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あの夏の悶絶は思い出の中に(5日目#2)

2. 一緒に来てよ (F/M) 奥の森を出たあと、シンは「悪い。これからじいちゃんの手伝いをしねぇとなんだ」とたいそう面倒そうに言って走って帰って行ってしまった。ダイチは勉強、ヒカリは祖父と隣町に行く予定があり、さらにイチコちゃんはハクとの戦いの特訓をするためにとことことイチバン山の方へ行ってしまって遊びは一旦解散になった。 残ったのはハク、しずか、未悠であったのだが、未悠も用事を思い出したとかなんとか言ってなぜかそのまま奥の森の方へ引き返して行った。 一人で奥の森に入っていく未悠を、しずかは信じられなと言ったような目で見つめていた。 ハクとしずかが丸太橋の前に残った。 超鬼ごっこのような遊びの最中ならともかく、こうしてぽつんとしずかと二人きりになるのは初めてだったからか、ハクは胸の辺りがソワソワするのを感じた。 不思議な気分だった。 ハクもしずかもどこへ行くでもなく、その場に立ったまま山の方から聞こえてくる虫の声に耳を傾けていた。 「ねぇ。ハクこれからヒマ?」 沈黙を破ったのはしずかだった。いつもの堂々とした口調ではなく、やや相手の様子を伺うような慎重な口調だった。 確かにこれからやることは決まっていなかったが、かと言ってヒマと答えるのはなんだか悔しい気がしたのでハクは返答に困っていた。 しずか「あ、ヒマでしょ」 しずかの口調がいつものものに戻った。 ハク「なんで決めつけるんだよ」 しずか「用事あったらすぐ答えるじゃん普通」 ハク「確かに…」 しずかの指摘は尤もだったので、ハクは頷くほかなかった。 しずか「でしょ。じゃあ、ちょっと"神社"ついてきてよ」 ハク「分かったよ」 ハクが降参して承諾すると、しずかは嬉しそうに微笑んだ。 診療所の裏口のある方に向かって川沿いを歩く。 二人とも何も話さない。 しずかも珍しく無言のままだった。みんなといる時のしずかと、こうして二人でいる時のしずかは少しばかり違うような気が前前からしていたが、今回はそれを特に強く感じる。 何か話した方が良いだろうか。 いや、話すことがないなら無理に話すことなんてないだろう。いつものハクがそう言い聞かせるが、もう一人の新しいハクがそれを却下した。 いいや、話した方が良い。 いや、でも──。 ハクがこんなふうに女子との会話に困るのは、初めてのことのような気がした。 しずかも同じようにこの無言の空気に困っているだろうか。 いや、きっとこの凶暴な女はそんなことなど考えていないはずだ。せいぜい、神社に連れて行く仲間を一人獲得できてラッキーだと思ってる程度だろう。そう思った。 それとも、しずかにとってハクはやっぱりまだよそ者で二人きりになって話すことなどないと思っているか、だ。 ハクはすっかりしずかとも仲良くなった気でいたが、思えばまだ知り合って五日とかそんなものだ。そんなよそ者と話すことなんてないのが当たり前だ。 余計なことばかりが頭をめぐる。 どうして、いつから、しずかにこんなに気を遣わないといけないようになったのだろうか。つい少し前までそんなことはなかったはずなのに。 この空気にはなんだか覚えがある。ハクはそんな気がした。 やっぱり何か話さないと。これ以上、考え込むのが嫌になったハクは頭を働かせた。でも、その頭はなんだかぼーっとしていて納得いくような会話のネタが思い浮かばなかった。 いま思うことは、隣を歩くしずかの横顔が、横顔がすごくき──── そこまで文章として形になったところでハクはそれを振り払った。 ハク「神社に何しに行くんだよ」 絞り出した質問がそれだった。本来なら考えるまでもなく真っ先に思い浮かぶような疑問だ。 しずか「お守りをさ、新しいのにかえてもらうんだ」 「私とお父さんの分」 しずかはさっぱりした口調で答えた。 お守りはしずかと父親の分だと言う。母親の分は必要無いようだ。 この前の仏壇の写真といい、やはりしずかの母親はもういないのだ、とハクは子供ながらにそう理解した。 せっかくハクが絞り出した会話のタネである質問も、あっけなく回答されたことでまた沈黙が二人を包んだ。 しずか「あーあ。お腹減ったなあ」 しずかがつぶやいた。ハクのように絞り出した会話のネタというよりは、本当にただのつぶやきだった。 しずかはこの空気に特に苦しんではいないようだった。 ハク「まぁ、泳いだもんな」 しずか「うん。お腹すいたよ。なんか、食べたい」 ハク「もう少しで夕飯だろ?」 しずか「あと二時間くらいかな」 しずかはクリアレッドの腕時計をチラリと見て唇を歪めて微妙な顔をした。 