コチョバシ族の棲む森 1: 夜笑村のウワサ
Added 2022-08-17 12:43:12 +0000 UTC1. 夜笑村のウワサ 夜笑村という村がある。 地図に載らないその村には、若く麗しい女たちのみが存在しているが無闇に近寄ってはいけない。 特に、"くすぐったがりやの男"だけは…近づかないことをお奨めする。 その地に踏み入れたが最後、コチョバシ族の餌食となり人としての全てを破壊し尽くされるのだから。 無論、コチョバシ族は正式な部族ではない。幽霊でもない。男をくすぐりによってイジメ抜きたいという恐ろしい"欲望"のままに生きることを目標にかかげた若者の共同体である。 私に言わせてもらえれば、彼女らは犯罪者である。 もっと直接的に言えば、"性犯罪者"とも言える。 この話は、ある大学生グループが実際にコチョバシ族に捕まった時の惨劇の様子だ。 彼らが受けたのは、ワライ箱の刑、狂気の腋壊しの刑、そして…"くすぐり神"のよる恐怖の罰。 男性諸君は心して読むように。 ─オカルトライター青風 楓─ 日本の行ってはいけない場所10選より (1) 「夜笑村(ヨワライムラ)って知ってるか?」 湊 宇連(ミナト ウレン)の言い出したその一言から全ては始まった。ウレンは髪を赤に染めたポンパドールヘアの童顔大学生だ。見た目の通り、大学生活ではかなり"遊んで"いる。 「なにそれ。」 いまいち興味なさげにそう返事をしたのは、紫藤 蒼(シトウ ソウ)。青みがかった黒髪マッシュヘアでとっても色白で、オマケに中性的な細身のオシャレな青年。クールな性格ゆえ、今の返事も興味なさげには聞こえるが、この中で最もオカルト要素には造詣の深い人物だった。 「まーたお得意の怪談話か?ウレン。」 金髪で耳にピアスをばちばちに開けた美男子 島 英知(シマ エイチ)がスマホを見ながらケラケラ笑う。 エイチは美男子ではあるが、大学に入るまでずっと空手に打ち込んできただけあってかなりの武闘派だ。 ウレン「そうだけど…今回のいつもとは違うんだよ。しっかりと証拠があるんだ。」 「この日本のとある山奥にな…夜笑村って村があるらしいんだ。そこは地図に載ってないいわゆる廃村ってやつ。」 エイチ「そういうのよく聞くけど…」 ウレン「お前らさ、"コチョバシ族"知ってるだろ?」 コチョバシ族とは、いっとき世間を騒がせた女性だけのとある集団の俗称だった。 以下は、とあるライターによるコチョバシの説明だ。 ─コチョバシ族とは、 正式名称は"くすぐり愛好会第二支部"。 元々は相手をくすぐる事に性的興奮を覚える女性たちによって構成されていた愛好会の一つであったが、その勢力が拡大し、男性をくすぐり過ぎて再起不能に陥らせてしまうという事件を何度も起こしたため、世間から追われる存在となった。 その後の消息は不明であったが、最近になって"夜笑村"という廃村に身を潜めているという噂が流れ始めた─ エイチ「あー…なんかいたよな。」 ウレン「犯罪者同然の女たちの巣がその夜笑村。俺さ、"視聴者"の人から夜笑村の位置を教えてもらったんだ!」 エイチ「はぁ?」 「本当にあんの?ってか…本当だとして行くのかよ!?」 ウレン「行くに決まってるだろ?俺たち…"ジャーナリスト系動画投稿者"なんだから。」 ウレン、ソウ、エイチ…この三人はただの仲良し大学生グループではない。三人は、動画投稿サイトにて動画を投稿しているインフルエンサーグループなのだ。 内容は、芸能人やインフルエンサーの裏情報の暴露や、危険な場所に足を踏み入れてその様子を撮影…など、かなり危ない内容だ。 