あの夏の悶絶は思い出の中に(6日目#2)
Added 2023-09-16 14:02:52 +0000 UTC2. 情けはかけたよ (F/M) 勝負を終えたハクは、シンとダイチに誘われて午後から奥の森に行くことになった。 昼食の素麺を食べている時、ハクはユウを誘ったが「やることがある」とか言って断られてしまった。 ユウはその時も、手足に泥汚れのあとが残っていた。 レイナ「あんた最近みんなと一緒にいないみたいだけど、何してんの?」 レイナ姉ちゃんはテレビに映るお昼のワイドショーから目をちらっと弟の方に向けた。 ユウ「べつにー」 ユウがそっけなく答えると、レイナ姉ちゃんは「隠し事でもしてんのかい」と言って向かいに座っている弟の足をつんつんと足先でつついた。 ユウ「ねーちゃんこそ、なんか最近よくこころ姉ちゃんと一緒に太一兄ちゃんのとこ行ってるけどなにしてんの」 ユウは言い返すような口調で言った。「隠し事」と言われてユウがちょっとムキになっているのがハクにも分かった。 でも、レイナ姉ちゃんはいつも通り飄々としていた。 レイナ「え?あれは別に隠し事でもなんでもないよ」 「ただ、友人が友人を説得するのを友人として眺めている。それだけよ」 レイナ姉ちゃんはわざと分かりにくい言い方をした。それを聞いたハクとユウが戸惑っているのを見てニヤニヤ笑って素麺を拉麺みたいにズルズル啜った。 リビングの開け放たれた窓から強い海風が吹いてきたのと同時に、ハクは素麺を食べ終えた。 ◯ 「それで?どんな感じだったよ。イチコのぶっちぎり?」 丸太の橋へ向かう道すがら、ダイチは午前中のハクとイチコちゃんの勝負の内容をしきりに聞いてきた。 シン「いや、そうでもないぜ?ハクは最初ミスしたんだけどそれでもかなり追い上げて、すげぇ良い勝負だった」 シンはまだ興奮気味だった。まるで自分が勝負したかのように、勝負がどういう展開だったかを事細かにダイチに自慢げに説明している。 ハク「最初のミスさえなかったら…」 ハクはつま先を見て悔しさを滲ませた。このつま先が金網に引っかかりさえしなければ、あの勝負はもっと別の展開を見せていたのだから。 シン「お前も見にくればよかったのに」 ダイチ「親が勉強は朝の涼しいうちにやれって言うんだよ」 シン「涼しいから勉強って意味わかんないぜ。涼しいからこそ朝から遊ばねぇと!な?」 シンは同意を求めるようにハクを見た。ハクもそれに同意だったので大きく頷いた。 ハク「あ、そういやさぁ」 ハクはふと、開かずの屋敷を調べる謎の探偵"折原 明日香"のことを思い出して、シンとダイチの二人にそのことを話した。 シン「なんだその人。なんで開かずの屋敷なんか調べるんだよ」 ダイチ「その人、ほんとに探偵か?」 ダイチが探偵みたいに顎を触りながら唸るように言った。 ハク「いや、探偵じゃないって言い張ってんだけど、探偵にしか見えないんだよ」 「それでさ、あの開かずの屋敷って本当に開かないんだよな?」 ダイチ「そりゃそうだ。開いたら開かずの屋敷じゃなくなるだろ」 シン「あれたぶん内側から鍵かかってんだよ」 ダイチ「だろうな。まぁ、ぶっ壊せば入れるんだろうけど…っていうかなんであのボロ屋はずっと放置されたまんまなんだろうな」 ハクもシンも、ボロ屋だろうがなんだろうがそれがあることになんら疑問を持っていなかったが、よく考えてみれば長い間誰も住んでいない家がずっと置いてあるのは不思議だった。 ダイチ「実はまだ持ち主がどっかにいるのかな?」 ダイチはボソボソ言った。 ハク「持ち主も家に入れなくて困ってるとか?」 シン「でもよ。なんだっけ…あの屋敷に入る方法があるってそれはレイナ姉ちゃんか誰かが言ってた気がするんだよな…」 シンが珍しく気難しい顔をした。 ハク「それほんとか?」 シン「でも、よく分かんなくてさ」 ダイチ「何が分かんないんだ?」 シン「だって、"戸を開けなくても中に入れる"とか言ってたんだぜ?意味不明だろ?」 ハクもダイチも一緒に眉間にシワを寄せてシンを見た。ところがシンも同じように難しい顔をしていた。 ダイチ「なんだよ、それ。どうせレイナ姉ちゃんのしょーもねーデタラメだろ」 確かにレイナ姉ちゃんならおふざけでそういうデタラメも言いそうなので、ハクもそう思った。 シン「いやでもほんとだとしたら…」 シンがまだ話を続けようとしたが、シンはぴたりと話を止めた。 ハクもダイチも同じように黙った。 三人とも、同じものを見て会話を止めたのだった。 奥の森へ続く丸太橋。そこをユウが渡っていくのが見えたのだ。 シン「あいつ。