この空気に全く苦しんでいない、むしろ楽しんでいるように軽い口調で話すしずかのおかげでなんとかハクも元の調子を取り戻せた。 そうするとやはりますます、どうして自分はしずかにあんなに気を遣いかけていたのか疑問に感じたが、ひとまず考えないようにした。 診療所を抜けて、ヒノトリ公園の前の坂を下って空野家二階部分の建物をぐるりと回り込む。 しずか「私さあ。前にハクの言ってた"ピリピリ"のことすっごくよく考えるんだよね」 しずかは一気にうるさくなった蝉の鳴き声で会話を掻き消されたのを機に、それまでもは全く別の話をし始めた。 ハク「ああ。あれな…」 「でも別にそんなに気にすることじゃ…」 しずか「私、思うんだよね…私たちのところにもピリピリが来たらどうしようって」 しずかはハクの言葉を遮るように切り出した。 しずか「私たちって男女混じって遊んでるでしょ?」 「だからそのピリピリが来たら、例えばシンとダイチとユウたち男子と、私と未悠とヒカリとイチコの女子で別れちゃうのかなって」 「そしたら、今みたいに遊べなくなるのかなって」 ハク「それは…そうかもしれないけど、それはピリピリが来たらの話だ」 "ピリピリ"は、男女を分割する化け物だ。 ハクは進級してから、クラスに流れるそのピリピリにこれまでの男女問わず仲良くできていた空気を喰らい尽くされた。そして今となっては一部を除いて、男と女が別の世界に生きているような空気がクラス内に漂っていた。 でもピリピリは、この波都のまちの少年少女たちには関係のないことだとハクは勝手に思い込んでいた。しずかたちならずっとずっと仲良くしていそうな気がしたのだ。 しかし、しずかはそうは思っていないようだった。 しずか「ピリピリってなんなの」 しずかがたいそう不満そうに言った。得体の知れないピリピリに対する憎しみが滲み出ていた。 ハク「俺もわかんねぇよ」 ハクはそう答えてから、ついさっきハクがしずかと二人きりになってから感じたあの空気感とピリピリが似ていることに気づいた。 しずか「それが良くないものなら、あとで"宮司さん"に聞いてみよっかな」 しずかは自分に言い聞かせるようにぽつりと言うと、少し安心したのか表情を和らげた。 ハクとしずかは空野家の門を出てすぐ右手に折れた。 しずかは何も言わないまま石階段を登り始めた。 ハクは石階段を見上げた。 思えば、ここに来て五日も経つのに空野家から近いこの階段を登ったことがない。この先にあるのは古い墓だ。 石階段の両側にはうっそうと草木が生い茂っており奥の森のようなひんやりとした涼しさを感じる。気のせいか、奥からはひぐらしの鳴き声が大きく聞こえる。 石階段はそうとう古いもののようで、苔がむしていたが落ち葉やゴミなんかは落ちていない。きちんと手入れがされているようにも見えた。 しずかは石階段の頂上で立ち止まっていた。どうせ追いつくんだから早く歩けば良いのに、とハクは思っていたがしずかはハクが来るまで動かなかった。 階段を登り終えた途端、肺に冷たい空気が入り込んできた。奥の森の空気とそっくりだった。 階段の先には話に聞いていた通り墓地があった。 そう広くはなく、一分もあればぐるりと一周できるくらいの大きさだ。 ここが古い墓地だということは言われなくても一目で分かった。なんせほとんどの墓石が苔まみれで、白っぽく変色していたり、赤い汚れがついていたりしていたし、中には壊れている墓石まであったのだから。 一応、区画で整理されていたようだが、今となってはそれもめちゃくちゃだ。 森の中のその旧墓地には、木漏れ日がいくつも落ちていた。それが唯一の陽の光であり、それを見ているとここに来てから感じていたソワソワとした胸騒ぎも少しは落ち着いた。 ハク「すごいな。ここ」 地面も墓地を囲う岩もびっしり苔に覆われていてなんだか神秘的で、ハクは興味をそそられあたりをキョロキョロ見渡していた。 ふと、しずかの姿を探すと、しずかはさっさと先に歩いてしまっていた。 ハク「おいおいちょっと待てよ」 「ん?あれ、なんだ?」 ハクの目に留まったのは、墓地の隅っこの岩の下にある墓だった。それがなんだか妙だった。なんせ、板が墓石代わりにこんもりと盛り上がった土に突き刺されているだけのものだったのだから。 まるで手作りの墓のようだ。 しずか「いいからいいから。とりあえず先に行こ」 しずかは急いでいるのかハクをせかしてさっさと旧墓地を出てしまった。 旧墓地を抜けるとまっすぐの道が続いており、その向こうに鳥居が見えた。 しずか「あんたの住んでるところの友達ってどんな人?」 しずかは旧墓地を抜けてから急に元気を取り戻した。 