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SHADOW OF UPDATE #1-2 それぞれの日常

2. それぞれの日常 クレミィ・デイヴィスの朝は早い。5時に起床してさっさと朝食を平らげ身支度をすまし、ネロたちの分の食事を作り終えてすぐ、娘たちの出発を見届けるまもなく車に乗り込んで職場へ出掛けていく。 まだうっすら暗いキーウッドの大通りをずーっと行った先にある工場がクレミィの職場であった。 集めた鉄を溶かして武器や兵器のパーツを生み出すのがこの工場の役割だ。 クレミィ「おはようみんな!」 クレミィはいつも仕事前に早朝とは思えないほどの元気さで全員に挨拶をしてまわる。 かなり社交的な性格ではあるが、大勢で群れるのは好きではなかった。そのため、昼休憩ももっぱら一人で車に篭って好きな音楽をかけ、サンドイッチを食べている。 さまざま年齢層の男女が入り乱れるこの工場で最も腕っ節の強い男マギアはキーウッド一の怪力男とまで言われてるが、そんな彼が飲みの席で暴れた際、クレミィに制圧されたという噂が流れたことがあった。 怪力男が元軍人といえど一人の女性に制圧されたなんて嘘だ…と職場の人間たちはそれを信じなかったしクレミィも否定したが、マギア本人は今も否定も肯定もしていない。 「なぁクレミィ。あっちの機械の調子が悪いんであとで見てくれないか。」 昼食終わりのクレミィにそう声をかけたのは上司のウォーターバーグという初老の男。禿げた頭にいつも赤いキャップをかぶっている物腰の柔らかい人物でクレミィはこれまで何度も彼に助けてもらっていた。 クレミィ「あぁ勿論。」 ウォーターバーグ「ありがとう助かるよ。」 「最近の調子はどうだい。家のこととか。」 ウォーターバーグはキャップを取り、眩しそうに太陽の方を見ながら言った。 クレミィ「絶好調だよ。いつも。」 ウォーターバーグ「それはよかった。」 「うちは家内が妙ものにお金を使い始めていて困ってるんだ。」 クレミィ「妙なものって?」 ウォーターバーグ「いわゆるスピリチュアルな商品さ。一応、家電類ではあるんだがね…どうも胡散臭い。」 「コマンド社ってとこのだ。」 クレミィ「あぁ…最近やけに宣伝してるところだ。」 ウォーターバーグ「そうなんだよ…インチキ商品だと言っても聞く耳を持ちやしないんだ。」 「うちの家内は反戦主義だからね…どうもそのコマンド社ってところも反戦を大々的に掲げてるらしいんだ。それも影響してるんだろう。」 クレミィ「思想が絡んでくると厄介だな…」 ウォーターバーグ「あぁ。しばらく様子を見てみるよ。誰かに危害を与えてないうちはいつでも引き返せるからね。」 クレミィ「その通りだ。さ、機械直してくるよ。」 クレミィは工具箱を持って颯爽と工場の奥へと駆けて行った。 クレミィが工場で汗水垂らして労働に勤しんでいる時、長女クロエは大学の授業をサボって学内のカフェテリアでだらだらと友人たちと共に過ごしていた。 ブロンドの髪をだらんと垂らして姿勢を崩しながらだらだらとスマートフォンをいじくっている。 「クロエさぁ、次もサボんの?」 そう尋ねたのはクロエの向かいに座っている小柄な女子 式島 静江(シキシマ シズエ)だ。 目はパッチリまつ毛も長い黒髪の美少女であるが、ツンツンした性格からほとんど男は彼女に近寄ることができない。 クロエ「うーん…どうしよっかなぁ…」 静江「まだそんな段階?もうそろそろ欠席回数ヤバいんじゃないの?」 クロエ「あれ?そうだっけ?」 静江「そろそろ出なきゃヤバいでしょ。」 「ちょっとはマジメなとこ教授に見せておかないと…欠席回数セーフでも変な難癖つけられて単位もらえないかもよ?」 クロエ「大丈夫だって。」 静江「ダメダメ…ほら、いくよ。」 「全く…なんで私がしっかりしなきゃなの…」 静江自身、不真面目なクロエと意気投合するほど根っからのヤンチャっ子ではあったが、クロエと行動する際はそんな彼女もマジメにならざるを得ないといった状態だ。 二人がカフェテリアから出ると、広場では冬の日の暖かな日差しの下、複数の学生たちによる反戦運動が行われていた。 命の尊さや戦争がいかに愚かであるかをマイクを使ってスピーチしたり、道ゆく学生たちに反戦運動のビラを配ったりしている。 言っていることはもっともらしいが、全てに賛同はできない…クロエにとってはそんな運動に見えた。 クロエ「武器を下ろしたらどうなるんだって話だよねぇ…」 「向こうがそれに応じるわけないし。」 「ああいう運動も学生時代の思い出づくりには良いかもね。」 静江「なんかスポンサーついたらしいよ?あの団体。」 クロエ「え?ほんと?」 静江「なんだっけ…あ、ほらあれ!」 静江が指差したのは、スピーチを行なっている学生の後ろに立っている旗。そこには見覚えのあるロゴマークが社名と共に掲げられていた。 クロエ「あれは…」 「コマンドコーポレーションか…」 静江「そうそう。