SamSuka
Kara
Kara

fanbox


SIDE OF UPDATE〜希望の伝達者篇5〜

5 決死の夜 「恋極」…この国一番の遊郭がそこだ。 佳奈はその遊郭にて花魁として働かされていた。全ては、男の精を集めるために。 髪も無理やりに結われ、着たくもない和服を着せられた佳奈はあの日から遊女として働かされた。 お金なんて意味がなくなったはずのこの世界でなんのために働くのか。最初はそれさえわからなかった。 遊郭を取り仕切るボスの"夕霧"は冷酷な女だ。 稼ぎ手にならない者はすぐに遊女から下ろされる。そして、客であっても遊女であっても店のルールを犯した者には容赦しない。ルール違反を犯した者だけが連れていかれる「死露の間」にて、夕霧からの仕置きが待ち受ける。 他の遊女たちの噂によれば、夕霧はこの世のものとは思えないほど恐ろしい見た目となり裁きを下すのだと言う。一説には、その姿は蛇のようだとか。だが、はっきりとその姿を見た者はもう遊郭には残っていないため真相は闇の中だ。 数ヶ月の時を経て佳奈はあっという間に花魁へと上り詰め、気づけば伊豆ミヤビらの思想の通りの労働力となっていた。 四ツ木は佳奈と同じ遊郭で働いているが、ホークやアスマーに至っては全く会うこともなく生きているのかさえ分からない。 佳奈の仕事はこの遊郭に訪れる男から、通貨代わりの"精液"を受け取ること。さらに、遊郭での"お遊び"の最中にも"精液"を搾り取ること。 集めたそれらの液はまとめてアインホルンの工場へと送られる。それが何に使われているのかは"一般の人間"には知るよしもない。 ある夜、佳奈は夕霧の命令で「死露の間」に呼び出された。そこには複数の遊女や花魁が何名かいたのだが、佳奈以外の女たちはこれから何が起こるか分かっている様子だった。 そんなたか、襖がガラッと開いて夕霧が現れた。美しく結われた髪にカンザシなどの豪華絢爛な髪飾り、目元のメイクは今風のものではあるが、かなりの高身長に大胆に胸元や太ももを露出したその和服姿はまさに花魁の中の花魁…この巨大遊郭を取り仕切るのに相応しい様相だった。 夕霧「仕事を終えた後は皆…、酒を嗜み夜空に浮かぶ月を眺めて眠りに落ちる…そうでありたい。」 「いや…そんな夜だけであらねばならない。」 「そこへ、水を差す者がいてはならない。」 「なのに連日…このような不届き者が現れるとは。」 夕霧の口調が荒っぽくなったその時、夕霧はその大きな手で目の前にいた一人の遊女の首根っこを掴み、畳に引き倒した。倒された遊女が青ざめ、ガタガタと震えて起き上がれないでいると、他の花魁や遊女たちが彼女を一斉に押さえつけた。 佳奈「…」 佳奈はそれには参加せず、ただジッと取り押さえられた遊女を見つめていた。 夕霧「男と駆け落ちして船から降りようとしたって?」 夕霧がクスクスと嘲笑するようにそう言いながらドシドシと足音を当てて部屋を歩く。気のせいだろうか…最初に夕霧を見た時よりも体が大きくなっている気がした。 夕霧「大した愛だ。」 「己の身の危険も顧みずに…」 夕霧が言葉を発するたびに、佳奈は何かが起きそうな気がして落ち着いていられなかった。 「お願いします…夕霧…!彼にだけは…彼にだけは手を出さないでください…」 すっかりヒクヒク弱り切ったその遊女は涙ながらに夕霧にそう訴える。 夕霧「男は殺さないよ。貴重な"資源"じゃないか…」 「でも…この国において女はそうじゃない…」 「単なる労働力に過ぎない…わかってるよねぇ。」 「私が…私がどうかしていました…!いっときの気の迷いで…私は…私はっ…!」 夕霧「いっときの気の迷い…それが命取りになるのがこの国さ。」 「さぁ…体に叩き込んであげようねぇ…!」 ジュルッと舌なめずりをして笑う夕霧。その舌は確かに人のものではなく、先の割れた蛇の舌に他ならなかった。 夕霧が舌舐めずりをしたそれと同時に、取り押さえられていた遊女は服を脱がされ、素っ裸にされてそのまま体をコチョコチョとくすぐられ始めた。周囲にいる花魁、遊女たちからのくすぐり地獄だ。 数えるのも嫌なくらいの数の女たちに寄ってたかって体中をくすぐられ、取り押さえられている女は悲痛な笑い声をあげて暴れ狂っている。 