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【4,746字】終盤で大逆転した大統領選挙のお話

※このお話には残酷な表現が含まれています。 [newpage] 「…最後に、これだけは明言します。我が共和国は、決してテロには屈しません!」  モルガナ連邦共和国史上初の女性大統領である彼女は、自身の再選が懸かる大統領選挙の最中に起こった建国史上最悪とも言われる惨劇についてそう語る。民衆一人一人が銃を持って立ち上がり帝国からの独立を勝ち取った歴史を持つこの国では、何者にも屈しない強いリーダーが望まれており彼女の熱の籠った演説は多くの国民から熱狂的な歓声を受けた。 [newpage]  大統領が演説を行った数日前。大統領選挙を2週間後に控え、対立候補を選出した野党は一気に勝負を決めようと全国100箇所以上で大規模抗議集会の同時開催を企画していた。それは経済や貿易、外交や社会保障などあらゆる政策において国論を二分してしまうような急進的な政権運営を行ってきた大統領に対し、安定的でバランス重視な政権を取り戻そうという機運が高まっていることにある。 「政権!交代!」 「大統領は辞めろ!」  大統領の支持率が20%近くまで低下している中、各地で開かれた野党主導の抗議集会はそれぞれが数万人規模という前例を見ないほどのものになっていた。そのうちの一つ、とある地方都市のスポーツスタジアムを利用して行われているこの集会場には大きなシュプレヒコールがこだましている。ボルテージが上がり数万人が一斉に飛び跳ねることでスタジアム全体が揺れていたためか、迫りくる巨大な存在に気付いた人は少なかった。 「ん…?なんだあれ…?」 「とんでもない美人だが…何かおかしくないか?」  スタジアムの北スタンドからは反対側スタンドの更に後ろの遠方に、目元だけを特徴的な仮面で覆った美しい女性の姿が見えた。建物数階分もの高さに相当するその場所から普通の人間の姿など見えるわけもなかったが、周囲に比較できるものもなかったためにその違和感になかなか気付くことが出来ない。しかし、それから僅か数秒後、彼女がスタンドの外壁を軽々と跨ぎ越すように脚を伸ばし、小さなビルほどもあるハイヒールが人々の頭上に翳されたことで否が応でも思い知ることになった。 『こちらもOK。時間よ、各自始めちゃって。』  人間の100倍という途方もない大きさを誇る彼女を支える片方の足は、南スタンドの一画へと躊躇なく下ろされそこにいた大勢の人々ごと客席をあっさりと踏み抜いた。ブチュリと潰れ飛び散った鮮血を浴びた周囲の人たちは一拍遅れてパニック状態となり慌てて遠ざかろうとするものの、彼女がその足を左右に少し揺すったために客席が次々と崩落して奈落の底へと飲み込まれていく。 『出入口を潰せば後は自由よ。楽しいからって慌てないようにね。』  そう言って反対の足を持ち上げると群衆が殺到している出入口に向かって勢いよく爪先を蹴り込んだ。彼女にとって2cmに満たない人々はちょうど剥き出しになっている足指に押し潰されるように弾け飛び、爪の間にゴミとして積み重なっていく。圧倒的なまでの力の差で何の抵抗も出来ない人々にとって、その不快感で彼女の顔を一瞬しかめさせたことだけが存在意義だった。 『ええ、確かに生かす価値なんてないという意見には賛成ね。でも、SNSに拡散させるまではゆっくりやらなきゃダメよ。』  彼女は耳元に付けた通信機器で会話しながら片手間のような気軽さでその両足を次々と踏み下ろしていく。的確に出入口を狙われたことでスタジアム内に居る数万人は逃げ場を失っており、彼女が作り出す影の下で少しでも生き延びようと足掻くしかない。