ほんとに一人で奥の森に行ってんじゃんか」 今見たものがよほど信じられないのか、シンは目を擦っていた。 ハク「そういや、午前中にも行ってたんじゃなかったか?」 「そんなに、行くことがあるのか…」 ダイチ「あそこでやることっていえば、淵で泳ぐか虫取るかくらいのもんだろ。でも、泳ぐのがとりわけ好きでもないユウがわざわざ淵で泳ぎに行ってるとも思えないんだよなあ」 シン「じゃあ、ベンケイ山に登ってるとか?」 ダイチ「バカ言えよ。一人で墓の前も通れないユウが幽霊の出るベンケイ山に一人で行くかよ」 シン「じゃあどこ行くってんだ?」 「虫取りか?」 ハクは、近頃ユウがよく泥だらけになって帰ってくることを思い出した。汚れたままの格好であることから滝の流れるあの淵で泳いでるとは思えない。かと言って虫取りであそこまで泥だらけになるのもおかしい話だ。 ハクは一人で色々と考えを巡らせていたが、丸太橋を渡った頃にはシンもダイチもそのことを忘れてお目当ての虫の話をしていた。 ハクもそのうちにユウの謎など忘れてしまった。 シンはオオクワガタを見つけてやるのだと息巻いていて、ダイチはそんなもん見つかるわけがないと言い返したりしながら、虫取りに熱中していた。 ハクもそこに混じって冷静な顔をしながら、野生のオオクワガタを密かに夢見て色んな木々をチェックしていた。 そうしていると、いつの間にかシンとダイチと逸れてしまった。 そもそも、自分がどこにいるのかも分からない。 昨日、初めてここに来た時に通った道に戻ろうとするが、すっかり道に迷ってしまった。 涼しい風に誘われて歩いていくと、ハクは淵に流れ込んでいる奥の滝に辿り着いていた。滝が近い。この前、通って来たと思われる道が斜向かいに見えたので、今自分がいるのはかなり正規のルートから逸れた場所だと分かった。 ハク「参ったな…」 ハクは、遠くに見える淵の入り口を見つめて頭を掻いた。ここから淵に飛び込んで泳いでいけば良いのだが、飛び込むには結構高いし、だいいち泳ぐ格好ではない。 「道に迷ったの?」 ハクは飛び上がった。 飛び上がりすぎて、そのまま淵に落っこちそうになった。 「あ、ごめん」 声の主はそう謝りながらもバランスを崩しているハクに手を差し出そうとはしなかった。 ハクは尻餅をついてなんとか落下せずに済んだ。 尻餅をついたハクを見下ろしていたのは、ハクと歳が同じくらいの少女であった。 髪の毛は首元まで伸ばされている──というより伸びていて、くっきりした二重瞼につやつやとした瞳が輝くすごく綺麗な目をしている。目尻はほんの少しだけ上がっていた。 ハク「しずかたちの友達か?」 こんな田舎町で同じ歳くらいならそうに違いないと思ったハクは真っ先に頭に浮かんだ友人の名前を出した。 だが、少女はキョトンとしていた。 「しずかって?」 まさかこの町でしずかを知らないやつがいるなんて思ってもいなかったハクは逆にキョトンとした。 ハク「えっと…こんな顔した怖いやつだよ」 ハクは指で目尻を吊り上げて、切長の目をしたしずかの目を真似た。 それでも少女は首を傾げた。 ハク「えっとー…シンの友達?」 「それか…未悠とか。いや、そもそも歳が違うのか…」 「あ、未悠なら知ってるよ!」 少女は未悠の名前に反応を示した。 ハクはホッとした。 ハク「俺、その友達だよ」 自分で自分を"未悠の友達だ"なんて言うのはなんとなく気が引けたが、ハクは仕方なくそうした。 「未悠と仲良し?」 ハク「ん。まぁ多分そう」 「ふーん。未悠。やさしいもんね」 ハク「そうだな…大人っぽいっていうか」 「うんうん。すごく分かる」 少女はたいそう子供っぽく大きく相槌を打った。 それから羽織っている薄手のパーカーのポケットに両手を突っ込んだ。 ハク「…暑くねぇの?それ」 ハクは少女の羽織っている黒いパーカーを指差した。いくらここが涼しいと言えどさすがにパーカーは暑いだろうと思った。 「暑い…かなあ。どっちにしてもこれしかないんだもん」 少女はそう言って目を細めてすごく嫌そうな顔をした。 ハク「俺…そのー…矢内っていうんだよ。矢内ハク」 少女がなんだかまだ警戒心を持っているような気がして、ハクは勇気を出して大嫌いな自己紹介をした。 ハク「ここの人間じゃないけど…しばらくの間だけここにいるんだよ」 ハクは、少女に面と向かって自己紹介するのが恥ずかしくて、淵の方を見ながら言った。 「なんだ。ここの人じゃないんだ」 少女はびっくりしていた。それがなんだかハクには妙な反応に思えた。 「私、"沙月(さつき)"って言うんだー」 沙月と名乗ったその少女は相変わらず両ポケットに手を突っ込んだまま、上半身をゆーらゆーらと揺さぶりながらちょっとだけ頬を膨らませていた。 