ハク「色々だよ。こことおんなじような感じかもな。勉強得意でちょっと大人なやつと、俺が負けらんねぇくらい走るの速くて力も強いやつと、お前みたいにいっつもこちょこちょしてくるやつと、それから…」 ハクの頭に最後に浮かんだのは、去年転校してきたアイツの顔だった。目尻の上がった猫みたいな大きな目をしたアイツ。負けず嫌いで、女子のくせにハクと同じくらい走るのが速くて、絵も上手くて、勉強も出来るアイツ。 ハクの世界にいきなり現れたアイツ。 ハク「…とにかくムカつくやつだ」 ハクは顔を顰めた。 しずか「はぁ?」 「最後の人のこと、全然わかんないんだけど」 ハク「そうだなぁ…そいつは転校生なんだけどな、負けず嫌いでさ。俺の前にいっつもこう…立ちはだかってくるんだ」 「そのくせ大人ぶりやがってよ。まぁ、最近はあんまり喋ったり遊んだりもしてないけど」 ハクはアイツのことを話す時、苛立ちと対抗心とそれからほんのちょっとの寂しさが入り混じった感情を剥き出しにした。 しずかはそんなハクのことを不思議そうに見ていた。 「その人のこと、好きなの?」 しずかはしばらくハクを見つめ、それから言った。 ハク「はっ?バカ言うなよ。好きなもんか!」 「むしろ、嫌いなくらいだぜ。ムカつくんだよ」 ハクは腕組みをして、ここにいないアイツに向けて罵った。 しずか「何それ。仲悪いの?」 ハク「いやそんなことはない。けど、なんだろうな…」 アイツのことをどう表現して良いのか分からず、ハクは考え込んだ。 しずか「その人、なんて名前なの?」 ハク「え?あや子だよ。"四島あや子"」 アイツの名前を口に出したハクは、なんだかあや子に負けた気になった。 「"しじまあやこ"ちゃん…か」 しずかはなぜかアイツの名前をぼそっと呟いた。 一つ目の鳥居を潜るとまた少し先に大きな鳥居が現れた。元々の色が分からないくらい古びていたが、木で出来たその鳥居はすごく立派だった。 しずかが鳥居を潜るたびに立ち止まってぺこりとお辞儀をしたので、ハクもそれにならった。 境内はそこまで大きくなかった。ヒノトリ公園より少し広いくらいだ。 参道に敷き詰められた砂利は散らかっておらず、この神社はかなり綺麗な状態で保たれていた。旧墓地へ上がる石段も同じようなくらい綺麗だったし、おそらくあの石段もここの神社の人間が掃除しているのだろうとハクは思った。 それが誰が知らなかったが、よほどの綺麗好きで几帳面な人であることは間違いなかった。 しずか「ここ、"矢剱神社(やつるぎじんじゃ)"って言うんだよ」 しずかは拝殿の方へまっすぐ歩いていく。 ハク「へぇ、やつるぎっていうんだ…」 未悠の地図には"神社''としか書いていなかったので名前は初めて知った。 拝殿のそばに矢剱の漢字が記してあり、ハクは自分の名字と同じ漢字が使われていることを知って少しだけ嬉しくなった。 「なんだお主ら、奥の森にでも行ってきたか」 すぐ近くで低い女性の声がした。 ハクがややびっくりして咄嗟に振り返ると、ハクの真後ろに、和服を着た背の高い女性が立っていた。女性は鋭く美しい眼光で見慣れないハクを見つめていた。 足音がしなかったので全く気が付かなかった。 女性の髪は凄く長く、腰あたりまで伸ばされていた。 しずか「あ、宮司さん!」 ハク「ぐ、宮司?この人が…」 一応、神社の社家である友人が地元にいたハクはしずかの言葉を聞いてすぐさまこの女性がこの矢剱神社で一番偉い人なのだと理解した。 ハク「じゃあ偉い人なのか…」 「そう大したものでもない。ここの神社には私しか仕えていないからな。先代の婆が死んでからは、私一人だ」 宮司と呼ばれた女性はその鋭い眼つきを少し緩めて答えた。 ハク「あ、俺たちが奥の森に行ってたって…どうしてわかるんだ?」 「ちょっとこっちへ来い」 女性は低い声で言って、ハクとしずかを本殿の方へ連れて行った。 しずかはすごく暗い顔をしていた。 「そこで並んでおれ」 女性は足音を立てずにどこかへ消えると、枡にこんもりと入った白い塩か何かを持ってきて戻ってきた。 それから、その塩をぱっぱっとハクとしずかの足元に撒き、それからどこから取り出したのか分からない水を同じように撒いた。水は、独特な甘い匂いがした。 もういいだろう、と思ったハクが動こうとすると、女性は「じっとしておれ」と低い声で言った。 女性はハクの目としずかの目を順に覗き込んだ。 それからようやく「もういいぞ」と言ってくれた。 しずか「ねぇ…まさかなんか憑いてた…?」 ハク「何言ってんだお前…」 「奥の森に入ったのは久しぶりだったろう?」 ついていけていないハクを置いたまま、女性は質問した。 