SamSuka
Kara
Kara

fanbox


SIDE OF UPDATE〜コードレッド篇#4〜

1. 後始末 「"タタリ計画"とはなんだ?」 任務の前、ロッカールームで珍しく別部隊のヴェス・カーターと二人になった時にレインがそんな質問をしたことがあった。 なんでもブラボーチームの長ヴェス・カーターはコマンド社の計画している"タタリ計画"なる謎の計画の被験者に志願しているという。 ヴェス「…珍しいね。あんたが質問をするなんて。」 ヴェスはその雪のように白く長い髪を束ねながら言った。彼女の言う通り、レインが任務とは関係のないことを質問するのは非常に珍しいことだったが、レインからすれば得体の知れない計画が一体どういったものなのかを知りたいだけで、ヴェス本人には興味がなかった。 ヴェス「単純な話…"ノロイ"に匹敵する別の戦闘及び捕縛生命体を作るってだけ。」 「私はそれに志願した。いつまでもこんな死と隣り合わせの駒をやっていきたくはないからね。」 レイン「なるほど…"呪い"に"祟り"…か。」 コマンド社はそんなに縁起の悪い名前をつけてどうしたいんだろうか…そんなふうに思った。 それ以外、レインは特になんの感想も抱かなかった。人体実験によってヴェスがどうなろうとどうだって良かったし、タタリとやらを詳しく知ろうとする気すらも無かった。 ─── そして現在、ネオ・ダグラスの街。 暴走した実験体"伊豆ミヤビ"の始末のため、この街に派遣されたC.S.Sのアルファチームとブラボーチームはものの数秒で壊滅した。 つい数分、数秒前まで生きていたヴェス・カーターは鉄芯に突き刺さって死んだ。他の隊員も惨殺された。 レイン率いるアルファチームの副隊長サニィ・ホワイトはまだ生きているが、その息の根を止められるのも時間の問題と思われた。 そんな絶望的な状況の中、レイン・レオの頭は伊豆ミヤビという一人の大女の手によって握りつぶされようとしていた。鼻や目からつーっと赤黒い血が流れ始め、レインという生物は今にも握り殺されそうになっている。 レインはたらたらと血を流しながらも、ジッと伊豆ミヤビを睨みつけていた。 これまで何度も困難な任務から生き延びてきたレイン。仲間がどれだけ死んでも、レインだけは生き延びてきた。 レインが生き抜いてこれたのは、彼女自身が有するその卓越した戦闘能力やサバイバルテクニックだけではない…彼女のもつ強運もまたこれまで生き抜いてこれた理由の一つだった。 だが、今はもうその強運さえ味方にはなってくれない。 ミヤビ「分かるよお前…この中じゃ結構強いんだろ?」 伊豆ミヤビがその刃物の如き切長の目でジトッとレインを見つめる。 レインは痺れる肉体に鞭を打ち、両手でミヤビの手首を掴んだ。 いくら圧倒的な体格の差があると言えど、片手でしかも頭を掴んだ状態で他人の人体を持ち上げ続けるなんてあり得ない話…そんなあり得ない話をやってのけている伊豆ミヤビの腕はまるで他生物のような頑強さと柔軟さを感じさせる異様な感触だった。 ミヤビ「時間に余裕があったら…食べちゃいたいところだったんだけどねぇ。」 ミヤビはじゅるっと舌舐めずりをした。その長い舌はまるで大蛇のようだった。 同じ人間に負けた時とは違う圧倒的敗北感。 熊やライオンに勝てないのと同じように、認めざるを得ない人間という生物の弱さを噛みしめながらレインがスッと身体の力を抜いたその時だった。 大きな衝突音が響き、レインは吹っ飛んだ。 勢いよくゴロゴロと地面を転がり、瓦礫にぶつかり、隊員の死体の上に転げ落ちた。 ハッと顔を上げてみれば、さっきまでレインがいた場所に大きなトラックが停車していた。 運転席のドアがバタッと開き、中からよろめくサニィが倒れ込むように出てきた。 サニィがトラックで伊豆ミヤビを吹き飛ばしたのだ。 無事か! サニィにそう言いたかったが、声が掠れて上手く発声できない。おまけに頭もクラクラして立ち上がることさえできない。 