【1,849字】小人の国に靴を買いに来た女の子のお話
Added 2021-03-11 15:00:02 +0000 UTC※このお話には少し残酷な表現が含まれています。 [newpage] ズシーンドシーンドスーン! 小人の国に存在する靴作りで有名なとある街に、今日も一人の客がやってきた。 『昨日電話したミコだけど、靴出来てる?』 巨人用の靴は、小人の家よりも何倍も大きい。 当然、僅か一晩で作り上げることなど並大抵のことではないが、それが出来ない店ならばこの世界ではやっていけない。 「こ、こちらでございます…」 『ん、可愛いじゃん。どれどれ。』 小人が片方につき20人がかりで巨大な台車ごと必死になって引っ張り出してきたハイヒール。 今日の客はせっかちなのか大きく張り出された注意書きを無視してそのまま足を差し込んだため、彼女の重さに耐え切れなかった台車がバキバキと音を立てて踏み壊されていく。 「お、お客様っ!!困ります!」 『ちょっと試し履きしてくるね。』 小人店主は、自身の声を完全に無視して去っていくミコの背中を茫然と見送ることしかできない。 代わりとばかりに脱ぎっぱなしにされた巨大なローファーからは、それがただの置物ではない証とばかりに持ち主が残した熱が立ち上っていた。 ☆ ☆ ☆ 『よっ…と。お邪魔しまーす。』 ”これより先 小人居住区”という大きな文字が目に入っていないのか、彼女はなんでもないように膝下までしかない塀を跨ぎ越す。 壁の向こう側を往来する巨人自体は見慣れていた小人たちは、まさかその壁を乗り越えてやってくる巨人が居るとは思ってもみなかった。 『まずは普通タイプの巣から…えいっ。うん、全然大丈夫そうだねー。』 住宅街の端っこに位置していたごく一般的な小人の家が、ミコが履くハイヒールの下敷きとなってあまりにもあっけなくぺしゃんこになる。 周囲に居た小人たちはそうしてようやく自分たちに危機が迫っていることに気付いたものの、巨人から逃げるという点から言えばそれはあまりにも遅すぎた。 『ん?練習に付き合ってくれるのかな?助かる~。』 そう呟いたミコは大した躊躇いや感慨もなく足元の小人に向け、”練習”と称してハイヒールを踏み下ろし始める。 体重を支えられているのが不思議なほど極細なピンヒールで狙いを付けて足踏みを繰り返すものの、その先端と同じほどしかない大きさの小人たちには3回に1回程度でしか当てることができないでいた。 『よっ、えいっ、てやっ。』 彼女の何でもないような掛け声とともに踏み下ろされる超重量を誇る巨大な靴底は、ピンヒールの狙いに関係なく靴幅より狭い小人用道路をはみ出して周囲の民家をグシャグシャと踏み潰していく。 それでも靴の履き心地を試しているだけのミコにとっては足元の惨状など歩くと起こる必然の出来事でしかなく、ソール部分の下敷きになって何十軒の建物が消えようとピンヒールを何人に当てられたかにしか興味がなかった。 『んー、やっぱり難しい。お姉ちゃんの言う通り最初は大きめので練習したほうがいいのかな。』 すると今度は小人ではなく建物の中心部を狙うように踏み下ろしていく。 小人の家も靴よりは小さいとはいえ狙いを外すほどではなく、頑丈な鉄柱は屋根をサクッと突き破ると2階の寝室から1階の居間にかけてをあっけなく貫通して地下深くにまで到達する。 『へぇ。刺さっただけじゃ壊れないなんてやるじゃん。小人さんも頑張って巣作りしてるんだね~。』 そう言って半分ほど本当に感心したような口ぶりのミコは、つま先を着けた状態で踵をコツコツ鳴らすかのように何回か踏み下ろした。 既に半壊状態だった小人の家がその衝撃に耐えきれるはずもなく、中で震えていた小人たちがグチャグチャに踏み潰されていくのと同時に大部分を抉り取られた建物はあっけなく崩れ去ってしまう。 『ん、後は慣れかな。ちょっとお散歩しつつ確かめてみますか。』 未だロクに避難すら始まっていない街の中心部のほうへ視線を向けると、再びサクッサクッと小気味いい音を立てながら歩き始める。 申し訳程度に引かれている小人用の道路など彼女にとっては何の意味もなく、見渡す限り敷き詰められたミニチュアな街並みを堂々と突っ切っていくことで全体から見れば極一部の運の悪い建物だけが容赦なく蹂躙されていく。 『…そーいえば私お金持って来てないや。ま、”踏み倒して”いけばいっか。』 完