SamSuka
Kara
Kara

fanbox


女殺し屋たちの鳴き声#1

1. アイアンメイデン 「もぅ…もぅ勘弁してよぉ…もう呂律がぁ…まわんにゃくにゃってぇ」 歯がなくなったようにフニャフニャと喋る女の声が冷たい部屋に響く。 呂律どころか、彼女は頭さえ回っていない。すっかり"バカ"になってしまっていた。 背の高い刺青女がブロンドの髪をグシャッと掴み、顔を上げさせた。 ひどい顔だった。赤い口紅は殆どとれていたし、目の焦点も定まっていない。 「か…勘弁してぇ…!全部話した…話したからぁ!!」 刺青女が彼女の頭を押さえつけ、その隙に口元にガスの強制吸引用マスクを押し当てる。 装置のスイッチが入り、ガスをブロンド女の身体に注入し始めた。 ブロンドの女は目をカッと開き、絶叫し、ビクビク暴れた。 私は、 生まれて初めて"くすぐり"の恐怖を知った。 生まれて初めて人の裸体が油で照り輝くのを見た。 生まれて初めて"死を逃げ道として望む者"を見た。 生まれて初めて人が笑い狂うのを見た。 思えば、あの殺し屋三人は全員、同じ話をしてたんだ。 だから三人とも始末されたんだ…"くすぐり"で。 ◯ ─1日前─ 「ねぇ、お姉さん新入りでしょ?」 その女は、いくつかの商品をドサッとカウンターに置くと、肘をついてうすら笑みを浮かべながら私に尋ねた。 唇には真っ赤なリップを塗り、どこか幼ささえ感じる顔つきのその女は、綺麗なブロンドの髪をしており、黄色いカウボーイハットを被ったカウガール風のファッションに身を包んでいた。 「は、はい…そうですけど…」 私はカウンターに置かれた商品を一つずつ手に取り、精算し始める。 「だと思ったぁ〜。見ない顔だったもん!」 カウガール風の女が子供みたいに無邪気な笑みを浮かべた。 「せいぜい"頭"やられないように気をつけなよ?」 「なんなら私が特訓してあげようか?」 女がズイッと手を差し出してきた。爪には真っ黄色のネイルが施されていた。 「ラノン。うちの八千代にちょっかいをかけないでもらえるかな。大事な従業員なんだ。」 私が返答に困っていると、カウンターの奥にある倉庫からちょうど"ヤミムラ"が戻ってきてカウガールの手を払った。 ラノンと呼ばれたカウガール風の女は頬を膨らませわざとらしくつまらなそうな顔をして手を引っ込めた。 ラノン「なによヤミ。ちょっとくらい遊んだっていいじゃん。」 ラノンは支払いを終えた商品を手に取り、バッグに詰め込みながらぶつくさ言った。 ヤミムラは、この店の店長でありオーナーだった。身長は165センチくらいの黒髪ポニーテールの女で、いつも血やオイルの染みた汚いエプロンをつけている。 ヤミムラ「随分買い込むんだな。お前がうちの店で弾を買うなんて珍しい。」 「弾を買うのに行きつけの店があるんじゃなかったのか?」 ヤミムラが私を後ろに下げながらカウンター越しにラノンを見て言った。 ラノン「買い手のことを詮索しないのがこの店の良いところじゃなかった?」 ヤミムラ「あぁそうだった。でもちょっと気になってね。」 「お前がこの店で買うのは大抵、もっと派手なうちオリジナルの兵器ばっかりだったから。」 ラノン「まぁそうだね。」 ラノンは買い込んだ商品…弾薬をバッグに詰め込み終えるとジッパーをしめ、顔を上げた。 ラノン「どでかい仕事をするんだ。」 「生きるか、死ぬか分からないけどね。」 ヤミムラ「殺し屋のお前が何を言ってるんだよ。そんなのいつものことだろう?」 ラノン「そうだけどさぁヤミ。」 「今回は特にデカいんだ。成功すれば二度と殺しなんてかったるい仕事せずに生きていける。」 「この仕事の達成には…神も慄くほど腕の良いガンマンが必要ってわけ。私みたいな、ね。」 ラノンはニコッと無邪気に、しかし邪悪に笑った。彼女の腰にはホルスターに収められた銀色に光るリボルバーがささっていた。 ヤミムラ「何を企んでるか知らないけど、あんまりこの辺りで騒ぎは起こさないようにな。」 ラノン「それは約束できないな。でも、ヤミ…この店には迷惑かけないって約束するよ。」 ラノンはそう言って、店を出る前に私に向かって笑顔を向け、指をくねくねさせながら手を振った。 私はどうすれば良いか分からず、突っ立っていた。 入り口の分厚いドアの奥に消えていくラノンの後ろ姿を見て、ようやく私はラノンが思っていたより背が高いんだと言うことに気づいた。 多分だいたい170センチと少しはあるだろう。 ヤミムラ「ラノン・パーキンソン。奴はカウガールと呼ばれてる。彼女も殺し屋だよ。」 「歳は確か23歳。リボルバーを握らせればあの女に撃ち抜けない獲物はない。」 ラノンが店を出た直後、ヤミムラは出入り口ドアを見つめながら言った。 「はぁ…。やっぱり…殺し屋…。…ていうか若い…ですね。」 ヤミムラ「殺し屋なんて大抵若いよ。長生きしやしないんだから。」 