サニィがこちらに向かって何かを叫んでいる。でも、それさえ聞き取れない。 何かを叫んでいるサニィの後ろ…ちょうどトラックの陰からヌッと伊豆ミヤビが姿を現す。 逃げろ後ろだ! レインが叫ぼうとするが、やはり叫べない。 だが、サニィはまるでそれが聞こえてきたかのように苦痛に顔を歪めながらレインの方に走ってきた。その直後だった。空を切りながら飛んできた何かが伊豆ミヤビに直撃し、トラックや周囲の瓦礫を巻き込んで大爆発を起こしたのは。 激しい耳鳴りが止んだ頃、今度は酷い耳と頭の痛みに襲われた。 ようやく目を開けることができ、ゆっくりと身体を動かせば全身の関節にビリっと痺れるような痛みが走る。あたりは霧のように濃い煙に覆われており、何かが焼けるような臭いが充満していた。 激しい痛みの中、レインは徐々に状況を理解し始めていた。 プロト・ノロイこと伊豆ミヤビの体内に埋め込まれている"チップ"から発せられる位置情報をサニィが本部に送り、母艦から対象駆逐ミサイルが伊豆ミヤビ本人に撃ち込まれたのだろうと。 よろよろと立ち上がるレイン。一歩前に足を踏み出した時、ブーツの裏で何か奇妙なものを踏んづけた。見てみればそれは、柔らかくて赤黒い何かだった。 レイン「なんだこれは…」 煙が晴れてきて、くっきりとしてきたレインの視界に映ったのは、周囲に飛び散っている異様な量の柔らかな赤黒い何か。 ミサイルを受け、爆散した伊豆ミヤビの肉片だろうか…いやしかしそれにしても、その量は異常だった。 グチュグチュ… 嫌な音がしたのでレインが音のする方を見ると、そこには真っ赤な"花"が咲いていた。 五階建のビルほどの高さはあろうその赤黒い花はブチュブチュと音を立てながら肉片を吐き出すように飛び散らせている。その周囲には何本もの触手状のものがフニフニと宙でうねっており、周りの瓦礫や車に巻きついてグシャグシャに破壊している。 「そんなもんで私を止められるわけないだろ?」 赤い花の奥底から声が響く。伊豆ミヤビの声だ。 レインは理解する。 ミサイルによって伊豆ミヤビは爆散したのではない。むしろ、さらに怪物化したのだと。 「レイン…!」 すぐ近くで呻き声が聞こえた。 見れば、サニィが地面に仰向けに倒れている。ビクビクと痙攣しておりとても自力では起き上がれそうもない。 レインが咄嗟にサニィの方へ駆け寄った。 レインがサニィを助けるために動いたのは、サニィがいないとこの先の任務で困るからだ。 しかし、レインがサニィの近くまでやってきたその時、赤い花と化した伊豆ミヤビから真っ赤な触手が伸びてきて、サニィの逞しいムッチリした太ももに巻きついた。そして、サニィは凄まじい速度でズルズルと赤い花の方へと引き摺り込まれていく。 レイン「くそ!」 レインは大ぶりのナイフを抜き、赤い触手をぶった切ろうとするが、触手の素早さは尋常ではなく、とてもじゃないが追いつくことさえできない。 バクンッ。そんな音を立てて、サニィは赤い花に飲み込まれた。そしてその直後、バフッバフッと赤い花から真紫色をした粉末が吐き出され、その奇妙な粉が辺りに充満し始めた。 これは吸い込んで良いものではない。咄嗟にそう判断したレインは死んでいる隊員のガスマスクを奪い、自身に装着。そして伊豆ミヤビから背を向けて走り出す。 命懸けでヘリまで戻り、エンジンをかけて空へ飛び立つ。 隊員たちは殺された。 生き残ったのは自分だけ。 死んだやつは弱いから死んだんだ。 アルファチームの隊員たちも、ブラボーチームの連中も…ヴェス・カーターも…サニィも。 臆病者が生き延びるというのは、まさしくその通りだ。 地獄と化した夜のネオ・ダグラスの街を見下ろせば、そこにはさらに巨大化した真っ赤な花が数千本以上はあろうかという触手をうねらせ、街を飲み込んでいた。花の中央にはかすかに人型の何かが確認できた。あれが伊豆ミヤビ本体なのだろうか。 "プロト"・ノロイだと…? これが試作品なら…完成品ってのは一体どれほどの怪物だというのだ。 