あの夏の悶絶は思い出の中に(3日目#2)
Added 2023-08-27 11:41:11 +0000 UTC2. みんなのために! (F/M) しずか「へぇ。ハク…コレ効くんだ?」 地面に仰向けに倒れてしまったハクが慌てて起きあがろうとすると、しずかが脅すように両手をずいっと前に出してきた。 ハク「い、いやっ!待て待て!今それどころじゃないだろ?もう行かないと!」 しずか「ううん。まだ大丈夫だよ?」 しずかが意地悪な笑みを見せて指を曲げ伸ばしする。 しずか「まさかくすぐりに弱いなんてわけないよねぇ?」 しずかが両手でハクの上半身の素肌を撫でた。腋の下の近くのラインをさーっと撫でられ、ハクはたまらず声を上げる。 ハク「うぎゃぁぁあああっ!?」 硬い爪の先が皮膚を刺激し、不気味なくすぐったさが走る。 しずか「よっわ。あんたユウより弱いよたぶん」 「ほらほら…」 ハク「だ、誰が弱いだ!弱くないし…」 「ぎゃあああああ!!?」 強がっている途中で、しずかがまた腋の下の近くをサーッと撫でた。ハクは飛び上がった。 しかし、くすぐりに弱いことを認めるわけにはいかない。こんな、防御力が0の時に。 しずか「そっかそっか。じゃあ認めるまでこちょこちょの刑だな」 しずかは、地面に仰向けに倒れているハクに覆い被さるようにして体重をかけ、ハクの両腋の下に狙いを定めた。 ハク「待て待て!待てって!!」 しずか「ダメ」 しずかは目を細めて冷たくハクを見下ろしながら、両腋にズクッと指を突っ込んでこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!!っと腋の下を爪で掻き回した。 ハク「へっ!?ぎょぇぇぇぇえええええへへへへへへへへへへははははははははははははははははははははははははははははははは!!!ひっ!?ひひひははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 腋の下を直接くすぐられたハクは我慢もできずに笑い出し、地面で笑い転げた。だが、しずかが体重をかけてきているため逃げられない。 しずか「ほら、弱いじゃん。まさか私に嘘ついたのかな〜?」 しずかはわざとらしく子供っぽい口調で言いながら、大人もびっくりの指さばきで腋の下をこちょぐり回す。 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! ハク「ぎゃっ!?ぎゃははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!ち、ちがっっ!!?っっひはははははははははははははははははははははははははは!!!いひひひひはははははははははははははははははははははははは!!!」 腋の下に走るのは、上記を逸したくすぐったさ。 爪の硬さとかツルツルさがいやというほど伝わってくる神経に刻み込まれるようなくすぐったさだ。 こんなのに耐えられるわけがない。ハクは、この前のユウに同情しながら笑いも悶えた。 しずか「違うことないよね?」 「嘘ついたんだからごめんなさいは?」 しずかは変わらず、冷たい声でハクにそう言いながら、腋の下で指を暴れさせる。その指遣いは器用なもので、腋の下の隅から隅までを執拗に丁寧にくすぐり回していた。 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!! ハク「あはっ!?っっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!なんでっ!!俺がっ!!謝らないどっっ!!いけないんだよっ!!っっははははははははははは!!ひはははははははははははははははははは!!」 ユウにみたいになってはいけない。そうなったら今後ずっとこんなふうにくすぐりで脅されることになる。 ハクはそうなりたくない一心で、必死に抵抗を続けた。 しずか「ふぅん…謝らないんだ?」 しずかはそう言うと、指と爪をつーっと皮膚の上に滑らせながら腹部に移動させた。 ハク「くあっっ!!?」 しずかの冷たい爪と指先がハクの細いお腹の上に添えれ、ハクは目をギョッとさせた。全身にトリハダが立った。 しずか「これでも謝らない?」 