夕霧「見ていないでお前も笑わせてやりな…?」 佳奈が呆然としたようにジッとしていると、煙管を吸って仕置きの様子を眺めていた夕霧が佳奈にそう言った。ここで逆らえば、今度は自分があんな風にされるのだろう。佳奈は仕方なくワキワキと指のストレッチを済ましてから仕置きに加わった。 仕置きは数時間続き、終わった頃にはもう女はヘロヘロのめちゃくちゃのへにゃへにゃで、ビクビクと痙攣している状態にまで陥っていた。 この遊郭での仕置きといえば"くすぐり刑"…佳奈とてそれは知っていたがまさかここまでやるとは…と、自分も参加しておきながら恐ろしく感じていた。 夕霧「お前たち…出ておきな。」 しっかりとくすぐりで打ちのめされている遊女を一人置いたまま、全ての花魁、遊女が部屋から出た。 そこからまた各自…仕事や一日の後片付けに戻るもの…。だが、佳奈は興味心からつい後ろを振り向いてしまった。 そこで佳奈は信じられないものを見た。障子に映る夕霧の影…それがぬらっと大きく膨れ上がったのだ。明らかに人間離れしたサイズと形に変貌した夕霧のシルエットが障子越しに浮かび上がり、部屋の奥からは遊女の悲鳴が聞こえる。 形を変えた夕霧のその姿は大蛇そのもの…それも見たこともないサイズの大蛇だ。大きく開かれた口から伸びる先の割れた長い舌が遊女に巻きつき、持ち上げ…バクンッと音を立てて遊女を"食べて"しまった。 この世界がおかしくなってもう一年と少し経つが、それでも"人が人を喰らう"のは初めて見た。いや、正確には"化け物が人を喰らう"と言うべきだろうか。どちらにせよ、その光景は佳奈にとってショックなものであったのだが、それと同時にほんの僅かに…ほんの僅かにだけ"興奮"も覚えていた。 その後、 "人喰い"夕霧の恐怖をすぐそばに感じながら佳奈は必死になって花魁としての勤めを果たしていた。そんなある日、仕事を終えた佳奈が与えられている宿へ帰ろうとしていると、背後から何者かに声をかけられた。 「すっかり馴染みましたね。」 佳奈が振り向いてみれば、そこにはフードを深く被った女が一人…それがアスマーだと気がつくのには少し時間がかかった。 佳奈「アスマー?」 アスマー「シーっ。お静かに。」 「こちらへ。」 アスマーに案内されるがままにやってきたのは街のはずれの路地裏だった。海水のにおいがべっとりとこびりついたその路地裏にくると、ここが船の上だったことを思い出す。 アスマー「連れてきましたよ。」 アスマーが声をひそめながらそう言うと、物陰から作業着姿のホークが姿を現した。彼女の顔は煤まみれで服に至っては黒い油がべったべったとこびりついている。 佳奈「みんな…無事だったんだね。」 ホーク「無事って言っていいのかは…分からないけどね。」 「四ツ木は?」 アスマー「彼女に声をかけたら、ここでの秘密の会談の成功率がぐんと下がるとの占いが出たので今回は呼びませんでした。」 佳奈「…ちなみに、今の成功率は?」 アスマー「74%ですね。少しは安心していいかと。」 ホーク「いずれにせよ、急いだ方がいい。」 「伝えたいことがあってね。」 「この船に入って数ヶ月…私はアインホルンの工場で働かされているが…そこで色々と情報を集めたんだ。」 佳奈「待って。情報ってそれ何のために?まさかまた立ち向かうんじゃ…」 ホーク「最初はそのつもりだった。けど、色々と知るうちにわかったんだ…立ち向かって勝てる相手じゃないってな。」 「だから…"逃げる"ために情報を集めてる。いいな?」 ホーク「この船…いや、国はいわば一つの軍隊だ。連中は皆、コマンド社によって行われた実験及びアップデートで生み出された失敗作…"負の遺産"みたいだ。」 佳奈「アップデートに失敗した" 遺産型"ってやつ?」 ホーク「それも混じってるがそれだけじゃない。ここにいる大半は、身体能力が異様に向上している"特殊型"の中の失敗作…"特殊遺産型"ってやつらだよ。」 「化け物じみた力を持っているけど、何らかの理由でコマンド社の納得いく結果には及ばなかった…そのために失敗作と呼ばれて処分対象になった連中だ。だから奴らはコマンド社を憎んでいて、軍隊を組織して倒そうとしてる。」 