しかし、片足だけで大型バスの倍以上もある巨大な物体は踏み下ろされるたびにグチャリブチュリと数百人単位で肉塊へと変えていく。 『ふふ、もう拡散してるみたい。私たち世界のトレンド入りしてるわよ。』  巨大な女性による襲撃を受けているのはこの会場だけではなかった。全国で同時刻に開催しているすべての抗議集会の元にはそれぞれ100倍サイズの巨大な女性が現れており、そこに集まり懸命に声を上げていた人々は皆、彼女たちが履くハイヒールによってまるで虫ケラのように蹂躙されている。モデルのような美しいプロポーションと打って変わって恐ろしい殺戮を繰り広げているそのギャップは映像となって拡散され、瞬く間に世界中を席巻する事態となっていた。 「これを見てる誰でもいい!助けてくれ!」 「早く軍隊を呼んでくれ!化け物に殺される!」 「うわあああああ!!」  彼らがリアルタイムで配信する映像の背後では持ち上がっては踏み下ろされる巨大な脚の一部しか映っていないものの、数万人があげる悲鳴をかき消すほどの轟音を立てて建物が崩壊し人々がゴミのように巻き込まれていく様子はあまりにも生々しく凄惨だった。直撃を受けずとも跳ね飛ばされ転がり回り、折れ曲がった手足でロクに動けないでいるとその直後には配信が途切れてしまう。 『まるでB級パニック映画みたいね。主演女優の顔が映っていないのが残念だけど。』  彼女はスマホ片手にSNS上の配信映像を確認しながら、もはや半分以下になった赤くない地面を探しては丁寧に足を踏み下ろしていく。たったそれだけでウジャウジャと蠢いていた砂粒が靴底の形に消えていくが、それをもたらした彼女には何の感触も伝わっていなかった。こうしてまるで虫の巣穴を潰すような幼稚で残虐な行為によってそこに居た9割もの人命が失われた頃、人々が待ち焦がれていた存在がようやく現れる。 『きゃっ!痛っ、痛いっ!』  付近の空軍基地からスクランブル発進した数機の戦闘機が彼女の身体に次々とミサイルを撃ち込んでいく。咄嗟に顔を守った彼女の無防備な身体は標的としては大きすぎるほどであり、一発たりとも外れない攻撃によって丈の短い黒のパーティドレスは着弾した場所から焼け落ちていき、その下に隠されていた美しい素肌が露わになる。 『やだっ…ひど、あんっ…』  下半分が完全に飛び出す形になった豊満な胸は着弾したミサイルの爆炎によってぷるんと揺れ動き、そのあまりに煽情的な姿にパイロットたちは思わず生唾を飲み込む。それでも一方的に攻撃されるがまま徐々に裸になっていく彼女は艶っぽい声を出しながら動けなくなっており、効いていると確信した彼らはより大規模な攻撃支援を要請した。 「効いてる!効いてるぞ!」 「そのまま倒してくれー!!」  攻撃されるたび身悶える彼女の足元では幸運にも生き残っている僅かな人たちはその光景に希望を見出している。甘い声を上げながらよろめく彼女の巨大な足はそんな彼らを瓦礫ごと無慈悲に踏み潰し続けていたものの、目前に迫った勝利の瞬間を信じていた彼らの心は今や一つになっていた。 『…弾頭着弾を確認。煙が濃く、標的の状態は確認不能。』  しかし、国家の脅威を排除するべく連邦軍が取った攻撃手段は、居るか居ないか確認できない僅かな生き残りが犠牲になることを前提としたもの。国内においてこのような方法を取るより他なかったことを理解しているパイロットたちは、湧き上がる気持ちを飲み込みながら職務に徹している。そうして巨大なキノコ雲による煙が晴れていくと、彼らは確かに自分たちの戦果を確認した。 『標的の消滅を確認。繰り返す、標的の消滅を確認。以降は陸軍に引き継ぎ、地上から痕跡の確認を…』 [newpage]  大統領の演説が盛況の中終わろうとしていると、会場の末端に居た一人の記者がガタリとイスを跳ね飛ばしながら勢いよく立ち上がる。