若く、ルックスも整っている三人のチャンネルは女性を中心に大人気であり、数十万のチャンネル登録者数を誇っている。 ウレンはともかく、エイチとソウはあまり乗り気ではなかった。いつもなら二人もすぐ飛びつくような内容だが…今回は相手がコチョバシ族…行くのはコチョコチョする事に狂った女たちの巣だ。 何を隠そう、ウレン含めたこの三人は大のくすぐったがりやだったのだ。このネタが本当かどうかはわからない。だが、もし本当で…そして何かミスをして連中の狂気のくすぐりを受ける羽目になったら…そう考えるだけで腰がひけた。 とは言え、このコチョバシ族ことくすぐり愛好会第二支部の消息は世間の誰も知らない…もし、動画でそれを暴けたら大儲けできる。 エイチ「行くか…!」 例えミスしても、武闘派のエイチもいるし、しかも相手は全員女だ。もしもの時は逃げれば良い。 そう結論が出て"全員"が乗り気になった。でも、それが最悪の始まりだった。 (2) ウレン「ここだっ!!」 ウレンたちが車で山奥にやってきて、不気味な トンネルを抜けた時、三人の目の前に広がっていたのは闇だった。真っ暗闇だ。トンネルの中よりも深い闇。 一瞬、三人が戸惑っていると、じわっ…とその闇が溶けていき視界が広がっていくのを感じた。やがて闇の中にいくつもの家屋のシルエットが浮かび上がり、噂に聞く夜笑村が姿を現した。 だが、それは三人の予想に反した光景であった。 エイチ「なんだ…これ…」 廃村と聞いていたからてっきり、建物が半壊していたり、はたまた蔦系の植物に侵食されていたり、近づくのも危険な状態の建物だらけかと思っていたし、もっと草木もぼーぼーかと思っていたが、目の前に広がっているのはごく普通の集落だった。 建物だって確かに古臭くはあるが半壊はしていないし、窓だって割れていない。 エイチ「おい、本当にここだよな?」 ウレン「間違いないよ。ここであってる。」 ソウ「そうみたいだね…スマホのマップも機能していないし。」 「それに…薄気味悪さはある。」 ソウはそう言ってその辺の家屋の壁を指差した。そこには、とある落書きがされていた。 「コチョコチョコチョコチョ!!」 「爪でコチョコチョ!」 「イかせたあとのくすぐりは男を狂わす狂気の指技!」 とか…意味不明の落書きがそこら中にされていた。 エイチ「なんだこれ…。まぁ…じゃあとりあえず調査するか?」 ソウ「そうしようか。エイチとウレンは二人でどこか回ってきて。僕は一人でその辺を撮影しとくよ。」 「ほら、これ予備のカメラ。」 ソウはそう言って予備用に持参していたカメラをエイチに渡す。 エイチ「お前一人になって大丈夫かよ。」 ソウ「大丈夫だよ。こういう場所は、一人でいる時ほど奇妙なことが起こったりするからね。」 「何かあったら声を上げて知らせるから。」 エイチ「わ、わかった…」 「三十分くらいでいいか?時間は。」 ソウ「うん。それで十分。」 「三十分後にここに集合しよう。」 「あ、そういえば"あの子"は?」 エイチ「あの子?」 ソウ「ほらあの女の子…車から降りるまで一緒だったじゃないか。」 「あの子エイチの友達なんじゃないの?」 エイチ「はぁ?お前怖いこと言うなよ…」 「車に乗ってたのは俺たちだけだろ…」 エイチが心底嫌そうな顔をしたのを見て、ソウは何かに納得したようにコクリと頷きそれから笑みを浮かべた。 エイチ「ただでさえやばい場所なのにふざけんなよな。じゃあまた後で。」 そう言ってエイチとウレンはソウと別れ、村の散策を始めた。 ここは本当に日本なのだろうか? そんな風に思わせるほど、この村には異様な空気が漂っていた。