レインはそんなことを思いながら赤い花に飲み込まれていく街を見つめていた。 そして、支給されている端末を使い伊豆ミヤビの体内に埋め込まれているチップから位置情報を取得する。 どうやら自分もここまでだ。 どうせ死ぬだろう。ならば最後に大きな一撃をあの化け物に喰らわせてやろうと思った。 しかし、伊豆ミヤビが変異したせいか、チップから上手く情報を得られない。 レインが端末を閉じたその時、遥か地上にいる伊豆ミヤビがバッと顔を上げ、レインの操縦するヘリを見た。カッと開いたその鋭い目でヘリを捉えたミヤビは数百本もの触手を空へと伸ばし、ヘリを絡めとった。 大きく揺れるヘリ。 プロペラはへし折れ、エンジンはあっという間に破壊された。 レイン「くそ…」 レインは舌打ちをする。 凄まじい力でギュッとヘリを引き寄せられ、一気に降下していくヘリ。 薄れゆく意識の中で、レインはさっきの"不可解な出来事"を思い返していた。 なぜあの時、サニィは危険を冒してまで私を助けたのか。離れた場所から伊豆ミヤビの位置情報を取得し、私もろともミサイルを撃てばよかったというのに。 私に死なれると今後の任務に影響が出るからか? それとも… 最後の憶測を頭に思い浮かべるよりも早く、大きな衝撃に襲われ、レインは意識を失った。 その直後、ヘリは燃え上がり、爆発した。 ◯ 2. 討伐及びサンプル回収作戦 C.S.Sが伊豆ミヤビの討伐に失敗し、アルファチームとブラボーチームの両方がレイン・レオただ一人を除いて壊滅した事件から二年近くが経った。 レイン・レオの姿は、コーストハース島にあった。ここには、コマンド社の研究所の一部とC.S.Sの隊員たちが訓練を行う施設が併設された大きな建物がある。 レインは島で唯一のバーに連日入り浸っていた。 その日も、カウンター席で一人肘をついてウィスキーを嗜んでいた。 「おいおい。今日も寂しく一人酒かい?」 レインの隣にどかっと座って来た金髪ロングヘアね女はそう言って図々しくレインの肩に手をかけた。レインはそれを瞬時に振り払った。 「あっはは!つれないねぇレイン!寂しいなら私が相手してやろうか?夜の方も」 女はニヤリと笑って、レインがその狼のような目で睨むのを見ると、また笑ってホットパンツから露出しているムッチリとした太ももを組んで座り直した。 レイン「くだらないことを言いに来たのなら帰れ"ベラ"」 レインは美しい金髪にスラリとした長い手脚を持つ長身の女"ベラ"を睨んでそう言うとぐいっと酒を流し込んだ。 ベラ「カリカリしてんじゃないよ。いつまで酒浸りの生活を続けるつもりだい?」 ベラは憐れむようにレインを見て、レインのボトルを横取りし、自分のグラスに注いだ。 ベラはC.S.Sの司令部側の人間。つまりはレインの上司であったが、付き合いの長いレインとは友人のような関係であった。 ベラ「二年前の一件が相当こたえたかい?」 「変な話だねぇ…心の無いはずの兵士が、心を病むなんて」 レインは何も言わない。二年前、確かにレインは部隊を失った。だが、過酷な任務はそれ以前にも経験があった。いまさら心を病むことなどない。あの一件でレインが感じたのは、悔しさそれのみだ。 ベラ「先月はくたびれたよ。本部の研究所で反乱があった。その鎮圧に向かったんだ。幸い、大ごとにはならなかったが、首謀者への拷問と処刑にずいぶん時間がかかった」 ベラはかったるそうにそう言って酒を飲む。 寡黙なレインにとってお喋りなベラは鬱陶しい存在だった。 レイン「用がないんなら別の席へ行ってもらえるか。私は酒を飲みにきたんだ」 レインはベラを睨みつけた。すると、ベラはニヤッと笑った。 ベラ「用ならある。重要な仕事の話だよ」 「"伊豆ミヤビ"に関する、ね」 レインはベラの方を見なかったが、耳をぴくりと動かして反応させた。 強制アップデートから二年経ち、レインたちC.S.Sは相変わらずコマンド社から与えられた仕事をこなし続けてきた。 