「兵力とも言える"特殊遺産型"をさらに強力にするために必要なのが男の"精液"を原料とする薬品…"アダムγ"。これをアインホルンの工場で大量生産してるってわけ。無論、武器もたくさん生産してるけどね。」 佳奈「それで私たちは男の精液を集める仕事についてるわけだね。」 ホーク「そういうこと。」 「伊豆ミヤビはね…ゆくゆくは、この船にいる全員を"兵力"に変えるつもりだ。」 佳奈「え?」 ホーク「言ったまんまだ。全員を…無理やりにアップデートさせるつもりってこと。」 佳奈「それじゃあコマンド社とやってることが変わらない…」 ホーク「奴らの目的はコマンド社を壊滅させるそれだけのこと。他のことはきっとどうだっていいんだろうよ。」 佳奈「でも…いくらなんでもコマンド社を倒すなんて不可能じゃないの?」 ホーク「いや、それが思いの外そうでもない。」 「ここを取り仕切ってる連中のことも、色々調べて、他の奴らからも話を聞いてみた…想像以上の化け物揃いだったよ。」 佳奈「えっ…」 ホーク「伊豆ミヤビを支える三人の女たち…まず一人目は、アスマーが働かされてる"城"の主…エリザベート・ダラーヴェスト。元々没落貴族のそいつは、この船の地下に"城"を与えられてそこで兵力増強のためのアップデートを任されてる。奴は"いくつもの顔"を持つと言われていてかなり謎が多い。特に"月夜はダラーヴェストに注意しろ"ってよく言われてる。」 アスマー「城に支えている私自身…ダラーヴェストの本当の姿がわかりません。本人は存在しないとも噂されてます。」 「ただ一つ言えるのは…夜な夜な城の奥からは獰猛な魔獣のような叫び声が響いてくると言うことです。」 佳奈「化け物ってことね…」 ホーク「次に、佳奈…お前が世話になってる遊郭のボス…夕霧。巨大遊郭にて男を誘惑して誘い込み、たっぷりと精液を搾り取る役割を担ってる。"オロチ"の異名の通り…巨大な大蛇に化けて人を喰らう。」 佳奈「その噂は本当だよ…この目で見たから。」 ホーク「それは悪い知らせだな。」 「三人目にして最も危険なのが…うちの工場長…ドロテーア・アインホルン。奴は自身が"カラクリ"と呼んでいる兵器を作るために生きたまま女どもを改造してる。アスマーをしごいたくすぐり俥や擽鬼もそのうちの一つ。そして奴自身も武器兵器を操る奇妙な力を持ってる。工場でアインホルンに逆らえば一発で処刑行きだよ。」 佳奈「ホークは随分とハードな現場で働いてるってこと?」 ホーク「かなりハードだ。前の世界ならブラック企業として告発できたくらいにな。」 ホークは笑ってそう言ったが、話を聞いている限り、アインホルンは化け物だし工場の環境は劣悪そのものだ。 ホーク「最後は…そんな化け物を束ねているあの伊豆ミヤビだ。こいつが…想像以上の怪物…。」 「奴は、今…コマンド社がどれだけ犠牲を払ってでも始末したい"生物"の一つなんだ。」 佳奈「どういうこと?」 ホーク「伊豆ミヤビはコマンド社が密かに行ってきた人体実験の被害者…。死亡率、廃人化率が圧倒的に高いその人体実験で最後まで生き残った化け物さ。そして最後の実戦実験として、あのノロイと一騎討ちさせられ…血みどろの戦いの末にノロイを絶命寸前まで追い詰めた。」 佳奈「あの…怪物を…?」 「それなのに失敗作?」 ホーク「そう。脅威の再生力を誇るノロイの肉体を文字通りバラし、核となる頭部を踏み潰そうとしたときに実戦実験は強制終了。伊豆ミヤビは再びケージに入れられた。」 「伊豆ミヤビに足りなかったのは強さじゃなく…頭の方さ。コマンド社に忠を尽くす心がなく、ましてや仲間にだって容易に手を下すその異常性が失敗作と見なされた。」 「奴はそもそもコマンド社に騙された形で人体実験を行なわれたからまぁそう思うのは妥当だろうな。」 「結果…コマンド社は船での輸送中に伊豆ミヤビを始末する決断を下した。だが、そこに送り込まれた部隊は壊滅。伊豆ミヤビは仲間を連れて逃亡した。」 「こうして…銃も兵器も効かない文字通りに世界最強の生物が解き放たれてしまったってわけ。」 「な?勝てるわけないだろ?」 伊豆ミヤビに関する説明を聞き終えた佳奈はしばらく黙った。