しずか「今日が今年初めてだったんだ」 「わざわざこの盆の時期にあそこへ行くことは無かろう。全く…」 女性は呆れたように言った。 ハク「ちょ、ちょっと何の話だ?奥の森ってやばいのか?やばいのはベンケイ山なんじゃ…」 「お主。何も感じなかったか?」 ハク「感じるってなにが?」 「奥の森で、何か感じなかったかとそう言っているのだ」 ハク「いや…いろんな虫がいてすごいなとは思ったし、奥の森の淵?滝?もすごかったよ」 「確かに…ちょっと怖い感じもあったけど」 「"感"を有しているくせに鈍感とは…運が良いのか悪いのか」 ハク「それで、奥の森ってやばいの?幽霊いんのか…?」 「落ち着け。別に奥の森に限ったことではない。ただあそこは、少し昔からこの時期になると妙な気で溢れることがある。安心せい。憑いておったのは幽霊じゃない。ちょっとした負の憑き物だ」 ハク「ふのつきもの?」 「悪い気みたいなものだ」 ハク「な、なあ宮司さん。幽霊ってやっぱり本当にいんの?」 それは当時のハクにとってすごく大事な質問だった。地元の神社の社家の友人に聞いても、いつもぼんやりした回答しかもらえないのだ。 「いると思うならいる。信じぬならおらぬ。幽霊とはそういうものだ」 ハク「はあ…」 この宮司もまた、同じようにぼんやりした回答をしたのでハクはがっかりした。 しずか「よかった。幽霊がついてなくて…」 しずかはホッと胸を撫で下ろした。 宮司はそれを見てフッと笑った。 「もし幽霊が憑いておったら塩と酒撒いた程度では祓えぬわ。それより、しずか。用があるのはこっちだろう」 宮司はまた足音も立てずに本殿とは別の建物の方向へ歩き出した。 草履と足袋を履いた足。普通に歩けば草履と地面が擦れる音が鳴るはずなのに、宮司は砂利の上を歩いても足音を一切立てることはない。 宮司のあとをついていきながらハクは何度も宮司の足元を凝視したが、足音の鳴らないその仕組みはさっぱり分からなかった。 宮司はおそらく昔は授与所として機能していたと思われる小さな建物の鍵を開けて入ると、すぐに出てきた。手には紫色の御守りが二つ握られていた。 「ほれ」 宮司は、しずかから古い御守りを二つ受け取り、新しいのを二つやった。 しずかは嬉しそうに、というよりはちょっと安心したような顔でそれを受け取った。 用を済ませたハクとしずかは神社をあとにした。 日はもうほとんど暮れかかっていて、帰り道は行きしなよりも不気味な空気に満ちていた。 ただ不思議とハクもしずかも落ち着いていた。不安や胸騒ぎもしない。旧墓地を通る時もしずかはゆっくり歩いていた。 ハクはふと、宮司が余所者である自分のことを尋ねてこなかったことが後になって気になった。 ハクがそのことを口にすると、しずかは「宮司さんはぜんぶお見通しなんだよ」と言った。 よく分からなかったが、言われてみればなんとなくそんな気もしたのでハクはとりあえず納得した。 石段を下ると、しずかはハクがすぐに家に帰ると思ったのか「じゃあ…」と言いかけた。 だが、ハクは自然と空野家の門の方ではなくしずかの家のあるフォーク道方面に歩いていた。 しずか「あれ?こっちに用事でもあんの?」 ハク「うん?いや…」 言われてみればどうしてこっちへ来たのか分からなかった。でも、こっちへ来た方が、心が落ち着くような気がした。 ハク「ん?」 フォーク道に差し掛かったとき、ハクはちらりと開かずの屋敷の方を見た。 しずか「どうしたの?」 ハク「おい、あれ…」 ハクは声を潜めて屋敷の方を指さした。 開かずの屋敷の前には、折原 明日香がいた。 ◯ ハクとしずかは足音を立てないようにゆっくりと開かずの屋敷に近づき、茂みに潜んで明日香の様子を伺った。 明日香は今日も探偵みたいな格好だった。 「あのお姉さん、だれ?」 ハク「なんとか明日香ってお姉さん。昨日イチバン山のそばで会ったんだよ」 しずか「何してる人?探偵?」 ハク「やっぱりそう思うよな。でも違うってよ。なんか…研究?してるとかなんとか」 「でも絶対怪しいぜ」 しずか「なんで開かずの屋敷なんか見てんのあの人…」 ハク「やっぱり変だよな。ここのことは俺が教えたんだ。なんか人が来ないような場所を教えてくれって言われてさ」 ハクは説明しながらちらちらと明日香の様子を見ていた。明日香は開かずの屋敷の格子窓を覗いたり、戸を叩いたりしていた。 明日香が屋敷の陰に入って見えなくなると、ハクは茂みから出て慎重に明日香の姿を探した。 ハク「おい、こっちだ!」 ハクが小声でしずかを呼ぶが返事がない。 ハク「あれ…?しずか?」 ハクが振り返ると、茂みにいるはずのしずかがいない。 ハク「むぐっ!?」 ひんやりと柔らかいものがハクの口を塞いだ。 