SIDE OF UPDATE〜コードレッド篇#6〜
Added 2023-09-13 14:03:41 +0000 UTC4. 平常心の目覚め 天秤會の巨船内の"鉄に囲まれた部屋"に連れ込まれたレインたちC.S.Sは、その女の前に跪いていた。 司令部のベラ含む隊員の全員が両腕を後ろに回され、結束バンドで縛り付けられている。 C.S.Sは宍戸 玲奈率いる偵察隊によって捕えられた──という設定になっていた。 ただならぬ殺気が周囲の空気を張り詰めさせていた。 「コマンド社の犬どもか」 伊豆ミヤビは、目の前に跪き横一列に並んでいる犬を見下ろしていた。ミヤビの手には大太刀が握られていた。 ミヤビが歩くたび、部屋はミシミシ音を立てる。 跪かされている隊員たちは、殺戮をいとわない怪物伊豆ミヤビを前にしても恐怖を顔に出さない。いや、出せないように出来ているのだった。 ただし、司令部の人間の数名は顔を引き攣らせていた。ベラだけがニヤニヤしていた。 伊豆ミヤビは燃えるように赤く長い髪をゆらし、その蛇のような切長の目でコマンド社の犬たちを一人ずつ舐め回すように見ていく。 ミヤビ「ああ。そうかい。生きてたんだねぇ?」 ミヤビは、レインの前で立ち止まり、彼女の顔を覗き込んだ。レインはオオカミのような鋭い目でミヤビを睨み返した。 ミヤビ「お前を覚えているよ。殺したやつのことはほとんど覚えてないんだけどね、殺し損ねたお前のことは覚えている」 レインは何も答えなかった。ただ、この女の顔を見ていると、奪われた隊員たちやサニィのことが思い出されてなんだかモヤモヤした。 それは、自分の財産を奪われたような不快な気分だった。そこに悲しみはなかった。 ミヤビ「今日もお前は生き残るのかい?」 「あの日と同じように」 ミヤビはじゅるっと舌舐めずりをした。 ミヤビ「コマンド社の連中がお前のように生き延びていると思うと虫唾が走るねえ」 ミヤビはぎゅっと大太刀を握りしめた。 ミヤビ「はぁ」 ミヤビがため息をつく。 大太刀がひゅんと風を切った。 どしゃっと重いものが地面に落ちた音がした。 司令部の女の首が床に転がっていた。女は驚いた顔のまま舌をだらしなく垂らして絶命していた。 ミヤビ「コマンド社に支えるのは罪だ。生きている価値なんてない」 ミヤビが低い声を轟かせた。 隊員たちは誰も、転がった首を気には留めなかった。 ミヤビ「…だが、お前らのほとんどは奴らによって改造されたんだろう。私と同じ被害者だ」 「私の手足となれ。お前たちを作り替えたコマンド社を打倒するんだ。選択肢はないよ」 ミヤビは大太刀についた血をはらった。血しぶきがレインの顔にかかったが、レインは顔色を変えなかった。 ミヤビ「全員を検査しろ。使えそうな奴らには全員、措置をほどこせ」 ミヤビの一言で、C.S.Sを取り囲む天秤會の面々はロボットのように一斉に動きだし、C.S.Sの隊員たちを別室へ移動させ始めた。 玲奈がレインをわざと乱暴に立たせ、連行しようとした時、レインはあらかじめ外れやすくしておいた結束バンドを外し、作戦通りに瞬時に玲奈から武器を自然に奪い返すと、素早くナノマシンをミヤビの首に撃ち込んだ。 ミヤビが首に違和感を感じ表情を変えた時には、既にレインはミヤビに蹴り飛ばされ、鉄の壁に激突した。 肋骨が粉々になったかのように激しく鋭い痛みと呼吸困難がレインを襲い、起き上がれない。 レインはすぐに周囲の狐面の護衛に取り押さえられた。 ミヤビ「おいお前…私に何をしたァッ!」 ミヤビが大太刀を振り上げた。 レインは死を覚悟し、自分の首を切り落とす大太刀をギロリと睨む。 「おっと待ちな?そいつを殺したら大変なことになるよ?」 そう言ったのはベラだった。ベラは拘束されたまま、ニカニカ笑っていた。 ミヤビ「なんの真似だ?この伊豆ミヤビを…脅してんのかい?」 ミヤビは目を細めて不敵に笑った。大太刀にはまだ、力が込められている。 ベラ「そうだよ。脅してんのさ。今あんたの身体に埋め込まれたのはナノマシンの発信機だ。下手なことすればコマンド社からとんでもないのが送り込まれてくる」 「ちなみに…取り出せはしないよ?なんせ、身体に埋め込まれた時点で全身に分散するんだ。取り出したきゃ木っ端微塵に爆死するしかない」 ミヤビ「ほぅ」 ミヤビはゆっくりとベラに近づいてきた。 200センチを軽く超えるミヤビを前に、さすがのベラも冷や汗を垂らしていた。 ミヤビが大太刀の柄(つか)でベラのミゾオチを突いた。 ベラは声も上げられず、ただ顔いっぱいに苦痛をあらわして膝をつき、床に転がった。息ができず、何度も咳き込んだ。 ミヤビ「この女は拷問にかけておけ。仕置きだ。戦力になるから殺すなよ」 「それからあっちは措置をほどこせ」 ミヤビは地面に転がっているベラを蹴ってから、レインの方へ視線を向けた。 「カウンセリングは不要ですか?」 狐面の部下がミヤビに聞いた。 ミヤビ「いらないよ。強制措置だ。ああいうのは無理やり作り替えるのが一番なんだよ」 レインは両脇を抱えられ、部屋から引き摺り出された。 ◯ ──伊豆ミヤビの国である巨船から数十キロ離れた海岸── 砂と潮の混じった乾いた空気にさらされながら、数名の女たちがアップデーターと戦闘を繰り広げていた。 足場の悪い砂浜での戦闘は困難を極める。さらに、女たちは足に鉄の枷をはめられているため余計に戦いづらくなっている。 大勢が苦戦を強いられる中、ボロ布のフードを被った女は、しっかりと足を砂浜に突き刺して踏ん張り、ぶんと腕を振ってネイルハンマーで、アップデーターのコメカミを殴りつけた。 トドメの一撃を受けたアップデーターがどしゃりと倒れる。 「はぁ。はぁ」 女は息を切らしてしゃがみ込み、討伐したアップデーターの顔に赤いペンでばつ印をつけた。 「仕留めたらすぐに持って来い」 海岸で待つ狐面の女がよく通る声で怒鳴った。 「分かってるよ」 フードの女はそう呟き、腰にぶら下げていたロープを引っ張り、慣れた手つきでアップデーターの死骸に巻きつけた。 ズルズルズルズルと死骸を引きずりながらボートの方へ運んでいく。 女はかれこれ12時間近くもこれを続けさせられていた。腕の筋肉はもう限界だ。水分が足りておらず、何度全身の筋肉が攣ったか分からない。 ぴゅうっと突風が吹いてきて、フードが勢い良く脱げた。 色の褪せた金のメッシュが入った黒のポニーテールがあらわになる。 「これ以上は、もう、やらないからね」 "林檎らら"は小声でぶつくさと言いながら、脂汗にまみれた顔を顰め、クリっとしたキュートな瞳で狐面の女たちを睨みつけた。 ◯ 司令部の女の頭が刎ね飛ばされた。 ここは確か、措置室とかいう名前の部屋だ。 空気が重い。ただでさえ通気性が悪いのに、拷問まがいの措置とやらのせいでさらにこの部屋の酸素濃度が低くなったのだ。 身体中を這う汗とオイルが気持ち悪い。目に染みるのは慣れたものだが、腋の下や股間を這うのがくすぐったくて嫌になる。 髪の毛の先から汗が滴るのも腹が立つ。 司令部の女の頭が刎ね飛ばされた。 ベラのヤツは殺されたか? それならそれでいい。アイツはムカつくヤツだ。 でもどうせ死んではいないだろう。あの大女も殺すなと言っていた。 司令部の女が一人、首を刎ねられ殺された。 大したことじゃない。なのに、どうしてそのことばかりが頭をよぎる? 人の死なんて慣れたもんだ。人間は死ぬ。当たり前だ。 なのに、なのに。さっきからそれが頭から離れない。措置という名の拷問を受けてから、私は変だ。 これほどにまで頭の中で考え事をするのも妙な気がする。 同時に、懐かしくも思う。 もどかしい。 司令部の女の頭が刎ね飛ばされた。 どうすればそれが頭から離れるのだろうか。 忘れようとすればするほどに、余計なことばかりが頭に浮かんでくる。サニィが化け物に喰われたところ、ヴェスのヤツが串刺しにして殺されたところ、隊員たちが無惨に殺されていくところ。 私の目から、涙が溢れてきた。 ひくひくと喉が鳴る。 腹の辺りがむかむかとして、怒りが込み上げてくる。 私は叫んだ。 少し、気分が楽になった気がした。 コードレッド篇 〜完〜 SIDE OF UPDATE 〜デスヴェゼル〜へ続きます。
Comments
こんな死にかけのシリーズにもお付き合いいただきありがとうございます😭 そうですね…これでようやく準備が整ったという段階です笑 なぜこの一話を書くのにそんなに手こずったのか結局最後まで定かではなかったのですがおかげさまでなんとか書き上げることができました! これを乗り越えたからにはもう止まらずどんどん進んでいけたらと思います! 休んでいた本編の方もようやく動き出せるので、こっちも一層頑張らないといけません! どう考えても真っ向からじゃ勝ち目のない伊豆ミヤビをどう相手にするのか! きっとちゃんとやっつけられますのでご安心ください! どんな犠牲を払うことになるかは分かりませんが… そうですね…C.S.Sは本当に哀れな使い捨て兵隊です。用済みになればこんなふうにポイっと捨てられます。傭兵たちは改造されているから捨てられたことへの憎悪さえ抱きません。 レインの中で何かが目覚めたようですね。正確には思い出したと言うべきでしょうか… それがプラスに出るかのかどうなのか…いずれにせよ、コマンド社側のレイン&ベラとそうでない佳奈や玲奈たちが顔を合わせると大変なことになりそうですね!
Kara
2023-09-21 14:55:55 +0000 UTC時系列的には現在を語るために必要な欠けていた過去のピースをようやく埋められた…って感じでしょうか。 1年以上詰んでしまうくらいコードレッド編には難易度の高い何かがあったのかなと想像できますので、本当に突破おめでとうございます! 色んな意味で伊豆ミヤビは途轍もない強敵ですね! 伊豆ミヤビにナノマシンを埋め込む作戦は成功しましたが、生還するまでが任務ではなく、埋め込めた時点で用済みという感じなのが非道なコマンド社のやり方らしいですね。 もしレイン・レオが次に出て来た時、果たして“このレイン”のままなのかどうか…。
(´・ω・`)
2023-09-20 04:21:41 +0000 UTC