SamSuka
もんてすきゅー
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【5,431字】非対称型バトロワゲームで遊ぶお話

※このお話にはそれほど残酷な表現は含まれていません。 [newpage] (やった!巨人側だー♪)  最近流行りのVRゲーム『BBM』に新しく追加されたこのゲームモードは、1人の巨人と99人の人間に分かれて争う非対称型のバトルロイヤルだ。  マッチングされた100人のユーザーのうちたった1人しかなれない巨人側は当然人気が高く当たりとされている。 (でも市街地マップかぁ。ま、難しいほうがやりがいあっていいよねっ!)  マップは毎回違ったフィールドがランダム生成されるが、大まかには市街地、荒野、海辺などロケーションは決まっている。  その中でも市街地マップは逃げ隠れできる場所が多いため人間側に有利というのが公式設定なものの、圧倒的な強さを持つ巨人相手にはこの程度のバランスがちょうどいいというのがガチ勢たちの結論らしい。 『チッ…また女じゃん…ていうかアイツ見覚えあるわ。運営のお気に入りなんじゃね?』 『おいこれオープンチャットだぞw』 『おっと誤爆wwサーセンwww」 (いやいや。絶対わざとでしょ…)  こんな風に、”巨人側は全ユーザーから無作為に選ばれている”という再三にわたる公式発表を信じているユーザーはあまり多くなかったりする。  なぜなら、サービスが始まって半年は経とうとしているこのモードにおいて、女性以外が巨人側になったという報告は一度もされていないからだった。 (私だって別にズルしてるわけじゃないのに…) 「あんなザコの煽り気にしなくていいからね!」  モニターの隅っこに映っているチャット欄をじとーっと睨んでいると、一緒に遊んでるユメコちゃんが私に気を遣って話しかけてきてくれた。  大して気にしていたわけではないけど、多少嫌な気分になっていた気持ちがそれだけでふわっと温かくなる。 「うん。私は気にしないよ。ありがとうユメコちゃん。」 「えらいえらーい。で、優しくしたから私にも優しくしてね?」 「わかった。見つけたら優しく踏み潰してあげるっ♪」 「鬼ぃー!それでも親友かぁー!」 「大親友だよっ♪」  気の置けない普段通りのやり取りに思わず口元が緩んでしまうけど今のあの子とは敵同士だから。  本当は陣営が分かれた以上こうやって通話しながらプレイするのもマナー違反かもしれないけど…そこは寂しくなっちゃうので許して欲しい。 「あ、そろそろこっちの作戦タイム終わるっぽい。」 「ふぅん。どんな作戦なの?」 「教えるわけないでしょー!絶対にアズキを倒してみせるからねっ!」 「うーん。私を倒すのは無理だと思うけどなぁ。」  人間側プレイヤーのHPがジョブ次第で精々100や200程度なのに対して、巨人側ユーザーは1万倍の補正がかかることになっている。  しかも、人間側の攻撃は巨人側に対して固定で1ダメージとなるので、今の私のHP100万を削り切るのは到底現実的とは言えなかった。 「まぁ、作戦って言っても、全員が私に踏み潰される前に足の速い手慣れたユーザーがタスクこなして周るだけじゃないのー?」 「ち、違うしっ!あ、違うこともないしっ!」 「ふふっ。どっちなの。ま、知らない方が面白いからいんだけどね。どっちにしても私はみんなをグッチャグチャに踏み潰すだけだしー♪」 「うわ、出たよ本性!やっぱり巨人はドSオンナが選ばれるの法則なのでは…?」 「どーだろねぇ?もしそうなら、運営サマの性癖に感謝してまぁーす♪」  そんなこんなで雑談している間に準備タイムが終わり、いよいよ本番の時間がやってくる。  ヘッドセットを神経接続没入モードへと切り替えてゲームの世界へダイブすると、そこにはいつものように”私だけの箱庭”が広がっていた。  ☆ ☆ ☆  市街地マップ…そこは、数km四方相当に区切られた都心部を舞台としたマップで、100倍サイズの巨人である私よりも大きいビルもチラホラと見えるほどの壮観な街並みが広がっている。  そして特筆すべき演出として、そこには臨場感をもたらすためリアルに再現されている数万を超える一般市民たちが逃げ回っていて、その中に紛れている99人のプレイヤーを探しだすのはこれが意外と難しい。 (ま、とはいえ最初はいつも通り、ざっくり数減らしておこっかな。可哀そうだけどまずはこの辺のビルに陣取ってるであろうルーキーちゃんたちを…えいっ。)  惜しげもなくミニスカートを翻しながら右足を持ち上げた私は、すぐ近くにあった20階建てほどの中層ビルに向かって適当に踏み下ろす。  人間側プレイでは絶対に使えない性能ガン無視見た目装備の華奢なハイヒールは、まるで砂の城を突き崩すようにあっさりと建物内部の構造体を中に居た人たちごと次々と押し潰していく。 (あは。このサクサク感良いねぇ…って、これだけで10キル?今日は多いなぁ。)  真正面から戦っても巨人には到底太刀打ちできないため、人間側の初手は遠めに陣取り体勢を整えるのが定石とされている。  それを知らないルーキーの間は何も考えずの初期地点近くにある”頑丈そうな”建物へ入る人が多く、こうやってあっけなく1デスしてしまうことになる。 (初心者狩りしてるみたいでちょっと罪悪感だけど…死に覚えゲーだから許してね?)  ま、実はそれも案外楽しんでたりする悪い私が居るのですが。  サクッサクッと手近なビルを踏み潰して周るだけでモリモリとキル数が増えていくのは案外気分が良い。 (ふっふっふー。今さら逃げようとしても遅いよん。)  自分たちの過ちに気付いたらしい子たちが慌てて建物の入り口から飛び出してくるところに合わせてガシャンと靴を突っ込んでみたり、これみよがしに並んでいるビルをドーンと蹴り倒してドミノ倒しをしてみたり。  私の行為はただ歩いているの範疇すら超えていないというのに、よく出来た街並みは圧倒的な力によって蹂躙され瓦礫の山と化していく。 「アズキこっちのチャットでめっちゃ叩かれてるー!どんな酷いことしたんだよー!」 「んぇー?いつものようにビルごと踏み潰してるだけだよ。」 「『開幕2秒でよくわからんうちに画面ごと壊れて死んだ』『防御全振りなのに[[rb:9999 > カンスト]]ダメ即死はチート』…確かに当たり前のことしか書いてなかったや。」 「でしょ。でもまぁ、初心者さんに恨まれるのは辛いねぇ。」 「嘘つけ楽しんでるくせに。」 「えへへー♪」  巨人側ユーザーに成すすべもなくキルされてしまうのは私やユメコちゃんも含めて熟練プレイヤーなら一度ならず通った道なのだ。  これくらいで折れるようではこのゲーム自体向いてないとしか言いようがない。 (さて、ルーキーちゃんたちは遠くにリスポーンしきっただろうから…次は大型タスク潰しかな。)  このゲームのコンセプトはいわゆる異能力ヒーローもので、街を襲う巨人である私はヴィラン側ということになる。  ヒーロー側である彼らには私の討伐以外の勝利条件として一定のタスク達成というものがあって、その能力を用いて大なり小なり人助けをしてまわるのが役割というわけだ。 (あはっ。やっぱり道なき道を進んで行くのは気分が良いなぁ。現実でもこうしたい。)  大小様々な建物が密集している市街地に、私のような巨人の足の踏み場などというものは存在しない。  初めて巨人プレイしたときはつい常識に囚われてバカ正直に道なりに進んでいたものの、今の私は足元に何があろうと自分の進みたい道を進むことができる。 「うふふ。マンション踏み壊しながら歩くの楽しーよぅ。やめられない止まらなーい♪」  どうやらちょっとした住宅街に差し掛かったようで、私の足元は10~30階建てくらいの多様なマンションで埋め尽くされている。  とはいってもファミリー向けだろうと単身向けだろうと、お手軽なのもお高いのも今の私にはなんの関係もなく、私のかるーい体重をかけるまでもなくただ足を乗せただけで砂埃の中へと消えていく。 「うわぁ…あんたそれドS通り越してヤバい人の発言なんだけど…」 「いやん。恥ずかしい独り言聞かれちゃった♪」 「犠牲者数3桁ずつ増やしながら言うことじゃないよねそれ。」 「てへ☆」  私の足元で蹴倒され崩れ去っていくこの小さな箱たちはたくさんの人が住んでるという設定なので、私がクシャっと踏み潰すたびに数百人もの尊い人命が犠牲になっているらしい。  シチュエーションを盛り上げるために表示されているその数字はそろそろ5桁に到達しそうで一応はその数%がヴィラン側のポイントとして加算されるものの、簡単に増やせることもありこれだけで勝てるようにはなっていない。 