良い匂いがする。 しっとり柔らかなそれは手だった。 「大人を盗み見しようとは良い度胸だね矢内少年」 明日香の声が耳元で囁かれた。 しまった! ハクはゾッとして必死に抵抗しようとするが、明日香はもう片方の腕でハクの細い胴体をガシッとホールドした。 明日香のその大きな手の筋張った細長い指の先がちょうど肋骨のくすぐったい隙間に触れていてくすぐったくて仕方がなかった。 嫌な予感がした。 明日香「人のことを盗み見る悪い子には…」 明日香の細長い指の尖った形をした指先がメリッと肋骨の隙間に食い込む。 ハク「ぎゃっっ!!?」 ハクの細い身体がビクンと震える。 明日香「コチョコチョの刑だぁっ!」 明日香はニカッと笑ってそういうと、指先を肋骨の隙間にあるくすぐったい所にメリリッと食い込ませ、ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ!!!っと肋骨の隙間をほぐしくすぐった。 ハク「ぶぎゃっっ!!?」 ハクの顔が苦悶に歪み、その顔が瞬時に笑顔に変貌する。腹部が震え、込み上げてきた笑いはもう止まらない。 ハク「あは!?あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?ちょっ!!?それはっっ!!それはぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 ハクは電流を浴びせられたかの如く激しく暴れたが、明日香の大人の拘束力には敵わない。 明日香はハクの口を塞いでいた手を胴体に回して逆の方の肋骨にその指を食い込ませ、そっちもゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョくすぐった。 ハク「ぎゃぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!あひゃっ!!ひゃぁぁぁはははははははははははははははは!!離せっ!!離せっ!!離せぇぇっ!!っっへはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 力いっぱい暴れるハク。 だが、暴れれば暴れるほど、明日香の恐ろしい指の先がメリメリと肋骨に食い込んでくすぐったさが爆裂していく。 明日香「見立て通りのくすぐったがり屋さんだね」 「運が悪いね?私は大のコチョコチョマスターなんだ」 「ほら…コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョぉー」 それは、コチョコチョと呼ぶにはあまりに残酷な指さばきであった。 なんせ、細い肋骨の隙間に無理やり細い指を食い込ませて、無理やり神経をズクズク刺激するようなムゴイくすぐりなのだから。 ハク「ぎゃぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?あひゃひゃひゃひゃはははははははははははははははははははははははははははははははは!!!かはっ!!かはっ!?はっっはははははははははははははははははははははははははははははは!!!無理無理無理無理っ!!!」 指先がハクの肋骨のくすぐったい所にメリメリ食い込んで凄まじいレベルの痺れるようなくすぐったさが電流のように走る。 明日香「盗み見してごめんなさいは?」 明日香が脅すように囁く。 もちろん、指は器用に暴れて肋骨の隙間を殺している。 ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ!!! ハク「ぎゃはははははははははははははははははははははははは!!!そっちはっっ!!そっちは何してたんだよっっ!!?っっひゃはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!ひぃぃぃひひひひひはははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 ハクは肋骨を襲う猛烈なこしょぐったさに悶えながらも、持ち前の余計な負けず嫌いが発動してついつい明日香を刺激するような言葉を投げてしまう。 明日香「質問して良いって言ったかなあ?」 「うーん…」 明日香はわざとらしく唸りながら、あろうことか肋骨に食い込ませている指の関節をさらに折り曲げると、少し伸びた爪の先でぐりっと神経を捉えた。 ハク「きょぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ"っ!!?」 