しずかは首を傾げると、そのままワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャ!! こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!っと腹の上をめちゃくちゃにくすぐり回した。 ハク「ぎゃーーっ!!?お腹はっ!!お腹はぁぁぁぁああああああああああああああ!!!っっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!かはっ!!?はっ!!?キツっっ!!?っっひひひひひははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 敏感なお腹を直接、爪の先と指先で好き放題に掻き回しくすぐられたハクは蛇みたいに激しくのたうち回った。 それでもしずかは狙いを外さず、お腹のくすぐったい所を集中的に狙って指をこちょこちょ動かし、ハクを苦しめた。 ワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャ!! こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! ハク「ゃはははははははははははははははははははははははははははははははは!!!キツっ!!キツっっ!!?けほっ!?っっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!けほっ!?かはっ!?」 痺れるようなお腹こちょこちょは、ハクの体内から酸素を没収する。 しずかは時折、爪の先でサーッとお腹を撫でたりして別の刺激をハクに与え、お腹こちょこちょのくすぐったさに慣れさせない工夫をしていた。 しずか「謝る?謝らない?」 「ずっとこちょこちょしてやろうか」 しずかは脅しながらハクの細いお腹を徹底的にくすぐりまくる。 ハク「うわぁぁぁあははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!?っは!?はっ!!へはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 顔を真っ赤にして笑い悶えるハク。だが、しずかはお構いなしにお腹に指と爪をこちょこちょこちょこちょ滑らせ、這わせ、ハクを息もできないくすぐったい地獄に引き摺り込んでいく。 しずか「ほらほら、謝らないと笑い死にするよ?」 「こちょこちょってやり過ぎたら人死ぬからね?」 しずかは笑顔を一切見せずに冷酷な顔のまま、爪の先を使って腹部の表面をワシワシしたり、指先で撫でるようにしたりして徹底的にお腹をくすぐり殺していく。 ハク「くはっ!!かはっ!?はっっはははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!ごめんっ!!ごめんっっ!!!ごめんってばっ!!っっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 お腹をずーっとずーっと襲うくすぐったさにハクはたまらず降参した。目には涙が滲んでいた。 しずか「よろしい。それじゃああとは、こちょこちょに弱いって認めることだね?」 ピタリと止まったしずかの手指。だが、その手はまだ"臨戦体制"のままだ。 ハク「はぁはぁはぁ!そ、それはっ…」 それだけは嫌だった。 しずか「素直に認めないつもりならそれで良いんだけどさあ…ところでハク。横っ腹こうやられるの結構キツいよねぇ?」 しずかはねっとりとした口調でそう言いながら、指を横っ腹に滑らせ、細かな動きでこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょっとくすぐった。 ハク「うわぁぁぁぁぁぁあはははははははははははははははははははははははははは!!!ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいっ!!!っあっひゃはははははははははははははははははははははははははははははははは!!!いひひひ!!?いひひひひひひひ!!!いひぃぃぃひひひひひはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?」 横っ腹に刻み込まれるくすぐったさ。