「…実際、私は巨人側向かなかったもん。リアル過ぎて罪悪感が…」 「えー。それじゃ私が悪い子みたいじゃん?」 「みたいって言うかそのままの…」 「あ、逃げ遅れヒーローさんはっけーん。ぷちっ♪」 「ほんと容赦ないなぁ…」  偶然目に入った敵さんを近くに停まっていた数台のバスごとぺちゃんこに踏み潰してちょうど20キル。  褒めてくれるどころか呆れ声100%の親友にいじけながらも、罪のない人々を蹂躙してまわるヴィラン役を私は目一杯楽しんでいた。  ☆ ☆ ☆ (これまでも市街地マップではほとんど実装されてたから今回もたぶん…あ、あれかな?)  ヒーロー陣営用大型タスク、つまり大量の人助けポイントを稼げる場所こそが、今私の目の前に見えてきた学校に他ならない。  子供を救助すれば大人の3倍のポイントになるうえ付近から避難者が集まりやすいこともあり、市街地内に複数存在する学校の過半数を押さえた側が勝利すると言っても過言ではなかった。 『くっ、もう来たのか…!避難の進捗具合はっ!?』 『まだ3分の1も行ってない!お願い時間を稼いで!!』 (にっひっひ~♪頑張ってる頑張ってるぅ♪)  私が現れたのと同時にAIによる状況判断に基づいたメッセージが自動発信されて場の雰囲気を盛り上げてくれる。  ヒーローさんたちは個別の避難誘導コマンドタスクを頑張っているらしく、学校全体約3,000人のうち既に700人ほどは私も手出しできない避難完了エリアへと到達しているようだった。 「私も最初を落とすわけにはいかないしねー。皆には悪いけどサクッと皆殺しにしちゃうよん。」 『ッ!作戦通りに攻撃開始!倒せなくてもいいから時間を稼ぐんだ!』  私もユメコちゃんの居ない場所には大して興味がないので体育館とその隣の大きな校舎から踏み潰そうと右足を持ち上げたところで、学校や周囲の放置していたビルの屋上から一斉に魔法弾による攻撃が飛んでくる。  当然痛くも痒くもない1ダメージのポップアップが凄い勢いで表示されていくけど、全体HPからみればこんなの減っているうちにすら入らない。 「はーい。無駄な抵抗お疲れ様でしたっ♪」  グシャーンといくつかの建物が靴底に消えていくのと同時にタスク失敗という赤いメッセージが滝にように流れる。  あっけなく増やせるキル数なんかよりも”人々の希望を奪っていく”ように感じられるこちらに興奮してしまう私はユメコちゃんが言うように悪い子なのかもしれない。 「ほらほら、ヒーローさん頑張って♪私を止めないと子供たちがみーんな死んじゃうよ~?」  実際は彼らがどう頑張ったところで無力な小人さんたちが相手ならスキルはおろか武器さえ必要ない。  私がただ見た目重視の靴装備を適当に踏み下ろしたり薙ぎ払ったりするだけで、子供たちの学び舎は僅か数秒のうちに生存者0という表示とともに瓦礫の山へと変わっていた。 「ん、おしまいっと。」 「…ねぇ、アズキは本当に子供殺すのに抵抗ないの?」 「え?っていうかその言い方人聞き悪いなぁ。所詮は作り物じゃーん。」 「そうだけど…こんなにリアルなのに抵抗ないのって、もしかしたら危ないことなのかもって最近…」 「ん-…」  VR技術の発達に伴い、現実での高所や銃撃に抵抗や恐怖を感じなくなってしまうリスクがあるという研究成果が、テレビなんかで取り上げられて話題になってたりするのは知っている。  そういうものはなるほどと同意するところはないではないけれど、こんな体験は現実ではしようもないのだからそこまで悩むこととは思えない。 「…あ。もしかして、こうやって私に話振って悩ませるのが作戦だったり?」 「……えへへ。」 「わー!乗せられたぁー!ユメコちゃんの策士!性悪女ぁ!」 「それこそ人聞き悪すぎだよーん♪」 「絶対踏み潰してやるから待ってろー!!」  そうして当てつけのようにそこら中の大きな建物を片っ端から破壊し尽くし始めた私は、戦略も何もなくただ暴れまわるだけの巨人。  制限時間が終わってみれば人口の80%近くを蹂躙したにも関わらず僅かなポイント差で負けてしまい、ただただ残忍な女怪獣というレッテルを張られてしまったのだった。 完


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