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もんてすきゅー
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【5,040字】巨人兵としての初任務のお話

※このお話には残酷な表現が含まれています。 [newpage] 『敵国の巨人兵が接近中です。市民の皆様はただちに避難してください。繰り返します。敵国の巨人兵が…』  とりたてて大きくも小さくもない平凡なとある街に、けたたましい襲撃警報がこだまする。  それは今この世界においてなんら特別ではない、非日常のような日常の光景だった。 [newpage] 「さて、着いたわね。ここが今日の作戦地点よ。準備はいい?」 「は、はいっ…」  私の少し前を進んでいた先輩がこちらを振り返って素敵な笑顔を見せてくれる。  反射的に肯定の返事をしたものの本当は準備なんて全然できていない。 「…念のため作戦を再確認するわね。」 「お願いします…」 「今日の目標はこの街の壊滅ではなく市民の排除。達成目標は人口の50%である約30万人よ。」 「…っ!」  何度聞いても恐ろしさが拭えないような内容なのに、何でもないように言ってのける先輩の長い脚は軽く足踏みでもするように動いている。  既に作戦は始まっているのだと言わんばかりに、私たちの数百分の1スケールしかない街並みの一画がオシャレなサンダルの下に消えていく。 「難しく考える必要はないの。こんな風にただ歩いてるだけでも人間の街並みなんて簡単に壊せちゃうんだから。」  私の浮かない表情を見た先輩はお手本を示すように市街地の中心部へ向かって小さく歩を進めていく。  糸のように細い人間用の道に先輩の足が収まるはずもなく、埋め尽くすように蠢いている無力な群衆は周辺の建物ごと先輩の足の下へサクサクとあっけなく消えていった。 「と言っても時間の猶予はあんまりないからそこだけは気を付けて。敵国の巨人兵が来る前には撤退するんだからね?」 「ッ!は、はいっ…!」  敵国の巨人兵と聞いて、心臓を握り潰されたかのようにドクンと強く跳ねる。  心の深奥に刻み付けられた恐怖は未だ拭えないトラウマとなって私の身体を震わせてしまう。 「…大丈夫よ。今の貴女は巨人兵に追い立てられる無力な少女じゃないの。」  そんな私を気遣ってか、優しく微笑んだ先輩がこちらへ戻って来ると、そのまま優しく抱きしめてくれる。  私より少しだけ背が高くほっそりとして見える先輩は全身のすべてが”オンナの身体”をしていて、密着するように押し当てられた豊かな胸が潰れていくことで私の加速する鼓動は隠せなくなる。 「わ、わかってるんです…でも、身体が…」 「ええ、大丈夫。大丈夫だから…」  私たちの故郷はほんの数か月前、たった一人の女性によって滅ぼされてしまった。  ただ泣き喚き許しと助けを乞うばかりだった私たちを嘲笑うかのように圧倒的な力を見せつけた彼女は、私たちの思い出の光景を無数の足跡で上書きしたあげく、生き物が近付けない黄金の湖へと変えられている。 「…他の子に二度と貴女のような思いをさせないためにも、私たちが頑張らないとでしょ?」 「はい…」  彼女の気まぐれによって生かされたのは私を含めて1%にも満たない僅かな人間だけ。  数万にものぼる同胞とともにかけがえのない家族も大切な友人もすべて失った私には、何の奇跡か運命か、巨人兵となる適性が発現していたのだった。 「わかってると思うけど、男なんて後回し。女の子は見つけ次第、徹底的に…ね?」 「わかって…ます…」  適性を持つものは女性だけなので、私のような新たな巨人兵の芽を摘むためにも優先目標が設定されるのは道理と言える。  それでも、ほんの少し前まで普通の人間として真っ当に生きてきたただの少女でしかない私には、そう簡単に受け入れられるものでもない。 「深く考えなくていいの。まずは軽く散歩でもしてみましょう?」  