そのポーズを見たハクはやけに沙月に親近感を覚えた。 沙月は、ハクと同様にあまり自己紹介が好きではなさそうだったのだ。 ハク「ここで何してんの?」 沙月「何してるって。何してるんだろうね。とにかく、待ってるんだよ」 ハク「はあ。なにを?」 沙月「探し物が見つかるのを、待ってるんだ」 沙月は突然、真剣そうな顔になってその綺麗な目で淵の真ん中を見つめた。 ハク「あそこになんか落としたのか?」 沙月「落としたか…」 沙月はボソリとハクの言ったことを復唱した。 ハクは黙って、しばらく沙月と同じように淵の真ん中を見つめてた。すると、水面がゴポゴポと音を立てて、何かが水中から顔を出した。 未悠だった。 ずいぶん長い間潜水していたのか、未悠は必死に酸素を取り込んでキョロキョロと辺りを見渡し、崖の上にいるハクを見つけた。 なぜか未悠は、あっ、と驚いた顔をしてから手を振った。 ハクは手を振るのが恥ずかしかったので手を挙げるだけにした。沙月も同じようにしていた。 沙月「未悠が帰ってきたね。あっちに戻ったら?」 沙月は、淵の入り口を指差した。 ハク「戻りたいんだけど、道に迷ったんだよ」 「ここから飛び込もうかと思ってたところだ」 沙月「えっとね、こっちをまっすぐ進んでいくとおっきな木が倒れてるんだけど、それを潜ってまたまっすぐいくとあっちの道に出られるよ」 沙月は身振り手振りで教えてくれた。 ハク「お、サンキュー」 ハクはそう言って教えてもらった通りの道へ進もうとする。ふと、後ろを向くと沙月は崖っぷちに立ったままだった。沙月はまた淵の方へ視線を落としていた。 ハク「来ないのか?」 ハクは振り向きながら沙月に聞いた。沙月はハクの方を見た。 沙月「うん。もうちょっとここにいようかな」 沙月はそれだけ言うと、また右手を挙げた。それはどうやら別れの挨拶らしいので、ハクも手を挙げてそれに応え、道を進んだ。 沙月の言った通りに進むとなんとか淵の入り口まで戻れた。昨日ここに来た時には、この場所さえ異様に感じたが、いまはすごく安心した。 入り口近くの岩場には、淵から上がっていた未悠が座り込んで濡れた髪をかきあげていた。 未悠「沙月に会ったの?」 未悠は頭を振って髪についた水滴を払った。 ハク「え?ああ、うん。あんなヤツいたんだな。全然知らなかったぜ。隣町に住んでるとか?」 ハクはついさっきあったあの、どこか親近感を覚える恥ずかしがり屋な少女の顔を思い出していた。 未悠「うーん…まぁそんなところ」 未悠はなぜか少しだけ間を置いてから答えた。 ハク「ところでさ、何してたんだ?淵の真ん中は危ないんだろ?」 未悠「ちょっとね」 ハク「なんだよそれ」 未悠「秘密だよ」 未悠はふふんと笑った。だが、ハクはそんなことで流されない。 ハク「気になるな…」 あの淵の真ん中の底に何かあるのなら自分も見たい。そう思ったハクはずんずんと淵の方へ歩き出した。が、未悠がハクの手首を掴んだ。 未悠「危ないからダメだって」 未悠はけっこう強い力でハクの細い手首を掴んでいた。ちょっと大人びた褐色の指がハクの白い肌に食い込む。 ハク「未悠は泳いでたろ?俺だって潜水も泳ぎもできるぜ?」 なんだか、田舎育ちでない自分の泳ぎをみくびられた気になってハクはムッとしていた。 未悠「言うこと聞いて。ハク」 「私、ハクにこちょこちょしたくない」 未悠は、いつもとは違うちょっと低い声で言った。 ハクはゾクッとした。 ヒカリのあの言葉が頭をよぎる。 ──未悠のこちょこちょってさぁ、ヤバいんだよ?昔、しずかがえっとその…なんだっけ…"はんごろし"?にされたことあるくらいね! ヤバいくすぐりなんて受けたくない。 でも、好奇心には勝てない。 淵に入ればこっちのものだ。 ハクは未悠の手を振り解こうとした。 未悠「ハク…忠告はしたからね」 未悠は冷たく言うと、未悠の右手がハクの腋の下に、まるで食らいつくかのように素早く差し込まれた。 ハク「ぎゃあっ!!?」 何が起こったか分からなかった。ただ、腋の下のくすぐったいところに未悠のものと思われる爪の先端が食い込んで、凄まじいくすぐったさが電撃のように駆け抜けた。 ハクはふにゃりと下半身から力が抜け、その場に倒れ込んだ。 起き上がろうとするが、もう遅い。 未悠は仰向けに倒れ込んだハクに覆い被さり、両腋の下に両手をずくりと突っ込んだ。その動きに一切の無駄はない。 ハク「かはっ!?未悠っっ!!?待っっ─」 ハクは懇願した。 既に察知していたのだ。未悠のくすぐりが、ヒカリの言っていた通りのものだと。 