仕事に要は主に、アップデート非適合者の始末、脱走者の粛清、そして邪魔となる組織・要人たちの抹殺だ。 色んな汚れ仕事を任され、こなしてきた。 しかしあれ以来、伊豆ミヤビに関する仕事はなかった。 ベラ「ドローンや偵察隊を総動員した結果、ヤツのおおよその居場所がようやく分かったそうだ」 ベラはオッパイの谷間に挟んでいたタバコの箱から一本取り出し、口に咥えた。 レイン「どこだ」 ベラ「えらく食いつくねぇ?」 「やっぱり、ヤツに殺された仲間の顔が浮かぶかい?」 ニヤついているベラのからかいにレインは反応しない。仲間の仇を討つつもりなど無かった。そんな感情はレインには備わっていない。 ベラ「ヤツは、"船"にいる」 レイン「船?」 ベラ「バカでかいコンテナ船だとか」 「司令部は二十四時間体制で動きを追っていたが、妨害電波でも出てるのか…正確な位置情報までは特定できないようだよ」 ベラは苛立ち混じりにそう言って咥えたタバコに火をつけた。 ベラ「そこで。我々の出番というわけ」 「おおよその居場所へ向かい、ヤツの船を特定し、ヤツの肉体をいつでも追えるようにナノマシン発信機を埋め込む」 ベラはニカっと笑って煙を吐いた。 レイン「単純だな」 レインは淡々と答えた。 ベラ「単純だが、難関だ」 「はっきり言って、死亡率はこれまでのどの任務よりも高い」 ベラが不敵な笑みを浮かべるが、レインは興味なさそうに頷き、酒を飲んだ。 ベラ「奇妙なくらい生存率の高いお前にとって、任務の死亡率なんて意味がないか」 レイン「そんなもの単なる数字だ。それに、いくら確率が高かろうが、私たちに選択権はない」 ベラ「もちろんそうさ。お前たちに拒否権なんてない」 「掃除部隊の出番だ」 「行くぞ。"怪物狩り"に」 ベラは長い脚を組み、高らかに笑った。 ◯ レイン・レオ率いるC.S.Sアルファチームは船に乗り込んで伊豆ミヤビの行方を追っていた。 船は武装していない。これは、今回の任務が伊豆ミヤビとの戦闘ではなく、伊豆ミヤビに接近してナノマシンを埋め込むのが目的であり、船の外見で警戒心を持たれないようにするためだった。 操舵室及び司令室には、今作戦の司令塔のベラと部隊長のレインと部下が数名待機しており、それ以外の隊員たちは甲板に出て目立たぬよう警備にあたっていた。 ベラ「最後に位置情報が確認できたのは一昨日。場所はここから3キロ先の海上だ」 ベラはタバコを咥えながらボロの黒革のソファに深く腰掛けていた。 レイン「一昨日なら、もう遠くへ行っているかもな」 レインが操舵室から出ようとしたその時、船が大きく揺れた。 まるで、巨岩にでもぶつかったかのような衝撃だった。 ベラを除く司令部側の職員らがどよめく中、レインたちC.S.S部隊は一切動揺しない。 ベラがソファから立ち上がった時にはもう、レインは戦闘体制に入っており、無線で部下に指示を出していた。 「こちらポイントx12。潜水艇との接触を確認」 焦りの色を感じさせない女隊員の声が冷たく無線から聞こえた。 ベラ「なんだ?まさか向こうからお出ましか?」 ベラが不敵に笑って両腰にさしてある拳銃に手を添えた。 「接触してきた船は"例の船"ではない。繰り返す"例の船"ではない」 別の隊員から無線が入った。 ベラ「なんだ…?」 船がまた大きく揺れた。 「こちらポイントx15。潜水艇が浮上。複数名の人影を確認」 ノイズ混じりの無線が入る。 ベラ「どんな連中だい?」 ベラが無線に話しかけた次の瞬間、返ってきたのは返事ではなく、銃声だった。 甲板で戦闘が始まった。 レイン「部隊が襲われてる」 「指示をくれ」 レインが落ち着いてベラに言うと、ベラは頷いた。 ベラ「いきな」 レインは三名の隊員を司令部の護衛に残し、残りの隊員を引き連れて司令室を出た。 レインたちは列になって進みながらガスマスクを着用し、戦闘準備を整え終えると、甲板に出た。 銃声は聞こえない。 ガスマスクのレンズには、人影が5つ浮かんでいる。 3つはレインの部下…C.S.Sの隊員だ。