それは、ずっと続けられたら頭がおかしくなりそうなくすぐったさだった。 横っ腹をこちょこちょやられるたびに寒気がして、顔が引き攣る。 しずか「ねぇねぇどうする?認める?それともずーっと横っ腹こちょこちょされて笑い死ぬ?どっちがいい?」 しずかの指の速度が加速する。 カリカリカリカリ!! こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! ハク「ぎゃぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ"っ!?っっへはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!しぬっ!!しぬっ!!じぬぅぅぅぅぅっ!!!っっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 横っ腹といえば、これまで揉まれることが多かったがこんなふうに指先と爪の先で表面を細かくこちょこちょこちょこちょくすぐられたことはなかった。 ゾクゾクするような冷たいくすぐったさにハクの横っ腹の神経は既に参ってしまっていた。 しずか「まだまだ本気出せるよ?どうする?だそっか?」 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!! ハク「あぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっっ!!?いやっっ!!!それは"っ!!!っっははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!うひひひひひひはははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!それはぁぁぁぁははははははははははははははははははは!!!」 しずか「なかなかやるね?じゃあちょっと本気でやってあげる」 「お前走るの速いから…たぶんここも弱いよね」 しずかは横っ腹から手を離すと、素早くハクの太ももと膝の境界線あたりを掴んだ。 そして、その筋肉をつまんでほぐすようにクニクニクニクニクニクニクニクニクニクニクニクニクニクニクニクニクニクニと揉みくすぐった。 ハク「にょぇぇぇぇええええええええええええええええええええっっ!!?ぇっ!!?っっへはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?あああああああああああああああああ!!わがっだ!!わがっだ!!認める!!認めるがらっっ!!!っっはははははははははははは!!!?」 くすぐられたこともない箇所をくすぐられたハクは、未曾有のくすぐり刺激に心をへし折られて降参した。 しずか「それでよし」 しずかは手を離した。 ハク「はぁ…はぁ…はぁ…なにしてくれてんだよ…」 ハクは地面にばたんと倒れて息を切らす。海に入ってキレイになっていた体はすっかり汗だくだ。 しずか「お前さ、こんな程度でヘトヘトになっててどうすんの?私、最後の以外かなり手加減したんだけど」 ハク「はぁ…はぁ…くすぐってくるやつはみんなそう言うんだよ…」 ハクは文句を言いながら起き上がった。 しずか「本当に手加減してたって。信じられないならまた今度、本気でやってあげよっか?」 ハク「い、いや…もういいって」 ハクが言うと、しずかはクスクス笑った。 ハク「何がおかしいんだよ」 しずか「ううん。なんか、本気で嫌がってるんだなーって」 ハク「普通そうだろ」 しずか「そう?中にはくすぐるとちょっと嬉しそうにしてるやつもいるけど?」 ハク「なんだよそれ…変わり者だなそいつは」 しずか「かもね。さ、そろそろ行こっか」 「服着てもらわないとこっちもこちょこちょしたくなるし」 ハク「したくなるのは意味わかんないけど…行くか…はぁ…はぁ…」 「あ、そうだ」 ハクはくるっと後ろを見た。 ハク「ここってなんなんだ?中はどうなってんのかな」 後ろにあった開かずの屋敷が気になって仕方がなかった。 しずか「さぁね。誰も入ったことないから開かずの屋敷なんだよ」 ハク「幽霊とかいないの?」 しずか「は?やめてよそういうの。次言ったらくすぐり処刑だからな」 ハク「わ、分かったよ…」 ハクはそう言ってしずかと一緒に茂みから出た。 