あの夏の悶絶は思い出の中に(7日目#3)
Added 2023-10-16 13:08:29 +0000 UTC3. 大いなる姉の背中? (F/F) 「れ、レイナ姉ちゃん…」 ハクが掠れた声を発すると、レイナ姉ちゃんは腕組みをしたままふんと鼻息を立てた。 レイナ「情けないわね、ハク」 「私の弟としてみっともないわ」 レイナ姉ちゃんはそう言って神社にズカズカと入ってくる。作法も何もあったものではない。 ハクはこの時、レイナ姉ちゃんの暴言よりも、レイナ姉ちゃんが自分のことを名前で呼んだことに驚いていた。 ハク「そ、そんなこと言ってもな…」 「この人は強すぎる…」 「レイナ姉ちゃんでも無理だ」 レイナ「バカ言うなっての」 「私を舐めたらいかん」 レイナ姉ちゃんはなぜか髪を括りなおした。 レイナ「最近、あんたの前でみっともない姿ばっかり晒してたからね」 「ここでいっちょ最高にかっくいい姿を見せてやるとするか」 「ほぅ。レイナ。私になら勝てると?」 宮司はほんのわずか口角を上げた。足元に転がっていたハクは、その宮司のフリーになっている大きな手と長い指を見てゾクっとした。 レイナ「そういうことよ!」 「私の俊足…味わいな!」 「よいだろう。当然、仕置きも承知だな?」 レイナ「当たり前よ。私は捕まらないからどうでもいいけどね」 レイナ姉ちゃんはぴゅーぴゅーと口笛を吹いた。 「それでは…はじめ」 宮司の合図でレイナ姉ちゃんは砂利を蹴散らしながら走り出した。ハクはぐったり伸びたまま二人の攻防を見物していた。 レイナ姉ちゃんは流石に速い。 しかし、宮司はとくに走ったりはしない。ただ注意深くあたりを見渡している。 そして、宮司の近くをレイナ姉ちゃんが駆け抜けようとしたその時、宮司はレイナ姉ちゃんの首を捕まえ、そのまま地面にねじ伏せた。 レイナ「ぎゃっ!?」 レイナ姉ちゃんは仰向けに倒れ、その上に宮司が涼しい顔をして腰を下ろした。 ハク「そ、そうか…」 これは、この勝負は足が速いとかスタミナがあるとかそもそもそういった話ではないのだ。これは、いわば普通の人間とそうでない人間の勝負なのではないか。ならば、そもそも自分やレイナ姉ちゃんに勝ち目はなかったのだ、とハクは勝手に納得した。 レイナ「ぎゃー!助けてー!!」 さっきまでの威勢はどこへ消し飛んだのか、宮司の身体の下に敷かれたレイナ姉ちゃんはみっともなく脚をバタつかせた。 「ふふ。少年には手加減していたが、高校生のお主に手加減は必要あるまい?」 宮司が指をワキワキとさせる。やや骨ばったその細長い指の先は既に、レイナ姉ちゃんの上半身に狙いを定めていた. レイナ「ひっ!?お、お手柔らかにぃ…」 すっかり萎んでしまったレイナ姉ちゃんが泣きそうな声を上げた。 「問答無用だ。ところでレイナ。お主は言霊を知っておるか?言葉には力が宿っておるのだ」 レイナ「そ、それが何か…」 「すなわち…コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョと囁きながらこそばせばくすぐったさが倍増すると言うことだ」 レイナ「そ、それはっっ」 焦るレイナ姉ちゃんを無視し、宮司はその大きな手をずるりとレイナ姉ちゃんの腋の下に滑り込ませ、そして… 「コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョォ〜!!」 子供をあやすような奇妙なコチョコチョボイスと共にレイナ姉ちゃんの上半身──腋の下、肋骨、脇腹、お腹を高速でくすぐり回した。 レイナ「ひっ!!?ひぇぇええええへへへへへへへへへへへははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?いっ!?ちょっ!?これっ!!?なっっ!!?なぁぁぁぁああああああはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?ごれっ!?きつ!?っっ!?っっひひひははははははははははははは!!!」 宮司がレイナ姉ちゃんに浴びせたのは、どこか一部位をこそばす責め方ではなく、上半身のくすぐったい所をランダムにくすぐり回す独特なこそばしであった。 次はどこがくすぐられるのか分からない先の読めない不規則性の高いくすぐりにレイナ姉ちゃんはすっかり翻弄されている。 コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!! グニグニグニグニグニグニグニグニ!! ツンツンッ!!ツンッ!!! ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ!! レイナ「うえええへへへへへへへへへははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?きつっ!!?このぉぉ!!っっほほほほほほ!!?っっひひひひはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!! 爪、指先、指腹、突き、あらゆるくすぐりをいっぺんに受けているレイナ姉ちゃんは顔を赤くして、その引き締まった脚を精一杯暴れさせてなんとかギリギリ意識を保っている。 「どうした?さっきまでの威勢の良さがまるで残っていないぞ?ほれほれ」 宮司は人差し指の先で横っ腹を突いたり、かと思えば爪を立てて腹を撫で回したり、いきなり腋の下を激しくくすぐり回したり…全てが不意打ちである陰湿でキツいくすぐりの仕置きをレイナ姉ちゃんに浴びせている。 コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!! ツンツンツンツンツンツン!! ワシャワシャワシャワシャ!! ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ!! レイナ「ふひひひひはははははははははははははははははは!!?揉むなっ!!?にゃっ!?あっ!?ツンツンやめぇぇぇへへへへへへへへへへははははははははははは!!?ぎゃぁぁっ!!?腋の下はぁぁぁぁあああああああはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?」 自尊心を弄ぶような意地悪で凶悪な上半身くすぐりにレイナ姉ちゃんはいちいち大きく反応して苦しんだ。 横っ腹を突かれたかと思うと脇腹を揉み込まれたり、首を包み込んでくすぐり回されたかと思うと肋骨をゴリゴリやられたり…予測不能のくすぐりは続いた。 「さてそろそろお主の弱点を懲らしめておこうか」 宮司は後ろに手を伸ばすと、レイナ姉ちゃんの太ももの付け根のあたりを捕まえ、親指で何かを捉えた。 レイナ「ぐぇっ!!?ちょっっ!!?」 レイナ姉ちゃんの顔が引き攣り、全身の筋肉に力がこもる。 脚は奇妙な格好のまま硬直しており、口は開けたままになっている。 「腿の付け根の神経の塊。ここをほぐしておいて損はなかろう」 宮司はそう言ってクニュッ!!っとその太ももの付け根のミゾを親指で刺激した。 レイナ「きょええええ!!?」 レイナ姉ちゃんが裏返った声を上げ、ビクンと震えた。 レイナ「待って!!降参!!降参だってぇぇ!!」 「分かっておる。だからこれからマッサージしてやるのだ。感謝しろ」 宮司はさっぱりした顔でそう言うと、親指で捉えたままの神経の塊をクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュ!!!っと揉み潰した。 レイナ「ほわぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?ちょっ!?ばっっ!!?そごはっ!!そごはいかんってばぁぁぁぁぁあああああああああああははははははははははははははははははははははははははははは!!?」 レイナ姉ちゃんは涙を流し、死に物狂いで暴れた。 ハクにはレイナ姉ちゃんが自発的に暴れているように見えていたが、実際は太ももの付け根をコリコリクチュクチュされたことによって反射的に暴れているだけだった。 「大口を叩いて私に挑めばどうなるか…よぉく覚えておくのだな」 宮司はレイナ姉ちゃんの笑い声に負けないくらいの大声でそう言って、クチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュっと太ももの付け根をえぐり続ける。 レイナ「ぎぃぃぃいいいいいいい!!!?分かりまじだっ!!分かりまじだっ!!分かりましだぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!うあああはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?んひひひ!!?