「ほとんどの殺し屋がろくな死に方はしないし、死ななくても狂ってしまったりする。」 「だから現役の殺し屋は皆、ほとんど若いのしかいない。」 「それから八千代。前にも言ったけど、客を相手にする時は必ず相手の両手がフリーになってることを確認するんだ。出ないと酷い目に遭わされるかもしれない。」 ヤミムラは、私…煤野 八千代(すすの やちよ)に厳しい目を向けてそう言った。 ヤミムラ「さっきだってラノンがお前の脇腹に銃口を向けていたのに気づいてなかっただろう?」 八千代「えっ」 私は言葉を失った。 ヤミムラ「奴はお遊びだったから良かったけど、タチの悪い客だったらとっくにあの世にいっていたよ。」 「気をつけな。」 いつもは眠そうだと言われる目を丸くし、色の白い肌をさらに青白くさせてだらだらと汗を垂らしている私をよそにヤミムラは作業に戻った。 ヤミムラ「あぁ、それから例の新商品…ええっと名前なんだっけ。あ、そうだ…"神経擽震ガス"とその強制吸引機の完成品が裏に届いてたからあとで入れておいてくれる?」 「もう買い手がついたから。」 八千代「えっ。もうですか?」 ヤミムラ「うん。それもかなり大物だ。」 「大丈夫。買いに来た時は私が相手するからさ。」 ヤミムラはそれだけ言うと裏の倉庫へと消えていった。 ここは拷問器具・武器専用の店"アイアンメイデン"。裏社会に出回るあらゆる悍ましい器具を売る店。 客は皆、殺し屋か盗人か反社会的組織のいずれかだ。 拷問に詳しい店長のヤミムラが自ら考案したこの店オリジナルの拷問器具は評価が高く、裏社会の大物たちの御用達となっている。 私は一ヶ月ほど前にここに来た。 表の世界に嫌気がさし、闇サイトを経由しまくった結果…この店で働くことになったのだ。 働いてまだ一ヶ月であるのにも関わらず、既にこの店で人が死ぬのを十回は見た。原因は客同士のこの店での揉め事か、それに対して怒ったヤミムラによる制裁だ。 ヤミムラはいつも躊躇なく引き金を引く。 何度見ても人が死ぬ光景に慣れることはなく、私はいまだにビクビクしながらここで働き続けている。 ◯ 翌日。 私が店の掃除をしていると、ブザーが鳴り、分厚い鉄の玄関ドアが空いて何人かの女たちが入ってきた。全員、スーツ姿だった。 私が慌てて接客しようとすると、奥からヤミムラが急いで出てきて私を奥へやった。 ヤミムラは、彼女が人を殺すときに見せるような真剣な面持ちで何やらスーツの女たちと話し込んでいた。 彼女らが何を話しているのか見当もつかなかったが、「見せしめ」とか「アレを試したい」とか物騒な言葉が飛び交っていた。 嫌な予感がした。 私はヤミムラに言われて、例の新商品を台車に乗せて奥の倉庫から持ってきた。 ヤミムラ「これだよ。」 ヤミムラは台車に乗った箱を開け、中から無骨な銀色の大きなスプレー缶を手にとった。 スーツの女は指輪だらけの手でスプレー缶を受け取り、まじまじと見つめた。 「チェックは済んだ?」 ヤミムラ「まだだ。電話で伝えた通り、コレを買うのはあんたらが初めてだからね。」 「そうか。なら…これから責任を持ってチェックを。」 ヤミムラ「もちろんそのつもりさ。」 "チェック"というのは、アイアンメイデンオリジナル商品を始めて客に売り渡した時にだけ行う"新商品のチェック"のことだ。 平たく言えば、新商品に不備がないかとか、正しい使い方をレクチャーするために実際にその拷問器具や武器を使う現場に同行すること。 もし、不備があればその場でヤミムラが責任を負わされる。客側が組織の大物だったりすれば最悪の場合、ヤミムラでさえ殺される。 それくらいリスキーなことだけど、その分利益は馬鹿みたいに大きいらしい。 「それじゃあ車へ。表に停めてある。」 黒スーツの女が入り口ドアの方を指差す。 何人も殺してきたような恐ろしい手に思えた。 ヤミムラ「あ、ちょっといいかな。」 「彼女は店番としてここに置いていく。それでいい?」 ヤミムラは私を指差して言った。 でも、スーツの女は首を横に振った。 「ダメだ。その女もチェックに同行しないといけない。」 ヤミムラ「この子はまだこっちの世界に馴染んでない。」 「それなのに今日…あんたらがやることを見たら…下手すれば精神をやられる。」 「そんなヤワな女ならどのみちこの店で長くは持たないだろう。いいから連れて来い。これは命令だよヤミムラ。」 女にキツく言われ、ヤミムラは渋々頷いた。 アイアンメイデンは裏社会の組織の援助もあって成り立っている。この黒スーツの女の属する組織もまた、アイアンメイデンにとっては邪険にできない組織の一つ。だからヤミムラも反抗できなかった。 今にして思えば、ヤミムラは本当に私のことを気遣ってくれていたのだと思う。 実際、この後、私は精神がどうにかなってしまいそうな光景を見せられたのだから。 "カウガール"がこの世のどんなものより辛い責め苦を受けて鳴きながら笑い狂う様を。


More Creators