ハクは断末魔のような悲鳴を上げた。 明日香「謝らない子には〜〜…肋骨コチョコチョスペシャルだっ!」 明日香は食い込ませた爪で神経を捉えたまま、肋骨くすぐりにトドメをさせるべく強烈なくすぐりを執行した。 ぐちぐちぐちぐちっ!! ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ!!! ハク「い"ぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ"っ!!?ギブっ!!!ギブっっ!!!ごめんっっ!!!!ごめ"ん"っでぇぇぇ!!っっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?ぐぁぁぁぁぁあああああはははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」 くすぐったい神経を直接なぶられるような猛烈な刺激が走り、ハクの反抗心はぼっきりへし折られてしまった。 しかしいくらハクが謝罪しても、明日香の恐ろしい指は肋骨の隙間に食い込んだままゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョと動き続けている。 明日香「ごめんじゃなくて、ごめんなさい、でしょ」 明日香はニヤけやがらそう言って、器用に爪の先で神経を捉えたまま、肋骨をほぐしていく。 ずくずくずく! ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ!! ハク「かはっ!!?はっっっ!!っっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!ごめん"っっ!!なざぃっ!!っっひっ!!ひぃっっ!!ひっっっひはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!ごめんなざぃぃぃぃぃっっ!!!」 目から涙が溢れて止まらない。 肋骨をゴチョゴチョほぐしくすぐられるたび、体内の酸素がたっぷり奪われてしまうため、無酸素に近い状態で笑わされることになる。それが苦しくてくすぐったくてたまらない。 ハク「あはははははははははははははははははははははははははははははは!!!がはっ!!っっははははははははははは!!!謝っだ!!あやまっだがら!!やめっっ!!やめでっっ!!!やめろって言ってんだろっ!!っだははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 明日香「おや?まだ懲りないのかな」 不意に飛び出したハクの乱暴な言葉を明日香は見逃さなかった。 ハクの肋骨をホールドしていて明日香の腕がズルルッと上昇して今度は胸の辺りをホールドすると、両手が腋の方に滑り込み、指先がガッと腋の下を捕まえた。 ハク「はぅっ!!?」 ハクの顔が引き攣る。 明日香「ほぉら…こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょぉー」 明日香の指が腋の下をほぐすように動き出す。 コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!!! ハク「ぎょぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!?ちょっ!!わぎっっ!!腋はっっ!!腋はぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!あっっひゃひゃひゃひゃはははははははははははははははははははははははははは!!!ひぃぃぃぃはははははははははははははははははははは!!!」 ハクは両脚をバタつかせて必死に暴れる。 だが、大人の明日香の力の前ではそんなものは無力に等しく、抵抗すればするほど、明日香はそれを鎮圧するためにさらに激しくムゴイコチョコチョを執行してくる。 コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!!! ハク「やめ"っっ!!ああああああはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!わがっだ!!わがっだがらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!っっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!