優しい先輩に甘えるようにコクンと頷くだけで答えた私を、怒るどころかクスリと微笑んで右手を取って引っ張ってくれる。  指1本1本を絡めとられるような握り方にドキドキすることしか出来ない私が熱い顔を誤魔化そうと足元を見下ろすと、先輩とお揃いのサンダルがミニチュアのようないくつかのマンションを踏み壊していた。 「どう?簡単でしょ?」 「はい…もっとサクサクって、感触がするんだと思ってました…」  私がかつて家族5人で暮らしていたものより何倍も大きいであろうそのマンションたちでさえ、自分の目で見るまで踏み潰していることに気付かなかった。  既に大勢の人たちの人生と命を一方的に踏み躙っているという事実に遅れて気付くものの、そこに対するあまりの実感のなさに巨人兵と人間の感覚の違いを突きつけられる。 「ふふっ。だから、ただのお散歩でしょ?」 「そう、ですね…」  私にだけ向けられる女神のような微笑みには何の邪気も籠っていなくて、先輩は心の底から私と散歩してるだけとしか思っていないんだろう。  それでも仕事に抜かりのない先輩の歩き方はただの散歩というにはあまりにも歩幅が狭く、大きな建物を優先的に踏み潰しながら、逃げ道を奪うようにして人間たちを追いつめていく。 「こーら。こんな綺麗なお姉さんと散歩中に足元ばっかり見ないの。」 「あ…ご、ごめんなさいっ…」  反射的に顔を上げた私のすぐ目の前には、わざとらしく頬を膨らませた先輩の綺麗可愛い顔が予想してたよりずっと近くにあって、ぶつかるかと思い後ずさりしてしまう。  そんな私の反応さえもクスクスと楽し気に微笑んだ先輩だったけど、もう一度わざとらしく頬を膨らませて唇まで尖らせた。 「もう、そんな風に避けられると傷ついちゃうぞ?」 「ち、違いますっ!先輩のお顔が近すぎて綺麗すぎてくっついちゃいそうでだめだーってなってそれから…」  わたわたとよくわからない言い訳を続ける私に、うんうんと楽し気に適当な相槌を返す先輩が少しずつ距離を詰めてくる。  それに合わせるように後ずさる私には足元に消えていく矮小な街並みも人々も考える余裕なんてなくなっていて、繋いだままの手と手が逃げることさえ許してくれないことにも気付けない。 「ふふっ。初心で可愛いなぁ♪そのままキスしちゃえば良かった。」 「な、なな、からかわないでくださいっ!!」  少女のようなからかう笑顔から一転して妖艶な大人の表情でそんなことを言われて、私の視線は無意識のうちに先輩の瑞々しい唇へと吸い寄せられる。  そんな私の動揺も当然のように先輩には筒抜けのような、また一つクスリと微笑むと舌でぺろりと一舐めされたその唇が一段と艶やかさを増した。 「うふふ。本当にシて欲しくなっちゃった?」 「…せ、先輩みたいに綺麗な人なら、そう思うのは当然じゃないですか…」  じっと見つめられては今さら嘘なんて付けないし付いたところで見抜かれるのは目に見えている。  それでも嫌われちゃうかもしれないという恐怖はほんの少しで、後は憧れの先輩に少しでも近づきたいという気持ちだけだった。 「素直で良い子ね。それなら今日の作戦頑張ったら、ご褒美に。ね?」  ☆ ☆ ☆  先輩の魅力的な提案にみっともなく首を縦に振った私は、利己的な欲望という目標のために敵国の市街地を容赦なく踏み躙っていた。  手を繋いだ先で楽しそうに歩いている先輩の足元とあわせて、何の罪もない一般市民たちが戦争の犠牲者としてあっけなく消えていく。 「先輩、えっと、今でどれくらいなんでしょう?」 「ん-、そうねぇ。正確にはわからないけど、体感的には5万人くらいじゃないかしら。」  何の気なしに出てきた5万という数字は、私にとっては2つの意味がある。  今日の目標にはまだまだ届いていないのだということ、そして既に私の故郷と同じだけの人たちが私たちによって人生を奪われたということ。 「こんなにたくさん踏み潰してるのに、まだ5万人…」 「ふふっ。まだ、”たった5万人”、ね。」  イジワルに言い直してきた先輩に対して少しムッとしそうになるも、人の命をもはやただの数でしか意識しなくなっている自分に気付いてその気持ちも萎んでしまう。  