周囲に居た警備がすぐさま駆け付けて取り押さえようとするが、大統領は片手を上げてそれを制止した。記者がキッと大統領を睨みつけてからおもむろに口を開くのを、彼女は余裕の表情で眺めている。 「大統領!この件の背後には連邦政府が関与してるんじゃないかという意見もありますが!」 「連邦政府は国民の生命、財産を守ることが第一優先事項です。そのようなことあるはずないでしょう。」 「襲撃されたのはすべて野党が主催した108もの抗議会場で犠牲者は300万人を超えると言われているのですよ!」 「誰を支持しているかまたしていないかに関わらず、我が共和国市民の命が数多失われたことに大統領として憤りを禁じ得ません。我が政府は全身全霊を上げ、この忌まわしい蛮行の首謀者に相応の報いを受けさせることをお約束します。」 「犠牲者のほとんどは大統領に批判的な人々だったことは偶然だと仰るんですかっ!?」 「犯行グループの目的…そもそもあの巨人たちは人間だったのかなど、詳しいことについては現在関係機関が捜査中です。総力を上げ徹底的に調べ上げるようにと指示を出しています。質問はそれだけですか?」  この事件の直後に行われた緊急世論調査では大統領への支持率は約80%へと急激な上昇を見せていた。その大きな要因の一つには、言うまでもなく反大統領派の国民そのものが大勢犠牲となり実数が減ったことがある。しかし、それ以外にも燻り続ける政府主導という陰謀論が人々を恐怖に駆り立てたこともまた、不支持から支持へと切り替わった理由として大きなものがあった。 「ではこちらの写真を!ここに映っている実行犯の一人は貴女の娘さんではないのですか!?」 「首席補佐官なら今ここに居るではありませんか。実行犯はすべて我が連邦空軍の精鋭部隊が殺害したはずですが?」 「そっ…それは…」  大統領の娘でありながら大統領首席補佐官を務める彼女はモデルとしても有名な長身の美女であり、国民からの人気は絶大だった。とある会場を襲撃した女性は仮面を付けていたために素顔がわからないものの、彼女の写真に同様の仮面を合成した画像がSNS上で拡散されており、そのあまりの適合さは大統領派による反対派への武力弾圧説の大きな根拠となっている。 「では大統領首席補佐官に質問を!貴女はこの日、何をしてらっしゃったのですか!?」 「その日はお休みでしたので…ふふっ、プライベートでとても楽しい1日を過ごしていましたよ。」 「なっ…」  名指しされマイクの前に出てきた彼女が妖艶な笑みを浮かべながら放った一言は、まるで容疑を認めているかのようだった。予想もしていなかった発言に記者が言葉を失っていると、その反応が面白かったのか彼女はぷっと噴き出してしまう。 「これは失礼しました。もちろん、家で家族と素晴らしい1日を過ごしたという意味ですので誤解なきよう。」 「貴女は犯行に関わっていないと!?」 「もちろんです。私とソックリな誰かか…私と同じ顔をした誰かか。いずれにせよ、優秀な連邦捜査局はすぐにでも真相を究明してくれるでしょう。」 「会見は以上です。ではまた、大統領選挙後の勝利報告会でお会いしましょう。」 「大統領!まだ疑惑は晴れていませんよ!大統領っ!!」  記者がなお食い下がるなか当の本人は笑顔で席を後にする。その数日後、行う前から既に趨勢が決していた大統領選挙において勝利した彼女は、件の襲撃について実行犯の身元も原理も何もかもが不明であったとの捜査結果を発表した。それを批判する者さえほとんど居なくなったその国では、襲撃の際に撮影された動画だけがいつまでもネットに残り続け、まるで現実とは思えないその映像はいつしか架空の物として扱われ一部の人たちを楽しませたという。 完


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