【3,337字】国民的人気女優がスナック菓子のCM撮影をするお話
Added 2020-10-24 13:29:27 +0000 UTC※このお話には残酷な表現は含まれていないと思いますが、受け止め方には個人差があります。 [newpage] 『この分厚さが、ラグジュアリー。』 季節は初春、まだ肌寒さが残る早朝の東京に目覚ましとしては美しすぎる声が響き渡る。 その発信源は東京都中央区晴海埠頭、オリンピック選手村予定地として高層マンションが林立しつつある住宅街にあった。 「はい、おっけーです!映像チェック入りまーす。」 その場所に人間の約600倍という途方もないサイズになって聳え立っている彼女は、開発されたばかりの巨大化薬を用いた実写でのCM撮影という人類史上初めての試みに抜擢された国民的人気若手女優。 これまでこの種のCMはCG合成により行われていたためどうしても不自然さが拭えないという問題を抱えていたが、実写ならではの迫力ある映像が撮れるものと各方面から期待が寄せられている。 「さすが、完璧でした!次はグラフィックキービジュアルの撮影に移ります!」 『ありがとうございます。構図は東京タワーとの比較画像でしたっけ?』 「はい、その通りです!もちろん、こっちは実際には…」 『わかりました!早速移動しますね!』 「…えっ?」 身長999mというその巨体の全身像はもちろんのこと東京タワーやスカイツリーまで含めた画角での撮影となるため、撮影クルーは彼女から遠く離れた位置にいた。 そのせいか通信状態が悪くスタッフによる指示を断片的にしか聞き取れなかった彼女は、ゴールドのドレスの裾を持ち上げるとあろうことか東京タワー方面へ向かって歩き出す。 『私、こんなに大きくなっちゃってるんですね!ふふっ、初めての体験で少し恥ずかしいですけど、意外とカッコいいかも?なんて。』 朝潮運河を跨ぎ対岸にあるいくつもの建物を長さ約150mもあるゴールドのパンプスでサクッと踏み潰した彼女は、足元の惨状を引き起こしたとは思えないほど能天気に呟いた。 それもそのはず、過酷なドラマ撮影日程の合間を縫って行われた事前説明の内容は荒唐無稽過ぎたこともあり、十分に理解できないまま仮想現実のような技術によるものと勘違いしている。 『あ、海を渡るとドレスが濡れちゃうかもしれないので、ちょっと遠回りですけどこっちから行きますね。』 彼女にとって足元を流れる細い水路でしかない隅田川は脚を伸ばせば渡れないこともなかったが、足首まである撮影用のロングドレスを心配し西ではなく北へと進路を変える。 その途上すぐにあった地上約60階建てに迫る3棟の高層ビルは、脛までしか届かない彼女の進路を遮るという役割を果たせるわけもなくあっけなく踏み倒されてしまう。 「おい!どうして通信が届かないんだ!」 「わかりません!」 「くそっ!!とりあえず警察に連絡して付近の住民に避難してもらうんだ!」 「やってます!!でも電話回線がパンクしてるのか全然繋がらなくて!!」 「くっ…通信が届かないのもそのせいかっ…!!」 まだ起きている人も少ない時間に始まった撮影だったが、彼女が歩き出したことによる大きな揺れは東京中の人間を叩き起こすには十分だった。 どこに居ても見えるその姿に半分の人間は寝ぼけた頭では理解が追い付かず特撮映画のように眺めていたものの、残りの半分はパニックを起こし警察や消防に緊急連絡が殺到している。 『そういえば今の大きさってあの有名な怪獣よりも大きいんですよね。がおー、東京なんて破壊してやるー。なーんてふざけたくなっちゃいますね。』 清澄通りを真っ直ぐ北東に進む彼女は足の踏み場がないほど建物が密集している地帯を平然と踏み荒らしていく。 背筋をピンと伸ばし姿勢よく歩いている彼女にとって3mm程度しかない人間は個々に認識できるような大きさではなく、進路上の建物から慌てて飛び出してきたまばらな人影はその存在に気付かれることさえないまま踏み潰され吹き飛ばされていた。 『それにしても本当によく出来てますね~。私の足の指より小っちゃな建物までビッシリ再現されてて…』 足元に広がる東京の街並みを感慨深そうに見下ろしていた彼女は、ふと右足をパンプスから引き抜くと隣の島へと踏み下ろした。 そこにあった晴海トリトンスクエアを象徴するトリプルタワーに彼女の爪先が触れた瞬間、高さ200m近くを誇ったそれらは綺麗なペディキュアが施された足指によってまるで砂の城のようにあっさりと崩れ落ちる。 