何年か前からあるけど…最近よく名前聞くようになったよね…」 クロエ「企業が掲げてる反戦ってなんかビジネスくさいんだよね。」 静江「わかる。」 クロエも静江も二人揃って"ひねくれ"ていた。 広大な大学内で上位にいられるルックスを持ちながらも、頭が悪くて騒ぐだけしかできない連中を見下していたためパーティなんかに招かれてもほとんど参加してこなかった。 そんな二人にとっては、学生らの反戦運動もまた"冷ややかに見るべき対象のもの"の一つでしかなかった。 午後16時を回った頃…ネロの通うキーウッドのとある高校はその日の授業の終わりを告げるベルを鳴らしていた。 ネロ「ノート、借しておこっか?」 ネロがそう言ったのは、斜め前の席に座っている男子カイ・ブラームだ。色黒で活発そうな見た目だが女子と話すときはなんだかぎこちない。 カイ「あ、いや…大丈夫。もう写し終えたから、さ。」 カイはその時もどこかそわそわしたように返事をし、サッとネロのノートを返した。 ネロはそれを受け取るなり、バッグにしまってさっさと教室を出た。その直前、同じクラスの宮本あやかと富士野イノリ、ブルース・ギャレンらがカイを何やらからかっていたがよく聞こえなかった。 あの四人はいつも仲良しだ。幼馴染でもあるみたいで、そういった関係の友人がいないネロにとってはそれがちょっぴり羨ましかった。 「やっほー。」 ネロが廊下を歩いているとちょうど教室が一人の女子が出てきた。派手な紫色に染めたセミロングヘアが特徴的なそいつは、花凛 時雨(カリン シグレ)。美人だが重度のゲーマーで常にネットに張り付いている。ネロが唯一、心を許せる友人であった。 ネロ「やっほーシグ。」 シグレ「なんだか今日も浮かない顔してんね?」 ネロ「そっちもね。」 シグレ「ねぇ、一年生の子が"アップデート"するから退学したって話聞いた?」 ネロ「え、なに?アップデート?スマホ?」 シグレ「違う違う。人間を…っていうか自分を?」 シグレも首を傾げながら不思議そうに言った。 ネロ「なにそれ?」 「あ…まさかあれ?コマンドコーポレーションのやつ?」 ネロはよくCMで見かけるあの胡散臭い企業のことを思い出した。 シグレ「そう…それっ!」 シグレはびしっと人差し指でネロを指差して言った。 シグレ「今後、人類には進化が必要だとかなんとかって話ね。」 「で、実際に一年生の子がアップデートするって言って学校辞めちゃったんだよ。」 ネロ「アップデートって何してんの?」 「学校やめるほどなの?」 シグレ「なんかとんでもない人体実験まがいのことらしいよ?ネット情報だけど…前に面白半分でコマンドコーポレーションのアップデートを受けるって宣言した人がネットにいたんだけど…アップデート当日以来、SNSが更新されなくなったんだよねー。」 ネロ「なにそれやばくない?」 シグレ「いやあの企業普通にヤバいからね。」 「始まりがそもそも宗教みたいなもんでしょ。」 ネロ「そうなの?」 シグレ「反戦運動を掲げてる若者の集団が始まりだったらしいよ?」 「ほら…そういうの昔流行ってたじゃん。カウンターカルチャー的な?」 「その集まりがそのまま企業に成長した…みたいな。」 ネロ「へぇー。なんにせよ…怪しい集団ってことだよね。反戦ってとこだけは支持できるけど。」 シグレ「まぁそれもなんか本気で言ってんのかファッション的に言ってんのか分かんないけどネ。」 シグレはそう言ってポイッと口にガムを放り込み、駐輪スペースに停めてあった黒のロードバイクにまたがる。 シグレ「じゃあまた学校で。」 ガムをくちゃくちゃ咀嚼しながらシグレは颯爽と自転車を漕いで遠くへ消えて行った。 午後16時過ぎ。 イザベルは既に帰宅しており、自室にこもって"執筆"を行っていた。彼女の趣味は読書と映画鑑賞。中でも読書に関しては自身で物語を綴るほど大好きで、学校が終わればこうして机に向かって物語を書くことがほとんどだった。 執筆活動は長くても一時間半。それ以上は書き続けても良いものが書けないので絶対に一時間半だけと決めていた。 執筆が終わればイザベルは廊下を挟んだ向かいの部屋にいる紫苑に勉強を教えにいく。 イザベル「分からないところない?」 紫苑「別に今は大丈夫だよ…」 紫苑はいつも決まってそう答えた。だが、よく見てみれば分からないところだらけなので結局いつもイザベルが教えることになる。 紫苑は負けず嫌いだった。人に頼ることに抵抗があるのか、決して自分から助けを求めたりしない。そのことをしっかりもののイザベルはいつも気にかけていた。 紫苑が─いつも外をほっつき歩いているクロエはともかく─自分やネロ、そしてクレミィを頼ろうとしないのは血が繋がっていないからではないか…イザベルにはそんな風に思えて仕方がなかった。 程なくして、玄関のドアが開いてネロが帰ってきた。また、いつもの日常が終わりに近づいてる。


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