自分の大切な場所が一踏みごとに消し去られていったあの時の恐怖と憎しみを、今では私が与える側になっていた。 「あ、ちょうど良いところにお宝はっけーん。」 「…?」  小人の…人間の街に対して基本的に何の感慨も示さない先輩が、珍しくしゃがみ込んで何かを拾い上げている。  私としても先輩の気を引くお宝の正体が気になって歩くのを止めて見守っていると、立ち上がった先輩の手のひらには数台のバスが乗せられていた。 「じゃーん。バスを発見しました!」 「そ、そうですね…え、でもバスなんてその辺に…」 「ノリが悪いぞー?確かにもうバスなんて何十台も踏み潰してきたものねぇ。」  巨人兵視点でも見つけやすいバスは、『ここにたくさん逃げようとしてる人がいますよ』って発信してるようなもので、見つけ次第無意識のうちに踏み潰す対象になっている。  私たちが歩くよりも速く走れないバスが逃げきれるはずもなく、私には靴底で丁寧に磨り潰され、手慣れた先輩にはまるで遊び感覚のままピンヒールで串刺しにされていた。 「すみません…で、そのバスがどうかしたんですか?」 「そう、このバスはね…どうもスクールバスっぽいのよねぇ。」 「ッ…!」  故郷が巨人兵の襲撃にあったあの日、私の最愛の妹2人は登校中のスクールバスに乗っているところだった。  他の多くのバスと同様に彼女の自慰行為のため使い捨てのオモチャにされたソレは、中にたくさんの子供たちを乗せたまま容赦なく圧縮されて薄っぺらい金属の板と化し、襲撃後の湖に浮かんでいたのを発見されている。 「先輩、まさかそれを…」 「ん?半分くらいは女の子だろうし、災いの芽は摘んでおかないとでしょ?」  私の愚問に一瞬ポカンとした先輩だったけど、すぐに気を取りなおすとそのうちの1台をつぅーっとその細くて長い人差し指で優しくなぞる。  その箱の中では個々の判別すら出来ないほど小さな存在が助けを求めて蠢いていたものの、後ろからゆっくりと迫ってきた先輩の指と手のひらとの間で何の抵抗もなく消えていく。 「どんなに必死に助けを求めたって、巨人兵には届かないのにね。」 「先輩…?」  その横顔は楽し気というよりはどこか切なげで、これまで躊躇いを見せなかった先輩にしては珍しい表情にまた違った意味でドキッとさせられる。  そんな先輩は私の問いかけには答えずに続けてもう1台のスクールバスを平らにすると、半分ほど残ったままの手のひらをこちらに向かって差し出してきた。 「手だして?」 「えっと、はい…」 「そうじゃなくて、さっきみたいに握るの。お散歩の続きしましょ?」 「…はい。」  口調は優しめでもその目は真剣そのもので、ここでウジウジすることは許されない雰囲気を感じる。  覚悟を決めた私は先輩と隣に並んで反対側の手を出すと、指と指を絡めるようにしながらその手のひらに自分のそれを重ねていく。 「…あの子たちの中に一人でも適性者が居れば、その子はきっと新しい巨人兵になって私たちの国を襲うことになる。」 「そう、ですね…」  私たちの手の手の間でほとんど何の抵抗もなくクシャリと潰れていったバスたちは、意識しないと感触さえ感じられなかった。  巨人兵という圧倒的な存在によって続く憎しみと殺戮の連鎖は、私や先輩のような被害者であり加害者でもある存在が根絶やされるまで続くのかもしれない。 「感傷に浸ってる場合じゃないわよー?キス、欲しいんでしょ?」 「うっ、そんなストレートに言わないでくださいよぅ…」 「ふふっ。それじゃデートだと思って楽しんじゃいましょ♪」 「…はい!」  目の前に広がる小さな大都会には有名なデートスポットも数多くあり、今この瞬間もたくさんの人たちで埋め尽くされているに違いない。  みんなにはちょっと大きくて邪魔になるかもしれないけど、私たちのデートにも使わせてもらおうかな。 完


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