos」で撮影をする日がやってきた。


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