未悠「チャンスはもうあげたでしょ」 未悠はハクに馬乗りになり、太ももでハクの胴体を挟み込んだ。これでもう逃げられない。 未悠は指先と爪の先とを腋の下に食い込ませて、爪の先で神経を絡め取ったまま、指をモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョ!!っと暴れさせた。 堪らない猛烈なくすぐったさがハクを襲った。 ハク「ぎょぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ"っ!!?いっ!!?ぃぃぃぃぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!ギブギブギブギブギブギブギブギブギブぅぅぅぅ!!!」 未悠の爪の先がハクの腋の下をモニョモニョモニョモニョとこそばすたび、強烈なくすぐったさが脈打つようにドクドクドクドクと神経に注ぎ込まれる。 ハクは捕食者から逃れる草食動物の如く、必死に未悠から逃げようとするが、それは叶わない。 未悠は淡々と、まるで仕事をこなすようにくすぐりを執行していく。 モニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョ!!! ハク「かはっ!!?みゆ"っ!!!ギブだって!!それ"っ!!もぅギブだってぇぇ!!っっへはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!キツいっ!!キツいがらっ!!!あへへ!?あへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへはははははははははははははははははは!!?」 未悠の腋の下モニョモニョ攻撃は神経を直接、無理やりに笑わされているような刺激を発生させ、 それによって笑い声は裏返ったような声になってしまう。 我慢しようとしても無駄であり、未悠の指がもにょりもにょりと素早く動いて爪の先と指の先とで神経を嬲りくすぐればハクはすぐに笑い地獄へ引き摺り込まれる。 未悠「キツいのは分かってるよ。でもとりあえず、反省してもらわないとね」 未悠は冷酷に指を動かし続ける。 モニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョ!!! ハク「あぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええっっ!!!?あはははははははははははははははははははははは!!!ぃひひひひひひひひひひははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!うははははははははははははははははははははははは!!!」 未悠の指はリズミカルに動いていたが、それは予測できないようなリズムであった。ハクに決してくすぐったさに慣れさせないような徹底したくすぐり地獄のリズムだ。 予測不能のくすぐりフィンガームーブメントにハクの腋の下の神経は震え、ハクはただ笑い転げるしかない。 モニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョ!!! ハク「かはっ!?はっっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!わがっだ!!いがなぃっ!!ふちにはいがないがらっ!!ああ!!あはははははははははははははははははははははは!!!ぃぃひひひひひひははははははははははははははははははは!!!ぃぃははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 負けず嫌いのハクの心を容易くへし折ってしまうほどに未悠のくすぐりは常軌を逸していた。 ハクはとにかくさっきの自分の軽率な行動を悔いた。こんな目に、こんな地獄のくすぐり刑だと分かっていたならハクだって大人しくしていた。 未悠「こーゆーやり方もあるんだよ?」 未悠は腋の下から手を抜くと、ちょうど胸部と肋骨の境界線になっている骨の隙間にグリッと親指をはめ込み、そこをグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュ!!!っとえぐりくすぐった。 ハク「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ"っ!!?あぎぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?それはっっ!!!それはダメだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!いぎぃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 ハクは腰を浮かせ、天に向かって呻くような笑い声を撒き散らす。 未悠の親指の先と指の腹は、骨の隙間にあるくすぐったすぎる神経がぎゅっと密集しているところに食い込んでいて、指がグチュグチュ動くたび、意識がぶっ飛びそうになるレベルのくすぐったさがハクを襲っていた。 未悠「ここ…こちょこちょしたらしずかが降参したんだったかな」 未悠は涼しい顔でそう言いながら、親指をグチュグチュ動かし続けた。 グチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュ!!! ハク「ぎぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええっっ!!?うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?きっっっつぃぃぃぃぃぃぃ!!!!?いあああああああはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!それ無理ぃっ!!無理だってぇぇ!!!っっはははははははははは!!!かはっ!!かはっ!!!」 その指先で行う指圧のようなくすぐりは、ハクの横隔膜を震えさせ、酸素を無理やり搾り取って強制的に笑い声を発させる暴力的なくすぐりであった。 未悠「うん。みんなそう言うんだ」 未悠はまるで人ごとみたいに言って、親指をグッとさらに深く食い込ませてグチュグチュを続行する。 グチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュ!!! ハク「ぐぇぇへへへへへへへへへへへへ!!!?ぁっっっはははははははははははははははははははははははははははは!!!あああああああああああああああああああああ!!かはっ!?あはっ!!?かっっっ!!?ぐるじっ!!!っっひははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!ぃぃぁぁぁぁああははははははははは!!!」 くすぐったい神経を直接、いじくりまわされるような凶暴な刺激を含んだ猛烈なくすぐったさと呼吸を乱される苦しさのコンビネーションの威力は凄まじく、しずかが降参したのもよく分かった。 未悠「それじゃあ、最後に…イチコを壊しかけたヤツ…やったげるね」 未悠はそう言って、脇腹の少し下、骨盤の窪んだところに親指を押し当てた。 ハク「はぁ!はぁ!!はぁ!!までっ!!それはっっ──」 ハクの背筋にゾッと冷たいものが走った。 くすぐられる前から分かる。 ここは"くすぐったすぎる"と。 未悠「情けはかけたよ?ハク」 未悠は骨盤の窪んだくすぐったいポイントに両方の親指をグッと押し当て、そのままグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリ!!っとほじくり回すようにくすぐった。 ハク「ひゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ"っ!!?ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!?んぎぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁあははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!?」 ハクの細い身体が蛇みたいにぐねぐねぐねぐねっとのたうつ。 手脚から力が抜けてただ笑い苦しむ人形のようにハクは苦しみの限り笑い悶えた。 未悠「ここ。くすぐるのに結構…テクニックがいるんだよ?」 未悠はそう言いながらも、かなり慣れた手つきで親指だけを器用に操っている。 グリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリ!!! 親指の先っちょが骨盤の窪みにあるくすぐったい神経の"溜まり"をほじくり回すたび、ハクはメスのような声を上げて苦しんだ。 ハク「ぐぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええっっ!!?