んひひひひひはははははははははははははははははははははははは!!?」 ハクはあんなところをくすぐられたことはないし、どれほどくすぐったいのか、どんな具合なのかも分からないが、レイナ姉ちゃんが身動きを封じられた状態でくすぐったい太ももの付け根を集中的に親指で指圧されているのを見ているだけで同じ部位にズクズクとした嫌な感覚を覚えた。 クチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュ!!! レイナ「ひぎぃぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!ギブっ!!ギブギブギブっ!!!勘弁しでぇぇ!!っっへへへへははははははははは!!!すみまぜんでじだっ!!ぁぁぁぁあああははははははははははははははははは!!!はひひひひはははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?」 太ももの付け根部だけを指圧くすぐりされ続けること五分間。ようやくレイナ姉ちゃんは宮司の大人のくすぐりお仕置きから解放された。 解放されたレイナ姉ちゃんはハク同様、地面にぐったり伸びてしまった。 いつまでも伸びているわけにはいかないので、ハクが起き上がり、歩けなくなったレイナ姉ちゃんに肩を貸して家路に着いた。 レイナ「ひぃ…ありがとう弟よ」 レイナ姉ちゃんはぐったりしたまま非常に弱々しい声で冗談っぽく言った。 ハク「い、いや俺弟じゃないし…」 ハクはそうツッコんだが、なんだか悪い気はしなかった。 ハク「さっきの墓通る時、幽霊いないかなって探しちゃうんだよな…」 レイナ「なに?あんた幽霊見たいの?」 ハク「いやそう言うわけじゃないけどさ」 「あ、ベンケイ山には出るって噂だよな」 ハクはずっとずっと向こうにそびえているベンケイ山を見た。あたりが夕焼けの色に染まっている中、ベンケイ山にだけは黒々とした雲の影が落ちていた。 レイナ「うん。まぁねぇ」 ハク「レイナ姉ちゃんは見たことあんの?幽霊」 レイナ姉ちゃんはその綺麗な目を細くして少し考えるような顔をしてから、「ねぇな」と雑に答えた。 夕飯を終えた後、ハクがぶらりと自室に戻ろうとすると、二階和室に奈水がいるのが見えたので立ち寄った。 奈水は和室で一人晩酌していた。 奈水はこうして和室でくつろいでいることが多い。たいていはテレビを見ているか、本を読んでいるか、顔に化粧品をぺたぺた塗り込んでいるかしている。 ハクは、奈水にも怖い話がないかどうかを聞いてみた。人生経験の長い奈水なら幽霊の一つや二つくらいまたことがある気がしたのだ。 奈水「けっこう前の話だよ?レイナが生まれてすぐだったかな…だから今から十何年かな」 奈水はさらっとそう言ったが、ハクには遠い昔のことのように聞こえた。 奈水「そこの夜道を歩いてると、ずっと向こうの山に火が上がってるのを見つけたんだ」 ハク「山って、ベンケイ山?」 ハクはそれを期待していた。 奈水「うん?夜だったからよく見えなかったけど、確かにそっち方面の山だったかな」 奈水は顎に人差し指を当てて記憶を辿りながら話を続けた。 奈水「焚き火かと思ったけど、夏の時期だし、その日は夜も暑かったし」 「だいたいあんなところで野宿とか焚き火する人なんていないし」 ハク「それで?幽霊は?」 奈水「いや、幽霊は見てないんだよね」 「そのね、火が上がってる山から、なんて言うんだろうな呻き声みたいなそういうのが聞こえたんだよ」 ハク「山の上からの声って聞こえるのか」 奈水「そうそう。それは後から私も気づいて、それでおかしいなって思ったよ」 「あんなに離れてたのに声が聞こえるって普通じゃないよねって」 奈水はあぐらをかき、まるで友人に話すかのような口調で話し続ける。 奈水「まぁそれだけの話だよ」 「呻き声も私の聞き間違えかもしれないしね」 奈水はそう言って座卓に置いてあったグラスを手に取り、薄黄色の酒を飲んだ。奈水は眉間にシワを寄せ、たまらん、と言った顔をした。 奈水の話に期待した幽霊は出てこなかった。だが、夜のベンケイ山の火、そして呻き声という要素はハクを十分に恐怖させた。 その火というのはもしかして火の玉というやつではないのだろうか。そう思った。 ハクは怪談が好きだが、聞くと怖くなる。そして自分の家ではなく、他所の家に泊まりにきている今、その恐怖はさらに膨れ上がる。 恐ろしいのは夜中だ。