ああああははははははははははははははははははははははははは!!!」 背後からホールドされて逃げられないまま腋の下を好き放題にコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョくすぐられるそのたまらないくすぐったさにハクは必死になって悶え狂った。 明日香「なにが分かったの?」 明日香はハクの笑い声に負けないように声を張り上げて問いただしながら腋の下をめちゃくちゃにくすぐり回す。 コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!!! ハク「ひゃひゃひゃひゃひゃっっ!!ぁぁぁあはははははははははははははははははははははははははははは!!!こっそりぃっ!!!こっそり見たいしなぃっっっ!!ぃっひひはははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!ぃぃぃひはははははははははははは!!かはっ!かはっ!!かはっ!!!」 ハクは涙ながらに何度も叫んだ。両腋の下を挟み撃ちするように襲いくるくすぐったさの暴力に悶えながら。 明日香「もうしない?」 明日香は念を押すようにそう問いかけ、トドメとして爪を立てて思い切り腋の下をコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!!!っと掻き回した。 ハク「ぃぃぃぃぃいいいいいいいい"っっ!!?しなぃぃっ!!しない"っっ!!!ぃぃぃひはははははははははははははははははははははははははははははははははは!!しなぃがらぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああははははははははははははははははははははは!!!」 とにかくこのこちょばゆさから解放されたくてハクは何もかもを投げ捨て叫んだ。 明日香「じゃあ許してあげる」 明日香はあっさりとハクを解放した。ハクはぐったりとその場に崩れ落ちた。肋骨と腋の下にはムズムズとしたくすぐったさの余韻が刻み込まれたままだった。 明日香「さて、と」 「もう一人お客さんがいるね?」 明日香はゆっくりと茂みの方に近づいていく。 そこには、しずかが潜んでいた。 しずか「うわっ…」 しずかは観念したのか、絶望しているのかギョッとしたまま固まっている。 明日香「お仕置きは平等に与えないといけないよね」 明日香の手がしずかにズイッと伸ばされた。

Comments

ピリピリは恐ろしいですね…。 しずかもハクもまだその正体が掴めていませんが、ピリピリはその歳の少年少女たちのいる空間ならばどこにでも湧いてくるものです。 ピリピリによって交友関係が乱され、友情や無垢な心は汚され、そして学校には忌まわしき"校内ヒエラルキー"なるものが完成したりするのです。 波都の仲間たちのうち、ピリピリに気づいているのはしずかくらいでしょうか。ひょっとしたら未悠も気づいているかもしれません。 しかし、みんなが気付いて意識すれば良いと言う訳でもなく、やはりそこは心の底から仲良くいたいと思っていないとピリピリには勝てないでしょうね… シンも確かに用事でどこかへ行っちゃうし、 ダイチはとくに危ないところがありますよね… そう思うと、波都の少年少女はわりと隙間だらけなのかもしれません。 確かに今のイチコみたいなタイプならピリピリも跳ね除けてくれそうですが、成長していき大人になると皆、変わりますからね…果たしていつまでピリピリを跳ね除けていられるか…! この夏で、波都のみんながピリピリなんてぶっ飛ばせるようなそんな成長をしてくれることを祈りましょう!

Kara

しずか「ピリピリってなんなの」 という台詞が印象深かったです。 彼女が抱える不満と、あのしずかさんにも年相応の幼さがあることが感じられました。 クラスや環境が変わったり、少し会わなかっただけでもピリピリはすぐにやって来ますから、本当にずっと隙を伺っている嫌な化け物です。 波都のまちのみんなには、出来るだけ隙間を作らないでほしいですね。近いのに遠い存在になるのは一瞬ですから…。 家の用事や勉強で忙しそうなシンとダイチには既に始まりつつある感じがしますが…。 それでも大きくなったらどこか遠くに行くメンバーもいるかもですが、イチコちゃんみたいに久しぶりに会ってもピリピリを跳ね返せる子もいるので、ハクくんの思い込みと同じように、波都のみんなならピリピリに打ち勝てると信じています。

(´・ω・`)


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