ごめんっ!!ごめんっっ!!うぇぇぇへへへへへへへははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!あああああああははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 未悠は他の指で骨盤を捕まえたまま、親指でくすぐったい神経をほじるように指圧している。そのせいで、指先の狙いが外れることはない。 グリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリ!!! ハク「っっっはははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!ギブっ!!!ギブっ!!!ほんどにっ!!ほんどにギブぅ!!っっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 これ以上、ここをグリグリされたら気が狂いそうだ。 ハクは涙目になりながら、プライドも捨てて未悠に懇願した。未悠はそれでもしばらくは親指でグリグリし続けてきたが、ハクの顔が青くなってくるとようやくくすぐりの刑からハクを解放した。 ハク「ぐぇぇっ!!はぁ!はぁ!!はぁ!!」 淵に入ってもいないのに、ハクの身体は汗でぐっしょり濡れてしまっていた。全身に疲労が溜まっていて、なかなか起き上がれない。 ハク「はぁはぁはぁ…秘密でもあるのかよ…あそこに…」 ハクはようやく半身を起こし、頰の涙を拭った。 未悠「"秘密"っていうか…」 ハクの制圧およびお仕置きというひと仕事を終えた未悠は、岩に座りこんで自分の手をグーパーさせながら考え込むそぶりを見せた。 ハク「いや、ちょっと待て。その前に…あの沙月ってヤツは…」 ハクは今日初めて会った沙月のことを思い出して滝のそばの崖を見た。が、そこに沙月の姿はなかった。 もう帰ってしまったのだろうか。ハクはそう思った。 ハク「アイツは、未悠の友達なんだよな?」 未悠「そうだよ」 未悠はなんの迷いもなく答えた。 ハク「アイツ、隣町に住んでるのか?しずかのこともシンのことも知らないって」 ハクは自分でそう言いながら、いくら隣町といえどもそんなことがあり得るのか、と疑問に思った。 未悠「波都に住んでるのは私たちだけだから、多分そうなるね」 ハク「歳は?」 未悠「私たちと一緒だよ」 未悠はやはり、沙月のことをちゃんと知っているらしい。 未悠「…ハク。沙月と友達になったんだね」 未悠は、さっきまで沙月がいた崖の上を見て言った。 ハク「うん。多分な」 ハクはそう答えながら、自分と同じようなタイプの沙月もきっと同じように答えるだろうと思った。 ハク「いや、それより淵の真ん中の底には何があるんだ」 「なんか探してんの?」 「いや待てよ──」 ハクは未悠の答えを待たずして推理を始めた。 沙月は、淵の中に落とし物をしたようなことを言っていた。そして、その淵には未悠が潜っていた。そこまで考えてハクは納得した。 ハク「なるほど。つまり、沙月の探し物っていうか、落とし物か何かを未悠が代わりに探してるってことか」 未悠「そんなところだね」 未悠はうんうんと頷いた。未悠が意外にあっさりと認めたのでハクは自信満々に推理を披露したのが恥ずかしくなった。 ハク「それ、どんな落とし物なんだ?」 未悠「私も良く分からないんだ。箱に入ってるんだって。こんくらいの」 未悠は両手でちょうど自分の肩幅よりも広い幅の箱を表して見せた。けっこう大きい。 ハク「何が入ってんだ?」 未悠「分からない。けど、沙月にとって大切なものなんだって」 ハク「だったら、俺も手伝うよ」 「アイツには借りがあるからな」 ハクは、さっき自分に帰り道を教えてくれた沙月にお返しがしたかった。親切心からというよりは、良いことをされっぱなしなのがなんだかモヤモヤしたのだ。 未悠「でも、危険だよ?いいの?」 ハク「いや、泳ぎも潜水もできるって…」 未悠「泳げるとか、泳げないとかって意外にあの底はちょっと…危ないんだよ」 「でもねハク。ハクが沙月と友達になったんならそうだね…ハクにも協力して欲しいかな。あんまり時間もないから」 ハクは未悠の言っている意味がよく分からなかったが、とにかく協力ができることになったので良しとした。 未悠「それじゃあ、神社に行ってさ、御守りもらってきて。私とおんなじようなヤツ」 未悠は首にかけていたネックレスみたいな御守りをグイと親指で引っかけるようにして引っ張って見せた。