みんなが寝静まってまるで自分一人しかこの世にいないような気がする真夜中に怪談を思い出したりするのが怖いのだ。 ハクはその日の夜中に尿意で目が覚めた。 案の定、トイレに行くのが怖かった。トイレは部屋の真横なのだが、トイレに行くには当然、一度は廊下に出ないといけない。 斜向かいにはレイナ姉ちゃんの部屋がある。が、起こすわけにもいかないしそんなみっともないことはしたくない。 ハクは意を決して部屋を出た。 迅速に行えば怖くないはずだと思い込んで心を決めたのだ。 自室のドアを閉めるかどうか迷った挙句、少しだけ閉めて素早く隣のトイレのドアノブに手をかける。その間も、ハクはとにかく余計なことばかり考えてしまった。 渡り廊下の窓から見える外の景色に何か映っていないか──例えば、白い顔をした女が窓に張り付いていないかとか──や、渡り廊下の先の階段から誰かが上がって来ないかや、二階玄関に誰か立っているのではないかなど余計なことを考えて震えた。 トイレにこもっている間は不思議と怖さは感じなかったが、いざ廊下に出てみるとやはり怖い。 急いで隣の自室のドアに手をかけて素早く忍び込むように戻ったが、自分が部屋を空けていた間に何かがは入り込んではいないか、というまた余計なことを考えてしまいまた新たな恐怖を感じた。 トイレに行く時、ドアを完全に閉めていなかったことを少しだけ後悔した。 再びベッドに入り、タオルケットにくるまる。 胎児のような姿勢で眠りにつこうとするが、一度目覚めてしまいしかも余計なことばかり考えたせいで頭が冴えてしまった。 昼間、沙月が言っていたことを考える。 沙月は淵の底の箱の中身を知っていた。 当たり前だ。あれは彼女の落とし物らしいのだから。 でも… あの箱の中にはね─── 沙月の言葉。あの言葉はハクには奈水の怪談よりも宮司の怪談よりも怖いものに聞こえた。 あんなの、きっと悪い冗談だ。 ハクはそう言い聞かせた。 そして、いつのまにか眠りに落ちた。
Comments
待っていてくださりありがとうございます…! そのお言葉だけですごく救われます😭 また週一更新に戻していきますのでよろしくお願いします! そうなんですよね。小さい時は怖いもの知らずと言いますか、ほんとに危険なことにも考えずに挑戦していましたよね。 でもそれって結局は小さい時しか許されないし、出来ないし…。大人になると余計なことばかり考えてしまいますからね笑 こういうのは小さい時に経験しておくべきなのかもしれません…! おー!神社に行ってしかも御守りまで!!なんだかほっこりしました🐤 ほんの少しでも私の作品が神社へ足を運ぶキッカケになっていたならなんだかすごく嬉しいです!! 神社の知識は私も本で知るくらいでまだまだなのでもっと足を使って勉強しないとなぁと思っています笑 矢剱の宮司さんくらい詳しくなりたい… 別作品の話ですが、神社に関心を持たれているなら…、ヒガンバナ関連の今執筆中の長編は割とするりと世界観に没入していただけるかなぁと思います! 楽しいばかりのはずのこの島での日常には確かに知ってはいけない…というより知らない方が良い?何かが潜んでいるようですね! 仰るように無意識にそれらのことを考えないようにするような働きもどこかにあるのかもしれません! 果たして無関係に思える点と点は繋がる…のでしょうか。 それを当時のハクが理解できるのかはわからないので、読者様がハクくんの代わりにその謎を解明しないといけない時が来るかもしれませんね。 今回もご感想ありがとうございました! この感想でいただいたモチベを糧に次回分を書きまくります!
Kara
2023-10-20 13:36:36 +0000 UTC更新楽しみにしてたので嬉しいです! 小さい頃って今振り返ると結構危ないことしてたなっていう経験あったりしますよね。 でも不思議と最悪には至らず、今生きていることに感謝です。 ハクくんも持ってて良かった御守り。 自分も最近、間違いなくKaraさんの作品の影響もあって神社に行くようになり、御守りまで購入してしまいました!笑 なので矢剱神社の宮司さんに説明されてハクくんが「???」となってる用語も普通に勉強になっています。 一日経つごとに知ってはいけない真相が近づいてる感じがして少し怖いですね。 どうもこの島にいるとそういう漠然とした不安を忘れられるような『楽しいこと』を求めてしまうようですね…。
(´・ω・`)
2023-10-19 09:43:32 +0000 UTC