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SIDE OF UPDATE〜希望の伝達者篇3〜

3 アスマーの予感 その船の上は荒廃したこの世界において、いや、きっと前の世界においてだって異様なものだった。 巨船の上に広がっていたのは一つの広大な街。さっきまで朝陽に照らされていた佳奈たちがいるのは、人間の"欲望"をギュッと凝縮したような夜の街。空を見上げれば確かにそこには青々とした空が広がっているのに、少しでも視線を落とせばそこは宵闇の街が広がっている。 ぼーっとした提灯が灯る茶屋の町、宿屋街、そして遊郭街。世界どころか時代ごと遥か昔に飛ばされたかのような錯覚を覚える異様な町だ。 街には和服姿の女達が行き来しており、和服だったりそうでなかったりするのは大抵が男だ。男は心ここに在らずと言ったようにどこか欲望に塗れたような顔をしながらふらふらと遊郭街の方へ吸い込まれていっている。 佳奈たちを迎え入れた狐面の女はこう言った。 "この船は楽園だ。だが、男にも女にも仕事がある。特に女には働いてもらわねばならない。仕事を与えるがそれまでは街を散策してるとよい"と。 ひとまず佳奈らは宿屋街の"桜黄"という宿の二階の部屋に通された。 四ツ木「なんなの…ここ…」 四ツ木が窓から身を乗り出して外の"ピンク色の世界"を眺めながら言った。 ホーク「さぁ。私らが牢屋にいる間にこういうのができたのかな?」 「生存者たちもコマンド社に対抗して、さ。」 佳奈「……」 佳奈は部屋の壁にもたれかかって座り、手持ち無沙汰な手を宙でゴニョゴニョ動かしていた。この船に乗る際に、武器は全て…ナイフも含めて没収されたのだ。 四ツ木「まぁ…変なところだとしても生きていけるならいいかなぁ私は。」 ホーク「そりゃあ…監獄船やら外の世界よりはマシだろ!」 この時、アスマーはなぜか元気がなく、どこかしょんぼりしたような顔でじっと窓の外の世界を見たり、また部屋の方に視線を戻したりしていた。 佳奈「どうかした?」 アスマー「うーん…」 「なんだかすごく嫌な予感がします。ここ。」 佳奈は占いなんてものを信じないタチだったし、ホークと四ツ木だって100%それをあてにしないようなタチだったが、それでもアスマーのその嫌な予感にはなぜだか信憑性があった。 その異変をはっきりと目にしたのは、佳奈と四ツ木の二人が街のはずれに迷い込んだ時だった。 「なんでっ!こんなっっ!!?」 女の声がしたのでそちらに目を向けてみれば、路地裏の奥の奥…特に"街らしい飾り付け"もされていないその船っぽさ剥き出しの場所で女が複数の別の女に取り押さえられて喚いていた。だがよく見ると変だ。その女は、元からある腕に加え、背中から二本の腕が生えていたのだから。 佳奈と四ツ木は顔を見合わせ、咄嗟に建物の陰に隠れ、様子を伺う。 「私!言われてた通りに働いたでしょ!?」 「なのにこんな仕打ち…!!やめてぇ!!」 女の背中から生えているもう二本の腕はヌルヌルとした粘液に包まれており、さらにモワモワと煙が上がっている…まるで出来立てホヤホヤだ。 「私の彼はどこへ行ったの!?ねぇ!"バンク"に行ったきり帰ってこないの!!」 多腕の女は喚き散らす。彼女を取り押さえている女達はその質問に一切答えず、そのまま数の暴力でその女を取り押さえ、ズルズルとどこかへ引きずっていった。 やはりこの船には何かある。 そう確信してからは早かった。佳奈と四ツ木は宿に戻るやいなや、自分達が見たものをアスマーとホークに報告。すると二人とも佳奈と四ツ木の見たものを疑わなかった。 どうやら佳奈と四ツ木が外に出ている間、宿の隣の部屋で言い争うような声がしたかと思うと、部屋にいたのであろう女がどこかへ連れて行かれたのだという。 ホーク「長居しないほうがよさそうだ…」 佳奈「出よう。今すぐに。」 アスマー「それ、賛成です。」 佳奈「ちょっと待ってて。」 佳奈はそう言うと部屋を飛び出し、ばたばたと階段を降りていく。そらからすぐ、佳奈は数本の包丁と工具を揃えて部屋に帰ってきた。 ホーク「調理場からくすねてきたな?」 ホークがニッと笑う。 佳奈「さすがに手ぶらじゃ心もとないでしょ?」 佳奈は頷きながら包丁を握り締め、腰にさした。 四ツ木「名案ね。でも、出来るだけ闘いにはなりたくない。」 佳奈「もちろん…極力戦わないように…」 佳奈がそう言いかけた直後、ガラッと音がして部屋の襖が外から開けられた。 驚いて全員が振り向けばそこにいたのはこの宿の女将だった。