建物は綺麗で人が住んでいそうな雰囲気はあるのに、それでも全く人の気配がない。 エイチとウレンの二人が道なりに歩いていくと、地面が歪んだ石畳になっているちょっとした広場に出た。そこには古井戸があって、そのすぐそばには祠みたいなものがぽつんと設置されていた。 エイチ「入っていいやつなのか?廃墟っぽくないんだけど。」 二人は祠のそばの家屋にやってきたのだが、廃墟らしくないその見た目からして勝手に入っていいのか分からず、エイチが躊躇していると、ウレンが構わずズカズカと中に入ってしまった。 エイチ「おい!何やってんだよ!」 ウレン「良い動画撮るんだろ?いかないと!」 エイチはウレンの勢いに負け、家の中に入って行った。中は普通の家屋だ。今風…とまではいかないが、昭和臭くもない普通の玄関、普通の部屋が拡がっていた。 ウレン「おい見ろよこれ…」 先を歩いていたウレンが廊下に立ってヘラヘラ笑いながら和室に続くであろう襖の奥を指差していたその時だった。 ぬっと、暗闇の奥から"手"が伸びてきた。 爪はつるりと綺麗で指もすらりと長いその手は恐らく若い女のもの。それも、一つや二つではない。何十もの女の手が暗闇の奥から伸びてきて、ウレンの赤い髪、シャツ、腕を掴んだ。 エイチもウレンも声も出せないまま、ウレンはずるっと暗闇の奥へ引き摺り込まれてしまった。 エイチ「ウレっっ…」 エイチの口から遅れて出たのは言葉にもならない震えたもので、気づけばもうピシャリと襖が閉まってしまった。 エイチ「おぃ…!!えっ!?えっ!?」 状況が全く飲み込めず、エイチはその場に立ち尽くしていた。そしてすぐに足が震え始める。 エイチ「ソウ…!ソウ…!!!」 武闘派のエイチにも襖を開ける勇気はなかった。 何があった?幽霊?それとも人?どちらにでもやばいことに変わりはない。 パニックに陥ったエイチはすぐに家を飛び出しソウのいるであろう方向へと駆け出した。 それからすぐだ。襖の奥から男の呻き声が上がったのは。 一方、ソウはカメラを回したまま一人で村のはずれまで歩いてきていた。元々大の心霊マニアのソウだ…こんな状況でも恐怖よりも好奇心が優っていた。 ピタッ。 ソウがとある建物の前で足を止める。そこは使い古された小屋のような建物で、入り口は開けっぱなしになっている。周囲は小綺麗な家屋だらけなのにその小屋だけはオンボロだ。 それをなぜか無視できなかったソウはひょこっと小屋を覗いてみる。 ソウ「なんだ…これ…」 ソウは息を飲んだ。 その小屋には、祭壇のようなものが置かれており、祭壇の最上部には女の顔写真が立てられており、その周囲にはどこかの民族とかが被っていそうなお面と、首飾りやイヤリングとか煌びやかな装飾品が並べられていた。 ソウはダメだとわかっていたのに、小屋に足を踏み入れた。そして祭壇に置いてあるポラロイド写真を手に取る。 ソウ「なんだ…これは…」 写真にはどれも、裸体の男が写っていた。 裸体の男が縛り付けられて無数の手…恐らくその爪と指の綺麗さからして若い女性のもの…に皮膚を触りまくられてる?写真だ。 いや、違う。 ソウは分かった。男は触られているだけではない…この悶えたような顔…指の動き具合からして、男はこの無数の手から"くすぐられて"いるのだ。 「コーチョコチョ…コーチョコチョ…細い指でコーチョコチョ…磨いた爪でコーチョコチョ…」 どこからか女の歌声が聴こえてくる。 ソウが咄嗟に後ろを振り返った時、そこには悍ましいお面をつけた無数の女たちが立っていた。ゾクッと震え上がっているソウに向かって、女の一人がこう言った。 「お兄さんは、魂が震え上がるほどのコチョコチョ…受けたことある?」