残り2つは違う。 たんっ。と小さな足音がした直後、レインの背後にいた隊員が物陰に潜んでいた敵を撃ち抜いた。 瞬時に死体となった敵がべたんと床に倒れたのを皮切りに、隠れていた敵たちが一斉に姿を現した。 レイン「処分対象者は速やかに処分しろ。アップデート対象者は捕縛だ」 レインは命令を下し、突進するように迫ってきた敵に体当たりをかまし、ガスマスクのレンズ上に"4"の数字が表示されているのを確認したあと、敵を射殺した。 レイン「なんだ?」 レインは殺した敵の顔を見た。どう見ても、戦いに慣れていなさそうな女の顔だった。いまどき、珍しくはないが、それにしてもひ弱そうな女だった。まるで使い捨て兵士だ。 背後から襲っていた別の男をレインは振り向きもせずに肘打ちで倒した。男は"8"だった。アップデート対象者だ。 レインは素早く麻酔銃に持ち替えて男の首に麻酔弾を撃ち込み、眠らせた。 レイン「一名処分完了」 レインが無線に向かってそう告げた直後、すごい勢いで隊員がレインの真横に飛んできた。 奥の暗闇から投げ飛ばされてきたのだ。 暗闇から何かが歩いてくる。足音は大きい。堂々と隠れることなく真っ直ぐにレインに近づいてくる。 レインはサブマシンガンを構えた。レンズには"6"の数字が表示されている。レインは珍しいその数字を見て思わず眉を上げた。 レイン「動くな。投降しろ」 レインはガスマスク越しに暗闇から歩いてくる女に向かって投降を促した。 だが、女は立ち止まらない。 船の照明がつき、女の姿が映し出される。 サラサラとした髪は胸下まで伸びており、その顔はスポーティな印象を受ける顔つきだった。目つきは非常に攻撃的だ。 ノースリーブのジャケットから覗く肩周りや腕は非常に引き締まっており筋肉質であった。上着の下はスポブラであり、露出された腹部の筋肉はバキバキに割れていた。 女は、指出しグローブをはめた手を握りしめて拳を作り上げると、軽快なステップを踏んで一気にレインに近づいてきた。 レイン「投降しろ」 レインが繰り返すが、女は止まらない。 レイン「対象者を発見。制圧する」 レインは素早く麻酔中に持ち変えて女に向けるが、女はレインの視界から消えた。 ぬっ。と女がレインの死角から姿を見せると、強烈なフックがレインの顔面を襲った。ガスマスクが吹っ飛び、レインの素顔があらわになる。 レインは無駄のない素早い動きで麻酔銃をしまう。そうしている間に女が重そうなストレートを放って来た。 レインは手のひらでそのストレートを弾き、手首を掴んで女を自分の方に引き寄せると、女の顔に肘を入れた。 続けてレインが殴打を入れようとしたが、女は片手でしっかりとガードした。 まるで、格闘家のような動きだった。 女は一旦、レインから距離を取ると、またステップを踏んで、一歩踏み込み、今度は長い脚を使ってレインの側頭部にハイキックをお見舞いした。 あまりに素早い蹴り出しに、レインも反応できず、ハイキックをもろに側頭部に受けてしまった。レインの視界がぐらりと揺れる。 「あんたたちに全て奪われた」 女は声を震わせそう言うと、腰にさしていたナイフを抜き、レインに切りかかった。 レインの視界は揺らいでおり、女の攻撃の軌道が全く見えない。 半端な視界などいらない。 レインは目を閉じ、前神経を集中させた。 女のナイフがレインの首を掻っ切ろうとしたその瞬間、レインは目を閉じたまま左手を上げて左前腕部でナイフを受け止めた。ナイフはレインの左前腕部に深く突き刺さった。 レインは僅かに顔を顰めたが、そのまま女の足を硬いブーツで踏みつけた。女はレインから距離を取ろうとするが、足を踏みつけられているため逃げられない。 レインはその隙に、両手で持っているサブマシンガンで女を思い切り殴りつけた。 女の身体が仰向けにばたんと倒れる。 レイン「実戦にルールなんてないぞ」 よろよろと起きあがろうとする女めがけてレインは麻酔弾を発射した。 弾は女の首に命中した。


More Creators