女将といってもまだ若く30代前半くらいの色っぽい女だ。 「どうかさないました?」 ホーク「いや、別に。」 ホークが冷静に返事をする。 「いえ、どうかなさいましたよね?」 ホーク「何かあったって言うんなら、そうだな…まぁまだ慣れなくてソワソワしてる。」 「そうですか…でもすぐに慣れます。」 「この街にも、人にも。」 女将がそう言った直後、あり得ない事が佳奈たちの目の前で起こった。 女将の首がググッと僅かに伸びたかと思うと、次の瞬間には信じられないくらい長く伸びて、廊下から部屋の奥にいる四ツ木の方まで頭が届いていたのだ。 四ツ木「はっ!?」 「どこへ行こうって言うんです?」 四ツ木「えっ…」 「そんなに急いで…皆さんでどこへ行こうとしてるのか…聞いてるんですよ?」 女将は美しくも妖しくそして恐ろしい笑みを浮かべてみせる。それと同時に、ドタドタと音がして入口の方を十人ほどの従業員達に塞がれてしまった。 ホーク「ねぇアスマー…このピンチ…切り抜けれる可能性は何%?」 ホークは鉄製の工具を握りしめながらアスマーに尋ねる。少しでも高い数字を期待して。だが、アスマーの口から出てきたのは予想外の数字だった。 アスマー「……0です。」 占いなんて…そう思っている他三人でさえその数字を聞いた時、なぜか信じ込んでしまいそうになった。 佳奈「だったら…あがいて見せないとね…」 最初に動いたのは佳奈だった。佳奈は包丁を引き抜き、そしてそのままの勢いで何の躊躇もなく…長く伸びた女将の首を掻っ切った。 相手が刃物を持っていたとは思ってもいなかった女将はバッサリと首を切られてそのまま陸に打ち上げられた魚の如くのたうち回る。バシャッとあり得ない量の血が飛び散り、佳奈の顔と畳と壁とを血に染める。 仮にでも相手は人間…なのに、何の躊躇も見せなかった佳奈の殺戮行為にほんの一瞬…四ツ木もホークもアスマーもギョッとしていたが今はそんなことを気にしている場合ではない。思い切って動き出した佳奈の流れに乗るように、仲間達も暴れ出した。 包丁で、工具で…襲いかかってくる従業員たちを返り討ちにしていく。後のことなど考えている暇はない。今はとにかくこの状況から脱しないといけないのだから。 五分かそこらでその部屋は血に染まり、従業員たちの死体の山が出来た。トドメをさしたのはほとんどが包丁を使っていた佳奈とホークであり、アスマーと四ツ木に至っては工具で相手を戦闘不能にするまでにとどめていた。 その死体の山は妙に生暖かく、あまりに血生臭くてアスマーと四ツ木に至っては吐きそうになっていたが、佳奈は薄ら笑みを浮かべていた。 ホーク「…単なる学生かと。」 一仕事終えたホークが腕組みをしながら佳奈に言った。 佳奈「昔は単なる学生…だった。」 「あなたは?」 ホーク「単なる軍人だったよ…昔は。」 佳奈はそれ以外何も聞かず、「急ごう」と言って部屋を出ようとした。が、その時…佳奈はピタッと立ち止まった。 四ツ木「どうしたの?」 尋ねてくる四ツ木に対して佳奈は答えず、首を振るだけ。そして手を挙げて「待って」とジェスチャーする。 沈黙が包み込む宿の中、確かに音が聞こえる。 下の方から…何かが階段を使って上がってくる音がする。 それは、普通の人間にしてはあまりに重い足音だった。 ホーク「なぁアスマー…さっきの占いってのは…もしかして…」 アスマー「分かりません…でも、何度占っても…私たちが"最終的に勝つ"確率は0…でした…」 アスマーは声を震わせながら答えた。そして、その答えの意味がすぐにわかった。 「これは随分とまぁ…好きにやってくれたねぇ。」 宿全体にその足音を響かせて階段から上がってきた者は、ゆっくりと歩きながら佳奈たちのいる部屋の前で立ち止まった。 燃えるような真っ赤な長い髪を揺らし、切長で刃物のように鋭い目には血のように赤い瞳が浮かぶ。そして何より佳奈たちを驚かせたのはその体格。200センチ以上はある身長に女性とは思えないほどの筋骨隆々さ。しかしそこには確かに女としての妖艶さと美しさを持ち合わせており非常に色っぽく、上半身に羽織っている袖の無い羽織から溢れ出んばかりにデカいオッパイまで備えている。 「新入りだな?ようこそ…"私"の国へ。」 "伊豆ミヤビ"はその刃物のような目を細めて不敵に笑って見せた。その時、彼女の左目の下に刻まれているペイントも不気味に形を変えた。


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