その時、ハクがもう一度、屋敷の方を振り向くと、割れた窓の向こうの部屋を誰かが横切ったのが見えたような気がした。 ハク「ん?」 ハクが立ち止まってじっと屋敷の方を見ていると、脇腹に鈍いくすぐったさが走った。 しずかが脇腹を揉んだのだった。 ハク「ぐわぁっ!?」 しずか「今すぐ本気でやられたい?」 しずかに睨まれたハクは大人しく屋敷を見るのをやめた。 ◯ ハクとしずかは用心しながら空野家一階のそばを通り抜け、コンクリートの道を駆け足で進み、落ちていたシャツを拾い上げた。日光に照り付けられていたシャツはアツアツで、着てみるとなんだかポカポカして心地良かった。 シャツの中には未悠からもらった地図も残っていた。 しずか「良かったね。時間まであと五分くらいしかない。急ごう。近道があるからそっちからいくよ」 ハクとしずかは時短のため、石垣をよじ登って空野家二階の裏の林を抜けた。林の中にはたくさんの木々が生い茂っており、走ることはできず、前に進むのがやっとだった。 林を抜けると十字路に出た。 地図で見るよりもちょっと広い。 しずか「こっちこっち」 ハクは、真っ直ぐに進むしずかに着いていく。 そしてようやく、約束の場所に出た。 森の中の開けた場所と言った感じだ。雑草だらけの地面には暑い日差しが照りつけている。日陰はほとんどなくて、大きな木の影だけが日陰になっている。 奥に、板を貼り合わせた大きな木の門があった。門は閉じられていて、横の看板には"壱番山 登山口"と書かれてある。 ハク「ここか?」 しずか「うん。おかしいな…もう着いてるはずなのに」 は腕時計を見た。時間は14時05分。約束の時間は過ぎている。 「ここで落ちあうつもりだったか?」 聞き覚えのある声が響いて、ハクとしずかは同時に声のする方を振り返った。 今さっきハクとしずかがやってきた十字路からシンが歩いて来た。 ハク「うわっ…」 しずか「シン!?」 シン「さっきダイチのヤツがこっちに向かうのが見えたんだ。俺に気づいて別の方へ逃げたけどな。ひょっとしたら仲間と合流するつもりなのかと思って来てみたんだ」 「そしたら大当たりだ」 シンはニッと笑ってゆっくり二人に近づいてくる。 ハクとしずかは顔を見合わせた。二人とも焦りに満ちた顔をしていた。なんせ後ろは閉じられた門。周囲は深い森。唯一の脱出口はシンが塞いでいるのだから。 シン「お前ら二人とも…まとめてアウトにしてやるぜ」 シンが地面を蹴って走り出す。 ハクとしずかはもう一度、顔を見合わせた。だが、そうしたところで何か案が浮かぶわけでもない。 二手に別れて走れば逃げられるか? いや、シンはきっとそれも想定内のはずだ。バラバラに走り出せば、シンはまずしずかを捕まえるだろう。しずかも走るのは速いが、シンに勝てるほどではない。 そしてそのあとは自分を追うだろう。逃げ切れるかもしれないが、別の鬼が回り込んできたらさすがにどうしようもない。 二人とも捕まってしまうという最悪の展開を避けるための方法は一つしかなかった。 ハク「ここは俺に任せて、しずかは逃げてくれ」 ハクは、迫り来るシンから目を離さないまましずかに言った。 しずか「はっ?本気?」 しずかがハクの方を見てびっくりしたように顔をしかめた。 ハク「本気に決まってんだろ。逃げ切れ!」 ハクが力強く言うと、しずかはやや戸惑いながらも頷いた。 シン「へっ!漢見せるじゃねぇかハク!」 「いいぜその勇気買った!」 シンは嬉しそうに笑うと、ハクに狙いをつけた。 その隙にしずかは十字路の方へ走っていった。 しずかが逃げ切るための時間を出来るだけ多く稼ぐべく、ハクは登山口前をぐるぐる走り回ってシンから逃げた。 シン「分かってはいたけど…手強いな…!」 ハク「そっちもな…!」 二人は小岩を挟んで睨み合う。 ハクが右へ足を踏み出すと、シンも素早く同じ方向に足を踏み出す。ハクが左へフェイントをかけてもシンはやはりそれに反応する。シンの瞬発力はハクとほとんど互角か、ハク以上だった。 ハク「行くぞ!」 ハクは右へ走り出すと見せかけ、小岩に足をかけて小岩を飛び越えた。 シン「うおっ!?まじかよっ!」 シンも、まさかハクが小岩を回り込まずに飛び越えるとは思ってもいなかったのだろう、口をあんぐり開けて驚いていた。 ハク「じゃあな!」 ハクは十字路に向かって走り出した。