想像以上…まさに想像以上の怪物がこの船を統治しているのだ。あの日、立ち向かった自分が哀れに思えて仕方がない。 ホーク「だから…やることはひとつだ。物資調達のために陸地に船が停まるそのときにみんなで逃げ出す。」 佳奈「そうするしかないね。」 「でもどうやって?」 ホーク「上陸予定表とやらを手に入れる必要がある。」 佳奈「それを探して手に入れればいいんだね。」 ホーク「そういうこと。でも、正直こっちの人手が足りない。」 「他のやつを誘おうにも、ここに住み着いた連中はもうとっくに伊豆ミヤビの息がかかってる場合がほとんどだ。」 佳奈「なら、狙うのは新しく入ってきた人…?」 ホーク「だな。計画は明日から実行だ。」 「まず、人を集めよう。集まったらまたここへ。仲間が増えてなくても満月の晩には必ずここへ集まろう。」 「あと、最後に…」 「この船のどこかに、ロビン・キティーズと林檎ららって女がいるらしい。」 佳奈「え?林檎ららってあの?」 ホーク「さぁな。わからない。」 「けど、この二人がどうやら私らと同じように反逆を行ったようなんだ。」 「だから…見つけられたら仲間にできるかも。」 そう言ってホークとアスマーは闇の中へ消えていった。 こうして佳奈たちは伊豆ミヤビに立ち向かわず、逃げることを選んだ…立ち向かわないのはモヤっとするが、それでも生きるためなら仕方がない選択だった。 こうしてさらに時間だけが流れ、とうとうホークはある日に単独で例の予定表を盗み出すと言い出した。ホークもこれ以上ここにいては身が持たなかったのだ。 仲間は全く揃っていなかったが、佳奈たちはついに動き出すときが来てしまった。 だがその日、佳奈が花魁としての勤めを果たしていると、ヘリックス・ケイジと名乗る中々にハンサムな中年男が客としてやってきた。聞いたところ彼は船に乗り込んだばかり、つまりは佳奈たちの求めていた新人なのだ。さらに、ヘリックスには仲間がいた。しかもとても強い女格闘家の仲間が。 佳奈は仕事そっちのけでヘリックスを説得し、彼を仲間に取り入れた。絶対に今、動かねばならないのだ。 ヘリックス「おかしいな…宿に帰ってるかと思ったんだが…」 例の女格闘家を探しに佳奈を連れて一度宿へ戻ったヘリックス。だが、宿には他の仲間である青年テイルの姿しかなかった。 ヘリックス「玲奈は?」 テイル「見てないよ…?」 「…その人は?」 テイルはヘリックスの後ろにいる佳奈を見た。 遊郭を抜け出してきた佳奈は髪を解いて目立たない格好をしている。 ヘリックス「花魁の…じゃなくて佳奈ちゃんだ。」 テイル「え?」 佳奈「誰だかわかんないよね。でも、色々聞いてほしいことがある。」 「この船は普通じゃ無い。逃げる準備をしないといけない。そのために協力してほしい。」 ヘリックス「なぁ…ところで玲奈はどこへ…」 佳奈「もしかすると…」 ヘリックス「どうしたんだ?佳奈ちゃん。」 佳奈「そんなに長い間戻ってないなら何かあったのかも…もしそうなら…地下に閉じ込められてる可能性がある。」 ヘリックス「なに?」 佳奈「この国の脅威と見なされた者は地下に閉じ込められる。」 ヘリックス「そいつはマジか…!?」 「どこからいける!?」 佳奈「B地区のはずれ…"梅茶屋"の傍道から。」 「でも、危険だよ…」 ヘリックス「そんなこと言ってられるか!」 「俺が見てくる…!」 テイル「ぼ、僕も…!」 佳奈「待って。二人で動くと怪しまれる。」 そう言ってテイルを引き止めた佳奈だったが、本心では二人もリスクのある地下へ行かせるより一人でもいいから協力者をホークたちに合流させることを優先としていた。今宵は満月の夜…しかも予定表の探し始める計画の実行日…ならばホークも路地裏にいるはずなのだ。 佳奈「ヘリックス。もし地下にいけたら…訛りのある女性ロビン・キティーズと林檎ららの事も探してみて。できればでいいから。」 「私と彼はD区の路地裏で待ってる。」 ヘリックス「あぁ任せとけ。」 ヘリックスはそう言って宿から飛び出して行った。 それから数分後のことだ…路地裏へたどり着いた佳奈とテイルの二人が待ち構えていた夕霧に捕縛されてしまったのは。


More Creators