『あ、でも本物だったらこんなにサクサク壊れるわけないですし、安全面の配慮もバッチリなんですね!』 高層建築物のあまりの脆さに彼女の中にある非現実感が増したのか、周辺に立ち並ぶ他の高層ビル群の上へもぺたぺたとその足裏を運んでいく。 彼女にとっては遊びですらないその行為によって一瞬で足裏の汚れと化した建物の多くは、数多くのファミリー層がついさっきまで幸せな暮らしを営んでいたはずのマンションだった。 『っと、楽しくなってついはしゃいじゃった。東京タワーまで行かなきゃ。』 ☆ ☆ ☆ 「皆さん!落ち着いて避難してください!誘導に従って!!」 「この状況で落ちつけって!?そんなことしてたら踏み潰されちまうだろ!!」 彼女の進路にあたる東京都中央区ではあらゆる道路が避難しようと殺到する人々で埋め尽くされていた。 しかし、足のサイズほどしかない中央大橋を軽く跨ぎ越えて新川へと踏み入った彼女は、軽やかに方向転換すると人口密集地帯を更地に変えながらすぐそこまで迫っている。 『こうして見ると東京ってホントに建物ばっかりなんですねー。』 銀座や新橋といった東京の中心部を何の躊躇いもなく横断していく彼女の足の下、クシャッサクッと建物も避難民もまとめて靴底の形に消えていく。 そうしてたかが数mの高架を跨ぐまでもなく山の手線の内側へまで侵入したのは彼女が歩き始めてから僅か数分後にも関わらず、この短い時間で犠牲となった都民の数は優に5万人を超えていた。 『東京タワーはどこに…あったあった。』 眼下に広がる街並みを見下ろして数歩ほどの距離にちょこんと生える赤い塔を見つけると、脳内に再現した構図を当てはめながら立ち位置を探るように歩き出す。 撮影範囲を極力壊さないためかJRの線路を辿るように南下したことで東側へ抜ける道は次々と崩れ落ちていくビルに埋もれてしまい、足元を逃げ惑う人々は追い立てられるように増上寺周辺へと集まらざるを得なかった。 『たぶん立ち位置はこの辺り…で、視線はこっち…ポーズは…こんな感じ。』 右足で慶應義塾大学のキャンパスの半分ほどを踏み潰した彼女は東側を向くと、右手でスナック菓子を持ち左手を腰に当ててニッコリと表情を作る。 しかし、すぐ近くに居る人々からは東京タワーの3倍という高さは余りも大きすぎたため、周囲に並ぶもののない高さ60m以上もあるピンヒールが神聖な学び舎を貫いているという足元の状況しか把握できないでいた。 『…あれ、スタッフさーん?…反応がないけど、機械の故障なのかな?』 ポーズを決めたまま十数秒待っても反応がないことに少し疑問が沸いた彼女だったが、プロとしての責任感かその体勢のまま待ち続ける。 それを好機とみた付近の人々はいくつもの建物が崩落し道という道が寸断されている中、お互いに助け合いながら必死に逃げ始めた。 『うーん…困ったなぁ。とりあえず故障が直るまで少しその辺歩いてますね?スカイツリー…は逆方向だから、高尾山でも登ってみようかな?あ、背比べのほうが楽しいかもっ♪』 無邪気な笑顔を浮かべた彼女の両足が再び動き出し、住宅街が踏み荒らされ商業地が壊滅し罪のない人々が一方的に蹂躙されていく。 数時間後、ようやく通じた連絡によって一通り東京をメチャクチャに壊しまわった彼女の悪意なき殺戮がおさまったのは、およそ300万人という取り返しのつかない膨大な犠牲を生み出した後だった。 完
Comments
ありがとうございます。 場所選びはCMそのまま(のはず)なので他意はないんですが…東京は描きやすいですよねー( ´∀`) Google マップで見ただけなので晴海?という場所のマンションが建築途中なのか既に建ってるのかすら知りません(笑)
もんてすきゅー
2020-10-27 11:31:10 +0000 UTC仮想世界じゃなくて、現実世界の現実の地名が出てきてめちゃくちゃに蹂躙されるお話本当に好きなので、とても良かったです! あのCMのオマージュで、超高層マンション群が立ち並ぶ晴海を開始場所に選んでるのも良いです!中央大橋までの時点で、超高層マンションを20棟は壊してる感じでしょうか。 超高層ビル街の新橋なんかも通り道にされて、終始大破壊が続く構成とても楽しめました! 最後に犠牲者数が語られるのも、現実設定のお話って強調されて個人的にポイント高いです!
しらたま
2020-10-25 14:58:15 +0000 UTC