だが、普段、整備された平らなところばかりでしか走っていないハクにとって自然の地を駆けるのは難しく、いつものような走力を発揮できない。 転びそうになりながらもハクは必死に走った。 十字路を左に曲がる。急いで進むと、そこに下り階段が現れた。木材で補強されてはいるが、足場はかなり不安定だ。それでもハクは飛ぶように階段を降りた。 だが、そこでハクの逃走劇は終了した。 階段を降りた先には川が流れていた。川を渡るには飛び石を超えねばならなかったのだ。 さすがに飛び石を素早く渡ることなどできず、シンにタッチされてしまった。 シン「はぁはぁ…ひぃ…ほんと…手強いぜお前」 シンはヒィヒィ言いながらポケットから赤いテープの切れ端を取り出し、ベタッとハクの肩に貼り付けた。これがアウトになった者の証だ。 ハクはため息をつき、息を整えた。 空を見上げる。そして、誰も捕まっていないことを願った。 ◯ ハクが一人でとぼとぼと"牢屋"である空野家一階リビング横を玄関を出たところのコンクリートの足場に行くと、そこにはまだ誰もいなかった。 ハクはホッとしたのと同時に、シンに負けた悔しさが込み上げて来て腹の辺りがモヤモヤした。 早くここから逃げて、もう一度戦いたかった。仮にこのままみんなが逃げ切って勝てても、勝った気がしない。 そんなハクの燃えたぎる闘志にこたえるかのように、トットットッと静かな足音がどこからか聞こえた。家の中からだ。 ひょこっとハクが開けっ放しの玄関戸からリビングを覗くと、奥の廊下に未悠の姿があった。未悠は階段を使って二階からやってきたのだ。 ハクが明るい顔で未悠を見て声をかけようとすると、未悠は咄嗟に指を口にあてて、しーっとやりながらそっとハクの方へ近づいて来た。 そして、未悠はベリっとハクのテープを剥がしてくれた。 未悠「これで自由だよ」 ハク「サンキュー!ふぅ!」 ハクと未悠は牢屋から出た。 未悠「まさかハクが最初に捕まってるんなんてね」 空野家一階部の裏側の石垣をよじ登りながら未悠が言った。 ハク「あぁまぁ色々あったんだよ。イチバン山の前でシンにやられた」 ハクも未悠に続いて石垣に手をかけた。足が滑りそうだったので、石垣に取り付けられているホース付き蛇口に足をかけた。これは、海水浴のあとに身体から海水を落とす用らしい。 未悠「そっか。私も行こうとしたんだけど、途中でイチコに見つかって待ち合わせ場所に行けなかったんだ。シンがいたなら行かなくて正解だったかもね」 ハク「だな。ダイチとしずかは無事かな」 石垣の上に上がったハクは、パンパンと手についた泥を払った。 未悠「無事みたいだよ?」 未悠はそう言って前方を指さした。そこには、改造自転車と一緒に倒れているユウがいた。ユウは手足をピクピク痙攣させている。 ハク「ユウ…?なんで倒れてんだ?」 未悠「たぶん、しずかのシワザだね」 「あそこまでやってるってことは何か作戦でも聞き出したのかな?」 ハク「なんだよそれ…ほんとになんでもありなんだな」 ハクが呆れたように言ったその時、ハクと未悠の間に何かが勢いよく飛んできた。ハクと未悠は瞬時にそれを避けた。 二人に飛んできたソレはドッジボールをするような大きな柔らかいボールだった。ボールはバウンドして飛んできた方へ戻った。ボールをキャッチしたのはヒカリだった。ヒカリの後ろにはイチコちゃんもいる。 ハク「げっ」 未悠「来たね…」 二人は、敵の方を向いた。 ヒカリ「見つけた!今度は外さないよ?」 ヒカリがボールを人差し指の先っちょでくるくる回しながら言った。 イチコ「ぜったいぜったい…逃しませんからね」 イチコちゃんはハクの方だけを睨みつけてほおを膨らませていた。 ハクはそれを見て、悔しくて本当にほおを膨らませるやつがいるのだな、と思った。 ハク「やってみろよ」 シンに負かされたばかりだったハクは抑えきれない負けず嫌い精神から、二人を挑発した。 イチコ「言われなくてもやってやります」 「ヒカリ!」 ヒカリ「まかせて!」 ヒカリはブンっと肩を振ってボールを投げた。ボールはぎりぎりハクの頭の横を通過した。その隙にイチコちゃんが走って来た。 未悠「行こう!」 未悠はハクの手をちょんっと触って合図した。 ハクと未悠はヒノトリ公園の方へ走り出す。 しかし、倒れていたユウがよろよろと起き上がった。 ユウ「はぁ…はぁ…に…逃がさないぞ…!」 ユウはぷるぷる震えた足で必死に立ち上がり、ハクと未悠の前に立ちはだかった。 未悠「ごめんね?ユウ。あんたには封印してたんだけど…!」 未悠はユウに近づくと、素早く手を伸ばして何かをした。 未悠の手がユウに触れたか触れていないかハクには分からなかったがユウは情けない声を上げて崩れ落ちた。 未悠「ハク!その自転車に乗って!」 未悠が倒れている改造自転車を指さして大声で言った。 ハク「えっ!?これ?乗っていいのか?」 未悠「この鬼ごっこは何でもありだから!」 ハク「わ、わかった!」 ハクはシンの改造自転車を起こし、跨った。 未悠「先に漕いでて!追いつくから!」 自転車に追いつくなんてさすがに無理ではないか。ハクはそんなことを考えながらも自転車を漕ぎ出した。改造自転車は普通のとは違ってなんだかぐらぐら揺れて乗りにくい。漕ぎ方がよく分からなかった。このペースなら確かに、未悠も追いつける気がした。 後ろでは、未悠がイチコちゃんから逃げている。そのさらに後ろからヒカリがボールを飛ばしてくる。 一秒たりとも気が抜けない。 ハクがヒノトリ公園の前までやって来た時、追いついて来た未悠が後部座席にぴょんと飛び乗って来た。自転車がぐらりと揺れた。 未悠「いいよ!そのまま漕いで!」 ハクは言われた通りにした。 未悠は後ろから手を伸ばし、ハンドルとサドルの間に取り付けられた装置のレバーを掴んでガチャンっと引き、同時に足を伸ばしてペダルの前にある別のペダルを蹴り上げた。 瞬間、改造自転車の速度はグンと速くなった。 ハク「うわっ!速いな!?」 未悠「さすが…出来がいいね!」 風を浴びながら未悠が爽やかに笑った。 改造自転車は公園の前の坂道をスイスイ登って行く。 坂を登り切ったハクと未悠はそのまま坂を下り、その先にあった建物の前で自転車を降りた。未悠の提案で改造自転車は茂みに隠すことにした。 ハク「ここは?」 未悠「診療所だよ。と言っても、普段はあんまりやってないけどね。ここ、いつも開いてるから抜けていけるんだ」 未悠は躊躇なくドアを開けて、診療所の中に入っていく。 診療所はすごくこじんまりとしていた。入ってすぐに受付窓があったが、カーテンが降りていた。細長い通路の突き当たりにドアがあり、"診察室"と書かれたプレートが掛けられていた。通路の角を曲がると、他にもドアが二、三枚ほどあった。未悠によるとそこは病室と資料室らしい。 通路を使って裏口から出ると、そこに川が流れていた。さっきハクが渡れなかった川だ。 ハクと未悠は飛び石を超えず、島の北へ進んだ。 イチバン山の麓にあたるその場所は、川のそばだからかすごく静かで涼しかった。 しばらく歩くと、開けた場所に出た。黄色い土が剥き出しになったその場所は周りがほとんど木々に囲まれている。 海を挟んだ向こう側には陸地があって森の入り口のようなものが見えた。 未悠「あっちは"奥の森"だよ。怖い山があったり、もっと深い自然がいっぱいなところ。唯一渡れる橋がそこにあったんだけど、この前の嵐で流されちゃったんだ」 確かに、海のそばには橋の残骸みたいなのが残っていた。 ハク「じゃあ行けないのか…」 未悠「そんなことないよ。たぶんね。橋を直せばいけるから。一応言っておくけど、そこは深いから泳いでいこうとしたらダメだからね?」 未悠はフフッと笑ってハクの肩をぽんと叩いた。 それから空を見上げてため息をついた。 ハク「どうした?疲れたか?」 ハクも空を見上げると、未悠は空を見上げてため息をついたわけではないことがわかった。 さっきは逃げるのに必死で全く気が付かなかったが、未悠の視線の先にはズドンと大きな大きな大きな大きな橋脚があった。 白くて大きなソレはまるで怪物みたいだった。 建設途中の橋脚は、ここから近い場所にいくつか並んでいた。 ハク「なんだありゃ…でっけぇな…」 未悠「橋の脚だってさ。このあたりってたくさん島があるでしょ?それを、おっきな橋で繋ぐんだって」 あんなにでかい脚を持つ橋が一体どれだけデカくなるのか、ハクには想像もつかなかった。 ハク「なんのためにつなぐんだ?」 未悠「この島よりずっと奥にある島が、観光地で有名なんだけど、そこに行きやすくするためなんだよね」 ハク「へぇ。すげえな…」 未悠「そうかな」 未悠はボソッと言った。 ハク「え?」 未悠「いや。なんでもないよ」 未悠は首を横に振って、橋脚から目を逸らした。 「そこまでですよ」 イチコちゃんの声がした。